妖精の尻尾の双竜   作:uru1629

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親愛なるカービィへ

 

「この本はね……エバルー公爵がケム・ザレオンに無理矢理書かせた、自分が主人公の冒険小説なのね」

 

 

ルーシィは日の出を片手にそう4人に説明した。

ルーシィが言うには、構成も文体もひどく、ケム・ザレオンほどの文豪が書いたとは思えなかったという。

 

 

「だから()()があると思ったの。この本はね!」

 

 

しかしその秘密の部分は依頼主の前で話すと言う。

4人は結局ちんぷんかんぷんなまま、依頼主の屋敷に戻ったのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

屋敷に戻ったルーシィはカービィの目の前に、依頼の本を突き出した。

それを見たカービィとその妻は揃って顔を歪めた。

 

 

「こ…これは一体……どういう事ですかな? 私は確か破棄してほしいと依頼したハズです」

 

「破棄するのは簡単です。カービィさんにだってできる」

 

 

そう言われれば、カービィはあからさまに顔に怒りを浮かべ、ルーシィから本をぶんどった。

 

 

「だ…だったら私が焼却します。こんな本…見たくもない!!」

 

「あなたがなぜ、この本の存在が許せないのかわかりました」

 

 

しかしルーシィの放った言葉にカービィを手を止めた。

 

 

「父の誇りを守る為です。あなたは、ケム・ザレオンの息子ですね」

 

「うおっ!!」

 

「パパーー!?」

 

「…驚きなの」

 

「まさか自分の父の本の破棄の依頼とは…」

 

「な…なぜ……それを…」

 

 

ルーシィの確信めいたその言葉に場は驚愕に包まれる。

カービィも図星のようで、小刻みに震えている。

 

 

「この本を読んだ事は?」

 

「いえ…父から聞いただけで読んだ事は…。しかし読むまでもありません。駄作だ。父がそう言っていた………」

 

 

ルーシィの問いにカービィは気まずそうに答えた。

しかし、直後に手に持つ本を恨めしそうに見つめ、駄作だとハッキリ言った。

しかし、いくら駄作だからって燃やすことに疑問と怒りを浮かべる者が二人いた。

 

 

「つまんねえから燃やすってそりゃああんまりじゃねーのか!? お?父ちゃんが書いた本だろ!!」

 

「ナツ……言ったでしょ! 誇りを守る為だって!!」

 

 

ナツは身を乗り出してカービィに詰めよろうとし、ルーシィに抑えられる。

その後ろでレアはカービィを睨んでいた。

二人とも、親に置いていかれてしまった身。

親には人一倍深い思い入れがあった。

自身の親の誇りを守る為とはいえ、その行動は理解出来ないものだった。

だがカービィは臆することなく、ルーシィの言葉に肯定した。

 

 

「ええ…父は"日の出(デイ・ブレイク)"を書いた事を恥じていました」

 

 

その言葉にナツも一旦は落ち着きを取り戻した。

そこからカービィはポツポツと語り出した。

 

31年前、エバルーから釈放されたケム・ザレオンは3年ぶりに帰宅した。

しかし帰ったその男は衰弱しきっており、ふらっとよろめきながら家の中に歩を進めた。

そして次に彼のとった行動は、右腕を縄で縛り、斧を振りかぶった。

作家をやめる、二度と本は書かんと告げ、彼は息子の前でその腕を撥ねた。

右腕を無くした彼は病院に入院する事になった。

やって来た息子を、父は笑って見た。

息子はそんな父を、事情を知らなかったとはいえ、あろう事か言葉で責め立てた。

 

 

「アンタは作家の誇りと一緒に、家族を捨てたんだ!!!」

 

 

そのすぐ後、彼は自殺したのだという。

しかし息子は、そんな父の事を死んだ後も憎んでいた。

 

 

「しかし、年月が経つにつれ、憎しみは後悔へと変わっていった………。私があんな事を言わなければ、父は死ななかったかもしれない…と」

 

 

ナツとレアは黙って聞いた。

ある意味納得したのかもしれない。

カービィは話しながら、ポケットからマッチを取り出した。

 

 

「だからね……せめてもの償いに、父の遺作となったこの駄作を…父の名誉の為、この世から消し去りたいと思ったんです」

 

 

ジッとマッチを擦り、火を灯す。

ゆっくりと火を本に近づけ、カービィも安堵の表情を浮かべている。

 

 

「これで、きっと父も……」

 

「待って!!」

 

 

しかしルーシィが叫んだ。

それに呼応するように、カービィの持つ本がカッと光り出した。

 

 

「え?」

 

「な…何だこれは…!」

 

 

またもや場は驚愕に包まれる。

この事態を予想出来たのはただ一人、ルーシィだった。

 

 

「ケム・ザレオン…いいえ、本名はゼクア・メロン。彼は、この本に魔法をかけました」

 

 

すると、本の表紙にあった文字が浮かびだした。

浮かび上がったDAY BREAKの文字は1文字ずつ表紙に戻っていく。

ただし、綴りを変えながら。

現れた文章、この本の真のタイトルは……。

 

 

DEAR KABY(ディア カービィ)!!?」

 

「そう……彼のかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です。中身も…全てです」

 

 

本は独りでに開き中から無数の文字が浮かび上がった。

その様子はまるで文字が踊っているかのよう。

 

 

「きれー」

 

 

誰かが呟いたそれに、その場にいた全員が共感した。

空中に並ぶ無数の文字は円を描きながら、今までとは全く違う内容を本に綴っていく。

 

 

「彼が作家をやめた理由は……最低な本を書いてしまった事の他に……最高の本を書いてしまった事かもしれません…。カービィさんへの手紙という最高の本を」

 

 

ルーシィの言葉に、カービィは父の、ゼクア・メロンの残した最期の言葉を思い出していた。

 

『いつもおまえの事を想っていたよ』

 

納得した。

あれはその場で取り繕ったその場しのぎの言葉等ではなく、本気で自分自身の事を想っていたということを。

やがて無数の文字は再び本に戻っていき、日の出(デイ・ブレイク)改め、DEAR KABY(親愛なるカービィへ)が彼の手に戻った。

 

 

「これがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

 

ルーシィは最後にそう締めくくった。

カービィは震える手で本を開き、乱雑に中を読んだ。

間もなくして、彼の瞳からは大粒の涙がポロポロ零れていた。

 

 

「私は……父を……理解できてなかったようだ……」

 

「当然です。作家の頭の中が理解できたら、本を読む楽しみがなくなっちゃう」

 

 

カービィの言葉に、ルーシィはニコッと微笑んで答えた。

 

 

「ありがとう。この本は燃やせませんね……」

 

「じゃあ、オレたちも報酬いらねーな」

 

「ん」

 

「だね」

 

「当然かしら」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

カービィが本を抱えながら呟いた言葉にナツが答え、他3人もこうていの意を示すと、カービィとルーシィは揃って素っ頓狂な呟きを零した。

 

 

「依頼は「本の破棄」だ」

 

「達成してないのに報酬は貰えないの」

 

「い……いや……しかし…そういう訳には……」

 

「ええ…」

 

 

ナツとレアは当然だと言うように答えたが、メロン夫婦は揃ってバツの悪そうな表情を見せる。

それに便乗したのがルーシィだった。

 

 

「そ…そうよ…せっかくの好意なんだし…いただいておきましょ」

 

「あーー! ルーシィがめつー! さっきまでけっこういい事言ってたのに全部チャラだ」

 

「それはそれ!!」

 

「今のでリーシャのルーシィへの好感度は地に着いたかしら」

 

 

何とかして報酬の二百万が欲しいルーシィはそう言うもハッピーに正論をぶつけられ逆ギレ。

逆ギレによってフリーシャはあからさまに引いていた。

 

 

「いらねえモンはいらねえよ」

 

 

ナツはかっかっかっと笑いながら扉へ歩を進める。

その後ろであたしほしい〜と泣きながらついて行くルーシィだが、全員見事なまでに無視している。

 

 

「かーえろっ」

 

「メロンも、早く帰ってあげるの。自分の家」

 

 

ナツが手を振りそのまま背を向け、レアはそう一言言ってナツの隣に並んだ。

メロン夫妻は揃って鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を見せ、ルーシィは一瞬レアが何を言ったのかわからず、え?と零したのだった。

 

 

〜〜〜

 

 

「信じらんなーい!! 普通二百万チャラにするかしらー!!」

 

 

帰り道、五人は行きとは違い、歩きでマグノリアに帰っていた。

 

 

「依頼達成してねーのに金もらったら妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだろ」

 

「あい」

 

「全部うまくいったんだからいいじゃないのよぉっ!!!」

 

 

ルーシィは目の前にぶら下げられた大金をみすみす逃すことに憤慨していたが、ナツが当たり前だというように素っ気なく返した。

もう何を言っても無駄だと理解したルーシィはガクッと肩を落とした。

 

 

「はぁー……あの人たちお金持ちじゃなかったのかぁ……」

 

 

と、ルーシィはため息を吐く。

作家の息子のくせにとブツブツ文句を言っていたが、余り詮索はしないでおこう。

彼女の言ったように、彼らメロン夫妻は別に特段お金を持っている訳でもなく、あの屋敷は見栄をはる為に友人から借りたものだったという。

実際の彼らの家はツタが壁や屋根にはったボロボロの一軒家であり、家庭もどちらかといえば貧しい部類に入る家だった。

 

 

「そんな事しなくても依頼引き受けたてあげたのにね」

 

「どうかな?」

 

「引き受けたわよっ!! …………たぶんね」

 

 

頬を膨らませ不貞腐れるルーシィにハッピーは疑いの視線を向け、ルーシィは強烈なツッコミを返す。

……が、自信が無くなって最後にボソッと零した言葉は恐らく誰にも聞こえていない。

 

 

「てゆーか、アンタら何で家……気づいたの? 多分ナツも気づいたんでしょ?」

 

 

ルーシィはふと思った疑問をナツとレアにぶつけてみた。

ルーシィの見た限り、屋敷にはカービィたちが見栄をはるうえでボロが出るような場所は無かったように見えた。

二人は何食わぬ顔でサラッと答えてみせる。

 

 

「メロン達のにおいと家のにおいが違ったの」

 

「普通気づくだろ」

 

「あたしは獣じゃないからっ!!」

 

 

真面目な回答を期待した私がバカだったと言わんばかりにルーシィはツッコミを返した。

滅竜魔導士の鼻は効く。

ある意味妖精の尻尾(フェアリーテイル)内では常識だった。

 

 

「あの小説家…実はスゲェ魔導士だよな」

 

 

突然そんな事を言ったナツだったが、レアが真っ先に反応した。

 

 

「ん。30年も昔の魔法が消えてないなんて相当の魔力なの」

 

「若い頃は魔道士ギルドにいたみたいだからね。そしてそこでの冒険の数々を小説にしたの」

 

 

レアの言葉にルーシィが便乗した。

ルーシィは今頃父の最後の小説を夫婦で読んで腹の底から笑っている光景を思い浮かべる。

 

 

「憧れちゃうなぁ〜〜」

 

 

ふとルーシィが零したその言葉に、ナツとレアが顔を合わせる。

かと思えばナツがにやぁと笑みを浮かべてルーシィを見た。

 

 

「やっぱりなの」

 

 

唐突にレアがそう言うが、いきなりでなんの事か分からないルーシィはん?と零す。

 

 

「前……ルーシィが隠したアレ…」

 

 

ナツが途中までそう言えば、ルーシィは嫌でも理解し、ハッとなる。

ナツは未だ揶揄うような笑みでルーシィに核心ついたように言った。

 

 

「自分で書いた小説だろ」

 

「なるほど、だから本の事に詳しい訳かしら」

 

 

ナツの発言にハッピーもハッとなり、フリーシャも納得したようにそう呟いた。

一方当事者のルーシィはというとかぁーっと顔を赤く染め、次の瞬間には声を荒らげていた。

 

 

「ぜ…絶対他の人には言わないでよ!!」

 

「何で?」

 

「ま…まだヘタクソなの! 読まれたら恥ずかしいでしょ!!」

 

「大丈夫なの。がめついルーシィの小説は誰も読まないの」

 

「それはそれでちょっぴり悲しいわっ!!」

 

レアの辛辣な言葉にルーシィは心に矢でも撃たれたかのように胸を痛め、その後の道中は驚く程静かなのだった。

 

 

「って、がめついのと小説は今関係ないでしょーー!!!」

 

 

……

前言撤回、一度だけレアの言葉に納得出来ず空に向かって叫んだルーシィ。

だが見事なまでのスルーを決め込まれ、今度こそ意気消沈してとぼとぼと二人の後ろを歩くのだった。

余談だが、その後シロツメの街からマグノリアまでの道のりはルーシィに長すぎたらしい。

魔力もエバルー邸にてキャンサーを召喚して魔力量が足らずホロロギウムに頼ることも出来なかった為にその場で座り込んだ。

その結果、途中からレアにおぶられて帰り、また赤っ恥をかいたのは別の話であったりする。




日の出編、そしてプロローグが完となります
次回からいよいよ本編、鉄の森編となります
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