長く乗っているエレベーターは、まだどこかに向かって上昇している。
敵に会わないだけマシとさえ思えるくらいに疲弊してしまっている。動こうという気力があまり残っていなかった。
床に突っ伏して眠るような形で横たわっているRは、半目を開けながら扉が開かれるのをただ待つ事しか出来なかった。
チーンと到着の音と共に、ガゴン!と揺れたものだからRの身体は少し吹っ飛んだ。これにはさすがのRもビックリして、身体を起こして先の展開を待つ。そこから何か起こる事無く、エレベーターの扉は問題なく開かれた。
エレベーター内に勢いよく飛び込んだRは制御が出来ず、頭をゴン!とぶつけた。手で抑えて痛みを軽減させようと腕を動かすと、腕にヒリヒリとした痛みがはしる。いつの間にかパイプに触っていたのかは定かではないが、火傷が残っている。見知らぬ所にいる以上、傷を作ったままにするのも良くない。どうするかと悩んだがどうしようも無いため、水分補給する為に袋の中にあるアーモンドウォーターを手に取り、ゴクゴクと胃に流し込む。飲んでいる分はあと半分残っている。ふぅ…と息を吐いて、火傷した腕を無意識に見る。さっきまであった火傷の痕がもうなかった。この飲み物、治癒効果がすごく高いのか…と、自身の腕とアーモンドウォーターを交互に見て何度も確かめていると、乗っていたエレベーターがガコンと音が鳴り、扉が開かれる。
急に明るさを感じたRは、目を隠してから徐々にゆっくり開けていく。前の部屋のような雰囲気は1ミリも感じられなかった。中はビルのオフィス内のような雰囲気を感じる。窓が一定間隔で存在していて、恐らく外からなのであろう場所から光を感じる。ちょっと強すぎるような気もするが。天井に蛍光灯はあるが、何も無いように感じる。
飲んでいたアーモンドウォーターを袋の中に入れて、エレベーターから降りて探索する。
家具らしき物は見当たらな…おや?あれは何だ?
Rは遠くに見つけた物を確認しに向かう。大きくて四角い形状の物。見覚えがある。間違いない!あれは自動販売機だ!
Rは小躍りしながら自動販売機に向かう。品物を確認する。Rが箱の中で見つけた物と同じアーモンドウォーターと、非常食?らしき物が売られている。チョコレートバーだろうか?
いや、まだ買えると決まったわけじゃない。まずアーモンドウォーターの下にあるボタンを押してみる。ガタガタ…ガコン!と音が鳴る。見るとアーモンドウォーターが1本出てきている。
買えた!成功だ!Rはもう一度同じボタンを押す。同じ物が出てきた。嬉しそうに袋の中に新品のアーモンドウォーターを入れる。これ程までに嬉しい事が他にあっただろうか。
Rは次に非常食らしき物の下にあるボタンを押す。カコン!と音が鳴って非常食らしき物が出てきた。それは袋に包まれている。Rは梱包を開けて確認する。見た目はRの予想通りチョコレートバーを感じる。香りを嗅いでみる…。チョコレートだ!Rは1口齧る。
すっごく美味しい〜!!
Rは自身が大人である事も忘れて、子供のようにチョコレートバーにかぶりつく。疲れとかも何もかも吹っ飛んで行った。数日も甘味料がある食べ物を食べていなかった反動は相当大きいらしく、嬉し泣きしながら食べている。何度も何度も自動販売機にある、チョコレートバーの下にあるボタンを押して梱包されているチョコレートバーを出した。
もっと食べていたかったが、探索もしないといけない。Rは5個チョコレートバーをニコニコしながら袋の中に入れた。
ご機嫌なRが探索をしていると、ウォーターサーバーとトイレマークらしき物、カーテンがかかっているボックス部屋…更衣室らしき物があるのを見つけた。今まで巡っていた部屋が嘘かのようにこの部屋は天国だ。初めにウォーターサーバーに近づく。見た目は現実にもよくあるタイプだ。蛇口を小さく捻ると水が出てきた。
一旦触ってみる…変化なし。
香りを嗅ぐ…無臭。
ゆっくり飲んでみる…普通の水だ。水!
貴重な水が沢山飲めそうだ!もっと沢山飲もうとRは手加減知らずで蛇口を捻ってしまい、大量の水がRに襲いかかる。
Rは全身ずぶ濡れになってしまった。床には小さな水溜まりが出来ていて、髪もぐっしょり濡れている。汗をかいていたからそれはそれで良かったが。
このままにするのも良くないので、一先ず更衣室に向かう。ついでに中を探索する為にも。カーテンをサッと開けると、鏡はないものの、シワやゴミが1つもついて無い新品の服が1式とタオルが1枚セットで置かれていた。今まで頑張ったご褒美なのか。Rは有難く置いてあった新品の衣類のセットに着替える事にした。シンプルな物だから着やすい。タオルで拭いてから着替えて更衣室から出る。
更衣室から出たRは最後にトイレマークらしき物があったところに向かう。これも公園やデパート内によくあるタイプのトイレだ。恐らく男女に別れているのであろう、マークが2つある。
中に入ると、此処も現実と変わりがない。問題ないと判断し、Rはトイレの中に入る。
Rはトイレで用をたすと、手を洗ってからトイレ前に出て探索の続きを行った。眩しい光を放つ窓からは、たまにシルエットが見える。人魚姫らしきシルエットだが真相は掴まない方が良さそうだ。
前に見つけた物以外は特にこれといった物は見つからなかった。Rは手に持っている袋の中を確認する。アーモンドウォーター3.5本。チョコレートバー5個。包帯が1個入っている。
そして忘れてはいけない護身用の武器のダガーナイフ。腰にきちんとつけており、身を守る為に使う物だ。初めに比べたら、何も持っていなかったあの時より随分マシだろう。
確認を終え、袋についていた紐で縛り、落とさないように袋の口を絞る。Rは落ち着いて部屋をもう一度見渡す。エレベーターの扉は開きっぱなしで止まっている。またボタンを押せば動くだろう。
此処は危険な雰囲気も感じないし、1度睡眠を取ろう。Rは床に横になり、目をゆっくり閉じて意識を夢の中に託した。
ゆっくり睡眠をとったRは同じ場所で目覚める。何も変わっていない雰囲気にホッとして、背伸びをする。天国のような此処にいつまでも居たかったが、帰る為には行かなければならない。名残惜しそうにその部屋を見ながらRはエレベーターに乗る。
エレベーターに乗ったRはボタンを押して扉を閉める。エレベーターは動きだし、また何処かに向かっているのである。
フードの男がくれたいくつもの紙は、ぐっしょりと濡れたままRが元々履いていたズボンの中で、サラサラッと消えていった。