妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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皆さん楽園の塔編ラストですわ。
最後までどうぞお楽しみください。


強く歩け

 

深海の闇に、わずかな光の粒子が舞い降りた。

静寂を破ることなく、波のように揺らめくその光は輪郭も持たぬまま、ただ柔らかく海を照らす。

 

 

「……グランディーネ?」

 

 

水の底を揺らすような、柔らかな声が響いた。

闇の奥でうねる影が、その名を呼ぶ。

 

 

「久しぶりね。あなたの気配も感じたから、つい立ち寄ってしまったの」

 

 

光の粒子はやさしく波間に溶け込みながら声を返す。

 

 

「……イグニールのところに、いたのでしょう?」

 

 

その声は静かで、それでいて大洋を呑み込むほどの重さを帯びていた。

 

 

「ええ。相変わらず頑固ね。あの子たちの事を話しただけで、烈火のごとく怒られてしまったわ」

 

 

グランディーネは、微笑むように響きを交えて語る。

 

 

「……あの子たち、無茶ばかりね。このままでは、本当に命を落とすかもしれないわ」

 

 

憂いを含んだ光の粒子の声に、それは静かに答えた。

 

 

「母は、誰しもそう案じるものなのよ」

 

 

闇が震え、長大な蒼き体がゆるやかに揺れる。

鱗は星のように輝き、海そのものが彼女の吐息に応えていた。

 

 

「ふふ……そうね」

 

 

グランディーネは小さく笑う。

 

 

「けれど、近いうちにあなたの子と私の子も出会うはず。ウェンディと……。その時は、仲良くしてほしいわ」

 

「人の子の道は、人の子が決めるもの……。けれど、私は信じてる。あの子は絆を裏切らない」

 

 

その声音には、母としての確信と女王としての静かな威容が重なっていた。

 

 

「……やっぱり、あなたは優しいのね。海竜女王ゼルネール」

 

 

光がその名を呼んだ時、深海は一瞬、凍りつくような静寂に包まれた。

ゼルネールは答えない。

ただ長い尾を揺らし、慈愛を込めて光を包み込むように海を撫でる。

 

 

「竜王祭で会える日を、楽しみにしているわ」

 

 

やがて光は淡く瞬きを繰り返し、静かに闇へと溶けていった。

残されたのは、深き蒼を泳ぐ女王の影のみだった。

 

 

~~~

 

 

楽園の塔の崩壊後、ナツたちはアカネリゾートのホテルまで戻ってきた。

その一室にて、ナツとレアが一つのベッドで並んで眠っており、その周りに仲間が集まっていた。

 

 

「んごおおお……ぐがあああ……がるるる……」

 

「スー……スー……」

 

「大丈夫か、コイツら」

 

「さすがに3日間も寝っぱなしはね」

 

 

そんな二人に、グレイとルーシィは半ば呆れていた。

ハッピーとフリーシャがルーシィのカオスな嘘で二人を起こそうとするも、声は聞こえてたのか寝ながら笑っただけで起床はしなかった。

そんな様の二人にルーシィは心外と言わんばかりにツッコミを入れる。

 

 

「もうしばらく休ませてやろう。仕方ない状況だったとはいえ、“毒”を食べたに等しい」

 

 

「エーテリオンを食ったんだっけか? だんだんコイツらも化け物じみてきたな」

 

 

ドガッと椅子に深く座り直してそう吐き捨てるグレイに、エルザは説教できる立場かと半ば呆れたように息をついた。

 

 

「今回の件では、皆にも迷惑をかけたな……。本当に……何と言えばいいのか…」

 

「もう……そのセリフ何回言ってるのよォ」

 

 

申し訳なさそうにうつむくエルザに、今度はルーシィが呆れたように言った。

そんな彼女の態度にエルザは苦笑を浮かべると、ふと、一人足りないことに気が付いた。

 

 

「そういえば、あのエレメント(フォー)の娘はどうした?」

 

「ああ……ジュビアか。もう帰っちまったよ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一刻も早く入りてぇから、マスターに頼みに行くんだって」

 

 

今回の一件で少なくない協力をしてくれたジュビア。

彼女が元ファントムの魔導士とはいえ、少なくともここにいる者らが反対意見を出すことは無いだろう。

 

 

「そうか……。聞けば世話になったようだし、私からマスターに稟請しても良かったのだがな」

 

「ホントあの子行動力あるよね——て!!!アンタら何してんの!!!?」

 

 

ルーシィが感心の意を示していると、マセネコ二匹が寝ているナツとレアを動かして、二人を口づけさせる勢いで近づけていた。

一方グレイはさほど興味が無かったのか話題を変える。

 

 

「つーかエルザ……お前は寝てなくていいんかよ?」

 

 

そう言ってエルザの方に今一度グレイは視線を向ける。

包帯や湿布など、痛々しい見た目の彼女だが、見かけほど大したケガでは無いという。

 

 

「エーテリオンの渦の中では、体は組織レベルで分解されたハズなのだがな」

 

「分解…て……本当に奇跡の生還だったんだな」

 

 

さらりととんでもないことを大したことないように言っているエルザに、グレイは背筋に冷たいものが走って身震いする。

エルザ本人としてもあの時何が起きたのかはよくわかっていない。

だが、今はこうして生きている事に喜びを嚙み締めようと思考を切り替えた。

 

 

「何はともあれさすがエルザだな。勝手に毒食ってくたばってるマヌケとはえらい違いだ」

 

「今なんつったァ!!!!グレーーーイ!!!」

 

 

すると、今の今までうんともすんとも言わない……訳では無かったが、目を覚ます気配の無かったナツが突然目を覚ました。

彼の起床に、ハッピーは「起きたー!」と喜びをあらわにした。

 

 

「今なんて言ったのかもう一回教えてなの……グレイ」

 

 

すると、ナツが起床したのを拍子にレアも目を覚ます。

目をこすりながらも、鋭い目つきをグレイに向ける。

 

 

「素敵な食生活デスネって言ったんだよバカ共。つーかオマエ、フクロウのエサになってなかったか? 食う方か食われる方か、どっちだよ食物連鎖野郎」

 

 

起きて早々グレイはナツにそう言いながら詰め寄る。

ナツは珍しく反論もできずに「うぬぬぬ…」と唸っている。

 

 

「くかー」

 

「寝たーーー!!!」

 

「絡む気がねえなら起きんじゃねえ!!!」

 

 

途端、ナツは再び夢の世界へと旅立った。

その様子は言い返せず不貞腐れた様子ではなく、力尽きて再び眠ったようだった。

そんな様子がおかしかったのか、ルーシィの笑い声が部屋の中に響く。

それに釣られるように皆も笑い、部屋の中は楽し気な喧噪に包まれる。

そんな中レアは微笑を浮かべながらナツの頭を一撫でした。

 

 

~~~

 

 

その後、エルザは互い謝罪しあったショウ、ウォーリー、ミリアーナをナツたちに紹介し、交流を深めていった。

 

助ける事の出来なかったシモンについては、皆もかなり悲しんだ。

だが、シモンが残してくれた未来を進んでいく。

過去を未来に変えて歩き出す。

今日の一歩は明日の一歩になる。

エルザはそう彼らに語って鼓舞し、彼らを妖精の尻尾に誘った。

行く宛もないであろうことを考慮してというのもあるが、何よりエルザ自身が共にいたいと感じていたのだ。

 

そうして始まった親睦会。

特にミリアーナのハッピーとフリーシャへのアプローチは人一倍大きかった。

ナツとグレイの言い争いも混じり、ルーシィのツッコミが飛ぶ。

そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、チェックアウトが前日まで迫っていた。

 

 

「レア!! ルーシィ!! フリーシャ!!」

 

 

慌ただしい足音とともに、エルザが女性陣の部屋へ飛び込んでくる。

 

 

「ショウたちを見なかったか?」

 

「見てないけど…」

 

「ん……右に同じなの」

 

「リーシャも知らないかしら」

 

 

同じホテルに泊まっているハズのショウたちが見当たらないという事案の発生。

心当たりのない三人の反応にエルザの表情が僅かに曇る。

チェックアウトを終えたら一緒にギルドへ行こうと約束した直後のコレにルーシィの表情も不安に煽られる。

 

 

「も…もしかして、何も言わずに出て行っちゃったの!?」

 

 

ガタッと椅子から立ち上がるルーシィ。

その言葉にエルザはため息を一つつき、「そうか」と短く零した。

 

 

「追わなきゃ!! どーしちゃったんだろ!? もう離れる必要なんてないのに!!!」

 

 

慌てた様子でルーシィは星霊の鍵束を腰に着け直す。

レアはそっとその手を押さえ、首を横に振った。

 

 

「……ルーシィ。……きっと、大丈夫、なの」

 

 

幼い響きの中に、不思議と安心を与える強さがあった。

そんな二人のやりとりを見やり、エルザはどこか決心した様子で再び駆け出した。

 

 

「ナツとグレイに“花火”の用意をしろと伝えてくれ」

 

「え…ちょ…!! 何!? 花火って!!?」

 

「ん……りょーかいなの」

 

 

ルーシィが目を丸くさせ、レアは小さく頷き、窓の外に目を向けた。

 

 

~~~

 

 

月が観光客たちを眺めるビーチ。

波間に揺れる一隻の小舟が、静かに出航の時を待っていた。

 

 

「本当にオレたちやっていけるのかナ。外の世界でヨ」

 

「みゃあ」

 

「やっていけるかどうかじゃないよ! やっていかなきゃ!」

 

 

小舟の乗組員はショウ、ミリアーナ、ウォーリーの三人。

ギルドには興味があるし、エルザ(仲間)とも一緒にいられる。

そこに魅力を感じない訳は無かった。

だが、彼らはつい先ほど、己らの無知さを思い知らされた。

 

 

「これ以上姉さんに迷惑をかけられない」

 

 

そう言いながらショウは船と波止場を繋いでいるロープを緩めた。

彼らは決めた。

誰かの為ではなく、自分の為に生きるのだと。

 

 

「行こう! 姉さんたちがオレたちに気づく前に出発するんだ!!」

 

「だな!! なんとかなるゼ!!」

 

「元気最強ーー!!!」

 

 

男二人組が船を押していざ大海原へと出発せんとした時だった。

 

 

「おまえたち!!!」

 

 

三人の耳にそんな凛とした声が届いた。

振り返らずとも誰かわかった。

だが振り返らずにはいられなかった。

案の定、声の正体は今できれば一番会いたくない存在だった。

 

 

「姉さん!!!」

 

「エルちゃん……」

 

「くうう……噂をすればなんとか…だゼ」

 

 

エルザの登場に三人はそれぞれ焦りの表情をを浮かべる。

一方エルザは彼らを見据えるだけで何も言わない。

止めに来たのか…説得しに来たのか…それはわからないが、ショウは意を決して内に秘める想いを伝えた。

 

 

「オレたちは、ずっと塔の中で育ってきた。これから初めて“外”の世界に出ようとしてる。わからない事や、不安な事がいっぱいだけど、自分たちの目でこの世界を見てみたい」

 

 

塔の外で初めて知った、夜を照らす明るい街並み。

物売りの常識や、魔法の使用制限。

不安は払拭されない。

それでも、誰かに頼って生きることも、誰かのために生きることもしたくないのも本心だ。

 

 

「これからは自分自身の為に生きて、やりたいことは自分で見つけたい。それがオレたちの自由なんだ」

 

 

ショウの迷いなき瞳がエルザを見つめる。

それは、ミリアーナとウォーリーも同様だった。

決意は固い。

彼らの主張する“自由”に、エルザが口出しできる道理は無かった。

 

 

「その強い意志があれば、おまえたちは何でもできる。安心したよ…」

 

 

安堵の息をついたエルザは、そう言葉を投げかけた。

笑顔を浮かべながら光を身に纏うと、エルザは換装魔法で装備を変えた。

将軍格が身に着けるような豪華な鎧に、国王を印象付けるようなマントを肩からたなびかせた衣装。

そして左手には妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が入った旗を持ち、エルザは彼らに言葉を告げる。

 

 

「だが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者には、三つの掟を伝えねばならない。心して聞け」

 

「ちょ……!! 抜けるって…入ってもねェのに」

 

 

抜ける以前に加入もはたしていないにも関わらずそういうエルザにウォーリーは戸惑いながらツッコミを入れるも、彼女は構わず続けた。

 

一つ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に不利益になる情報は、生涯他言してはならない。

 

二つ、過去の依頼者に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない。

 

 

「三つ!!! 例え道は違えど、強く…力の限り生きなければならない!!!決して自らの命を、小さなものとしてみてはならない!!!」

 

 

毅然とした様子で語るエルザ。

三つ目を伝える最中、自身に込める感情と掟が共鳴し、涙が形として溢れ出ようとする。

それを必死にこらえようとするも、そんなことできるはずもなかった。

 

 

「愛する友の事を、生涯忘れてはならない!!!!」

 

 

エルザは大粒の涙を流しながら掟を最後まで言い切った。

そんな彼女の姿に、三人も気がつけばつられるように涙を流していた。

 

これからの旅路、決して楽なものとは言い難いだろう。

苦難や困難、予想外の出来事が連続で続いていくかもしれない。

そんな中でも、今を力強く生き、そして過去のことを忘れずに、前へ進み続けてほしい。

 

これは妖精の尻尾(フェアリーテイル)から、エルザから彼ら友へと贈るメッセージ。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会!!!始めェ!!!!」

 

 

エルザの号令に、彼女の後ろから姿を現した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々。

 

 

「おまえらーーー!!! また会おーなーーー!!!」

 

 

大声で別れを告げたナツは空に向けて三発の火球を吹き出す。

ピューンと音をあげて上へ上へと舞い上がったそれは、真っ暗な空に花を咲かせた。

その光景に、ショウたちは涙を流しながら感嘆の声を上げた。

 

 

「氷もあるんだぜ」

「じゃあ、あたしは星霊バージョン!!」

「レアはウォーターショー、なの…!」

 

 

続けて咲いた氷の華が夜空を彩る。

さらに星霊の魔力で上げられた綺羅星散りばめられた光の華。

そして淡い水球が浮かび上がり、花火の光に当てられて幻想的に輝く。

妖精たちの魅せる祝福の花束は煌びやかで、幻想的で、目を奪われるほど見惚れてしまう。

 

 

「私だって本当は、おまえたちとずっといたいと思っている。だが…それがおまえたちの足かせになるのなら……この旅立ちを祝福したい」

 

「逆だよぉぉエルちゃぁぁん……!!!」

 

「オレたちがいたら…エルザはつらい事ばかり思い出しちまう…!」

 

 

彩られた夜空に見送られながら、小舟は旅立つ。

旗を天高く掲げながら言葉を紡ぐエルザに涙混じりの言葉が再び返ってくる。

 

 

「どこにいようと、おまえたちの事を忘れはしない。そして、辛い日思い出は明日への糧となり、私たちを強くする」

 

 

迷いなく彼女はそう言い放つ。

何故なら、人間にはそうできる力がある事を、彼女は誰よりも知っているから。

 

 

「強く歩け。私も強く歩き続ける…! この日を忘れなければまた会える。元気でな……!!」

 

「姉さんこそ……」

「バイバイエルちゃーん!!」

「ゼッタイまた会おうゼ!!!約束だゼ!!!」

 

「約束だ」

 

 

互いに涙を浮かべる。

それを祝福の花束が照らした。

 

心に咲いた光の華。

それは、彼らの旅路の幸福を祈らんと、最期の時まで咲き続けるだろう。

強く歩き続ければ、どんな壁も乗り越えていけるはずだと、彼女らは確信していた。





はい、ここからまた書き溜めに入ります。
次はBoF編ですね。
またアイツも再登場いたしますので、首を長くして待って頂けると幸いです。
ここまでご愛読、ありがとうございます。
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