Relief song of midnight/宵と明星 作:野良ノルス
今回は、本編開始よりちょっと前の奏真のお話です。
皆様、お待たせしました。生まれ変わった「宵と明星の二重奏」をお楽しみ下さい。
0時、セカイを知って。
昔から、俺の周りでは不幸な事がよく起きていた。
それには、いつも俺と親しく関わった人間が巻き込まれていた。
幸い、命に関わる様な事は無かった。
だが、巻き込まれた者達は、口を揃えて、俺の事を厄病神だと蔑み、突き放した。
勿論、そう言わずに関わり続けてくれた親友もいる。
それでも、自分のせいで、親しく関わった人達が不幸な目に遭っている。
まだ幼かった俺は、そう思うしか無かった。
そうして、人との関わりを拒み、消えたいと塞ぎ込んだ俺を、
一人の幼馴染の曲が、救ってくれた。
俺のために作った物なんだと、恥ずかしそうにそう言って聴かせてくれた曲。
彼女の父親の曲によく似た、優しく包む様なメロディーに
俺の心の傷は、確かに癒えていき、消えたいと思うことは無くなった。
それから少し経って、俺を救ってくれたあの曲の様な曲を作りたくて、作曲を始めた。
その幼馴染は、寝るのも忘れて曲を作る俺を心配しながらも、出来上がった曲を「素敵な曲だね。」と褒めてくれた。
・・・・・・そこから先は、残念ながら覚えていない。
彼女の顔も、名前も、俺を救ってくれたメロディーすらも、全く思い出せない。
だが一つ言えるのであれば、
あれから時は経ち、作曲家となって23歳を迎えた今。
俺は、自分の曲で人を殺した。
事を知ったのはつい昨日。ニュースを見て、俺は唖然とした。
『少女が自殺、原因は動画サイトの楽曲』
都内某所にて、女子高生の死体が発見されたらしい。そして、捜査の結果自殺と断定された。
自殺か他殺かの区別がついた警察が次に行ったのは、自殺の原因。
どうやらその女子高生はいじめを受けていたらしく、自殺しようにもする勇気が無かった。
だが、そんな時に聴いた一つの曲が、自殺する決意をさせた。・・・・・と、その女子高生の遺書に書いてあったそうだ。
それが俺の作った曲だったなんて、笑えもしないだろう。
「俺には、お前みたいに誰かを救う事は出来ねぇみたいだぜ?なぁ、奏。」
零した呟きに、ふと懐かしい名前が聞こえた気がした。
何度も、何度も呼んだ、懐かしい名前。
誰の名前だったかはもう覚えていない、その名前。
「・・・・・外、歩くか。」
白紙の写真立ての隣に並ぶ時計を見れば、今は深夜25:00。夜とは言え夏なので暑い。数分で着替えを終え玄関に出た俺は、スニーカーを履いて街へと繰り出した。
目的も無くただ歩く事数分、通りがかった横断歩道の真ん中に、少女が立っていた。
こんな夜中に、何をしているのかと疑問を抱く。すると、向かいの歩道から女性の声が聞こえた。
「やめなさい!そんな事したって、お母さんは喜ばないわよ!」
少女の眼前には、トラックが迫っている。今もちらちらと雨が降っており、道路はまだ濡れていて滑るだろう。少女とトラックの距離は10mを切っているから、急ブレーキをかけたとしてもきっと間に合わないだろう。
女性の言葉に、少女は言葉を返す。
「お姉ちゃん、私ね、疲れたんだ。」
「先に行っちゃうけど、許してね。」
「・・・・・ごめんね、お母さん。」
少女の声を聞いた俺の胸に、えも言われぬ感情が湧きあがった。
罪の意識、と言うのが最も正しい表現なのであろうその感情は、全身に広がって、通り過ぎようとした俺の足を固めた。
その言葉を、俺は昔聞いた。
名前はまだ思い出せないけど、俺の大事な人が、昔こんな風に死んでいくのを・・・・・
俺は、確かに見た。
『奏真、ちょっと疲れちゃったんだ。わたしには・・・・・・・・もう、作り続けられないよ。』
『一人にしちゃうけど、許してね。』
『・・・・・ごめんね、奏真。』
風にたなびく長い銀髪、澄み切った青空の様な瞳、紡がれる鈴の音の様な声、同年代と比べると少し小さい背丈、そして・・・・・
それを無慈悲に吹き飛ばした、一台のトラック。
その情景と眼前の光景が重なって、俺の足は自然と動き出した。
あんな惨めな思いを、誰かにさせてたまるものか。
大切な人を守れず、ただ見る事しか出来なかった無力感を。
あんな想いをするのは、俺だけで十分だろう。
ガードレールを足場に飛ぶと、俺は少女を突き飛ばした。
「「え・・・・・・!?」」
少女とその姉であろう女性が驚きの声を上げる。
トラックが急ブレーキをかける音とほぼ同時に、重い衝撃が体中を走り・・・・・・
俺の意識は、体と共に吹き飛んだ。
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「ん・・・・・・。ここは、何処だ?・・・・・・あぁ。」
目を覚ました俺は、まず真っ白な天井に違和感を覚えた。
少し遅れて、俺がトラックに轢かれた事を思い出す。
体は・・・・・・動く。
どうやら無事だったらしい。あれで無事だったのはほぼ奇跡だ。
どれだけ経ったかはわからないが、怪我が完治している所を見ると、相当時間が経っているのだろう。
「起きて、周りに喜んでくれる奴もいねぇなんて、俺史上最高に寂しい目覚めだぜ。全くよ。」
起き上がり横を見ると、誰も座っていない椅子。
花瓶などが置いてある棚の上には、白紙の写真立て・・・・・・
「・・・・・・ん?今何か見えて・・・・・・。」
今一瞬だけ、いつも何故かある白紙の写真立てに景色が映った気がした。
鮮やかな群青色の空の下で、学校の制服の様な黒い服を着た少女四人と少年一人が楽しそうに笑っている景色が。
手に取り目を凝らすと、錯覚だったのかと思う程真っ白に戻っている。
「・・・・・・気のせい、か。」
棚の上に写真立てを戻すと、同じ棚に乗せられていた着替えが目に留まる。
誰かが看病してくれていたのだろうか。
ベッドから降り、着替え用のの服に袖を通す。
首を軽く鳴らして、病室の扉を開けた。
流石に正式な退院手続きとかはした方が良いか。
つい昨日までぶっ倒れてた(はずの)奴が急に病院からいなくなったら、きっと大変だろうし。
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目覚めてから数日経った9月30日。
退院した俺はすっかり夏の気配が消えた空を見上げて、秋の初めの空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ふう。今年の夏は病院暮らしでエンドかよ・・・・・。」
がっかりする気持ちを吐き出して、俺は家へと向かった。
帰宅した俺は、約2ヶ月ぶりにくる自分の家に、懐かしさを感じていた。
棒立ちすることたっぷり10秒。やっと動き出し、一つ思い出す。
「そういや、こないだ海斗がゲームの配信日だとか言ってたっけ。」
歌坂海斗は俺の親友で、昔からバンドやったりアイドルやったりしてる爽やかイケメン野郎。
俺のせいで不幸な目にあっても離れなかった、大切な友人だ。
そんな海斗が、この前会った時に
『今月末にボカロの音ゲーが出るんだけど、良かったら一緒にやらない?』
と言っていた。
どんな感じか興味はあるし、どうせスマホも空き容量が滅茶苦茶余ってるし、ちょっと遊んでみよう。
「確か名前は・・・・『プロジェクトセカイ』、だっけ?」
インストールが完了し、アプリを開く。
名前入力画面に入り、俺は少し考えた。
RPG等と違って、音ゲーの名前は決めるのに苦労する物だ。
しかし、今日は案外すんなり頭に名前が浮かんだ。
「"Sei"・・・・・・かな。」
名前を入力して決定すると、ロード画面に入る。
どんなキャラがいるのかわからないので、出てくるキャラの名前を軽く読んでみる。
しかし、なぜかその名前には聞き覚えがある物が多い。
そして、最後のグループの名前と、そのグループメンバー1人の名前を見た時、深い懐かしさと鋭い痛みが、俺の胸を満たした。
「『25時、ナイトコードで。』・・・・・・宵崎、奏?」
頭の中の空白に、最後の1ピースがパチリと嵌まる音が聞こえた。
次回は前回のプロローグをリメイクしたものです。
まだこれの投稿頻度を決めてないので、アンケ取ります。
君の夜をくれ神曲すぎだろ。鬼リピするぞ。
次回「1時、宵との再会。」