Relief song of midnight/宵と明星 作:野良ノルス
昔、誰かと見た星空が好きだった。
広くて綺麗で、見てると悩んでる事が吹き飛ぶから。
でももう、隣で見ていた誰かの名前も、夜を彩っていた星の輝きも、覚えていない。
眠れない夜、優しくて温かな腕の中で、眠りに落ちるのが、好きだった。
穏やかに眠れて、心地よく目覚めれたから。
でも、抱きしめてくれた腕の温かさも、覚えていない。
陽だまりの中、誰かと一緒に弾くピアノが好きだった。
心が自由になる気がして、ピアノとつながってる感じがしたから。
でも、弾いた時に感じた自由な気分も、覚えていない。
それどころか、
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「ん・・・・・・。また、この夢か。」
目を開けると、俺は人混みの中にいた。
最近、ずっとこの夢を見る。
『諡謎ココ、誕生日楽しみ?』
『うん!奏もお祝いしてくれるって言ってたし!』
女性の声と、幼い少年の声がして、俺は声のする方へと歩いた。
赤い長髪をしたロングコートの女性と手を繋いでいるのは、俺と良く似た青髪の少年。
幼い少年の名は、ノイズがかかってよく聞こえない。
女性の事も、見覚えはあるのに思い出せない。
一体、誰なんだろうか。
俺が考えていると、まるでテレビのチャンネルを変えた時の様に、周囲の景色が変化し、
同時に、俺の意識は暗転した。
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母さんの手は、やっぱりあったかくて落ち着くな。
そんな気持ちになりながら、僕は母さんと街を歩いていた。
もうすぐ誕生日だから、今日はプレゼントを選びに行ったけど、あんまり決まらなくって。
お母さんと一緒にお昼ごはんを食べて、こうして帰っている。
もうすぐ春だから、日差しはぽかぽかと暖かいが、まだ風は少し冷たい。
人だかりの少ない家の手前まで来た時、手を繋いで歩く僕たちの前に、黒尽くめの男が光る何かを手に立っていた。
「母さん、あの人だれ?」
「さぁ・・・・・・母さんの知り合いでもな・・・・・・っ!?」
母さんが言い切るより先に、男は光る物────ナイフを手に走り出した。
「死ねぇ、このガキがぁッ!!」
僕に向かって、まっすぐ。
「拓人っ、危ない!!」
母さんが咄嗟に僕を抱き寄せ、振り抜かれたナイフは僕の右頬を掠めるに留まった。
「拓人、大丈夫!?」
幸い、皮膚が少し裂けただけあったため、出血も少ない。だが、涙が滲む程痛かった。
「う、うん。すごく痛いけど・・・・・・。」
「邪魔すんなよクソアマぁ・・・・・・。そのガキ殺せってオヤジに言われてんだぁ・・・・・・殺さねぇとよぉ・・・シャブが貰えねぇだろうがァッ!!」
錯乱したように男は母さんに向けてナイフを振りかざす。
男の言葉の所々はよくわからなかったが、母さんを馬鹿にされた事だけは分かった。
それが・・・・・・物凄く嫌だった。
気づけば、傷のことも忘れて男の腹部に全力の頭突きを見舞っていた。
「あなたが誰かはわからないけど、母さんの事を・・・・・・ばかにするな!」
お腹の底に勇気をかき集めて、一言そう言い放つ。
しかし、男は痛みを感じていないかの様にぬるりと立ち上がると、無造作に懐へ手を突っ込んだ。
「オヤジには出来るだけ使うなって言われたけどよぉ・・・・・・抵抗されるんならしょうがないよなぁ・・・・・・?」
手をゆっくり引き抜くと、男の手の中に握られていたのは、黒光りする鉄の塊・・・・・・大ぶりの拳銃だった。
そして、男の手中にあるそれがおもちゃじゃ無いことは、十分過ぎるほど理解できた。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。
そう思っても、僕は動かなかった。
否、動けなかった。
「う・・・・・・っ!」
息がままならなくなる。心臓が急にどくどくなって、苦しくなる。
逃げなきゃいけないのに、こんな時にそれが来た。
いつもは、母さんの音で落ち着けてるけど、この時ばかりはそうも行かなかった。
胸を押さえて呻く僕に向けて、男は銃を向ける。
引き金にかけられた指に少し力が加わり、直後に複数の事象が起きた。
まず、数度の轟音と閃光が辺りを塗りつぶし、
僕に向けて放たれた弾丸を、真っ赤な髪をたなびかせて飛び込んできた人影─────母さんが受けた。
弾丸は母さんを貫いて、僕の足元のコンクリートにぶつかり、数ミリ食い込んだ。
母さんは、口の端から鮮血を零して倒れた。
世界が止まったみたいに、時間がゆっくりと流れている気がした。
母さんが、僕の代わりに弾丸を受けた。
それだけを理解することすら、したくなかった。
無限にも感じる数秒が過ぎ、遠くから聞こえて来たサイレンの音で、世界がまた動き出した。
「チッ。もたついたせいでそろそろサツが来るじゃねぇか。邪魔しやがって。」
そう毒づくと、男は銃をしまい、走り去っていった。
「・・・・・・母、さん?」
僕は、胸の苦しさも忘れて、真っ赤な髪を更に赤くして倒れる母さんに歩み寄ると、震える手で母さんの手を握った。
目を瞑って眠る母さんの手は、いつも暖かく握り返してくれるその手は、氷の様に冷たかった。
自然と、涙が頬を伝う。それを抑えることなんて、出来るわけなかった。
堪えきれず、泣き叫びそうになった時、
───ぴくっ。
母さんの手が少し震え、僅かに体温が戻った。
「たくと・・・・・・だい、じょう、ぶ・・・・・・?」
でも、薄く開いた瞼から見える薄緑色の目は、いつもの輝きを失っていて、
開いた口から溢れる言葉は、いつもよりか細く、今にも消え入りそうな物だった。
「うん・・・・・・。大丈夫、だよ・・・・・・っ。」
僕は精一杯笑ってみたけど、涙が止まらなくて、泣いてるのか笑ってるのかわかんない声で答えた。
「よかっ、た・・・・・・。たく、と・・・・・・、私の、分まで・・・・・・生きて、ね・・・・・・───。」
その言葉を最後に、母さんは安らかに眠った。
残っていた微かな体温は、嘘の様に消えて、また冷たくなって───、
僕の心も、冷たくしていった。
「うん・・・・・・、おやすみ、母さん・・・・・・。」
冷たくなった手を横たえて、僕は呟いた。
少しして、警察の人達の声が聞こえた、その時だった。
いつもより強く、胸が苦しくなった。
「・・・ぅッ!!ああ・・・・・・ぁ・・・・・・──。」
僕の意識は、そこでぷつりと途切れた。
母さんの手と触れ合ったままの右手に、冷たさだけを残して。
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「あぁッ!!・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・。」
それは間違いなく、最悪の目覚めだった。
これだから思い出したくなかったんだ。
思い出なんて辛いだけだ。だから捨てたのに。
捨てたのに、
むしろ強まって、僕の心を壊しに来る。
「くそっ!消えてよ・・・・・・!」
この
あの時の喪失感が、空っぽの心に満ちていくから。
もう消えたと思った右頬の傷跡が強く疼いて、もう無いはずの苦しさが胸を襲うから。
思い出したくないのに、血溜まりに浮かぶ母さんの遺体に触れた時のあの冷たさは、あの喪失感は、ずっと頭の片隅にこびりついている。
冷たさを少しでも逃したくて伸ばした手が、趣味でやっているペーパークラフト用のカッターに触れた。
無我夢中で手に取り、刃を少し出す。
そして、窓から差し込む月の光を反射して淡く輝くそれを───、
「う・・・・・・くぅっ!!」
左腕に走る無数の傷跡の一つへ目掛けて振り下ろした。
直後、腕から登ってきた強烈な痛みに冷たさが上書きされる。
「ぅああッ!・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・。」
理性が少しずつ戻ってくると同時に、腕の痛みをはっきりと感じる。
悶えそうになるのを必死に堪えて、部屋に隅にある救急箱を取ってくる。
布団に腰掛け、包帯を中から取り出すと、無造作に腕に巻き付けて、力強く縛る。
止血の為に手を少し掲げ、生々しい血の色を眺めていた。
左腕を走る傷跡はもう指で数えられない程まで増えている。
あの夢を見る度に自分を傷つけて、壊れかけの自分を癒す。
壊れてしまえば・・・・・・いっそ消えてしまえれば、楽なのに。
途端、猛烈な眠気を意識して、腰掛けていた布団に身を預ける。
「今の僕を見たら、奏はなんて言うのかな。」
夜空に向けてそう呟くと、僕は再び襲ってきた睡魔に身を委ねた。
寝て起きれば、また僕の意識はなくなるはずだ。
母さんを喪ったあの日から、僕の意識がなくなることが増えている。
その間何をしているのか、誰の意識なのかは僕もわかんない。
でもそれでいいのかもしれない。
だってそうでもしなくちゃ、母さんとの約束を破ってしまいそうだから。
生きる事だけが、僕に───明星拓人に出来る唯一の償いだから。
冥きと書いてくらきと読みまする。
SAOP読んでる人ならわかったかも?
彼と奏の出会い、関係については、「カーネーションリコレクション」で明らかになります。
次は日常回です。遂に
ニーゴverのアイロニが神すぎて結構譜面むずいのにめっちゃやってる。いつか2DMVでてくんないかな。
ショート奏を引けなかった私は敗北者です。
次回「6時、新たな場所でそれぞれの出会い。」