pixivより転載
薄暗い街灯の下、金属の冊に寄りかかる。それからは秋の冷たさが伝わった。半田は私服でそこにいた。息が白くないのが不思議だな、と半田は思う。ダンピールとしても強靭な体はこれぐらいで風邪などひかないが。
ぼんやりと夜空を見上げていた半田は、不意にポケットを探る。探り当てたそれらは、とある銘柄の煙草と100円ライターだった。慣れない手つきでそれを開き――不意に動きを止める。
「あーあ、かびちゃってたでしょう」
「――サギョウ」
声をかけられて、振り返る。常になく動きが鈍かったな、とやって来たサギョウは思う。彼は制服姿だった。
当然だろう。
今日は彼が愛した人の死んだ日。それも、ここは彼の骨壺が収まっている墓がある墓地だ。
「どうしてここに」
「アンタの姿が見えないことに、騒ぐ連中は少なくないんですよ。……どうせここだろうと思いました」
そう言って、サギョウはポケットからそれを取り出す。
同じ銘柄の煙草だった。100円ライターまで一緒だ。手慣れた手つきで1本口につけた彼は、半田に煙草を差し出す。戸惑う半田に、サギョウは笑った。薄暗がりでもわかる、穏やかな笑みだった。
「アンタがロナルドさんが昔喫ってたって言う煙草を持ち歩いてたのは知ってましたよ。でも、アンタ煙草喫い慣れてないでしょ」
「こんな健康に悪いもの、体が資本の吸対で喫えるわけがないだろ」
「でも、1年に1回は喫ってる。……目撃情報がありましたよ。夜の墓場で煙草を1本だけ喫ってる男がいるって」
「……」
「……アンタは」
黙り込む半田に、煙草を突きつけたままサギョウは言う。
「不健康に煙草を喫ってた頃のロナルドさんを知っていた。俺が知っているのは、ドラルクさんに会ってから健康になって煙草を喫わなくなったロナルドさんだ」
「……」
「アンタにとっては想い出のよすがだ。それを止めようとは思いません。ただ」
サギョウは言った。
「煙草が勿体ないですから。普段は俺が同じ銘柄の煙草を喫っておいてあげますよ。アンタが喫いたいのは1年に1度のこの日だけでしょう」
「サギョウ」
「だから」
名を呼んできた半田に、サギョウは微笑んだ。悲しみを湛えた微笑だった。
「こんなところで、ひとりきりにならないでください。あんたは、誰かと一緒にいる方がいい」
――本当は、サギョウはわかっていた。
吸血鬼との戦いで死したロナルドへの想いを引き摺ったままの半田には、想い出に浸らせる日が必要だ。それが彼の、彼なりの喪へのプロセスだと。
それでもサギョウは嫌だったのだ。
誰よりも愛しい彼が、もう亡い人間を想い続けて一生を潰そうとしている。それが、許せなかった。
そんな彼の気持ちを汲み取ってか――やっとサギョウの煙草から1本抜き取った半田は、慣れない手つきで煙草に火を点ける。そして煙を燻らせた。
宵闇の中、白い息を吐き出す。それはまるで線香だった。
了