誤解じゃなくて、本当にそうなりたい。
でも後一歩、が届かない。
だから今は、裏側に隠しておこう。
――ハッキリと否定しなくても、良かったのかもしれない。たった一日でやたら広まってしまった噂話に困りながらも、ふと思ってしまう。
もしかしたら唇が当たったかもしれない、みたいに含みを残して。
囃し立てる声に乗って、少しだけ顔を赤らめてみたりして。
周りのみんなを
もしかしたら、真実に出来たのかも知れないな。外堀を埋めて既成事実化し、なし崩しにクラス公認のカップルになってしまえば。私は、――大喜を手に入れられる。
……でも、なあ。それは大喜の気持ちを踏みにじる行為だ。
だって大喜は千夏先輩が好きで、そして私のことも
それに千夏先輩を大喜から遠ざけるだけなら、決して難しくない。ただ噂を流せば良い、「二人が一緒に住んでいるらしい」と。無責任に尾鰭背鰭に胸鰭までつけて話は広がり、二人の関係は破綻する。絶対にしないし、したくもないけど。
千夏先輩が嫌いな訳じゃないし、そもそも千夏先輩と大喜が――そういう仲になっているとは思えない。「好意的」と「好き」は似てるけど別物だ、大喜と先輩は仲が良いけど付き合ってはいない。私と大喜がそうであるように、ただ仲が良いだけ。
私はそこから一歩踏み込みたいのに、うまくいかないのがもどかしい。
私が大喜を意識しだしたのは中一の夏、でもそれが少しずつ変化し始めたのはその一年くらい後だ。大喜は朝練で早くから学校に来るようになり、毎日部活を頑張り始めていた。そしてその大きな理由は私じゃなくて、千夏先輩。千夏先輩を好きになって、大喜は変わったんだ。
もし千夏先輩がいなかったら、大喜と私の関係はどうなっていただろう。
遮るものはないかもしれない、でもそこまで好きになっていないかもしれない。私が好きな大喜は、千夏先輩を好きな大喜。私を好きになってくれない、にぶちんの大喜なんだ。
だからこそ、誤解解いておきたいんだけどな。
今も同じ体育館で練習してるけど、そういう話をするようなタイミングになれない。大喜もいる所でわざわざ言うのもなんかなぁ、こないだ「告白したんです」なんて言っちゃって気まずかったし。
まあ、良いや。とりあえず、噂が鎮まるまでは迂闊に動かない方が良いんだろうし。
千夏先輩は、いつ頃大喜の家に戻るんだろう。一ヶ月くらいと言っていたし、そろそろかな。
きっと大喜はまた学校でも嬉しそうな顔するんだろうな、全くさ。人の気持ちも知らないで、能天気なバカなんだから。
この一ヶ月色々と起こったけど、結果的には大した進展は無かった。
なんかなあ、上手くいかないや。
結局問題は、千夏先輩の立ち位置だと思う。大喜がどうやったって、元から千夏先輩にそういう気持ちがなければ話は動かない。千夏先輩が私の味方になってくれれば心強いけど、そんなのを頼める筋合いじゃないかも。
だけどあの人好い人だし、なんとかそういう方向に持っていけないかな。でも私初対面で「彼氏とかいるんですか」とか聞いちゃってるし、ちょっとその辺が不安だ。空気読めない後輩、って思われてるかも。
それにもしも、千夏先輩が大喜を――……。
「うー……。やめやめ、考えない考えない」
頭に浮かんだ宜しくない想像を振り払い、私はベッドに潜り込む。
千夏先輩の考えなんか、分かるわけない。それにあの人とバチバチやらかすなんて、そんなの冗談でも願い下げだ。
今私がするべき事は、正々堂々自分を磨くこと。大喜の矢印が、少しでも私に向くように。
道は険しいけれど、進むしかない。私は無敵の、蝶野雛なんだから。