両親を失い孤児となった少女――朝田詩乃は、日本の平和を密かに守る、警察や公安とも異なる独立治安維持組織であるDAに拾われた。
 彼女はその組織に所属するエージェントの少女《リコリス》の候補生として育てられる。
 だが、ある日行われた適正テスト。
 そこで初めて銃を持った詩乃は、前世を思い出す。

 これはそんな詩乃が、リコリスとして生きていく物語。

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 以前投稿して消したものを手直しして再投稿。


リコリスとして生きる

 私は二歳になる前、事故で両親を亡くした。

 事故の原因はカーブを曲がりきれなかったトラックとの衝突。両親の運転していた小型車がその衝撃に耐えられるはずもなく、ガードレールを乗り越えて山の斜面に転落したという。

 トラックの運転手はフロントガラスを突き破り、路面へ投げ出されて即死。

 そして不運なことに、その山道は地元でもほとんど使用されておらず、深夜帯ということもあって翌早朝まで誰にも気付かれなかった。

 私も両親と一緒にその車に乗っていたらしいが、正直覚えてはいない。

 

 親を失った私は孤児となり、DAに拾われた。

 DA――正式名称を《Direct Attack》。

 日本の平和を密かに守る、警察や公安とも異なる独立治安維持組織。政府とは協力関係にありながら、その指揮下には置かれず強い特権を有している。

 私はその組織に所属するエージェントの少女《リコリス》の候補生として、養成所に入った。

 リコリスの役割は、事件が起こる前に犯罪者・テロリストを処分すること。その存在は社会から秘匿され、公になることはない。

 だからこそ、私のような孤児は替えの利く都合の良い存在なのだろう。

 そんな組織にどのような感情を抱くかは人それぞれだろうが、少なくとも私にとっては親であり、家族のようなものだ。あるいはそう思うように洗脳されてしまったのかもしれないが……。

 とにかく、私はDAに拾われ、リコリスになるべくして育てられた。

 孤児となった二歳の子供(わたし)に選択肢などあるはずもなく、私はその生活を受け入れるしかなかったのだ。

 

 ――そんなある日のことだった。

 リコリスに必須と言ってもいい銃を撃つ才能。私はそこで初めて銃を撃つ機会を与えられ、自身に備わった能力に気付き――全て(前世)を思い出した。

 

 銃を握り、目標(ターゲット)に射撃しようと人差し指がトリガーに触れた瞬間、視界にライトグリーンに光る半透明の円が表示されたのだ。

 周期的に直径を変化させるその円は目標を中心に捉え、大きく外側まで広がっている。

 突如広がったその光景に、思わずトリガーから指を離すと、何事もなかったように視界が戻った。

 

 私は、この事象を知っている。

 そう理解すると同時に、まるで濁流のように知るはずのない記憶が流れ込んできて、私は意識を手放した。

 

 

 

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 私は記憶の整理に一週間を費やした。

 倒れてから意識こそすぐに取り戻したが、気が動転してろくに歩けもせず。ベッドに運び込まれ、高熱にうなされる日々を過ごし。

 そんな中でも意識だけは何故かハッキリとしていて、熱が引いたころにはもう一人の私の人格はだいぶ馴染んでいた。

 

ガンゲイル・オンライン(GGO)……」

 

 あの光景は正しく、前世で遊んだGGOと酷似していた。

 その中に出てくるシステム・アシスト――着弾予測円(バレットサークル)

 心臓が脈打てば円は広がり、サークルが最大まで広がる。そして徐々に縮小していき、次の脈でまた広がる。

 そして最大の特徴は、撃った弾が必ずその円の内側のどこかに飛ぶ、ということだろう。

 リコリスになるためには打って付けの能力とも言える。

 

「と言うか、この世界。絶対に前世とはどこか違うよね」

 

 前世にリコリスなどという存在はいなかった……という確証はないが、テレビを付けてみれば一目瞭然だ。

 ――電波塔。

 ニュースを見れば、その単語や実際の映像が度々放映される。

 少なくとも、こんな塔は前世の東京になかった。

 

「さて……」

 

 これからどうしようか。

 と言っても、今の私は孤児となりリコリスの候補生となった身。自分からやれることは少なく、備わった知識は前世から得たものと、今世でDAの教育機関から学んだ子供向けの一般常識やリコリスとしての心構え。後は銃の構え方や撃ち方ぐらいだろうか。

 その肝心の銃を撃つ場面で倒れてしまった訳ではあるが……。

 

 ここで考えてみる。

 今の私はDAから見たらどのように評価されているだろうか。

 リコリスの候補生。そんな私が銃すらまともに撃てない、体の弱い子供だと判断されたとしたら。

 いくらでも替えの利く孤児。DAの存在は世間から秘匿されている。

 つまりは最悪、使えない(こま)として処分されることも視野に入れなければならない。

 そんなの嫌に決まっている。

 

 であれば、どうするべきか。

 簡単だ。自分の有用性をDAに示せばいい。

 幸いにして、私は仮想現実(GGO)で何年も銃撃戦をした経験がある。着弾予測円という、普通の人間にあるはずのない能力もある。あるいは、まだ気付いていないだけで他にもあるかもしれない。

 銃を人間に発砲するのに抵抗が一切ないと言えば嘘になる。

 けれど、過去(前世)の自分にはもう踏ん切りをつけた。

 私は私らしく生きたい。その舞台が今世ではリコリスなのだ。だから私はリコリスになる。

 

 そう強く願った。

 

 

 

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 一週間の穴、というのは意外と大きい。

 私一人のために他の子供たちの教育や指導が止まる訳もなく、何なら倒れた時点で処分されなかったことに感謝しなければならないだろう。

 だが、今の私は右も左も分からなかった一週間前とは違う。

 リコリスの候補生といっても、所詮は一般常識も定まっていない子供の授業なので、追いつくことなど簡単だった。

 

 そして迎えた射撃の適正テスト。

 今回射撃場に来たのは、私と教育係である女性の二人だけ。

 内容は以前と同じ、止まった目標に射撃するというもの。

 ここでの結果次第で、私の運命が決まると言ってもいいだろう。

 

「気分が悪くなったら、すぐに言ってね」

「分かりました」

 

 心配そうに声をかけてくる教育係に笑顔で返答し、私は銃のトリガーにそっと人差し指を置いた。

 視界に着弾予測円が広がるが、体に異常はない。

 私の鼓動にリンクして拡縮するサークル。その円が目標を内側に捉え、限界まで絞られた瞬間――引き金を引いた。

 

 発砲と同時に、衝撃が全身を襲う。

 それでもしっかりと持ちこたえ、確認すれば、中心から外れてこそいたが確かに弾は命中していた。

 

「凄い! 初めてなのによく当てたね!」

 

 これが今の私の限界なのだろう。

 いくら知識があろうと、いくら集中しようと、銃をろくに触ったこともない幼い今の体ではまだ粗い。

 それでも全神経を研ぎ澄ませ、残りのマガジンの弾も撃ち切る。

 全弾命中。やはり着弾点にバラつきはあるが、一定の範囲内には収まっている。その全てがサークルの内側にあることから、着弾予測円は問題なく機能しているといっていいだろう。

 今回は雑音もなく、停止した目標に撃つだけということもあって当てることはできたが、実戦であればこうはいかない。

 この程度の距離であれば、フルバーストで撃っても全弾狙い通り当てられなければ私の生死に関わってくる。

 そう言えば私には、GGOと同じようにステータスという概念は存在しているのだろうか。

 もしそれがあるのであれば、一時期流行ったこともあるAGI(敏捷)極振り、なんていうのも面白いかもしれない。

 ゲームのように無尽蔵に体力がある訳ではないので、仮にできたとしても多少の差異はあるだろうけれど。

 

 一つ大きく息を吐き、銃を置いて痺れを払うように両手をほぐす。

 ふと顔を上げた私が見たのは、教育係の驚愕した表情だった。

 

 

 

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 一日のカリキュラムを終え、寮に戻った私はベッドに寝転びながら、(おもむろ)に空中で右手を振ってみる。

 すると、どうだろう。

 私の眼前には、見慣れたGGOのステータス画面が表示された。

 五角形のレーダーチャートの頂点にはそれぞれ、STR(筋力)AGI(敏捷)VIT(体力)DEX(器用)LUC(幸運)の項目。

 その他の機能に関しては文字化けしており、主に出来る事はグラフの表示とステータスの割り振り、後はレベル(Lv)経験値(EXP)の確認。

 おまけ程度に、自分の名前である朝田詩乃(あさだしの)が表示されていた。

 

 まさか本当にステータスが出るとは思っておらず、チラリと同室の子たちを確認するが、気にしている様子はなかった。

 相手の視界に映るように表示させたまま話してみても特段反応も返ってこないので、私にしか見えていないのだろう。

 

 改めて私はベッドに寝っ転がり、ステータス画面を見た。

 レベル1。けれど、経験値は僅かに獲得している。

 経験値の取得条件は現状不明なので、これからは小まめに確認していこう。

 そして今考えるべきは、レベルが上がった際にどのステータスを上げるかだ。

 GGOをやっていた頃はゲームということもあって、銃や防具を装備するだけでも一定のSTRやDEXが要求された。

 しかしここは現実世界。武器の装備に制限はないし、ステータスの要求値もない。

 

 まずVITは捨てる。

 自分の体力や防御力を上げたところで何になるのか。ゲームと違って生身の胴体を撃たれるだけでもダメージは計り知れないし、頭を撃ち抜かれたら即死だ。

 

 次にSTRもいらない。

 私はリコリスであって、戦場に赴く訳ではない。今のメイン武器はハンドガンで身軽だし、その他の武器に関しても今後鍛えていけばどんな銃でも持てるぐらいには成長するだろう。

 筋力の底上げに魅力は感じるが、少なくとも今は必要ではない。

 

 そしてLUKもなしだ。

 運がよくなる……。正直信用できない。

 多少ポイントを振ったところで気休めにしかならないだろうし、運で解決するより実力で解決した方が安定もするだろう。

 GGOと違ってモンスターもいないし、敵を倒せばある意味確定ドロップなのだから、ほぼ魅力はないと言える。

 

 すると、残るのはAGIとDEX。

 

 AGIの一番の魅力は何と言っても移動速度の向上だ。

 GGOでは極振りすることで銃弾を文字通り回避し距離を詰め、重火器を速射することで未対策の相手を一方的に葬ることが可能だった。

 副次効果として武器の取り回しが得意になり、着弾予測円の安定性に繋がるというのもある。

 ゲームの中であれば対策もされ徐々に廃れていったAGI型ではあるが、現実世界であれば悪くないだろう。

 

 最後にDEXだが、これは正直微妙だ。

 GGOでは技量に影響し、武器を装備するための要求値として一定のDEXが必要なため、義務的に上げているプレイヤーがほとんどだった。

 しかし馬鹿にできない効果が一つあって、それが着弾予測円の精度の向上だ。

 安定性は予測円の収縮速度が上がり、精度は元の予測円が小さくなる。

 だからDEXも捨てがたいのだが……。

 

 色々と考えた結果、やはりAGI極振りにしようと決めた。

 GGOでAGI極振りが初期に流行ったのは、やはりその分かりやすい強さ故だろう。

 字面(じづら)だけ見て分かる万能な能力。GGOでは全員が同じ条件のため対策され廃れこそしたが、現実世界であれば猛威を振るうはず。

 そして私の一番の懸念点が、レベルがどの程度のスパンで上がるのかという問題だ。

 レベルがガンガン上がり、ステータスに満遍なく振り分けられるのならいい。けれどレベルがそこまで上がらないのだとしたら、やはり極振りにしなければ目に見えた効果は表れない。

 であるなら、先人に倣ってAGI極振りにする。他のステータスは後々考えていこう。

 

 そう結論付けて、私は夢の中に意識を落とした。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 それからしばらくして、私はサードリコリスになった。

 その間にあった事といえば、度重なる身体測定や身体検査、戦闘訓練や座学だ。

 そして、新たに判明した能力もある。

 

 ――弾道予測線(バレットライン)

 これは着弾予測円と同じく、GGOに存在したもう一つのシステムアシスト。

 相手が引き金を引くと同時に薄赤い半透明の光の筋となって表示され、放たれた弾丸は寸分違わずその軌道を通るというもの。

 この能力のお陰で、私の生存率は格段に上がったと言える。

 

 加えて、経験値の取得方法も判明した。

 その方法とは銃を撃つこと。

 けれども取得量は微々たるもので、だからこそ私は暇さえあれば射撃訓練をするようにしている。

 前世の知識もあって、座学の意味がほぼない私は、基本的に自由時間が多い。あるいはリコリスに必要な射撃訓練ばかりしているからこそ、放っておいてもらえるのかもしれないが……。

 

「またここにいたー」

 

 そんな私によく構ってくるリコリスが一人。

 ファーストリコリスを示す赤い制服をまとった少女――錦木千束(にしきぎちさと)

 私よりも先にDAに拾われた先輩であるが、その幼さでファーストになった強さは異常だ。

 戦闘訓練で複数人に狙われ、弾道予測線も機能しない至近距離で発砲されようと弾を躱してみせる。

 その立ち回りに、かつて十メートルの距離から放たれたヘカートの弾を光剣で斬ってみせたキリトの姿を思い出した。

 彼は言っていた。スコープのレンズ越しでも、私の眼が見えたから弾道を予測できたのだと。

 だから千束も、それに近い芸当をやってみせているのだろう。眼の動き、筋肉の動き、銃口の向き。何で判断しているかは分からないが、その観察眼はシステム外スキルといっても過言ではない。

 正直言って、今の私にそんなことはできない。

 だがもしも彼女のような存在が敵に回ったとしたら。その時に抗うためにも、私はもっと強くなる必要がある。

 

 そんな彼女が何故私のようなサードリコリスに構うのか。

 それは私と千束が度々模擬戦をさせられるから……というのが一番大きいだろう。

 千束の強さは異常と言ったが、周りから見た私もまた異常という訳だ。

 

「よっと」

 

 射撃場に入ってきた千束は、そのまま私の隣のレーンに入る。

 手に持つ小さめのガンケースを台の上に置き、中から取り出したのは真新しいハンドガン。

 その銃を手にした千束は感触を確かめるようにグリップを握り構えると、目標に向かって発砲した。

 だが、私の予想に反してその弾が目標に当たることはない。その後も撃ち続けるが、マガジンの弾を空にしても一発も命中していなかった。

 

「……何やってるの?」

 

 その(ざま)を見て、私は思わず呟く。

 

「んー? 新しい銃の試し打ち。いいでしょ?」

「全然当たってないようだけど?」

「お手製の非殺傷弾だからとか何とか。詩乃も撃ってみる? あっ、間違っても私には撃たないでよ? 当たったら死ぬほど痛いらしいから」

 

 ふふんと鼻を鳴らし、何故だか得意気な千束から銃を受け取り、私は構えた。

 今や見慣れた着弾予測円。そのサークルがいつもより粗く、目標を外側も含め広範囲に捉えている。

 なるほど。確かにこの銃は、一癖も二癖もあるようだ。

 だがこの程度の予測円だったら、今の私なら制御できる。

 

 ――結果として、私の撃った弾は全弾目標に命中した。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 気付けば私はファーストリコリスになっていた。

 周りからお祝いなどは特になく「詩乃ならなると思ってた」という反応がほとんどだ。

 そんな私がファーストになる少し前に、大きな事件があった。

 

 電波塔事件。

 

 東京を象徴する巨大タワーである電波塔が、テロリストに占拠された事件。

 そのテロリストを相手に千束は単身で乗り込み、テロリストを無効化した。

 

 事件以降、千束はDA本部から別の支部へと異動となった。

 手紙のやり取りをしているが、本人曰く元気にやっているらしい。喫茶店も近い内に開業するのだとか。DAの支部とは一体……。

 

「私もいよいよファーストリコリスか……」

 

 評価してくれるのは嬉しいが、まさか私も千束のように、単身でテロリストを制圧しろなどと命令されるのだろうか。

 私も強くなったとはいえ、さすがに勘弁してほしいなとため息を吐いた。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 錦木千束(わたし)にはリコリスの才能があった。

 それを私は否定しないし、周りから否定されることもなかった。でなければ、歴代最強などと呼ばれないし、ファーストリコリスになることもなかっただろう。

 

 そんな、ある日のことだった。

 電波塔事件が起こる前。私がまだDAの本部に配属されていた時、彼女と出会った。

 

「朝田詩乃です。本日はよろしくお願いします」

 

 一対多の戦闘訓練を終えた後、私の元へ連れてこられたサードリコリスの少女。

 私が何だろうと不思議そうにしていると、隣に立つ職員が言った。

 

「この子と一対一の模擬戦を行ってほしい」

 

 何を言っているのだろうと初めは思った。

 サードの子と二人で模擬戦。言葉の意味自体は分かるが、意図が分からなかった。

 

「私は錦木千束。よろしくね!」

 

 戦ってみれば分かるかもしれない。

 そんな浅はかな考えの元、私と詩乃は向かい合った。

 

 互いの距離は十メートル。使う銃は同じで条件に違いはない。

 遮蔽物も特にない開けた空間。

 正直、地の利は私にあると言っていいだろう。あるいは詩乃も、相手の動きを読んで、私と同じように弾を避けることができるのだろうか?

 だとしたら気を付けなければならない。

 

 スタートの合図であるブザーが鳴ると同時に、私は銃を構えながらも彼女の動きに注目する。

 構えは悪くない……が。

 

「(避ける気が、ない……?)」

 

 コンマ数秒の世界でそんな思考をしながら、私と詩乃はほぼ同時に発砲した。

 私の弾が命中し、水色のペイント弾で彼女の制服が濡れる。

 そして私は当然、彼女の筋肉と服の動きから弾道を予測して避けようとし――。

 

「――ッ!?」

 

 私の横をすり抜けていったペイント弾が背後の壁を濡らす。

 その結果をみた職員が静止の声を掛けるよりも早く、私は言った。

 

「もう一度。もう一度お願いします」

 

 うろたえながら返事をした職員の声など、毛ほども気にはならなかった。

 私は全神経を研ぎ澄ませ、詩乃の全身を視界に捉える。

 

「私は撃たない。だから詩乃は、私に当てるつもりで撃ってきて」

 

 私の言葉に詩乃は頷くと、ブザーがなった。

 いつも通りだ。いつも通りでいい。相手の動きを読んで、弾道を読んで躱す。

 

 ――それだけのことだったはずなのに。

 

 フルバーストで放たれた弾丸など、容易に避けることができるはずだった。

 なのに、それなのに。私は彼女の弾道を、終ぞ予測することができなかった。

 

 ペイント弾に濡れる私に、体調は悪くないかと心配してくる周囲の反応が酷く印象的だった事を覚えている。

 

 原理は分からない。

 だが確かに、私は詩乃の弾道を読むことができないようだ。

 より正確には『来ると思った場所とは見当違いの軌道で弾が飛んで来る』と言うべきか。

 ならば詩乃の射撃が滅茶苦茶なのかと言われると、それもまた違う。

 詩乃は決まって毎日、射撃場に入り浸っている。

 私も暇さえあれば彼女の隣で射撃を行って見ていたが、その精度は間違いなくリコリス随一だ。

 あまつさえ、私ですらまともに撃つことのできない非殺傷弾を使った銃を、全て狙い通りに飛ばしてみせるのだから余計に彼女の事が分からなくなる。

 

「詩乃の銃口は曲がってる!」

 

 いつからか私は、彼女に模擬戦で負けた時はそうやって怒るのが口癖になっていた。

 




 続きを書く予定はないです。

 以下、軽い設定や作者の考え等。
 GGOで着弾予測円は『円の内側のどこかに弾が飛ぶ』という性質があります。
 それは裏を返せば、弾が銃口から放たれた際に真っ直ぐ飛ばない、と解釈することもできます。
 なのでキリトに眼を見られることで負けたことのある詩乃は、千束との模擬戦の際はあえて狙いを絞らずに射撃をすることで、弾道を読ませないということが可能になっています。
 千束視点からすると、詩乃はちゃんと射撃しているのに予測とは全く違う軌道で弾が飛んでくるため、読むことができなくなっています。

 また、着弾予測円は弾がサークルの内側に飛び、撃ち手によって着弾点をコントロールできるということは、本来なら狙いが絞れるはずのない千束の非殺傷の銃の弾丸を真っ直ぐ飛ばすことも可能と捉えることもできます。
 なので詩乃は千束の銃を撃っても目標に全弾当てることができた、となっています。

 これらのことから千束は、詩乃の射撃の腕は自分以上と考えており、また弾の軌道が全く読めないため「銃口が曲がっている」と発言した訳です。
 それでも持ち前の身体能力で、模擬戦では詩乃に勝ち越しています。

 この二人の様子を当然、司令官である楠木や周囲の人間は把握しており、それが今後の物語を左右することになるかもしれません。

 歴代最強と称される千束。それに唯一単独で対抗できるとも言われる詩乃。
 二人のファーストリコリスの物語がどの様な展開になっていくかは、読者である皆様の想像にお任せします。

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