ホテルにあった下り階段を下ったその先は暗闇が1面と広がっている。
光らしきものはそれっぽっちも見えない。
電灯など探して持ってくれば良かった…と後悔するが、過ぎた事をクヨクヨ言っても仕方ない。仕方なく進むことにする。
落ちてきた中で一番暗いと言っても過言ではない場所だ。
エレベーターがチーンという音ともに止まり、サッと扉が開かれる。
…開かれた、のか?開かれた事に間違いは無いが、その先には何にも見えない。見えるとしたら真っ暗闇だって事だけ。
このエレベーターは故障しているのだろうか?だとしたらどこかで止まってもおかしくはないのだが、よりによってこんな所に連れていかれるとは…。Rは運がついていないと思うと同時に、これからこの暗闇の中を探索しないといけないのか?という不安すぎる気持ちを抱えて、エレベーターから降りる。降りると同時にエレベーターの扉が直ぐに閉まり、Rは完全な暗闇の中に捨てられたのだ。
暗闇の中に投げ落とされたRは、光源もない闇の中に放り投げ出された。
見えない為どんな場所にいるかも分からないが、恐らく床はコンクリートか何かで出来ているのだろうっという事は辛うじて分かった。しかし…
本当に暗すぎて、すぐ近くに誰かがいても気がつかない自信がある。常に視覚が奪われている中、聴覚や嗅覚等に頼らなければならない。
耳を澄まさないと分からないレベルに、微かに何かが吹き出てる音が聞こえている。そして何かが流れている音も少しだけ聞こえる。何かが気になったが、あまり触れない方がいい気がする。此処は少し肌寒い。薄着があれば着るくらいの温度だ。
何も捉えられない空間の中で、Rはふと気になって上を見上げる。予想通りではあるが、少しくらい何かあったって…と期待していた分はすぐに潰し消された。いや、分かってはいたのだが。
『|〒%・☆+…』
ふと誰かの声が聞こえた気がした…いや気の所為か?気にせずに進もうとするが、それをトリガーにまた声が聞こえ始める。
「いつまで寝ぼけているんだ、早く来なさい」
「早く帰ってきなさい…」
懐かしき声があちこちと反響してRの耳の奥に入り込んでくる。これが誰の声かはすぐに分かる。今は亡き両親と大好きだった祖母の声だ。Rは両親も祖母も亡くなっている。死を受け入れてから何十年経ったかも忘れていた。これは幻聴だと言う事も気づいていた。しかし同時に懐かしく自身を呼ぶ声に、戸惑ったのもまた事実。
その声はRの精神に大きく噛みつき揺さぶりをかける。グラッと不安定になってしまっていた。ただでさえ暗くて光もない場所にいるにも関わらず、会いたい人の声が鮮明に…ただ語りかけるような声量で話しかけてくる。寂しさと虚しさ、両親や祖母の愛情を少しだけ思い出していたRには、目に見えない傷を背負う現実さの過酷に変わり果てそうな気持ちだった。
やめてくれ…やめてくれ…その声に耳を塞ぎ、闇の中をひたすらに歩き回る。抜け出すには歩くしかない。嫌でも進まなければならない。少しだけ手を離すが、常に誰かが付き纏うかのように、呼吸音や亡き両親、祖母の囁き声などが聞こえてくる。
Rの足は更に速く走り出す。が、同時に精神を蝕り身体に疲れが出てくる。限界が少しずつ近づいてくる。心が揺れかけている。キュウッと胸が締め付けられる。何にも見えないこの場所で。
そんな暗闇の中、Rは不注意からか足元で何かにひっかかり、躓き転んだ…と思いきや、床に叩きつけられる速さを保ったまま、すり抜けてしまった。穴もないただの床から落ちた。なんて事だ!幸か不幸か外れ落ちてしまった!
外れ落ちた暗闇の中をただひたすら重力に逆らえないまま、下に下に落ちていく。
虚無と暗闇を見つめた後に目を閉じて、意識が途切れる前に、地球での夜の出来事を思い出していた。星が好きなRは誰もいない土地が高い場所で、今にも溢れて流れ落ちてきそうな星を、届かない手で必死に伸ばして掴み取ろうとしていた時もあった。…なんて話は誰も興味を持たない。次のレベルに落ちるまで、黒に塗りつぶされた此処で暫く落ちていた。
落ち先もまた暗く…