Relief song of midnight/宵と明星 作:野良ノルス
ショート奏を引けてないのだが。(ガチャ最終日)
そして、今日は奏バースデーなのだが?
多分明日の25時にバースデー番外編出すであります。
side奏
救急車に揺られながら、わたしは考えていた。
お父さんは、何故倒れてしまったのか。
隣では、奏真も難しい顔で何かを考えているようだった。
学校には遅刻すると言ってあるが、急ぎだった為、理由は詳しく説明出来ていない。
「奏真、ごめんね。付き合わせちゃって。」
「いや、大丈夫だ。テストなんざ、後からでも出来るしな。それに・・・・・・いや、やっぱなんでもねぇ。」
最後に奏真がなにか言いかけたが、すぐにかぶりを振った。
その時、少し下がった制服の袖から見えた左腕にあった、一つでは無い切り傷の跡は、見間違い・・・・・・のはずだ。
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病院に着いたわたし達は、お父さんの検査が終わるのをしばらく待った。
検査が終わり、医師の口から紡がれた言葉は、想像していた物よりも、ずっと深刻な事だった。
「お父さんは今、脳に強い負担がかかって、記憶が混濁している状態です。」
「幸い、脳や体そのものに異常はありません。心因性のストレスから来るものなので、休養をとれば数日で治る人もいます。ただ・・・・・・。」
医師がその先を言うのを躊躇う様に口をつぐんだので、わたしは無意識に声を震わせて、質問した。
「・・・・・・治らない人も、いるんですか?」
医師は重く頷き、言葉を続けた。
「・・・・・・はい。日常生活に問題はありませんが、記憶が混濁したまま戻らない場合もあります。」
「ぁ・・・・・・。」
医師のその言葉に、わたしはただ俯くだけだった。
そうするしか、出来なかった。
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病院を出た後、奏真は事情を説明するべく学校へ向かったので、わたしは一人家へと帰ってきた。
お父さんが入院する事になり、わたしはどうすれば良いのか分からなかった。
「どうすれば良いんだろう・・・・・・。」
声に出しても、答えは見つからない。
リビングを少しうろうろした後、取り敢えずお父さんの部屋を片付けて、必要そうなものをまとめておこうと思い立ち、わたしはお父さんの部屋へと向かった。
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お父さんの部屋を少し片付け、着替えなどを粗方まとめたあと、作曲用の機材の上にあるオルゴールを久々に聞こうと手に取った。
ゼンマイを捻ろうとした時、視界の端に映るお父さんのデスクの上にある物が目に留まった。
「・・・・・・?これ、お父さんの日記?」
オルゴールを元の場所に戻し、閉じて置かれたそれを開くと、丁寧な文字がびっしりと詰まっていた。
「・・・・・・・・・・・・。」
『7日。クライアントに古臭い音と言われたのはこたえた。だが、いつまでも自分の型にこだわっていてはいけない。』
「仕事のメモみたいに使ってたのかな・・・・・・。」
『23日。パソコンでの作業にもやっと慣れてきた。だがまだ機能を使いこなせていない。もっと勉強しなければ。』
少し読み進めれば、内容はcm曲のコンペに応募する曲を書いている時の話へと変わっていった。
『14日。詰まっていたところを、奏がアレンジしてくれた。正直・・・・・・驚いた。奏は天才かもしれない。』
ページを更に捲ると、コンペに通った時の話が書いてあった。
『30日。コンペに通った。だが、素直に喜ぶ事ができない。』
「・・・・・・え?」
しかし、そこに書いてあったのは、喜びの言葉ではなかった。
『評価されたのは、奏が作ったフレーズだけだった。あれは奏の曲だ。自分の曲とは言えない。』
『22日。cmが流れるようになってから、依頼が増えた。だがクライアントの全員が、あのcmのような曲をと言ってくる。無理だと言ってもずっと。』
「あ・・・・・・。」
思い出すのは、cmが流れ始めてすぐのこと。
『だから無理だと言っているだろう!』
普段温厚なお父さんが、電話に向けて声を荒げていた。
思えば、あの時から様子がおかしかった。
『連中は、僕が作る曲を、古臭いと笑う。あのCMでは洗練されていたのに、と。一体、何が足りないんだ。』
気が付けば、一番新しい日付─────、昨日の事が書かれたページまで進んでいた。
『8日、奏に、曲をプレゼントされた。』
それは、わたしが贈った曲の話だった。
「あ・・・・・・あ・・・・・・。」
『やっとわかった。自分の曲に何が足りないのか。どうして僕の音は古いと笑われるのか。』
『僕の作っているものは所詮、過去聞いた曲の模倣にすぎない。』
『だが、奏の曲は違う。今を生きる人々の心に、触れる事が出来る曲だ。
理屈ではなくそう感じる。そして僕には、そんな真似は出来ない。』
ようやく理解した、昨夜のお父さんの表情の意味を。何に絶望していたのかを。
『だがそれでも作らなくてはならない。生活のために、そして奏の為に。金になる音楽を作らなくてはならない。」
『だがそれは果たして、僕の望む、誰かを幸せにする音楽なのだろうか?
・・・・・・奏であれば、そんな音楽を作れるのだろうか?僕ではなく、奏であれば────』
そこで途切れた文字を見つめながら、わたしは呆然と呟いた。
「・・・・・・・・・・・・お父・・・・・・さん・・・・・・?」
つまる所、わたしなのだ。わたしが無知なばっかりに、お父さんを苦しめてしまった。
「違う・・・・・・そんな、つもりじゃ・・・・・・!っ・・・でも・・・・・・わたし、が・・・・・・!」
わたしの曲が────わたしの才能が、お父さんを絶望させていたのだ。
そうしてわたしは、自分が犯した一つの罪を知った。
「・・・・・・っ!!」
力の抜けた手から滑り落ちた日記には目もくれず、目の前にあったスクリーンを手に取り、力任せに床に叩きつける。
「いらないっ!!こんな、こんなの・・・・・・っ!!」
いっそ、曲なんて作れなければ、お父さんの未来を奪うこともなかったのに。
少しして、部屋の床に散乱した機械類を見下ろしたわたしはその場に座り込み、膝を抱えて嗚咽を漏らした。
「ごめんなさい・・・・・・お父さん、ごめんなさい・・・・・・っ。」
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何分経っただろうか。誰もいない部屋に、ぽつりと呟いた。
「もう・・・・・・消えたいな・・・・・・。」
もう、お腹もへらない。
このまま何も食べずにいたら、消えれるだろうか。もし消えてしまえば、奏真はどう思うだろうか。
悲しむだろうか。それとも、怒るだろうか。
そんな思考を巡らせたわたしの目に、お母さんのオルゴールが映った。
「・・・・・・あ、お母さんのオルゴール・・・・・・床に落ちちゃってる・・・・・・。」
床に落ちたそれを拾い上げ、ゼンマイを捻る。
「お父さんの曲・・・・・・。」
わたしが奪った、お父さんの音楽。
オルゴールから奏でられるそれに、しばし耳を傾けた。
「優しいメロディ・・・・・・。お母さんも、わたしも・・・・・・大好きだった、お父さんの・・・・・・。」
つぶやくと、脳裏に昨夜の言葉が蘇った。
『奏はこれからも、奏の音楽を作り続けるんだよ。』
そうだ、わたしはつくらなきゃいけない。
誰かを幸せにする曲を。
どんな人でも、救える曲を。
そうして、わたしの心に生まれたその
一刻も早く作らなくちゃ。呆けている時間なんて、わたしには無い。
そう思い、オルゴールを手に持ったまま動こうとした時、閉じ切っていなかった部屋の扉がゆっくり開けられ、
「・・・・・・奏。」
奏真の声が、聞こえた。
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side奏真
嫌な予感がして、急いで帰ってきた俺の目に映ったのは、座り込んで虚な目を手の中のオルゴールへと向けた奏だった。
「・・・・・・奏。」
呼びかけると、奏は光のない瞳をこちらへと向けた。
「奏真・・・・・・おかえり。」
そう言うと、奏は薄く微笑んで、言葉を続けた。
「わたしね、お父さんに言われたんだ。わたしはわたしの音楽を作り続けるんだよって。だから・・・・・・つくらなくちゃ。」
最後の一言を呪詛のように呟きながら、奏はゆらりと立ち上がると、覚束ない足取りでこちらへと向かってきた。
俯きながら歩いていたので、俺の胸に頭がぶつかった。
「どいて、奏真。わたしは、作らなくちゃいけないの。」
少し強い口調で放たれた言葉に、俺も少し言葉を強くして答えた。
「断る。・・・・・・俺は、音楽を楽しめない今の奏に、曲を作ってほしくない。」
俺の言葉に、奏は少し言葉を詰めたが、すぐに俺を見上げて言葉を紡いだ。
その時の奏の瞳には、確かで、しかし歪んだ光が宿っていた。
「わたしの曲が、誰かを幸せに出来る曲じゃなかったから、お父さんはああなった。だから、わたしは作り続けなくちゃいけないの。・・・・・・どんな人でも、救える曲を。
その為に、捨てなきゃいけないの。わたしの
その言葉を聞いた時の俺は、どんな顔をしていたのだろうか。
耐えきれなかった。自分の大切な人が、そう思う事に。
言葉を返すよりも先に、俺は奏を強く抱きしめた。
驚いた様に目を見開く奏に、強く語りかける。
「誰かの為だけに・・・・・・そんな事、言うなよ。お前が今を捨てたって、誰一人、喜びやしないんだぜ?」
奏は何も言わず、ただ黙っていた。続きの言葉を待つ様に。
「俺さ、人には二つの権利があると思うんだよ。・・・・・・一つは、当たり前に生きる権利だ。お偉い様が言うとこの人権って奴かな。でも悲しい事に、その権利を使えない人達が、この世界にはまだ沢山いる。」
「・・・・・・もう一つは?」
奏の問いに、俺は確たる言葉を返した。
「もう一つは・・・・・・悲しい時、辛い時に、涙を流す権利だ。自分の大切なものが奪われた時とか、心に傷を負った時に、思いっきり泣いて、辛いことを吐き出す、そう言う権利。」
俺の言葉に、奏は納得できない様に言葉を発した。
「わたしに、泣く権利なんてな・・・・・・」
「ある!!」
否定しようとする奏の言葉を、全力で否定し返す。
「誰にだって、権利はある!!たとえそれが、何百人も殺した殺人鬼でも、弱者を虐げるクズ野郎でもだ!!・・・・・・もちろん、俺にだって、お前にだって、それはある。
・・・・・・でも、権利を使うか使わないかはそいつ次第だ。目一杯使おうが、受け取るそばからかなぐり捨てようが、決めるのはそいつ自身。周りの奴に、その決断を変える権利は無い。
だから・・・・・・さっきと矛盾するけど、お前が誰かの為に曲を作りたいって言うんなら、俺は全力でお前に協力するし応援する。
けど、敢えて言うなら・・・・・・当たり前ってのは・・・・・・意外と捨てたもんじゃねぇぜ?」
俺がそう言うと、奏はぎこちなく俺の背に手を回して、涙ぐんだ声で問うた。
「良いの・・・・・・?わたしは、お父さんを苦しめたのに・・・・・・普通に生きても、良いの?・・・・・・泣いても、良いの?」
「良いに決まってんだろ。・・・・・・お前がそうしたいのなら、だけどな・・・って、うわ!」
俺が言い切るより先に、奏は俺を強く抱きしめ、泣いた。
どめどなく涙を流して、声を出して泣いていた。
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奏がひとしきり泣いた後、俺たちは扉の横の壁に背を預けていた。
しばらくして、意味もなく天井を眺めていた俺に、奏が口を開いた。
「ねぇ、奏真。」
「ん?どうした、奏。」
声の方向へ顔を向けると、奏も俺の方を向いて、いつもの明るさが少しだけ戻った声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「・・・・・・わたしに、普通に生きてて良いって言ってくれて、ありがとう。」
そう言って少し微笑んだが、すぐに暗い表情へと変えて、言葉を続けた。
「・・・・・・でも、わたしがお父さんを苦しめてたのは本当の事だし、わたしは自分をまだ許せないんだ。だから、誰かを救う曲を作り続けなきゃいけないって言う考えは、変えれない。・・・・・・ごめん。」
「・・・・・・まぁ、お前の決断だ。俺は止めねぇよ。」
俺の答えに、奏は表情を更に暗くしたが、
すぐに、確かな希望を宿した瞳で俺を見据えて、最後の言葉を付け足した。
「・・・・・・だけどね、ちゃんと学校にも行って、ご飯も食べて、よく寝て。その上で、作ろうと思うんだ。」
「・・・・・・そっか。なら俺は、奏が自分を許せるようになるまで、目一杯手伝わせて貰うぜ。・・・・・・良いだろ?」
俺のその問いに奏は微笑んで頷いた。
「うん・・・・・・。そうま・・・・・・あり、がとう・・・・・・・・・・・・すぅ・・・・・・。」
が、やがて首をこくこくさせ始めると、俺の肩に頭を預けて、可愛らしい寝息を立て始めた。
「疲れたんだろうな。晩飯の時間には起こさねぇと。」
涙の跡を頬に残し、穏やかに眠る奏の頭を優しく撫でると、彼女の部屋へと運び、ゆっくり布団に寝かせる。
「おやすみ、奏。」
眠る奏にそう囁き、俺は部屋を後にした。
「当たり前ってのは捨てたもんじゃねぇ・・・・・・か。我ながらよく言うぜ。そう言ってる僕がとっくに、その当たり前を捨ててるくせに。」
部屋を出る時に言ったその言葉の意味は、自分でもよくわからなかった。
安定の亀更新(定期)ですいませんでした。
割と長くなってしもうた。
出来る限り無理ない様纏めましたが、ここちょっと違うんじゃない?みたいな部分有ればお願いします。
次回は奏真くんの過去についてです。
次回、「5時、冥き喪失の残滓。」