妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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いよいよ大詰め……!!


ドラゴンフォース

 

「オオオォォオオォォオオオ!!!!」

 

「ああああ……!! アアアアアアアアアア!!!!」

 

 

エーテリオンを食らったナツとレア。

その二人の魔力が高まり、周囲のエーテルナノが彼らの咆哮に呼応するように収束していく。

ナツが力任せに地面を叩けば、塔全体を揺るがすような地割れが走った。

 

規格外の力。

しかし、その代償は残酷に訪れる。

 

 

「ごはァ!!!」

 

「ぁ…!! あぐァア……!!!」

 

 

ナツとレア、二人揃って取り込んだ魔力を吐き出しながら喉を抑えて苦しみ始めたのだ。

本来ナツとレアの「食べて魔力を回復」する行為は、己が属性と同じものを取り込むことで初めて成立する滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の特性。

だが今、彼らが取り込んだエーテルナノは“炎”や“水”以外の魔力も当然含まれている。

それは純粋で無秩序な魔力の塊。

その暴走が全身を引き裂こうとしていた。

 

 

「(強力な“魔力”を“炎”や“水”の代わりに食えばパワーアップするとでも思ったのか? その短絡的な考えが自滅をもたらした)」

 

 

苦しむ二人を眺めながらジェラールは内心ほくそ笑んだ。

それが、どれほど早計な考えなのかも知らずに…。

 

次の瞬間、ナツとレアの周囲にあったエーテルナノが変化しだした。

ナツの周囲では紅蓮の炎が竜の翼を広げ、レアの周囲では奔流が牙を剥いた。

二つの竜影が現れた瞬間、ジェラールもエルザも息を呑む。

 

 

「(ドラゴン…!!?)」

 

 

変貌はそれだけではなかった。

ナツの額に硬質な鱗が浮かび、瞳の奥で竜の縦瞳が閃く。

一方レアは、淡い水色の髪が深海のような濃青へと変色し、耳が尖りだした。

その姿は人の形を保ちながら、もはや「竜の化身」と呼ぶべきものだった。

 

 

「(こいつら……エーテリオンをとりこんで…!)」

 

 

ジェラールの思考が凍りつく。

次の瞬間、轟音。

 

 

「ぐほぉ!!?」

 

 

ジェラールの頬に鋭い衝撃が走った。

見れば、ナツの炎を纏った膝が食い込んでいた。

跳び上がった勢いを利用したナツはそのままジェラールの首を鷲掴みにした。

 

 

「お前がいるからァァ!!!」

 

 

そして、彼はジェラールを地面に叩きつけた。

その衝撃に耐えきれなかった床が砕け、ナツとジェラールは下の階へと落ちた。

それでも勢いは止まらず、下の階の床が砕けては落ち、また砕けては落ちを繰り返し、ナツとジェラールは塔を下って行った。

 

 

「エルザは涙を流すんだァァ!!!!」

 

 

落下していくナツの脳裏によぎったのは、儚く命を散らせた男との約束だった。

 

 

『ナツ……エルザを頼む』

 

「オレは約束したんだ……!! 約束したんだぁあぁ!!!!」

 

「こざかしい!!! 流星(ミーティア)!!!」

 

 

痛みに悶えながらもジェラールは魔法を発動し、ナツの手から逃れる。

そのまま彼は閃光のように飛翔した。

 

 

「この速さにはついてこれまい!!!」

 

「誰か忘れてないの?」

 

 

だが、焦りのあまりジェラールは彼女の存在が完全に頭から抜け落ちていた。

飛び上がった先、そこには両手を絡めて拳を固め、それを振りかぶったレアの姿があった。

 

 

「しまっ……!!」

 

「ふんッ!!!」

 

「ガァッ!!!」

 

 

振りかぶったそれを脳天目掛けて振り下ろす。

苦悶の声を漏らしながらジェラールは再び下層へと叩き落とされた。

その瞬間、飛んだジェラールを追ったナツがジェラールの目の前まで迫る。

 

 

「……ッ!!?」

 

 

ジェラール自身の落下速度に加えてナツの上昇時にかかった運動エネルギーが相乗効果を生んだナツの拳がジェラールの腹部に叩き込まれた。

声にならない悲鳴をあげたジェラールはその勢いのまま塔上空に打ち上げられた。

 

 

「バ……バカな!!! オレは負けられない!!!」

 

 

叫ぶジェラールの脳裏に過ったのは、かつて虐げられて無理やり働かされた奴隷時代。

そしてあの日、かの亡霊が自分に問いかけてくれたときのこと。

 

 

「自由な国をつくるのだ!!! 痛みと恐怖の中で、ゼレフはオレにささやいた!!! 真の自由がほしいかとつぶやいた!!!」

 

 

縋るような狂気じみた叫びが轟く。

 

 

「そうさ……!! ゼレフはオレにしか感じる事ができない!!! オレは選ばれし者だ!!! オレがゼレフと共に、真の自由国家をつくるのだ!!!!」

 

「自分の周りの人間も幸せにできない人間に……どうやって自由な国がつくれるの……!!!」

 

「それは人の自由を奪ってつくるものなのかァァーーー!!!!」

 

 

どこまでも自分本位な主張に、双竜は怒りをあらわにする。

ジェラールは指先に魔力をこめると、空中に魔法陣を描き出した。

 

 

「世界を変えようとする意志だけが歴史を動かすことができる!!! 貴様等にはなぜそれがわからんのだァ!!!」

 

 

ものの数秒で完成させた魔法陣。

それを見て下にいたエルザが目を見開いた。

 

 

煉獄砕破(アビスブレイク)!!? 塔ごと消滅させるつもりか!!!」

 

 

それは、かつて幽鬼の支配者(ファントムロード)妖精の尻尾(フェアリーテイル)を街ごと消し飛ばそうとした禁忌魔法。

それを人の身で瞬時に発動させんとするジェラールはさすが聖十大魔道を冠する者。

 

 

「また8年……いや…今度は5年で完成させてみせる…。ゼレフ……待っていろ」

 

 

獰猛に笑った彼がそれを放とうとしたそのとき。

一瞬、彼の中の魔力の流れが乱れた。

それは、あのときエルザが届かせた一太刀のキズ。

塔最上階でエルザと手合わせたときに、彼女が食らわせた一撃が、彼の力を阻害したのだ。

 

 

「仲間どころか…おまえですら自由じゃないの…!!」

 

 

そしてその隙を見逃すほど、双竜は闇雲に物事を見ていない。

ナツとレアは飛んでいるジェラールに向かって不安定な足場から踏み込んで跳んだ。

 

 

「亡霊に縛られてるやつに、自由なんか無いの!!!」

 

「自分を解放しろォォ!!! ジェラァアァァアァル!!!!」

 

 

ジェラールの瞳に、口を開けて炎の翼を広げた竜と、冷酷な視線をこちらに向けて体をくねらせる竜が迫る姿が映された。

そして——

 

二つの拳が同時に振り下ろされ、ジェラールの身体を塔に叩きつけた。

轟音、衝撃……Rシステムの頂上が粉々に砕け散り、塔の骨組みすら揺らすほどの衝撃波が広がった。

 

双竜の咆哮を思わせる一撃に、ジェラールの意識は耐えきれず途切れ、彼の身体は悲鳴を上げる間もなく崩落する瓦礫と共に奈落の底へと消えていった。

 

天井だったものが崩れ落ちる中、エルザはただ、背中合わせに着地した二つの影を見つめていた。

その胸に渦巻くのは、驚愕か、畏怖か、あるいは感動か。

 

 

「(これが……ナツとレアの真の力……。これが……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…!!!)」

 

 

紅蓮の炎と蒼き奔流。

二つの竜の力が並び立つ姿に、彼女は言葉を失った。

 

 

「(あのジェラールを倒した……)」

 

 

そんな思いを彼女が抱えているとも知らずに、ナツとレアはエルザの方を見た。

 

 

「(私の……8年にわたる戦いは終わったんだ。これで…みんなに本当の自由が……)」

 

 

二人が見たのは、柔らかい笑みを浮かべたエルザの姿だった。

安心したように笑う彼女を見た二人は彼女と同様に微笑を浮かべると、ふっと全身から力が抜けた。

すると、ナツの額や目の周りに浮かんだ鱗も、レアの濃青の髪と尖った耳も、元の姿に戻っていた。

 

 

「ナツ!! レア!!」

 

 

ガクンと膝をついた二人にすぐさま駆け寄るエルザ。

倒れ伏す前に二人を優しく抱えたエルザは、そのまま抱擁を与えた。

 

 

「おまえたちは…すごい奴らだ。本当に」

 

 

声も届かぬ二人に、エルザは彼女なりの感謝の言葉を紡いだ。

だが、安心していたのもつかの間の事。

塔全体が震えだす。

すると、周囲の魔水晶(ラクリマ)から魔力があふれ出し、無作為に放出され始めたのだ。

 

 

~~~

 

 

その様子は、外から見ていた者たちからもはっきり見えていた。

 

 

「塔が…!!」

 

「何アレ!!?」

 

「ま…まさか…!! エーテリオンが暴走してるのか!!?」

 

「暴走!!?」

 

 

グレイの推測を交えた呟きに、ルーシィが大きく反応する。

その予想は的を得ていた。

一瞬で高い塔を消し飛ばすことが可能な魔力を一か所に留めること自体が不安定なのだ。

行き場の無くした魔力の渦は、はじけて大爆発を引き起こす。

 

 

「ちょ……! こんな所にいたらオレたちまで…!!」

 

「中にいる姉さんたちは!!?」

 

「誰が助かるとか助からねえとか以前の話だ…! オレたち含めて……全滅だ……!!」

 

 

~~~

 

 

場所は戻って塔最上階。

暴走と崩落を始めた塔から脱出するために、エルザは気絶したナツを背に、レアを前に抱えた。

かなり無理な体勢で抱えていることもあり、さすがのエルザも苦悶の表情を浮かべる。

すると彼女の視界に、倒れ伏してもう動かなくなってしまった男の姿が映った。

 

 

「シモン……」

 

 

崩落に伴って足場が傾き始め、物言わぬ体はズズズ…と滑り落ちていった。

エルザは歯をかみしめながら目をそらし、移動を開始した。

行き場のない魔力がまるで間欠泉のように噴き出し、あちこちで爆音が鳴り響く。

 

瞬間、塔全体がぐわんと歪んだ。

はちきれんばかりの魔力を、首の皮一枚繋がった様子で塔が抑え込んではいるものの、限界は近い。

 

容量を超えた水風船のように膨らんだ塔の内部で、エルザは盛大に転んでしまう。

元々負傷している身で気絶した人間二人を運ぼうとしたことが無茶なのだ。

硬い魔水晶(ラクリマ)がぐにゃんとスライムのようにうねる様子を横目にエルザは歯ぎしりをする。

 

 

「器……魔水晶(ラクリマ)をも変形させるほどの魔力か……。想像以上の破壊力のようだな……。これでは外に出ても暴発に巻き込まれてしまう……。くそっ!!!ここまでか!!!」

 

 

万事休す。

そう言うしかない状況だった。

地に拳を叩きつけながら叫ぶエルザ。

だが、彼女はいまだに硬く目を閉じている二人の姿を見た。

 

 

「いや……あきらめるものか……。今度は私がおまえたちを救う番だ。ナツ……レア…」

 

 

決意を固めて立ち上がるエルザ。

そこで考えを巡らせる。

膨大な魔力を伴った爆発など、防ぐことも脱出も不可能。

どうすべきかと考えたとき、彼女の脳裏にジェラールの言葉が過った。

 

 

『この27臆イデアの魔力を蓄積した魔水晶(ラクリマ)におまえの体を融合する。そして、おまえの体は分解され、ゼレフの身体へと再構築されるのだ』

 

 

その言葉に、エルザは一つ策を思いついた。

それは自身の体を目の前の魔水晶(ラクリマ)と融合させ、溜め込まれた魔力を操って暴走を止めるという方法だ。

そっとそれに触れてみると、表面に波紋が立った。

これしかない…そう決心したエルザは魔水晶に触れた手を押し込んだ。

 

 

「あぐっ!!」

 

 

魔水晶に取り込まれた手を見て、エルザは内心安堵する。

暴走を始め、魔水晶(ラクリマ)が自身の体を受け入れない可能性もあったが、杞憂に終わったからだ。

 

 

「エルザ…?」

 

 

ふと、そんな声が聞こえた。

驚いて目を向けると、気絶していたはずのナツとレアが意識を取り戻していたのだ。

 

 

「何…してんだ…」

 

「エルザ…体が、魔水晶(ラクリマ)に……」

 

「……エーテリオンを止めるには、これしかない」

 

 

できれば、このような姿は見せたくなかった。

そう思いつつも、エルザはそう言った。

 

 

「じきに、この塔はエーテリオンの暴走により大爆発を起こす。しかし、私がエーテリオンと融合して抑える事ができれば…」

 

「何言ってんだバカヤロウ!!!」

 

「そんなことしたら…エルザが…!!」

 

 

声を荒げるナツとレア。

だが、その間にも魔水晶(ラクリマ)はさらにエルザの体を呑み込んでいく。

 

 

「うあっ!!」

 

「「エルザ!!!」」

 

「何も心配しなくていい。必ず止めてみせる……」

 

「よせー!!!」

 

「やめて!!! エルザ!!!」

 

 

駆け寄るナツとレア。

しかし、全身にまともに力が入らず、その手前で転んでしまう。

すぐさま立ち上がろうとしたとき、二人の頬に順番に手が添えられ、動きが固まった。

 

 

「ナツ…レア……。私は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)なしでは生きていけない。仲間のいない世界など考えることもできない。私にとっておまえたちは、それほど大きな存在なのだ」

 

「エルザ…」

 

「そんなの…」

 

「私が皆を救えるなら、何も迷う事はない。この体など…」

 

「ッ! エルザ…!!」

 

「待っ…!!」

 

「くれてやる!!!」

 

 

瞬間、エルザの体が魔水晶(ラクリマ)に完全に呑まれた。

ナツとレアがエルザが呑まれた魔水晶(ラクリマ)に触れても感触は固く、手を伸ばすこともできない。

 

 

「ナツ…レア……皆の事を頼んだぞ。私はいつも、お前たちのそばにいるから」

 

 

左の瞳を滲ませながらそう託したエルザに、ナツとレアの瞳も潤ませる。

魔水晶(ラクリマ)は輝きを増し、光すらも彼女を呑んだ。

魔力が荒れ、爆ぜる。

 

 

「エルザーーーッ!!!!」

 

「イヤアアアァァアァアア!!!!」

 

 

絶叫と共に、魔力の渦は一定に流れ始め、空へと舞い上がっていった。

空へと昇った魔力の渦が止むと……楽園の塔があった場所には何もなかった。

まるで、楽園の塔など……最初から無かったかのように、きれいさっぱりと。





焦ると人の視野って狭なんねん。
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