妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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こっから一気にシリアスになったと思う(個人談)


エルザとジェラール

 

塔の地下を突破したナツたちは、

重々しい鉄扉を抜けるとそこは倉庫らしく、木箱や使われていない槍などが乱雑に置かれていた。

 

ナツが胸いっぱいに空気を吸い込み、咆哮のような声を響かせた。

 

 

「四角ーーー!! どこだーーーっ!!!」

 

 

ルーシィはすぐさまその口を塞いだ。

 

 

「ちょっと!! ここは敵の本拠地なんだから大声出さないの!」

 

 

だがグレイは背中を壁に預けながら冷静に告げた。

 

 

「下であれだけハデにやったんだ。今さらこそこそしても仕方ねえだろ」

 

 

そんな中、レアとジュビアは地下からの隠し扉に目をやった。

 

 

「それに、この扉誰かがここから開けたものじゃありませんよ」

 

「ん。鍵もなければ取っ手も無いの……魔法で遠隔から開けたみたいなの。レアたち、敵から気づかれてるの」

 

「だったら扉を開く意味が余計にわからないじゃない」

 

 

ルーシィは腰に手を当てて小さく唸った。

だがグレイが低く言い、鼻を鳴らす。

 

 

「挑発してんだろ」

 

 

その時ふと、グレイは視線の端に妙なものを捉えた。

ルーシィが水着姿から別の服に着替えているのだ。

 

胸元をリボンで結んだホルターネックのワンピース。

すそに向かってふわりと広がる純白の布地を、深いグリーンの布が大胆に切り裂くように走っていた。

緑の切り替え部分には星霊の紋様を模した刺繍が施され、光を受けて静かにきらめいている。

肩のリボンが小さく揺れ、同じ深緑のバンダナが金の髪をそっとまとめあげていた。

 

 

「おまえなんだその服」

 

 

グレイに問われたルーシィはその姿を誇らしげに見せながら、ほのかに胸を張った。

 

 

「星霊界の服! 濡れたままなのも気持ち悪いし、ついさっきバルゴに頼んだの」

 

 

そう言いながらルーシィはナツとグレイの二人に視線を配った。

 

 

「水になれるジュビアと、水の滅竜魔導士のレアは置いといて……アンタらよく濡れたままの服でいられるわね」

 

 

呆れたように肩を落とすルーシィ。

その横で、ナツは全身から赤い炎を立ち昇らせ、グレイは濡れたシャツを指でつまみながら乾かしている。

 

 

「こうすりゃすぐ乾く」

 

「あらこんな近くに乾燥機が!!!」

 

 

思わぬ発想にルーシィは目を見開いた。

だが、すぐに通路の奥から鋭い気配が迫る。

武装した兵士たちが一斉に駆け込んでくるのが見えた。

 

 

「いたぞ!! 侵入者だ!!」

 

「こりねえ奴らだな」

 

「ん、迎え撃つの」

 

 

ナツが焔を弾けさせ、レアも水流を纏わせる。

しかし、その兵士たちは一歩も近づくことなく、次々と“斬撃”に切り裂かれて崩れ落ちた。

倒れ伏す兵士たちの中央に立っていたのは一人の女だった。

長い赤髪を風に揺らして凛とした切れ長の瞳の女戦士。

その姿に、ルーシィたちは自然と笑みを浮かべた。

 

 

「エルザ!!」

 

 

グレイが名を呼んだ瞬間、ジュビアは目を丸くし、思わず声を漏らしていた。

 

 

「かっこいい……」

 

 

息を呑むような眼差しで彼女を見つめるジュビアにエルザはまっすぐ視線を返した。

そして、仲間たちの顔ぶれを認めるや否や、その双眸に浮かんだのは驚愕の色だった。

 

 

「お……おまえたちが…なぜここに……!」

 

 

絞り出すような声だった。

だがナツはまるでそれを受け止める気もなく、まっすぐな声をぶつけた。

 

 

「なぜもクソもねえんだよ!! 舐められたまま引っ込んでたら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだろ!!!」

 

「ん、借りは返すの」

 

 

レアも横に並び、短く告げた。

その言葉に、エルザの瞳が揺れる。

ふと、視線が隊列の後ろに控えていたjビアへと移った。

その視線にジュビアは肩をすくめ、口を開きかける。

 

 

「あの……ジュビアは……その——」

 

「帰れ」

 

 

冷たい一言が、エルザの口から放たれた。

ジュビアの言葉はぷつりと切られ、周囲に沈黙が広がる。

 

 

「……えっ?」

 

「ここはお前たちが来る場所ではない」

 

 

低く、明確な拒絶。

その意志に、レアやグレイ、ルーシィも驚きを隠せない。

 

 

「でもね、エルザ……」

 

 

ルーシィが一歩踏み出し、何かを言おうとしたその時。

 

 

「ハッピーとフリーシャが捕まってんだ!! このまま戻るわけにはいかねーだろ!!」

 

 

ナツが前に出て叫ぶように訴えた。

その言葉に、エルザは小さく息を呑んだ。

 

 

「ハッピーとフリーシャが……? まさかミリアーナ……」

 

 

その名を呟いた瞬間、ナツとレアの反応は素早かった。

 

 

「何か知ってるの?」

 

 

レアが食い入るように尋ね、ナツがさらに詰め寄った。

 

 

「そいつはどこだ!!!」

 

 

エルザは一瞬、迷うように視線を伏せた。

その姿に焦燥を滲ませる一行だったが、彼女はそれでも首を横に振る。

 

 

「さあな……」

 

 

俯いたまま、かすれた声が返ってくる。

 

 

「よし、わかった!!!」

 

 

突然、ナツがくるりと踵を返し、兵士たちが現れた通路の奥へと歩き出した。

 

 

「何がわかったんだよ!!!」

 

 

グレイが口をあんぐりと開けながら声を張り上げて呆れたように言う。

するとナツは振り返って叫んだ。

 

 

「ハッピーとフリーシャが待ってるってことだ!!!」

 

 

その後ろで、レアも静かに口を開いた。

 

 

「じっとしてるわけにはいかないの」

 

 

そうして二人は、誰に止めれれることもなく駆け出していく。

 

 

「ナツさん!! レアさん!!」

 

 

ジュビアがその名を呼ぶが、届く前に彼らの姿は暗い通路の奥へと消えていった。

姿が見えなくなったナツとレアの背中を、グレイは苛立つように睨みつけていた。

 

 

「あのバカ共、また勝手に……!」

 

 

吐き出すように低く呟くと、ルーシィは腰に手を当てて言い返す。

 

 

「言ってる暇ないってば! あたしたちも後を追いかけよっ!」

 

 

駆け出そうとしたその瞬間——

目の前に鋭い金属音が鳴り、エルザの剣がルーシィの行く手を遮った。

 

 

「ダメだ、帰れ」

 

 

ルーシィとジュビアは思わず息を呑む。

エルザはその瞳を鋭く光らせたまま、冷静に言葉を続けた。

 

 

「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーとフリーシャに危害を加えるとは思えん。……四人は私が責任をもって連れ帰る。お前たちはすぐにここを離れろ」

 

 

まるで突き放すようなその声音に、ルーシィの瞳がにわかに潤む。

 

 

「そんなのできるわけない!! エルザも一緒じゃなきゃイヤだよ!!!」

 

 

声を荒げて訴えるルーシィ。

だがエルザは目を伏せ、震える声で吐き出した。

 

 

「これは私の問題だ。おまえたちを巻き込みたくない」

 

 

息を詰めたような静寂が落ちた。

それを破ったのはグレイだった。

 

 

「もう十分巻き込まれてんだよ。あの二人を見ただろ」

 

 

真っ直ぐに突きつけられた言葉に、エルザは目を開くことができなかった。

ルーシィはそっと一歩、彼女に近づく。

 

 

「エルザ……この塔は何? ジェラールって誰なの?」

 

 

問われた瞬間、エルザの肩が小さく跳ね、わずかに震えた。

言葉を探しているのが、誰の目にもわかる。

 

 

「言いたくないならいいんだけどさ……」

 

 

ルーシィは微笑みを浮かべて、それでも力強く言葉を届けた。

 

 

「あいつらは昔の仲間って言ってたよね。でも、あたしたちは今の仲間。どんな時でもエルザの味方なんだから」

 

 

その声は、どこまでも真っ直ぐで優しかった。

だがエルザは俯いたまま、小さく、震える声を絞り出した。

 

 

「か……帰れ……」

 

 

もう何度目かの拒絶だった。

だが、グレイが深く息を吐き、わずかに肩を揺らして笑った。

 

 

「……らしくねーな、エルザさんよォ」

 

 

エルザが顔を上げると、そこにはあの皮肉げな笑みを浮かべたグレイがいた。

 

 

「いつもみてーに四の五の言わずについて来いって言えばいーじゃんよ。オレたちは力を貸す。お前にだって……たまには怖えって思う時があってもいいじゃねーか」

 

 

グレイの声は穏やかで、どこか突き放さない温かさがあった。

そしてようやく、エルザは振り向く。

 

涙が、その目尻からこぼれ落ちていた

 

ルーシィとジュビアが息を詰める。

グレイはただ「うっ……」と低く唸るだけだった。

 

 

「……すまん……」

 

 

絞り出すように謝罪し、エルザは瞳を拭うとゆっくりと呼吸を整えた。

 

 

「この戦い……勝とうが負けようが……私は表の世界から姿を消すことになる……」

 

 

静かに告げられたその言葉に、ルーシィが目を見開く。

 

 

「え……?」

 

「どういうこった!?」

 

 

グレイも同様に、声を荒げた。

だがエルザはかすかに微笑んでいた。

その微笑みがどこか寂しげで、二人の胸を締めつける。

 

 

「これは……抗うことのできない未来。だから……だから私が存在しているうちに……すべてを話しておこう」

 

 

小さな灯を抱くように、エルザの声は穏やかだった。

 

 

「この塔の名は“楽園の塔”。別名“Rシステム”……」

 

 

重い言葉が静寂を裂く。

エルザは遠い記憶を思い起こすように、視線をどこかに彷徨わせた。

 

 

「……十年以上前だ。黒魔術を信仰する魔法教団が、“死者を蘇らせる魔法”の塔を建設しようとしていた」

 

「死者を蘇らせる!?」

 

 

信じられないというようにルーシィが声を漏らす。

エルザは静かに頷き、言葉を紡ぐ。

 

 

「政府も魔法評議会も非公認の建設だった。だから奴らは……各地から人々を攫って奴隷としてこの塔を築かせた。……幼かった私も……その一人だったのだ」

 

 

その告白に、ルーシィもグレイも言葉を失った。

 

 

「ジェラールとは……その時知り合った」

 

 

淡く遠い目をしたエルザの声は、いつになく脆くて、けれど確かに何かを伝えようとしていた。

物語の奥底に沈んでいた、彼女の過去が今——静かに、語られ始めた。

 

 

~~~

 

 

エルザの脳裏に、遠い記憶が甦る。

楽園の塔——“Rシステム”。

幼い彼女はそこに囚われ、仲間と共に生き延びることだけを願っていた。

 

まだ子どもだったエルザには、仲間がいた。

ジェラール、ショウ、ミリアーナ、ウォーリー、シモン——

一握りの希望を分かち合った大切な仲間たち。

 

塔からの脱走計画はあっけなく潰えた。

全員が罰せられるはずだったが、立案者一人を懲罰房に送ると告げられたとき、恐怖に震えるショウを庇おうとしたのはエルザだった。

けれど、その前に声を上げたのはジェラールだった。

 

——それでも、懲罰房へ送られたのはエルザだった。

 

真っ暗な部屋に閉じ込められ、暴力に晒され、右目を失った。

絶望の淵にいた彼女の前に、血まみれのジェラールが現れた。

 

 

「もう後には引けないよ。戦うしかない」

 

 

彼のその一言だけが、微かな救いだった。

 

しかし——

 

ジェラールは捕らえられ、エルザはショウたちのもとへと戻された。

彼女を抱きしめて泣きじゃくるショウの声が牢を揺らす。

 

 

「……戦うしかない……!」

 

 

武器を奪い取り、エルザは仲間を鼓舞した。

 

 

「従っても、逃げても、自由は手に入らない! 戦うしかない!! 自由のために立ち上がれぇえ!!!」

 

 

奴隷たちの反乱は一気に燃え上がった。

体は鍛えられ、兵士と剣を交えるだけの力はあった。

 

だが——

 

魔法兵の存在が絶望を与えた。

遠距離から放たれた魔力弾が、エルザに迫る。

 

——直撃するはずだった。

 

間に立ちはだかったのは、一人の老人。

妖精の尻尾の元魔導士、ロブ。

もう魔力も枯れ、ただの老いぼれになった彼が、命を張った。

 

 

「自由とは、心の中にある。エルザちゃんの夢は、きっと叶うよ……」

 

 

それが、彼の最期の言葉だった。

 

ロブの命が散った時、エルザの中で何かが弾けた。

散らばる武器が意志を持つように動き、魔法兵を薙ぎ払った。

覚醒したその力が、彼女の心に確信を刻んだ。

 

——この力があれば、ジェラールを助けられる。

 

 

「……ついて来い!!!」

 

 

涙を拭い、ロブの自由の意志を継ぎ、

幼い少女は奴隷の反乱軍を率いる“妖精女王(ティターニア)”となった。

 

すべてを蹴散らし、ようやく辿り着いたジェラール。

 

 

「……これで、自由になれるよ……」

 

 

微笑んだ彼女を、ジェラールは冷たく見下ろした。

 

 

「エルザ。この世界に自由などない。オレたちに必要なのはかりそめの自由じゃない。本当の自由、ゼレフの世界だ」

 

 

——理解できなかった。

 

ジェラールは、倒れた教団の兵士を次々と殺した。

エルザの制止も届かない。

 

 

「やめて……!」

 

 

祈るように叫んでも、彼は“楽園の塔”を完成させると告げた。

そして彼女を痛めつけ、笑った。

 

 

「わかってると思うけど、この事は誰にも言うな。楽園の塔の存在が政府に知れるとせっかくの計画が台無しだ。バレた暁には、俺は証拠隠滅の為、この塔及びここにいる全員を消さねばならん。お前がここに近づくのも禁止だ。目撃情報があった時点でまず一人殺す。そうだな……まずはショウを殺す」

 

「ジェラ…ル」

 

 

声が、耳の奥でこだまする。

 

 

「それがお前の自由だ!! 仲間の命を背負って生きろ、エルザアアアア!!!!」

 

 

気がつくと、エルザは海岸に打ち上げられていた。

波の音が聞こえるだけで、仲間は誰もいなかった。

 

——それが、彼女のすべてだった。

 

 

~~~

 

 

エルザの瞳に滲む涙が、すでに過去と現在の境目をなくしていた。

あの日の砂の感触も、波の音も、今も胸を締め付ける。

 

塔の最下層、静まり返った空気の中——

誰も何も言えない。

グレイもルーシィも、ジュビアでさえも、ただ彼女の言葉を待つしかなかった。

 

肩を震わせ、唇を噛むエルザ。

その赤く充血した瞳が、仲間たちを順に見つめる。

 

 

「私は……」

 

 

喉の奥から絞り出した声は、かすれていた。

 

 

「私は……ジェラールと……戦うんだ……」

 

 

ぽろり、と涙が床に落ちる。

 

それが、過去と決別するための

エルザ・スカーレットの——小さくも確かな宣言だった。





過去編は申し訳ありませんがダイジェストです。
原作と変化無いですもん……。
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