妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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日の出の秘密

 

「どうやら妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士は、自分たちこそが最強かなんかと勘違いしているらしい」

 

「まあ、確かに噂はいろいろ聞く。魔導士ギルドとしての地位は認めよう」

 

「…が、所詮魔導士」

 

「戦いのプロ、傭兵にはかなわない」

 

 

二匹の竜と対峙する狼はそう発破をかける。

が……。

 

 

「だったら早くかかって来い」

 

「私たちも、あまり時間は掛けたくないの」

 

 

ナツは手に纏っていた炎の形をcome onと変えて挑発する。

 

 

「兄ちゃん…マジでコイツらナメてるよ……」

 

「相手が(ミー)の得意な火の魔導士とあっては……簡単(イージー)仕事(ビジネス)になりそうだな」

 

 

挑発に乗った大柄な弟。

だが平鍋を持った兄が鎮め冷静にそう言い放った。

すると、兄はとう!と地面を蹴り、二人に急接近して、手に持った平鍋を横に振り払った。

 

 

「おっと」

 

「うぶっ!」

 

 

ナツは間一髪避けられたが、油断しまくっていたレアは平鍋が直撃し、吹き飛ばされる。

そのせいで、ナツもレアに視線が向いて目の前の相手への注意が疎かになる。

飛び上がって身動きの取れないナツは弟に服を掴まれ、ぶあっ!とレアが吹き飛ばされた同じ方向に投げ飛ばされる。

レアが吹き飛ばされたことによって部屋には風穴が空き、二人揃ってロビーに出た。

幸いな事に、レアもナツもこれといった傷は受けていなかった。

 

 

「うぅ、痛た…」

 

「雇い主ん家そんなにブッ壊していいのか?」

 

 

吹き飛ばされた二人は今度こそ油断なく上にいる兄弟を見据えた。

 

 

貴様ら(ユー)は魔導士の弱点を知っているかね?」

 

 

突如そんな事を尋ねる平鍋を持った兄。

だが、この質問にナツとレアは顔を青くさせた。

 

 

「「の…乗り物に弱い事か(なの)!?」」

 

「よ…よくわからんが、それは個人的な事では?」

 

 

シンクロする二人の回答に兄弟揃って微妙な表情をするが、兄が答え合わせをしながら2階から飛び降りた。

 

 

「肉体だ」

 

「肉…体?」

 

「なの?」

 

 

思わない回答に二人は唖然とする。

しかしポカーンとする中でも、兄弟の攻撃は二人に襲いかかった。

 

 

「魔法とは知力と精神力を鍛錬せねば身につかぬもの」

 

「結果…魔法を得るには肉体の鍛錬は不足する」

 

「すなわち……日々体を鍛えてる我々には、"力"も"スピード"も遠く及ばない」

 

 

などと、兄弟は攻撃を繰り出しながらそう持論を並べる。

弟の話では昔、相手の骨を砕く"呪いの魔法"を何年もかけて修得した魔導士がいたという。

その魔導士と対峙した際、魔導士が呪いをかけるより早く相手の骨を拳で砕き、一撃で沈めたという。

 

 

「それが魔導士というものだ」

 

「魔法がなければ普通の人間並みの力も持ってねえ」

 

 

今も尚攻撃を続けるバニッシュブラザーズ。

だがその攻撃は二人掠ることも無く空を切り、ナツとレアは一旦距離を取った。

 

 

「つーかさあ、そーゆーワリにはまったく攻撃当たってねえぞ」

 

「ん。力説してるのにこれじゃあ説得力皆無なの」

 

 

と、ナツは舌をべーと出しながら、レアは事実を淡々と並べて煽りまくる。

最も、レアの場合は天然も混じっている為、純粋に煽っている訳では無いが。

 

 

「なるほど。スピードはたいしたものだ。少しは鍛えてるな」

 

「兄ちゃん…アレならよけられねえ」

 

 

今なお兄弟をヘイカモンと言いながら煽るナツと黙ってこちら見据えるレアを見ながら、弟はそう思案した。

 

 

「合体技だ!」

 

「OK!!」

 

 

流石にナツも煽るのを止め、二人の行動を見る。

兄は平鍋を水平に構え、飛び上がった弟は鍋の部分に乗る。

 

 

「余裕こいていられるのも今のうちだぜガキ共!! オレたちがなぜ「バニッシュブラザーズ」と呼ばれているか教えてやる!!」

 

()()()…そして()()からだ」

 

 

静かにそう告げた兄は覇気を込める。

そして……。

 

 

「ゆくぞ! 天地消滅殺法!!」

 

「HA!!!」

 

 

言うが早いか、兄は弟の乗った平鍋を振り上げ、弟はそのまま天へ飛んだ。

飛んだ弟に釣られるように、ナツの視線は上に吸われる。

それと同時に、兄は二人に距離を詰める。

 

 

(うえ)を向いたら…」

 

「ナツッ!!」

 

(した)にいる!!」

 

「ふんにゅっ!!」

 

 

勢いよく平鍋を振った兄だが、攻撃は腕を水流で纏ったレアに受け止められる。

 

 

(した)を向いたら…」

 

「任せろっ!」

 

(うえ)にいる!!」

 

「オラァ!!」

 

「ぬごっ!!」

 

 

次にナツ達目掛けて急降下した弟だったが、既に迎撃態勢を整えていたナツによってあっさりと吹っ飛ばされる。

 

 

「何ッ!?」

 

「んぐぐぐ…んなのおおぉぉ!!!」

 

「グオオッ!?」

 

 

弟が吹っ飛ばされたことで完全に気がそっちに向いてしまった兄。

レアがその気の緩みを見逃すはずも無く、受け止めていた平鍋を掴み、弟と同じ方向に投げ飛ばした。

受け身を取り損ねた兄弟は勢いよく体を地面に叩きつけられるも、よろっとふらつきながらも立ち上がる。

 

 

「バカな…!」

 

「オレたちの合体技、天地消滅殺法をマトモに受けきるなど…!!」

 

「だってこの攻撃、普通二対一で初めて意味のある攻撃なの」

 

 

レアから最もな指摘を受け、ナツはもういいやと、頬を膨らませる。

 

 

「これでふっとべ!! 火竜の咆哮!!!」

 

 

ナツは炎のブレスをバニッシュブラザーズ向けて吹く。

しかし当の本人は炎のブレスを見ても物怖じない。

いや、寧ろ笑っていた。

 

 

「来た!! 火の魔法!!!」

 

「終わった」

 

 

と、兄は持っていた平鍋を構える。

すると、炎のブレスは瞬く間に平鍋へと吸い込まれていく。

 

 

「対火の魔導士専用…兼必殺技! 火の玉料理(フレイムクッキング)!!! (ミー)の平鍋は全ての炎を吸収し、威力を倍加させ…」

 

 

炎を吸収している平鍋はその勢いのまま向きを変え、ナツとレアに炎を吸収している面とは反対方向に向けると……。

 

 

「噴き出す!!」

 

 

ズゴオオ!と轟音を立てて炎が噴き出され、ナツとレアを包み込んだ。

 

 

「妖精の丸焼きだ! 飢えた狼にはちょうどいい!!」

 

「炎の魔力が強ければ強いほど自分の身を滅ぼす。

グッバイ」

 

 

完全に勝ちを確信したバニッシュブラザーズ。

しかしこんな所でくたばる『双竜』などでは無い。

次に兄弟が目にしたのは、炎で身を包みながらも悪魔の笑みを浮かべながら二人の元へ突っ込むナツと、全身に水のベールを纏い、炎を一切受け付けていないレアの姿だった。

 

 

「何!!?」

 

「火が効かねえ!!? いや…いくら火の魔導士と水の魔導士でもそれは…!!」

 

「聞こえなかったか?」

 

 

と、ナツはそのままの勢いで兄弟の顔面を鷲掴みにし、一言。

 

 

「ふっとべ!!」

 

 

レアも水のベールを解除し、腕に水流を纏い、高く跳んだ。

 

 

「火竜の――」

 

「水竜の――」

 

「「翼撃!!!」」

 

 

ナツに掴まれた二人は吹き出す炎によって宙に舞う。

しかし攻撃はまだ終わらない。

天高く跳んだレアは水流を纏った腕をなぎ払い、吹き飛んだ兄弟を荒れ狂う水流に巻き込む。

宙に舞う水流に踊らされたバニッシュブラザーズは壁を突き抜け、見えなくなるまで吹き飛ばされた。

最初の宣言通り、黒コゲになり、地の果てまで流されたのだった。

 

 

「な…何なんだ…この魔導士は……」

 

 

兄の疑問に答える者は周りに誰もいない。

 

 

「ママぁ……妖精さんが見えるよ」

 

 

弟はあまりの衝撃に幻覚が見えていた。

宙で追撃を行ったレアがナツの傍に着地する。

ナツはフーっと息をつく。

 

 

「さーて、ルーシィ探しに行くか」

 

「ん。ところで、あの人たち何だったの?」

 

「俺に聞かれても……」

 

 

ボロボロになったロビー。

だがそこに倒れていたゴリラメイドは怪しく目を光らせるのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

時は少し遡り、屋敷の下水道。

本を読む時間が欲しいと言ったルーシィは危機に陥っていた。

風詠みの眼鏡と呼ばれる魔法アイテムを使用し、通常よりも何倍もの速度で本を読み進め、本の謎を解いた所までは良かった。

だが、完全に油断しきっていたルーシィは壁から突然生えてきたエバルー公爵の手によって腕を掴まれ捕まったのだ。

本の秘密を吐かなければ腕をへし折ると脅しに出ていた。

星霊を召喚する為の鍵は腕を掴まれた時に落としてしまい、もっと言えば現在両手が使えないルーシィは鍵を持つこともできない状態だ。

 

 

「調子にのるでないぞ、小娘がぁあ!! その本は我輩の物だ! 我輩がケム・ザレオンに書かせたんじゃからな! 本の秘密だって我輩のものなのじゃあっ!!!」

 

 

先程ルーシィが無駄にエバルー公爵を挑発したせいで、エバルー公爵は本気でルーシィの腕を折ろうと 力を込める。

と……。

 

 

ボキッ!!

 

 

そんな音が聞こえた。

ルーシィのものかと思えたが、まだその域まで達していない。

ルーシィは音のなった方向に目を向けると……。

 

 

「おおぉ、ぎゃあぁあぁあっ!!!」

 

「ハッピー!!」

 

 

翼を生やした青い猫、ハッピーがエバルー公爵の腕を肘の折れる反対側から飛んできた勢いのまま蹴りを打ち込んでいた。

折れてはいけない方向に腕が折れ、エバルー公爵は痛みのあまりルーシィから手を離す。

ルーシィもすぐさまそこから離れ、地面に落ちた鍵の束を手に取った。

 

 

「ナイス、かっこいー♡」

 

 

ルーシィの言葉にハッピーはにっと笑う。

すると翼が消え、ハッピーは着地をしようと空中でくるくるくると回った後に……。

 

 

ポチャン……

 

 

下水に飛び込んだ。

 

 

「ルーシィ!」

 

「あ、フリーシャ」

 

 

と、遅れてフリーシャもルーシィの元に合流した。

 

 

「おのれ……。何だ、その猫共は!」

 

「ブク…バッビィべぶル」

 

「「ハッピーです」だってさ」

 

「ハッピー。さっさとあがってくるかしら穢らわしい。ちなみにリーシャはフリーシャかしら」

 

びぶ()びぼびいべぶル(気持ちいいです)…ブクブク」

 

「……ハッピー。体洗うまでリーシャに近づくで無いかしら」

 

 

何とか腕を戻したエバルー公爵は壁に風穴を開け、そのまん丸い体を表に出した。

ルーシィは鍵を手に構え、不敵な笑みを浮かべる。

ついでにフリーシャは水に沈んでいるハッピーにこれでもかという軽蔑の視線を向けている。

 

 

「形勢逆転ね。この本をあたしにくれるなら許してやってもいいわよ。一発は殴りたいケド……」

 

「さて、観念するかしら」

 

 

フリーシャもルーシィと再度合流して、彼女が(エーラ)とは別に持つもう一つの魔法、(ソウ)を発動させる。

緑色の爪を手に纏ったフリーシャが構え、ルーシィは驚きながらも今はと、エバルー公爵に照準を合わせる。

だがエバルー公爵はニヤリと笑う。

 

 

「ほぉう……星霊魔法か、ボヨヨヨ。それにその猫は(ソウ)か。だが文学少女のくせに言葉の使い方を間違えておる。形勢逆転とは勢力の優劣状態が逆になる事だ。猫が二匹増えたくらいで、我輩の魔法、土潜(ダイバー)はやぶれんぞ!!」

 

 

するとエバルー公爵の足元が抜けると、再び地面に潜った。

 

 

「これ……魔法だったのかぁ」

 

 

ようやく水からあがったハッピーが散々披露された地面に潜る行動が魔法だと理解し、納得した。

そんな中、エバルー公爵は地面からアッパーをルーシィとフリーシャに仕掛ける。

それを避けられれば再び地面に潜っては二人に攻撃を仕掛けると、ヒットアンドアウェイで攻撃を繰り返す。

 

 

「この本に書いてあったわ。内容はエバルーが主人公のひっどい冒険小説だったの」

 

「我輩が主人公なのは素晴らしい。しかし内容はクソだ。ケム・ザレオンのくせにこんな駄作を書きおって! けしからんわぁっ!!」

 

「無理矢理書かせたくせになんて偉そうなの!?」

 

「偉そう? 我輩は偉いのじゃ! その我輩の本を書けるなどものすごく光栄なことなのじゃぞ!!」

 

「脅迫して書かせたんじゃないっ!!」

 

 

ハッピーとフリーシャはルーシィの言葉を疑った。いくら町の有権者であろうと、脅迫して自身の小説を書かせるなどあるのだろうかと。

しかしエバルー公爵は……。

 

 

「それが何か?書かぬと言う方が悪いに決まっておる!!」

 

 

悪びれもせず、寧ろ嬉々としてそう言い放った。

遠回しな肯定を含んでいるエバルー公爵の回答。

しかし本人は嫌らしい笑みを浮かべながら自身の髭をキュッとつまんでは整えると、再び地面へ潜った。

 

 

「偉ーいこの我輩を主人公に本をかかせてやると言ったのに、あのバカ断りおった。だから言ってやったんだ。書かぬというなら奴の親族全員の()()()()()()()()とな」

 

 

またもや耳を疑う爆弾発言が猫二匹の耳に入った。

市民権を剥奪されれば、商人ギルドや職人ギルドに加入出来なくなる。

つまり、職、大袈裟な言い方をすれば国から生きる権利を奪われるという事他ならない。

しかしこんなクズにそんな権限があるのというのも猫二匹は疑問に思った。

だがルーシィはイエスと答えた。

封建主義のこの土地はまだその権限は残っており、エバルー公爵は確かにこの辺りでは絶対的な権力をふるっている。

 

 

「けっきょく奴は書いた!! しかし一度断った事はムカついたから独房で書かせてやったよ!!

ボヨヨヨヨヨヨ!!! やれ作家だ文豪だ……とふんぞり返っている奴の自尊心を砕いてやった!!」

 

 

地面に潜っていたエバルー公爵は遂にルーシィを捉え、足首を掴んだ。

が、ルーシィは掴んだその手を連続で踏みつける。

狙いを分散させる目的で離れていたフリーシャも合流して、地面から伸びている腕を切りつける。

エバルー公爵はいてっと言いながらもその手を離さない。

 

 

「自分の欲望の為にそこまでするのってどうなのよ!! 独房に監禁された3年間!!彼はどんな想いでいたかわかる!!?」

 

「3年も……!!?」

 

 

絶句した。

フリーシャは思わず振るっていた腕を止め、ハッピーは口元を手で抑えていた。

しかしエバルー公爵は高らかに笑った。

 

 

「我輩の偉大さに気づいたのだ!!」

 

「違う!!!自分のプライドとの戦いだった!!

書かなければ家族の身が危ない!! だけどアンタみたいな大バカを主人公にした本なんて……作家としての誇りが許さない!!!」

 

 

ルーシィの怒りの篭った叫びに怯み、連続で踏みつけられた手を痛め、エバルー公爵はようやく掴んだ手を放した。

一旦距離を取ったエバルー公爵は訝しげにルーシィを見た。

 

 

「貴様……なぜそれほど詳しく知っておる?」

 

 

エバルー公爵からの問いの解答は簡単だった。

 

 

「全部、この本に書いてあるわ」

 

「はぁ? それなら我輩も読んだ。ケム・ザレオンなど登場せんぞ」

 

 

ルーシィは手に持つ本をエバルー公爵の見せびらかしそう言うが、エバルー公爵の表情はさらに疑問に満ちた。

だが、続くルーシィの言葉に、嫌でも理解した。

 

 

「もちろん普通に読めばファンもがっかりの駄作よ。でも、アンタだって知ってるでしょ? ケム・ザレオンは元々魔導士」

 

「な…! まさか!!」

 

「彼は最後の力をふりしぼって…この本に魔法をかけた」

 

「「おおっ!!!」」

 

 

ルーシィの暴いた秘密に、ハッピーとフリーシャは感嘆の声を漏らした。

 

 

「魔法を解けば我輩への怨みを綴った文章が現れる仕組みだったのか!? け…けしからんっ!」

 

「発想が貧困ね…。確かにこの本が完成するまでの経緯は書かれてたわ。だけど、ケム・ザレオンが残したかった言葉はそんな事じゃない。()()()()()は別にあるんだから」

 

 

唯一、駄々を捏ねて読み始めたルーシィだけが気づいた。

本に残った魔力の残穢を感じたルーシィは秘密があると悟り、そして解き明かした。

ハッピーはその秘密が気になってなになに〜?と縋り、フリーシャはその残穢を読み取ったルーシィの筋の良さに感心した。

伊達に入手困難な黄道十二門の鍵を三本契約しているだけの事はあると。

 

 

「だからこの本はアンタには渡さない!! てゆーかアンタには持つ資格なし!!! 開け! 巨蟹宮の扉…キャンサー!!」

 

 

そしてルーシィは遂に、ずっと持っていた金の鍵を使った。

現れたのは高身長で頭はカニのハサミを模したヘアスタイル。

両手に散髪用のハサミを持ち、腰には散髪用よ道具の入ったポシェットを下げ、背中からはカニの足が6本生えている。

 

 

「蟹キターーー!!! 絶対語尾に「〜カニ」つけるよ!! 間違いないよね!カニだもんね!!

オイラ知ってるよ。"お約束"って言うんだ!!」

 

「ハッピー一旦黙るかしら」

 

 

妙な所で勝手に盛り上がる青い猫とそれを鎮める金の猫。

ルーシィも微妙な表情をする中、キャンサーが口を開いた。

 

 

「ルーシィ…今日はどんな髪型にする()()?」

 

「空気読んでくれるかしら!!?」

 

「「エビーーー!!?」」

 

 

まさかの語尾にフリーシャも叫ばずにはいられなかった。

ちなみにこの語尾、取ってつけた訳ではなく素でこれなので仰天ものである。

余りにも間の抜けたキャンサーの発言にルーシィもぐもぉっと反応したが、すぐに目付きを変えては目の前のエバルー公爵を睨んだ。

 

 

「戦闘よ! あのヒゲオヤジやっつけちゃって!」

 

「OKエビ」

 

 

ルーシィの指示に、キャンサーもしっかりと敵を見据える。

思わぬ衝撃を受けたハッピーはルーシィの肩に乗った。

 

 

「まさにストレートかと思ったらフックをくらった感じだね。うん! もう帰らせていいよ」

 

「あんたが帰れば」

 

 

カニと思ったらまさかのエビのショックは中々大きかったようで、ハッピーは未だにプルプルしている。

ちなみに同じ衝撃を受けたフリーシャだが、流石にもう立て直し、キャンサーの隣に並んでいる。

一方エバルー公爵はというと……。

 

 

「(ひ……秘密じゃと!? まだ何か……。

ま…まさか、我輩の事業の数々の()()でも書きおったか!!? マズイぞ!! 評議員の検証魔導士にそれが渡ったら……我輩は終わりじゃないかっ!!)」

 

 

何やら焦っていた。

焦りからか、エバルー公爵は()()()を取り出した。

 

 

「開け!! 処女宮の扉!!!」

 

「え!?」

 

「ルーシィと同じ魔法!!?」

 

「しかも黄道十二門かしら!?」

 

「バルゴ!!!」

 

 

エバルー公爵がそう唱えると、目の前に白い煙がばふっと現れる。

煙が晴れ、姿を見せたのは、乙女座らしい美しい女性……ではなく、

 

 

「お呼びでしょうか?御主人様」

 

「バルゴ!! その本を奪えっ!!!」

 

 

幾度となく登場したあのゴリラメイドだった。

 

 

「こいつ…星霊だったの!?」

 

「エビ」

 

 

ルーシィもたった今発覚した衝撃の事実に、口をあんぐりさせる。

キャンサーは知っていたからか元々その場に居なかったせいか反応は薄い。

だが、バルゴが召喚された事でこの場に現れたイレギュラーが、二人いた。

 

「あっ!!!」

 

「「あ!!!」」

 

「あ!!?」

 

「お!?」

 

「ん?」

 

「ナツ、レア!!!」

 

 

彼らの視線に入ったのはバルゴの上にいる手を繋いだナツとレアだった。

 

 

「なぜ貴様らがバルゴと!!?」

 

「あんたら…どうやって!!?」

 

 

エバルー公爵とルーシィの疑問は至極真っ当だ。時系列的にいえばナツとレアは今しがたバニッシュブラザーズとの戦闘を終え、この場に居るはずが無いのだ。

距離的にも考えて、この場にいることはありえない状況だったのだ。

だがナツが戸惑いながらも答えた。

 

 

「どう…って、コイツが動き出したから後つけてきたらいきなり…」

 

「訳わかんねー!!」

 

 

ルーシィも他の誰も理解出来ていない。

というか、当事者のナツとレアでさえ理解出来ていなかった。

が、ルーシィはある部分が目に入る。

 

 

「「つけて」って言うか……「つかんで」でしょ!!」

 

 

それはバルゴの服をガッチリ掴んでいるナツの手だった。

と、これでルーシィがナツとレアがここに突然現れたメカニズムを理解するも、常識的にありえないと目を白黒させる。

 

 

「まさか……人間が星霊界を通過してきたって言うの!!? ありえないって!!!」

 

 

細かい説明は後日として、簡単に言えば星霊の住む星霊界に人間が入れば、平たく言えば死ぬ筈だというのに、ナツとレアはその常識を根本から翻してこの場に現れたのだ。

その余りにも常識外れな現象に頭が完全に混乱しているルーシィだが、(ナツ)の一声で現実に戻される。

 

 

「ルーシィ!! オレ達は何すりゃいい!?」

 

「バルゴ!!早く邪魔者を一掃しろ!!」

 

「そいつをどかして!!!」

 

 

ルーシィは腰に下げていた鞭を手に取り、エバルー公爵よりも大きな声でナツとレアに言った。

 

 

「おう!!」

 

「ん!!」

 

 

ルーシィの声が大きく、エバルー公爵の指示が聞きずらかったバルゴは反応が遅れ……。

 

 

「どりゃあっ!!!」

 

「ンなのぉっ!!!」

 

 

それぞれ、炎と水流を纏った蹴りがバルゴの顔面と腹に決まり、その勢いのまま地面にめり込んだ。

一瞬でバルゴがやられたことに完全に想定外だったエバルー公爵はその場でただ佇む。

その大きな隙をルーシィは捉え、首に鞭を巻き付けた。

 

 

「もう地面には逃げられないわよ!!」

 

 

ビィンと鞭を張ったルーシィはそのまま思いっきり振りかぶる。

するとエバルー公爵の体はいとも簡単に宙へ浮き上がり、飛び上がったキャンサーに向かって一直線に飛ぶ。

そして……。

 

 

「アンタなんか…ワキ役で十分なのよっ!!!」

 

「ボギョオ!」

 

 

エバルー公爵を派手に吹き飛ばした。

倒れたエバルー公爵はつるるん、と頭の毛と髭が綺麗に削がれ、服を着た脂ぎったジャガイモが出来上がった。

 

 

「お客様……こんな感じでいかがでしょう?エビ」

 

「ははっ、ハデにやったなぁルーシィ」

 

「あい」

 

「さすが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士なの」

 

「ホント、これは大物になるかしら」

 

 

一悶着終え、ルーシィはフゥとため息を吐いた。

そして、今度は安堵した笑みを見せ、手に持っていた本をぎゅっと胸に抱いたのだった。




次回で日の出編ラストです
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