光が漏れている扉を勢いよく開け、白く輝いて何も見えない場所に、突撃するかの如く中に入っていった。
勢いよく入ったと同時に、身体が床に打ちつけられた部分に痛みが走る。Rは逃げられた事に安心を覚えたが、現実はすぐに残酷な真実を目に見せつける。
エレベーターの動きが止まり、次の行き先の扉が開かれる。
不可解な現象を見てきたが、この先でもこの調子が続くと気が狂いそうだ。顔をふるふると震わせ頬を叩いてから、目の前に広がる光景にゆっくり近寄り入っていく。
艶のあるレンガの壁、パイプの中に流れるエネルギー源と高熱の液体が混ざり合い、雑音が鳴っている。それのせいか、すごく暑い。さっきの部屋より幾分かマシだが、快適とは言えない。
一言言うならば、電気局の重要な部分と表すだろうか。用途不明な機械がたくさんあり、どれも自身の役割を果たす為に動き続けている。
何処へ向かうかの選択肢はたくさんあって困りはしないが、迷わないかが不安なRは、こっちにしよう。と決めてから進んでいく。
行先の道が途中少し狭くなり、しゃがんで歩いていかないと通れない道もあった。窮屈というわけでもなく、かと言って快適とも言えない環境の中、手足を動かし前に行く。
通った道でもそうだが、切れたケーブル線があちこちにある。電気が満ち溢れているのかバチバチ音を立てている。そんな中を歩いて行かないといけないのだ。Rは生を感じなかった。いつ感電してもおかしくない。
そんな中を探索なんて控えめに言って正気ではない。
Rはしゃがみ歩きで通り抜けた先の広くなった部屋で、小休憩をとる事にした。暑さによって流れ落ちる汗と冷や汗をかきながら、アーモンドウォーターを口にする。喉を麗して、次に備えるためだ。飲んでいる分はあと半分だ。
どこからか転がってきた空き缶のような物が、不明の機械の傍を通り、カコンと当たる。その瞬間、缶に複数の衝撃が襲いかかり、缶はぐしゃぐしゃになった。
今迄は現実ではありえない事が、当たり前に起こる世界だとは分かっているが、 到底信じられないのだ。
ヒッ…と一瞬声を上げ躊躇うが、いつまでも此処にいるわけにはいかない。雑音とむき出しのケーブルに囲まれながらRは次の目的地に辿り着く為に歩き出した。
Rはすっかりパイプにトラウマを植え付けられたようで、ビクビクしながら歩いている。無理もない。無邪気な無機質が、意味を問われる事無くRの生命を奪いに来ていたのだ。極力自分から近づかないようにした。
歩いている途中に、ドアがない部屋があった。中は暗く、何かの電力であろう機械が音を立てて動いている。特に重要な物はないと判断し、先に進む。道中パイプを目にしては、恐怖心が煽られる。ここで負けるわけにはいかない。頭を横に振って頭の中を空っぽにする。
探索し始めて何部屋か回った頃、戻り道の方からヒタ…ヒタ…と聞き覚えのない音が響く。
何処からだ!?慌てふためきながら警戒する。
その音は徐々にこちらに近づいてくる。最も恐れている事が起き始めている。それはすぐに正体を現した。
犬のように四つん這いで人間の顔をしているそれは、Rの2倍…いやもっと?とにかく大きく、フシュウウウ…と唸りながらヨダレをダラダラ流してRを見ている。
Rの顔に血の気がどんどん無くなる。いざ目の前にすると、こんなにも恐ろしいモノだったのか。足は言う事を聞いてくれずにガクガク震え出す。頭は真っ白に気を失ってしまい楽になりたかった。許されるはずもなく、化け物がこちらに向かってくる。同時に我に返ったRは死にもの狂いで走り出した。
地面を足で蹴り出し走るその姿は、敵から難を逃れる為だけに生を与えられた生き物。傍から見たら滑稽だろう。
こんなにも障害物が邪魔な事にどれだけ腹立たしいと思ったか!
相変わらず危険な電気が流れるチューブに、汗が吹き出る暑さ。それさえも忘れてしまう巨大な化け物。
もう何なんだよあいつは!?
Rは疲労が溜まっており、疲れを十分にとれていない。Rの足は走る事を少しずつ拒み出す。痛みに変えて訴えてくる。
Rに大きな影が出来た。嫌な予感しかしない。もっと足を前に動かして走る。化け物が攻撃してきたが、間一髪避ける事が出来た。次の攻撃に当たらないように足をもっと早く動かす。それに合わせるように化け物も追いかける。死の鬼ごっこのようだ。
息を切らして次に繋がる場所を探す。その間も化け物はずっとRを追いかける。終わりが見えない道の先。
ドゴオォォン!!
機械の爆発音が鳴り響く。Rが蹴った何かが不明の機械に当たり、時間差を置いて爆発する。それは化け物にも当たったようで、グルルル!と鳴き叫びどこかに消えた。Rも爆破に巻き込まれて全身が前に大きく吹っ飛ぶ。乱暴に床に全身をぶつけられ痛みが全身を走り、すぐに起き上がる事は難しい。くっ…と声を漏らしながらも、ゆっくり起き上がる。さっきの爆発のせいか、電気が消えて暗くなっているが、全く見えない訳では無い。
少し強い光がふわっと後ろから光るのが目に入ったRは、そちらを振り向く。前の部屋で見た時と同じように、ぼんやりと光るボタン。どこ行きかも書いていないエレベーターがすぐ近くにあったのだ。どうしてもっと早く気づかなかったのか?と思ったが、今はそんな呑気な事は考えていられない。と、そう考えた時にはRはもうボタンを押していた。
ガコンと音が鳴ったエレベーターは、静かに扉を開いた。フラフラしながら乗り込んだと思ったら、その場にへたりこんでしまった。
Rの心はすり減ったまま、Rを乗せたエレベーターは動いた。その揺れさえも心地良いと感じる程に参っていた。懐かしさも感じながら、Rは疲れも手伝って眠るように気を失った。
そしてエレベーターは、長い時間止まる事はなかった。