ポケットモンスターNAVY ~暴投モンスターボール~ 作:サンダーゴリラ
「迷い人よ、驚いたか。この城こそがプラズマ団の! いやゲーチスさまの科学力! 知識の結晶!」
チェレンとテラキオンが訪れた部屋は、いくつもの巨大なサーバや、あるいはチェレンにとっても見覚えのない装置が並んだコンピュータルームであった。
「我々はパソコンの預かりシステムにも忍び込めるようになった! 王の号令がかかればボックスのポケモンを奪い、解き放ってやるのだ!」
思わずテラキオンに、部屋の装置すべてを破壊するように頼もうと思ったが──仕組みを把握できていない以上、破壊行為は逆に危険かもしれない。一旦、預かりシステム侵入への対処は保留とし、チェレンたちはコンピュータルームを後にした。
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「オレは作戦として、ひとからポケモンを奪うべくNさまからポケモンを与えられ、行動をともにしてきた……。……そうして思うのは、ポケモンを手放すのは嫌だなあ」
ベルとビリジオンが訪れた部屋では、ひとりのプラズマ団員が苦悩していた。
「オレ……、プラズマ団に向いていないのかなあ?」
「……あのう、ポケモントレーナーには向いていると思いますよ?」
つぎに訪れた部屋では、プラズマ団員の女性がミネズミと向き合っていた。
「このポケモン、あたしに懐いちゃって……。あたしは単なる道具としか見ていないのに……、なんなの……?」
ミネズミは嬉しそうに女性にすり寄っている。ため息をつく女性は、困惑しているというよりも、悲しそうに見えた。
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「ぼくらを止めないの?」
さらに城を進む途中、知っている「気配」に気づいたアクタは、どこへ向けてというでもなく声をかける。
すぐにダークトリニティの男が現れた。彼らは容姿に見分けがつかないので、このダークトリニティが先ほどのダークトリニティと同一人物なのかさえわからない。
「てっきりぼくは、あんたたちともやり合うことになるかと思ってたけど」
「Nさまが真実の英雄か、お前との戦いでわかる」
あくまでもアクタを止めるつもりはないらしい。その点はNの意向に沿って行動しているようだ。
「お前がポケモンとともに歩むいまの世界を守りたいのか……。それもわかる」
「ぼくの望みは現状維持じゃない。言うなれば
アクタはダークトリニティに背を向け、コバルオンとともに階段を昇って行った。
──と、つぎのフロアに到着したところでまたもやダークトリニティの男が現れた。
「おわ!? な、なんですか、まだなにか用!?」
「………………」
男は無言で、とある部屋の入り口を指差す。
──どうやら先ほどの彼とは異なるダークトリニティらしい。紛らわしいな、とアクタは嘆息する。
「あの部屋はNさまに与えられた世界……」
「? Nの部屋ってこと?」
ここはプラズマ団の城で、Nはプラズマ団の王だ。ならば私室があるのも当然だろうが。
「わたしは入ってもなにも思わないが……、お前なら、なにか感じるかもな」
「え? どういう……」
アクタの疑問に答えることなく、ダークトリニティの男は消えた。
「なんかあいつら勝手だなあ。まあ、一応行ってみるか。──コバルオン、ちょっとここで待っててね」
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子ども部屋だ。
すくなくとも部屋の第一印象はそんなところだ。たくさんの玩具。部屋の模様はファンシーでポップ。
「……キッズルームって感じ。ほんとにここ、Nの部屋なのかな」
Nはアクタよりも年上に見える。彼の趣味がどんなものかはわからないが、10代半ばから後半くらいの男子の部屋にしては、あまりにも子どもっぽ過ぎる。
「でもなーんか……、違和感っていうか」
床に転がったバスケットボールには「ハルモニア」と書かれている。名前だろうか。
家庭用のバスケットゴールまで用意されているが──ゴールにはなぜか電車の玩具が突っ込まれている。
電車の玩具はほかにもレールとセットで広げられているが。未完成の線路でおなじ道を行ったり来たりしている。
あと目立つのは、スケートボードで使うハーフパイプが設置されていることだろうか。かたわらに積み重なったタイヤの上にはスケートボード本体も。
「こんなの、外に置いたらいいのに──ん?」
ハーフパイプにはあちこちにポケモンの引っかき跡が付いている。
壁には幾何学パターンがプリントされた、アートパネルが2枚。2枚目にはダーツが突き刺さっている。──パネルの隣には専用のダーツの的が掛けられているのに。
「ぼくもノーコンだから気持ちはわかる」
その他にも、トイボックスのなかには新しい玩具が用意されている。
「……年齢の割に玩具の趣味が幼いことも、遊び方がちょっと変わってることも、大して気にならない。でもそれらとはまたべつの違和感が──」
あらためて、アクタはぐるりぐるりと部屋を見渡す。目を回してしまいそうなほどに。やがて──
「ああ」
気がついた。
「この部屋、窓がないんだ」
それだけではない。
ここは、Nを閉じ込める牢獄だ。
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廊下の雰囲気や、昇ってきた感覚からして、おそらくここが最上階。
そして長い廊下に存在する扉はただひとつ──ならばあそこが目的地と見て間違いないだろう。
「ようこそ、ダークストーンを持つ者よ」
扉の向こう側から突然、豪奢なコートの男が現れた。
「……あんたか」
ゲーチス。
「ポケモンリーグを包み隠すように出現した城は、イッシュが変わることを意味するシンボル」
モノクルの老人は大仰に手を振りかざす。
「その城の王は伝説のポケモンを従え、チャンピオンを超えた最強のトレーナー! しかも世界を良くしたいという、熱い思いを胸に秘めている! これを英雄と呼ばずして、だれを英雄と呼ぶのです?」
「………………」
「ここまで舞台装置が整えば、ひとびとの心は掴める! いともたやすくワタクシの……いや、プラズマ団の望む世界にできるのです! ワタクシたちだけがポケモンを使い、無力な人を支配するのです」
「舞台装置かよ、エヌは」
「長かったぞ!」
ゲーチスは、睨む少年を無視してさらに続ける。
「計画を悟られぬよう息を潜めていた……。苦しみの日々も終わる!!」
「あんたには言いたいこと、訊きたいことが山ほどある。たぶん、あんたがいちばん悪いやつなんだろうな」
アクタは、握りしめた拳をゆっくりと解いた。
「でもいまは、あんたごときに構っている場合じゃない。もっと大事な用事があるんだ。──そこをどけよ、
「……もちろんだとも」
慇懃無礼な態度を崩さず、ゲーチスは悠々と道を開ける。
「さあ! ダークストーンを持つ者よ! この謁見の間にて、自分にも英雄の資質があるか確かめればいいのです!」
少年とコバルオンは歩を進める。
「──そしてもうひとりの英雄を下してこそ、我らが王の価値は高まる……」
すれ違いざまのささやきを無視する。
負ける気などないからだ。
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水場に囲まれた真っ白な足場の先には、玉座があった。
「エヌ。来たよ」
一応、声をかけると、玉座の青年は顔を上げた。
いつもどおりの黒い帽子。いくら大きな椅子に座っていても、王様になんか見えない。
「ボクが望むのは、ポケモンだけの世界……。ポケモンはひとから解き放たれ、本来の力を取り戻す」
玉座から降りた青年は、ゆらゆらとこちらへ歩み寄る。
「……さあ、決着をつけよう。ボクには覚悟がある! トモダチのポケモンたちを傷つけても信念を貫く! ……ここまで来たからには、キミにもあるんだろう?」
「傷つける覚悟? ぼくはそんなもの、持って来ちゃいない。考え方が違うんだな」
アクタもため息交じりにNのもとへ歩く。
「ポケモンと人間、一緒に戦うことは『傷つける』って言わないよ。むしろポケモンの真価は、人間とともにあることで発揮されると思う」
──などという持論も、きっとNの心には届かないだろう。
「だからぼくの持ってる覚悟は、あんたに勝つ──プラズマ団をぶっ潰す覚悟、ってところかな」
ここまでの道のりでわかった。
たぶんそれは、
「ふうん」
バトルフィールドになるであろう、中央の広場にてふたりは対峙する。
「ボクと雌雄を決する覚悟でここまでキミはやってきた……」
「………………」
「……だのにゼクロムは反応しないんだね」
ダークストーンは、いまだにカバンのなか。
「まだキミを英雄と認めていないのか。がっかりだね。……ボクは少しだけキミのことを気に入っていたのに」
「………………」
「幾たびも勝負を重ねるうちに、ポケモンを大事にするトレーナーかもと感じたのに!」
「なんだか失望させちゃったらしいけど、ポケモンのことは大事にしているよ。とても」
しかしNは首を横に振る。否定ではなく、なにかを振り切るように。
「……キミとの絆なんてボクの思い込みでしかなかった! やはりトレーナーが勝負をしても理解し合うことなんてない!」
「あんたも大概、頑固だよなあ! ──まあ、そういう立場っていうか、そうならざるを得なかったというか、難しい立場らしいことはわかるけど……」
だからこそいま、アクタにできることはただひとつ。
「キミにできることは
「違うね。あんたに勝つ。そうすることで、あんたを呪縛から解放する。ぼくがやるのはそれだけだ」
そう。この城に来たことでよくわかった。
呪縛だ。
Nは、呪われて、縛られている。
「戯れ言を──おいでレシラム!」
Nが右手を上げたその直後、玉座の背後の城壁が破られた。
壁を破って現れた白い影──レシラムが降り立つ。
巨大な尾が赤く燃える。熱気はフィールド全体に広がって、水場が干上がった。
「……っついなあ」
アクタとコバルオンは熱気に顔をしかめる。水を干上がらせるほどの熱だが、生物へ直接ダメージが無いのだから不思議だ。
「そうなんだよなあ、レシラムってほのおタイプ……。ということははがねタイプを持つコバルオンとは相性が悪いんだ。ドラゴンタイプも持っているだろうから、ダイケンキで有利を取れるわけでもないだろうし──」
実戦に向けて思案を巡らせていると。
「……?」
カバンに違和感が。
否、違和感どころではない。カバンのなかで明らかに
なにかというか、わざわざ取り出すまでもない。──うごめいているそれは、ダークストーン。
「!」
Nも異変に気づいて後ずさる。
「キミのダークストーンが……! いや、ゼクロムが!」
ひとりでに、ダークストーンがカバンから浮かび上がる。黒い球体は淡い光を放ったかと思うと──周囲から黒い、黒い、オーラのようなものを吸収し始める。
オーラを取り込んだダークストーンが、それを強烈なパワーに変換し──
「そうか、間に合ったんだね」
少年は誘われるように、黒い光のなかに歩み寄る。
黒い、光のなかに。
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全身漆黒。背中に翼を携えた巨竜。瞳は赤く、巨大な尾はモーターのように回転を始めたかと思うと、青白い光を放つ。
「やあ。ぼくはアクタです」
向かい合ったゼクロムに、とにかくアクタは挨拶をした。
黒い空間だった。
あの半壊した玉座の間から、いつの間に瞬間移動したのだろうか。Nの姿もコバルオンの姿もない。しかし腰にはモンスターボールが4つ揃っている。
ここはどこ? 一体なにが起こった? ──なんてどうでもいい。ゼクロムの赤い瞳はアクタをまっすぐに見据えている。
だれのものでもない、いわば『野生』のポケモンであるゼクロムと向き合っているのだ。ここがどこだろうと、やることはひとつ。
「きみを捕まえる」
さっそく投げたモンスターボールは、さっそくあらぬ方向に飛んで行った。