何の因果か、はたまた悪縁か。
モヤモヤするのは、誰のせい。
裏も表も、なかなか難しい。
――なんなのよ、あれ。
口には出せないけれど、強く強く思ってしまう。バド部に新しく入ったって言う女子マネージャー、にいなちゃんが言うには2-Aの守屋菖蒲……とかそんな名前の子。
あんまり良い噂は聞かないらしい、何て言うか「男子が好きそうな女子」そのものだとか。男子相手にも平気で近付くし触るし、おっぱい大きいし。女子受け悪いって事を全く気にしない、天性の恋愛体質……だそうな。要するに押しが強くてワガママ、こないだも「発音がハッキリしない」だか「歩くのが速すぎる」とかそんな理由で彼氏をフッてやったとか。
……正直そういう話に詳しすぎるにいなちゃんにも若干引くけど、でもそれはどうでもいい。
別に色恋沙汰は個人の勝手だし、好きにすれば良いと思う。
ただ、隣に大喜がいなければの話なんだけどさ。
こっそり覗いた限りでは、マネージャーの仕事を教えてあげてるだけにも見える。でも、なあ。なんだあの近さは。
肌がくっつくんじゃないかと思うほどすぐ側、というか時々触っている。よくもまあ、あんなこと出来るな。
まあ大喜自身は別にニヤけるでもなく、むしろ距離を取りたがってるみたいだけど。大喜も大喜で、もし千夏先輩に見られたらと思えば気が気じゃないのかもしれない。それにまさか、胸の大きさで女子を評価するほどのバカじゃあるまいし。……あるまいし。うん、あるまいし。
単に距離感がおかしいだけなら、それで良いんだけどさ。
それにしても近いな、私の時みたいに噂になってもおかしくないくらい。
まったく、あんなの――
あんな風に振る舞えたら、悩まずに済むのに。中一から四年くらい一緒にいて、でも私は大喜とあんな感じに絡めない。プリントで叩いたり膝カックンしたり、そうやってふざける事は出来るんだけどな。直接触れるのは、なんとなく怖い。と言うか、恥ずかしい。
もっと前ならまだしも、今はもう近くにいることさえ難しくなってきている。好きだと自覚してそれを伝えて、そのせいでどうにも気まずい。好きなのに、好きだから。
ああ、こんなだから私は大喜の隣に立てないんだ。
大喜が先輩を好きであろうと、関係ない。私が好きであり続ければ良い、大喜の意思なんか知らない。
周りが冷やかそうと、どうでもいい。噂なんか好きに流せば良い、どうなろうと知ったことか。
大喜が好きだから全部蹴り飛ばして、強引に私の物にしてしまおう。
そうなれたら――。
いや、違う。そうなってしまったら、それは最悪なんだ。大喜の気持ちもなにもかも踏みにじる、独りよがりの単なるワガママ。好きな人をモノ扱いして力尽くで奪い取るなんて、そんなのは私じゃない。
無敵の蝶野雛は、そんな卑怯な真似はしない。
もっともっと輝いて、いつか千夏先輩さえ越えて見せる。そうすれば大喜はきっと、私に振り向いてくれるだろう。
その日が来るまで、正々堂々突き進むんだ。
にしても、こんな半端な時期に良くマネージャーなんかやる気になったものだ。
大体どこも年度始めに加入するのに、文化祭も終わった10月に入部とはずいぶんと呑気な話にも思える。
何かに影響されたのかな、スポーツ系のアメドラでも観てマネージャーやりたくなったとか。いやでも、それでわざわざ入んないか。栄明はスポーツ私立だから、どの部も厳しいし。ちょっと興味あるから、って理由で入部するのは難しいかも。
そうじゃなかったら――
「あ。……あー……まさか、……まさか」
もしかしたらひょっとして、万が一億が一。
あの子のお目当てが、大喜なんだとしたら。それは……それは。
「不味いかも、なあ……」
千夏先輩は大喜に好かれてはいるけど、でも逆は無い筈。本人に確かめたわけじゃないけど、まさか年下の男子になんかそこまで興味ないだろう。同い年だって男子はバカだもん。
私たちはライバルって間柄ではないし、だからバチバチにやりあう必要なんかない。もし千夏先輩が大喜を意識してたりしたら、それこそ不味いけど。
下手したら私、あんな経験豊富そうなのと戦う事になるのか。
とりあえず覚悟はしておこう、負けるわけにはいかないから。
立て不死身の身体、不屈の闘志。蝶野雛は、挫けない。