パラサイト・ルーム   作:涼宮田之介

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幕間『久我緋乃の休日』

 

 ぱちり、と目が覚める。

 

 微睡んでいた意識が速やかに覚醒し、新たな一日の始まりを認知。ちょうど枕元で鳴り響いた端末のアラームを止めて、私はやおらベッドから起き上がった。

 

 カーテンを開け、部屋に日光を取り込む。それから洗面台に向かって顔を洗い、しゃこしゃこと歯磨きを済ませる。少し跳ねた髪を軽く梳かして、サイドにヘアゴムでまとめるとクローゼットから着慣れたジャージを取り出しそれに着替えた。そしてタオルを首に掛け、端末をポケットに突っ込み部屋を出る。

 

「ん、おはよ」

「……なんで起きてんだよ」

 

 自室を出た矢先、寝ぼけ眼を擦る隣人と出くわす。しかもジャージ姿で準備も万端だ。

 

「どういう風の吹き回しだ? この時間いっつも寝てんだろ」

「今日は珍しく予定が空いてて暇なのよ。それで、まあ、折角だし? たまには久我に付き合うのも悪くないかなーって」

 

 クラスメイトからの好感度を稼ぐべく多忙な日々を送っている軽井沢の貴重な休日を、こんな面白みのない私のために費やすのは――自分で言ってて悲しくなってくる――なんとも理解に苦しむ話である。

 

 だが、それはそれとして部下の余暇に付き合うのも上司の役割か。

 

「着いてくるのは構わねえが、途中でへばったら置いてくぞ」

「えー。ちょっとは労わりなさいよね」

「気が向いたらな」

 

 素っ気なく言い放ちつつも、どこか嬉しくなっている自分がいた。それに気づかないふりをして私は軽井沢を連れてエレベーターに乗り込む。

 

 それから無人の玄関ロビーを出れば、顔を覗かせた朝日が明るい輝きで世界を照らしていた。鼻腔を抜ける澄んだ空気を肺に取り込み、深呼吸の後に私が先導して朝焼けの敷地を走り始める。暫くして軽井沢が「速い」と文句を連呼し出したので、仕方なくスピードを落とすことになったが。

 

 渋々、軽井沢のペースに合わせて風を切る。誰かと並んで走るのは新鮮で、流れゆく景色も違って見えた。なかなかどうして、悪くない。

 

 しばらく走っていると、軽井沢が目に見えてペースを落とす。額には大粒の汗を滲ませており、しんどそうに息を切らしていた。

 

「ったく……」

 

 こりゃ体力もつけさせないとな、と考えながら、のろのろと走る彼女に再度ペースを調整するのだった。

 

 合間に休憩を挟みつつ、普段の倍近く時間をかけてジョギングを終えた私たちは寮へと戻ってくる。朝っぱらから体力を消耗した軽井沢は息も絶え絶えに自室へ帰っていった。その頼りない背中を見送って、私も部屋に戻る。

 

 シャワーでささっと汗を流し、朝食――市販のパンケーキを三段に重ねてハチミツをドバドバかけマーガリンを添えたもの――に舌鼓を打っていると、前触れもなしにやってきた来訪者が呼び鈴も鳴らさずにずかずかと押し入って来るではないか。

 

「チャイムくらい鳴らせアホ」

「いいでしょ別に。さっきも来たんだし」

 

 侵入者もとい軽井沢は悪びれもせずに言って私物のクッションの上に座った。彼女もシャワーを浴びてきたようで、ふわりとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。格好もジャージから普段着にチェンジ。本人はこだわりのある服装なのだろうが、生憎と私にその手の知識はない。お洒落にはとんと無頓着で、気に入った服は着回すタイプなのだ。尤も、衣類は持ち込んで居ないしクローゼットには制服とジャージしか入っていないのだが。

 

 それにしても、と思う。

 

 元々は殺風景だったこの部屋も、軽井沢が足を運ぶ度に彼女の私物が増え、今ではファンシーなぬいぐるみやらキュートな雑貨のせいでだいぶ女の子らしい部屋に様変わりしている。家主の意向など気にも止めず部屋を改造し続けた結果がこれだ。恐らく、まだ侵食される。

 

「ねえ、それハチミツかけすぎじゃない? お皿ひたひたになってるんだけど。溢すって」

「何言ってんだ。これぐらいがちょうどいいんだよ」

「チョコレートフォンデュじゃないんだから……」

 

 呆れた視線を送りつつも、軽井沢は物欲しそうな表情でパンケーキを見つめている。気にせず、一口サイズに切ったそれをぱく、と口に放り込む。ハチミツの染み込んだ甘く柔らかな生地が口の中で蕩ける。ほら美味い。

 

「……一口ちょうだいよ」

「やなこった」

「ちょっとくらい良いでしょ。ジョギング。付き合ってあげたんだしさ」

「誰も付き合ってくれとは言ってねー。お前が勝手に着いてきたんだろうが」

 

 無視してパンケーキを食べ進めるが、依然としてじっと見られたままでは流石に食いづらい。……まあ、リーダーの勤めも十二分に果たしているし、一口くらいなら分けてやるのもやぶさかではない。

 

「欲しい時はなんて言うんだ?」

「お願いします」

「お利口だ。ほら口開けろ」

「あーん」

 

 言われるがままに口を開ける軽井沢に、内心『こいつにはプライドがないのか』と思いつつパンケーキをひと切れ突っ込む。

 

「甘っ! やっぱ掛け過ぎだって!」

「うっせー。食わせてやったんだから文句言うな」

 

 その後も、不満を垂れながらも勝手に人ん家のフォークを持ってきて許可無く食べ始める軽井沢に怒る気力も失せ、結局二人でパンケーキの残りを消化した。まったく、図々しいにも程がある。

 

「あー、甘かった」

「んなこと言ってばくばく食ってただろうがよ」

「だってお腹減ってたし」

「食ってから来いや」

 

 図々しい。ホントに図々しい。何故かは知らんが私に対してだけはやたらと図々しい。別段怒るほどのことでもないし、軽井沢だから許してはいるがこれが他のよく知りもしない奴であれば有無を言わさずぶん殴っている。

 

「そう言えば久我って自炊しないの? 今にして思えば、全っ然料理してるとこ見たことないし、いっつもコンビニ弁当とかカップ麺じゃん」

「自炊ぃ? しねーよめんどくせえ。そもそも料理とかしたこと……あー、調理実習ん時はやったな。あれぐらいか」

「ってことはあんまり料理できないわけ?」

「悪いかよ。別に料理ができなかろうが生きてく上で困らないだろ」

「そりゃそうだけどさ……でも、この学校って全寮制でしょ? 入学案内のパンフレットにも書いてあったし。あんたのことだから、てっきり入学前に自炊くらい出来るようにしてると思ったんだけどなあ」

「そういうお前はどうなんだよ」

「あたし? あたしはフツーかな。一応、簡単なものなら作れるけど……今度なんか作ってあげよっか?」

「……軽井沢が?」

「他に誰がいるのよ」

 

 暫し逡巡してみる。

 食事に関して困っているというわけではなかったし、食費も潤沢なポイントで賄っているのでやはり問題はない。しかし、他人の手料理には少し興味があった。その手の食事は幼少期以来久しく口にしていないこともあって、私は「まあ軽井沢ならいいか」と承諾の意を示す。

 

「じゃあ、早速今日のお昼ご飯作ってあげるわよ。ってことで食材買いに行きたいから早く着替えなさいよね。どーせ冷蔵庫何もないんでしょ」

 

 中身も確認せずにそう決め付ける軽井沢に反論しようとするが、彼女の言う通り冷蔵庫の中に食材は入ってなどいない。飲み物とデザートが少々だ。

 

「買い物だけならこのままでもよくねーか?」

「ダメに決まってるじゃない。ジャージ姿の奴と隣歩きたくないんだけど」

「んなこと言われてもな……私、制服かジャージしか持ってねーぞ」

「あんたはなんでこう生活力に乏しいのよ……はあ。分かったわよ。とりあえず制服でいいから着替えて。買い物ついでにケヤキモールで良さげな服も見繕ったげる」

「しゃーねえな」

 

 急かすような視線を向けられつつ、私は仕方なくジャージを脱ぎ制服に袖を通した。ジャージよりは少し動き難いが、買い物だけなら支障はないだろう。

 

 折角の休日だというのに慌ただしい朝だな、とそんな風に思いながらも、私は決して悪い気はしていない。むしろ、どこか浮ついてすらいたのだから自分でも驚きである。

 

 それから支度を済ませた私は、軽井沢を連れ立ってモールへ繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「なあ……まだ決まんねーのか?」

「もうちょい待って。今めっちゃ悩んでるから」

 

 生徒御用達の大型ショッピングモール、通称ケヤキモールに到着した私たちがまず足を運んだのはアパレルショップ。しかし入店するや否や、何故かテンション高めの軽井沢に試着室まで連行されてからというもの、彼女が見繕ってきたコーディネートを代わる代わる試着され続ける始末。まるで着せ替え人形のような扱いを受け、然しもの私もげんなりとしつつあった。

 

「ねえねえ、これどっちが似合うと思う?」

 

 両手に新たな衣服を携えて軽井沢が足取り軽やかに戻ってくる。他人の衣装を見繕うのが余程楽しいらしい。

 

「私に聞かれてもな……」

「着るのは久我なんだから意見くらいちょうだい」

「だーかーら、私こういうのわかんねーよ」

「じゃあ一回着てみよっか」

「もう勘弁してくれ……」

 

 服を押し付けられ、試着室のカーテンが閉められる。

 渡されたのは方や大人っぽい落ち着いた色合いのセット。上着とジーンズも一緒に預けられており、これも合わせて着ろとのことだ。

 さらに、方や明るさを強調したポップな雰囲気のセット。渡されたミニスカートもそうだが、全体的にフリルが付いていて幼さが感じられる。これはあれか。優等生モードで着こなせば可愛く見えるとかそういうあれか。

 

 さっさと済ませたい一心で、後者の優等生セットから試着してみる。表情も明るくセッティングしてから私はカーテンを開けた。

 

「どうでしょうか? 似合っていますか?」

「んふっ――う、うん。似合ってんじゃない? 可愛い寄りで普段とギャップがあるし、結構良いと思う」

「何笑ってんだコラ」

 

 堪えた笑いを漏らす軽井沢をひと睨みして、私はぴしゃっとカーテンを閉めた。次はもう片方のセットに着替える。願わくば、このどちらかで着せ替えショーが終わる事を祈るばかり。

 

「ほらよ。こっちはどうだ?」

「んー、悪くはないけど……あ、上着ちょっと脱いでみてよ。肩で着る感じも見てみたい」

 

 言われるがまま、袖に通した上着を脱いで両肩に掛けた。風で飛ばされそうな格好だが、軽井沢の反応は上々だった。

 

「良い感じ良い感じ。ちょー似合ってる」

「んじゃこれで決定でいいか?」

「うーん。折角だし両方買っちゃおっか。じゃあ次ねー」

「…………なんだと?」

 

 思わず、耳を疑う。

 

「まだ、買うのか……?」

「何言ってんのよ。当たり前でしょ? あんた服持ってないんだから、もう2、3着は買っとかないと」

 

 さも当然とばかりに言いのける軽井沢。決めるまでに1時間を要しておきながら、これはほんの序章に過ぎなかったようだ。

 

「ふざけろよ」

 

 私は試着室の中で立ち尽くし、日が暮れるのを覚悟した。

 

 ――結局、ショップを出たのは空がオレンジに染まった夕方頃。あれから多大な時間をかけて追加で3着ほどカゴに入れ、それで終了かと思いきや今度は軽井沢のショッピングが始まり更に時間を食い……今に至る。おかしい。午前中に入店したはずだが……何故か日が暮れている。女子の買い物は長いと聞いたことがあるが、まさかここまでとは。いや、私も一応女子だが。

 

 棒のようになった足を引きずりながら、朝から何も食べていなかったことを思い出し、お気に入りのクレープ屋に立ち寄ってクレープを購入。手近なベンチに腰を下ろして、軽井沢のチョコレートホイップと私のカスタードホイップを時折食べ比べしつつ、のんびりと味わう。

 

 クレープを食べ終えると、当初の目的である食材を買いにモール内のスーパーへ向かった。この時間帯になると休日ということもあってかモールは生徒らで賑わっており、見知った顔が視界に入ることもしばしば。

 

「あっ、軽井沢さんじゃん。やっほー」

 

 ゲームセンターから出てきたその少女はこちらに気が付くと、とたとたと駆け寄ってくる。誰かと思えば佐藤であり、遅れて松下や池、山内も合流。どうやらこのメンバーで遊んでいたようだ。珍しい人選な気もするが、佐藤は男子ともそこそこ交流があると聞いたし、そこまでおかしなことでもないか。

 

「やっほー。皆でゲーセン行ってたの?」

「そそ。テストも終わったし、ぱーっと遊びに行きたいなーって思ってさ」

 

 ね? と佐藤が振り向けば、松下たちもうんうんと頷いてみせた。

 

「そっか。あたしも行ければ良かったんだけど、先約があったから」

 

 そう言って軽井沢は私の脇を小突く。

 もしや、私のために誘いを蹴ったのだろうか? だとすればなんだか少し申し訳ない気持ちも湧いてくる。佐藤であれば仲の良い軽井沢にも声をかけるだろうしな。軽井沢も気兼ねなくショッピングやらゲーセンやらを楽しみたかったに違いない。

 

「へー、先約ってもしかしなくても久我さん? 珍しー」

「皆と親睦を深めるのも良いけど。ま、たまにはね」

「おかげで死ぬほど疲れてるんだが」

「……なんかげっそりしてね?」

 

 気のせいじゃねえよ池。

 

「私らこの後カラオケ行くんだけど、軽井沢さんたちはどうする?」

「ん、誘ってくれるのはありがたいけどまた今度で。あたしたちこれからスーパーで食材買わないとなんだよね」

 

 そう言って誘いを断る軽井沢に、松下が訊ねる。

 

「何か料理でもするの?」

「まあね。久我に晩御飯作ってあげようと思って」

「元々は昼飯の予定だったんだがな」

「うっさい。あんたほど素材が良いとどれも似合うから選ぶのも一苦労なの」

「だからって半日費やすヤツが何処にいんだよ……」

「あはは……」

 

 呆れ果てる私を見て佐藤たちは乾いた笑いを上げた。さてはこいつら知ってやがったな。やはり次からは生贄を用意するべきか……。

 

 それから少し立ち話をして佐藤らと別れ、目的地であるスーパーへ。

 

「食べたいものとかある?」

「激辛料理ならなんでも」

「あんたに合わせたらあたしが食べられないでしょうが。とりあえず、肉じゃがで良い?」

「仕方ねえな」

 

 作って貰う以上、あまり強くは言えず渋々同意した。

 カートを押す軽井沢の後を着いて行き、ぽんぽんと食材をカゴに入れていく様を眺める。

 

「アレルギーとか大丈夫?」

「ねえよ」

「ん」

 

 店内を回り必要な食材を揃えていく。その際、気づかれないようにカゴの中へお菓子を投入。新作のグミが出ていたので衝動に駆られてしまった。

 

「……子供じゃないんだから」

 

 目敏く気づき溜め息を吐く軽井沢に、私は反論が浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

「久我ー、お皿どこー?」

「上の棚だ」

「さんきゅー」

 

 買い物を終えてやっとこさ寮に帰ってきた私たち。ひとまず、軽井沢に調理を任せ私はベッドに横になって動画を観ていた。台所からは食欲をそそる匂いが漂ってきて、それが空腹に作用し大きくぐぅと音を鳴らす。

 

「ほら、出来たからあんたも並べるの手伝って」

「はいよ」

 

 夕飯が盛り付けられた皿をテーブルに置き、炊飯器から炊き上がった米を茶碗によそって持ってくる。炊飯器などこのまま使わずじまいかと思ったがそんなことはなかったらしい。他の調理器具も同様で、まさか家主より先に使われるとは思わなんだ。

 

「いただきます」

「……こういうとこはちゃんとしてるのよねえ……」

 

 意外そうな目で見てくる軽井沢はさておき、主役の肉じゃがに箸を伸ばす。一応、他にもサラダや焼き魚もあるが、まあまずは主役からだろう。一口頬張って、もぐもぐと咀嚼する。

 

「ん……美味い」

「ほんと? ならよかった」

 

 軽井沢もそう言って柔らかく微笑むと、安心したように箸を進めた。正直、偏食を続けていたものだから味覚がぶっ壊れてやしないか不安な部分はあったが、どうやら杞憂だったようだ。じゃがいももしっかりと味が染み込んでいるし、なにより味付けも私好みなのが大きい。

 

 それに、久方振りの手料理ということもあってやたらと美味しく感じられる。

 

「あ、あのさ。その、久我さえ良ければなんだけど……これからもご飯作りに来て良い?」

 

 有意義な夕食を楽しんでいると、ふと軽井沢が遠慮がちに訊ねてくる。意外な提案に私も思わず箸を止めて首を傾げた。

 

「急にどうした」

「いや、なんていうか……そんなに美味しそうに食べてるの見てたら、作ってあげたくなるでしょ」

「……そんなにか?」

「そりゃあ、もう。頬ゆるっゆるよ」

 

 自覚は無かったが、彼女はそういうのならそうなんだろう。実際、口に合っていて美味しいのだからこうもなる。

 

「久我ってさ、結構顔に出るタイプよね」

「らしいな」

「それで、どうなの? あたしとしては別にどっちでもいいけど……」

「……作りたいんだろ。私も別に、嫌じゃねえし」

 

 気恥ずかしくなってご飯を掻き込むそんな私を見て、軽井沢はくすくすと笑う。

 

「素直じゃないんだから」

「ふん……」

 

 図星を突かれた私は無意識に食べ進める手を早める。それを楽しげに眺める軽井沢の目は、我が子を見守るような慈愛に満ちた温かい目をしていた。

 

 その後、団欒とした夕食を終え、皿洗いを済ませてもなお彼女は部屋でくつろいだまま。咎める気もなかったので、趣味になりつつあるポーカーを軽井沢を交えて楽しむことに。イカサマ無しのルールを口酸っぱく提案してくるので、仕方なく小細工を封印して真っ当に勝負する。

 

 結局私が勝ち越して、納得のいかない軽井沢が再戦を挑み、それを返り討ちにしたところで良い時間になったので解散の流れになる。

 最後まで腑に落ちない様子の軽井沢だったが、私が誓ってイカサマはしていないと言えば一応納得はしたらしく「また明日ね」と小さく手を振って部屋に戻っていった。

 

 軽井沢が帰ると、途端に静けさがやって来る。

 壁を一枚隔てた先に彼女が居るとわかっていても、どこか落ち着かなかった。それが一抹の寂しさだと知っていながら、私は気づかないふりをしてシャワーを浴びる。芽生えた孤独感に蓋をするようにして、そそくさとバスルームを出た。

 

「また明日、か」

 

 髪も乾ききっていないまま、ベッドに寝転び彼女の言葉を呟く。

 

 他愛もない約束を反芻しているうちに、私の意識は深く深く沈んでいった。

 

 ――こんな日も、悪くない。

 

 意識が落ち行く直前、そんな風に感慨に耽けながら心地良い微睡みに身を任せたのだった。




こんな感じで一区切り毎に幕間を挟むスタイルでいこうと思います。

さてさて、次回から原作で言うところの2巻に突入するわけですが、先にある程度ストックを作ってから投稿を再開していこうかと。

少し期間が空いてしまうかもしれませんが、気長に待っていただけると嬉しいです。
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