妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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ネコは動画で見る分には大好きです。
実物はなぜか威嚇されるので…ドウシテ?


咆哮と泡沫の境界

 

ハッピーがパチリと目を開けた瞬間、視界へ飛び込んできたのは——

天井からぶら下がる巨大な肉球型ランプ、足元には猫の顔を模したモフモフのソファ。

その前には肉球が刺繍されたテーブルクロスを敷いた丸テーブルが置かれ、ドアまでもが猫の形をしていた。

 

どこに触れても猫、猫、猫……!

 

ハッピーは飛び起きて目を真ん丸にしたかと思うと、勢い余って白目をむいた。

 

 

「ネコーーーッ!!! ネコだらけーーー!!!」

 

「……やっと起きたかしら、ハッピー」

 

 

その横でソファに腰かけていたフリーシャが頬杖をつき、うんざりしたように言った。

ぬいぐるみに埋もれていたハッピーのしっぽが驚きでピンと跳ね上がった。

 

部屋全体に漂う甘いミルクの香りと、ふわふわのクッションに囲まれて、ここが敵の本拠地だと思い出すには少しばかり夢見心地すぎる空間だった。

 

 

「なんだここは!? ナツとレアは!?」

 

 

ハッピーはクッションをかき分け、ソファの上のフリーシャをまじまじと見つめる。

フリーシャは腰を浮かせかけ、ソファに散らばったぬいぐるみを無意識に指でつまんでいた。

 

 

「……リーシャだって、わかんないのよ……」

 

 

普段よりも低い声。

幾分か冷静であるものの、彼女の揺れる尾が不安を物語っていた。

室内に漂うミルクの匂いと、やわらかな猫型ソファの手触りだけが無駄に穏やかで、現状は一切つかめない。

その瞬間だった。

 

 

「みゃあ」

 

 

瞳をキラキラさせた猫女、ミリアーナが二人をのぞき込んだ。

そんな無邪気な表情に、ハッピーとフリーシャは背筋を凍りつかせた。

膝を折って二人の視線に合わせると、くるりと首を傾げ、口元に小さな笑みを浮かべる。

 

 

「元気最強?」

 

 

突然の言葉に、ハッピーのしっぽはタランと垂れた。

 

 

「……元気最強……?」

 

「何言ってるかしらこの女……」

 

 

疑問符を飛ばすようにオウム返しするハッピー。

フリーシャは肩を落としてソファにもたれかかると、ため息をついて小さく呟いた。

 

だがその瞬間、ミリアーナの頭の耳が本物の猫のようにピクンと動いたかと思うと、ぱあっと花が咲いたかのような笑顔が弾けた。

 

 

「みゃあーー!! しゃべるネコネコだーー!!!」

 

 

嬉しそうに声を上げると、弾むようにクッションを飛び越え、ハッピーとフリーシャに勢いよく抱き着く。

頬ずりされたハッピーの顔がもふもふに埋もれ、フリーシャの長いしっぽがビクンと跳ねた。

 

 

「ミリア……もっとダンディになりな……」

 

「みゃあ?」

 

 

突然の抱擁に苦しんでいると、そんな低い声が聞こえてきた。

声の方向へ目を向けると、カクカクしたシルエットが視界に映った。

 

 

「ネコがしゃべるんじゃねえ……しゃべるからネコなんだゼ」

 

「そっかー」

 

「ぜんぜん意味わかんないし!!!」

 

「どいつもこいつも何言ってるかしら……」

 

 

ハッピーとフリーシャもカジノで面識のあった全身カクカク男のウォーリーだった。

意味の分からない言葉に、ハッピーとフリーシャは耳をピンと立てて睨み返した。

ミリアーナの腕から解放されたことで、その小さな体を起こす。

 

 

「ナツとレアはどうしたんだ!!」

 

 

右足を勢いよく踏み鳴らしたハッピーがそう気丈に食い下がる。

フリーシャもその隣で目を細め、ふわりと尾を揺らして強い声を放つ。

 

 

「リーシャたちを攫って……! 二人はどこなのよ!!」

 

 

ウォーリーは葉巻を指で弾いて、無駄に気取った仕草で肩をすくめる。

 

 

「ヘイキャーッツ。ボーイアンドガールなら今頃、アスファルトに口づけしてるゼ」

 

「な……!」

 

 

ハッピーの全身がビリビリと震えた。

フリーシャも小さく息を呑んだが、すぐに口元を引き結ぶ。

 

口内に押し込められた銃口、喉を締めつける鎖の感触——

 

しかし、震えたのは尻尾だけだった。

次の瞬間には、二人とも声を揃えて言い放つ。

 

 

「ナツが……レアが……!!」

 

「……あれくらいでやられるわけないかしら……!!」

 

 

ウォーリーは鼻で笑い、サングラスの奥で揺れる瞳が楽しげに光った。

 

 

「へへ……そいつは楽しみだゼ」

 

 

そのときだった。

あわただしい足音が近づいてき、巨大な影が部屋の空気を揺らした。

 

 

「ウォーリー!ミリアーナ! エルザが脱走した!!」

 

 

入ってきたのは頭を白いターバンで巻き、顔の下半分髑髏の下顎のマスクで隠した巨漢の男——シモンだった。

 

 

「エルザ!?」

 

「エルザもここに来てたの……!?」

 

 

ハッピーとフリーシャは同時に息を呑んだ。

思わず見つめ合い、さらに混乱する。

 

反対にミリアーナは耳をピクリと立て、パッと目を輝かせた。

ウォーリーもゆっくりち葉巻を咥えなおし、シモンをちらりと見て口角を上げた。

 

 

「脱走ー! なつかしい響きー!」

 

「シモン、ダンディになれよ。この塔から逃げられるわけないゼ」

 

 

だが、シモンの目は一切笑っていなかった。

 

 

「逃げねえだろうな……ジェラールを狙ってくるぜ」

 

 

その一言に、ミリアーナの笑顔がピタリと止まる。

ウォーリーのサングラスの奥の瞳も細められた。

 

 

「来い!!」

 

「みゃあ!!」

 

「まったく……女ってのはいつの時代もめんどうだゼ」

 

 

シモンの号令に従って、二人も部屋を飛び出していく。

残されたハッピーとフリーシャは、猫型のソファで顔を見合わせた。

 

 

「一体……何が起きてるんだ……?」

 

「わかんないけど……リーシャはここで黙ってるつもりはないかしら……!」

 

 

ふわりと立ち上がったフリーシャの尾がピンと伸びた。

ハッピーもクッションを飛び越えて、二人は猫だらけの部屋から這い出そうとするのだった。

 

 

~~~

 

 

塔がそびえる島に上陸したナツたちは、霧雨に濡れた岩場から塔へと続く石造りの階段を見上げた。

階段の両脇には兵士らしき男たちがびっしりと配置されている。

 

 

「見張りの数が多いな」

 

「気にするこたァねえ!! 突破だ!!」

 

「ん、多いけど行けるの」

 

「ダーメ!!」

 

 

冷静に分析したグレイだったが、ナツが拳を鳴らして燃えるような笑みを浮かべた。

レアもその隣でグレイ同様階段の敵の配置を見つめた後、肩を回した。

だが二人が飛び出す前にルーシィが頭を叩くように手を振り下ろした。

ナツとレアは揃って「いてっ!」と小さく声を上げたが、全くこたえてない。

 

 

「エルザにハッピー、フリーシャも捕まってる、ヘタなことしたら、エルザたちが危険になるのよ」

 

 

ルーシィの言い分は最もなものの納得はできないのか、ナツは口を尖らせている。

そのとき、潮風とともに波しぶきが上がり、ぬるりと海面からジュビアが姿を現した。

水を滴らせながら、塔の島の岩場へ上がってくる。

濡れた青髪をくるりと払い、真っ直ぐグレイを見つめる。

 

 

「水中から塔の地下への抜け道を見つけました」

 

「マジか!!でかしたぞ!!」

 

 

グレイがにっこりと笑い、ジュビアの頬がぽわっと赤く染まった。

 

 

「褒められました。あなたではなくジュビアが……です」

 

「はいはい……」

 

 

ルーシィへガン飛ばしながらそう自慢するジュビアに、ルーシィは呆れたように髪をかき上げた。

満足そうに胸を張り、説明を続ける。

 

 

「水中を10分ほど進みますが、息は平気でしょうか?」

 

「10分くらいなんともねーよ」

「ん」

「だな」

 

「無理に決まってんでしょ!!!」

 

 

人間離れの技を平気で実行しようとする彼らにルーシィは即座に叫んだ。

一体どこに10分も息を止めていられる人間がいるだろうか。

持って3分である。

それも計算してか、ジュビアは水の球を両手で作った。

 

 

「では、これをかぶってください。空気を水で閉じ込めてあるので、水中でも息ができます」

 

「レアは本当に平気なの。ゼルネールから、水の中での息のしかたは教えてもらったの」

 

 

レアが一言断りを入れ、ジュビアは残りの三名に水泡を渡しかぶらせた。

いよいよ本拠地への潜入であった。

 

 

~~~

 

 

塔の地下に続く水路を抜けた一行は、湿った石造りの通路へと足を踏み入れた。

長く水に浸かっていた身体から雫がぽたりぽたりと落ちる。

ルーシィは肩に張り付いた髪を払いながら、頭から外した水泡を手のひらに乗せた。

透明な水の球は、もう役目を終えたのかぷるぷると頼りなく揺れている。

 

 

「マヌケだけど便利ね、コレ」

 

 

彼女は手のひらで水泡をぽんぽんと叩き、ちゃぽちゃぽと音を立てた。

その横であたりを警戒していたジュビアがちらりと目を細める。

 

 

「ルーシィさんだけ少し小さめに作ったのに、よく息が続きましたね」

 

「オイオイ!!」

 

 

ルーシィの声が地下通路に響いた。

そのとき、無数の足音が地下の空気を震わした。

武装した兵士たちが鬨の声を上げながら通路を埋め尽くしていた。

 

 

「何だ貴様等は!!」

 

 

数は数十、狭い通路の奥を抜ける事すら許さないとばかりに槍と剣が林立する。

ルーシィは思わず肩をすくめ、小さく呻いた。

 

 

「やば…!」

 

 

だが、グレイは肩越しに彼女を振り返ると、氷の魔力を指先で弾いてみせた。

 

 

「ここまできたらやるしかねえだろ」

 

「はい!!」

 

 

ジュビアの瞳も強く光を帯びる。

ギラりと最前に立つのはナツだった。

燃える視線が兵士を射貫く。

 

 

「何だ貴様等はァ……だと!?」

 

 

唇を一文字に結んだナツが、握りしめた拳を鳴らす。

赤く燃える瞳には、攫われた仲間たちの姿がハッキリと浮かんでいた。

 

 

「上等くれた相手も知らねえのかよ!!」

 

 

声が地下で反響する。

その隣で、レアが一歩踏み出した。

その細い肩からも、怒りの熱が静かに立ち昇る。

 

 

「相手を見誤った代償……払ってもらうの」

 

 

淡々とした口調。

だが瞳は冷たい海よりも冷たく、兵士たちをまっすぐに貫いていた。

 

ナツが吠える。

レアが唸る。

 

二人の声が——重なった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)だバカヤロウ!!!!」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)なのバカヤロウ!!!!」

 

 

兵士たちの顔に怯えが走ったその瞬間——

ナツの拳が焔を纏い、レアの足元を渦巻く水が光を弾いた。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

ナツが地を蹴ると同時に、炎の拳が兵士の隊列を一気に薙ぎ払った。

火花が地下に炸裂し、十人近くが吹き飛ぶ。

直後、レアの水流が切り裂くように駆け抜け、残った兵士を引き裂く水刃が閃く。

 

 

「後悔しても、もう遅いの……!」

 

 

水の輪が弾けるたびに兵士が声を上げて崩れた。

だが、突破をかいくぐった一人が後衛のルーシィに迫る。

 

 

「死ねぇッ!!」

 

 

振りかぶられた刃を、ルーシィは間一髪で紙一重にかわす。

 

 

「なっ……!」

 

 

肩口を掠めた刃先を蹴り払い、懐から金の鍵を取り出す。

 

 

「開け!!巨蟹宮の扉!!! キャンサー!!!」

 

 

光が弾け、理髪師の星霊が手に鋏を構えて現れる。

 

 

「久しぶりエビ!」

 

 

シュバッと銀色の鋏が兵士の刀を弾き、続けざまにその毛髪を丸坊主にした。

 

一方、ジュビアの前に躍り出た複数の兵士が、一斉に刃を振り下ろす。

だが、ジュビアの身体が一瞬にして水へと溶け、剣は空を切る。

背後に回り込んだジュビアの瞳が鋭く光った。

 

 

水流斬破(ウォータースライサー)!!!」

 

 

水刃が渦を巻いて兵士の胴を一閃。

次々に血飛沫を撒いて崩れ落ちていった。

 

そして、グレイは乱戦の中心で冷気を纏った拳を振りかぶる。

踏み込みで数人を空中へ蹴り上げると、腰を落として左手のひらに右の拳を叩きつけた。

 

 

「アイスメイク“大槌兵(ハンマー)”!!!」

 

 

氷で形作られた巨大な鉄槌が空を裂き、落下してくる兵士たちをまとめて叩き潰す。

氷片と肉片が地下通路に散らばり、戦慄が走った。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は止まらない。

 

ナツとレアの前に立ちはだかる兵士は次々に焦土と水の波に飲まれ、ルーシィの鍵は光を放ち、次の星霊を呼び寄せる。

ジュビアの水流が交差し、グレイの氷壁が背中を守る。

火と水と氷が入り乱れ、塔の地下は戦場へと化していた。

 

 

~~~

 

 

蹴散らされた兵士たちが沈黙し、地下の通路にようやく静寂が訪れる。

瓦礫の煙がゆっくりと晴れていく中、壁の一部がギギギ……と音を立てて開いた。

 

 

「……自動で開いた?」

 

 

ジュビアが警戒するように言葉をこぼす。

その奥から現れたのは開いた壁へと続く石階段だった。

きちんと整備されているが、どこか禍々しい気配が漂っていた。

 

グレイが眉をひそめ、階段の上をじっと見つめる。

 

 

「上へ来いってか……?」

 

「へっ、上等だぜ!」

 

 

言い終わるや否や、ナツが火花を散らしながら拳を握る。

背中にはまだ戦いの熱が残っている。

 

 

「レアも行くの。あの上に……いる、って感じがするの!」

 

 

その言葉が終わるより早く、レアは水のしぶきを残しながらナツに並ぶように駆け出す。

二人の背中があっという間に闇の奥へと消えた。

 

 

「ちょっ……! ちょっとぉ!! まだ何があるか分かんないのにー!!」

 

 

ルーシィが焦って叫ぶが、もちろん二人にブレーキなど存在しない。

 

 

「いつものことだ」

 

 

グレイが呆れたように肩をすくめる。

その隣で、ジュビアがきゅっと拳を握った。

 

 

「グレイ様が突っ込まなかったので、ジュビアも安心です」

 

「うるせえよ」

 

「姫、敵影は確認できません。先導してよろしいですか?」

 

 

すっと現れた処女宮の星霊・バルゴが、無表情なままルーシィに問いかける。

 

 

「うーん……まあ、行くしかないか。お願い、バルゴ!」

 

「了解。地中掘削スピード、20パーセント抑えて移動します」

 

 

ずるっ、と地面に潜るバルゴを先頭に、ルーシィたちも後を追う。

 

 

「……あーもう! 二人とも先走りすぎ!! ほんと、似た者同士なんだから!」

 

 

つい先ほどまでの戦闘が嘘のように、緊張と日常が入り混じったまま、仲間たちは塔の上層へと歩を進めていく。





ちょっと難産でした今回。
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