神様転生したけど、冷静に考えたら幽霊とかお化けが怖いので超絶除霊チート能力をもらった。   作:尋常時代

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ちょっとだけ注釈なしバージョンも書いてみました。すこし長くなりましたがよろしくお願いいたします。


嘘と虚飾と勇気と希望。露出を添えて

 市立十月学園の教師であった私は、何やら奇怪な事件に巻き込まれているのだと思う。

 

 留置所内で何やら恐ろしいコートの男に手をつかまれたと思ったら気を失い、いつの間にかどこかの学校へと隔離されていた。

 

「……まったく意味が分からない」

 

 私にとってはそれが正直な感想だった。

 

 おかしなことが起こり始めたのは去年の夏休みからだった。それまではただ漠然とした違和感があっただけで、はっきり異常だと認識したのは今年の二学期が始まってからだ。

 

 ある日、私が学校に出勤すると、既に登校していた生徒たちが騒いでいたのだ。

 

 なんでも校門の前に不審人物が立っていたとかで警備員とひと悶着あったらしい。

 

 その時は私の趣味のこともあり、まあまだ暑いからなとは思っていたのだけれど、その後も同様のことが何度も続いたことでさすがに疑問を持った。

 

 二学期が始まって一ヶ月ほど経った頃だろうか。職員室で朝の挨拶をしている最中、ふいに視界の端に見慣れぬものが映った気がしてそちらへ顔を向けると、そこには誰もいなかったのだが、そのとき確かに何かを見たという確信があり、その日一日ずっと落ち着かなかったことをよく覚えている。

 

 そしてその日の放課後には、またも見間違いかもしれないと思うような出来事に遭遇した。

 

 それは帰り支度をしていたときのことだった。教室を出て廊下を歩いている途中、窓の外を見るとグラウンドの向こう側に人影のようなものを見つけたのだ。慌てて窓から身を乗り出して確認したが、やはりそこには何もなかった。

 

 しかし次の瞬間、背後から肩に手をかけられて思わず悲鳴を上げてしまったことは今でも申し訳ないと思っている。振り返るとそこにいたのは私のクラスの男子生徒であり、どうやら様子がおかしい私のことを気にかけてくれていたようだった。

 

「先生、何か困っていることがあったら格安で受けてやるから、気軽に言ってくれな」

 

 そう言ってくれた彼に嬉しさを感じなかったといえば嘘になるだろう。しかし、私は大人なのだ。このような小さい子に頼るのもバツが悪い。彼の名前を思い出そうと思ったが、出てこなかったことを申し訳ないと思いながら感謝しつつその場を離れようとしたところでさらに不可解なことに気が付いた。彼が私の後ろをジッと見ていたことである。

 

 今思えばこの日から少しずつおかしくなっていったように思う。

 

 

 それから数日の間、趣味の散歩をしていると私は毎日のように誰かの視線を感じていた。誰もいないことを確認してからコトを行っていたので、最初は気のせいで済ませていたが、次第にそうではないと確信していった。なぜなら明らかに何者かによる監視を受けているからだ。

 

 はじめのうちは気にしないようにしていたが、それも三週間ほど続くと恐怖の方が勝ってきた。だからといって相談できる相手などいるわけもなく、私は一人で悩み続けた。しかしそんな日々にも終わりが訪れる。

 

 きっかけは些細なことだった。いつも通り散歩をしていると、自宅マンションの前を通り過ぎそうになったときに突然声をかけられたのである。

 

 驚いて立ち止まり振り向くと、そこにいた人物を見て絶句した。なんとその男はつい先日まで近くの中学校で教鞭をとっていた教師だったからである。しかもそれだけではなかった。彼は私に向かってこう言ったのだ────と。

 

 

 

 あの時感じたのは言い知れぬ悪寒だろう。背筋が凍るというのはああいうことを言うのかと思ったものだ。

 

 だがそれ以上に衝撃的だったことといえば、彼の口から語られた話が本当であれば、私が──を行っているということを知っているということになる。これはもう決定的だった。そして、彼もまた……

 

 私が──を行うに至った経緯についてはここで語るつもりはない。ただ言えることがあるとすれば、私にとって他人とは自分を理解できない生き物だという事だ。本音を隠し、建前で世界を生きる彼らのことが怖い。なぜ自分のありのまま生きることができないのか、と。

 

 教師として、自分もまた生徒に向かって建前と虚飾を口にする私が、どんなに非常識で矛盾したことを口にしているか分かっていながらも思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 だからこそ、私がこうしてここにいることが不思議でしょうがない。

 

 ここは一体どこなのか? 私は何故こんなところにいるんだろう。

 

 不可解な二学期を乗り越え私を待っていたのは町を張り込む警察との激突。全国裸トレンチコート通信の突然の廃刊。同志たちが突如連絡を絶ったことなど。それらの冒険を経て、たどり着いた留置所生活だったが、それでもまだわからないことだらけだった。

 

 

 

 

 そしてあの不気味なトレンチコートの男である。彼はいったい何者だったんだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 今までのことを思い返しながらも、私はとにかくこの不気味な状況から逃れるために行動を起こすことにした。

 

 まずは周囲の確認を行うべきだろう。私は直接肌を刺す冷気に身を震わせつつ身を起こした。

 

 どうやら今は夜らしい。部屋の中は薄暗く明かり一つ点っていないため真っ暗だった。

 

 室内には小さな机とイスがあるだけで他には何もなく殺風景な部屋ではあるが、外に続くドアがあることだけは確認できた。

 

 とりあえずここから出るしかなさそうだ。

 

 私は立ち上がると、足下に注意しながらゆっくりと外へ出た。

 

 するとそこには驚くべき光景が広がっていたのだ。

 

 私はしばらく言葉を失っていたことだろう。目の前に広がる異様な景色を前にして呆然としていた。そして、その景色が何を意味するものかを頭の中で整理するのにかなりの時間を要した。

 

 そして、その結論に至ると同時に、私は全身の血の気が引いて行く感覚を覚えたのだ。

 

 目の前にあるものは、到底信じられないような出来事だった。

 

「露出老子!?」

 

 紫コートの老人を見つけて思わず叫んでしまったのも無理からぬことだ。

 

 なにしろそこには、間違いなく露出狂の聖人とも言える有名な人物が倒れていたのだから! しかし、よく見ればそこかしこに見覚えのある人物が倒れ伏している。露出年数によって階級分けされた色とりどりのコートが目に厳しい。

 

「な、なぜあなたほどの人が……?」

 

 思わず呟いてからハッとした。まさか彼らまで私と同じ境遇に陥ったというのだろうか……? 

 

 しかし、そんな私の疑問はすぐに解消された。

 

 なぜなら、その答えを示すように一人の男がこちらへ歩いてきたからだ。

 

 スーツ姿の男は私達の姿を見つけると笑顔を浮かべて言った。

 

 

「やあ社会のごみども、君たちには失望したよ。やはり人間は愚かだ」

 

 なにをいうか! 平然と他人を馬鹿にするその姿に思わず叫びそうになる。

 

 だが、すぐに冷静さを取り戻す。なぜなら、この男の笑みはどこか邪悪なものだったからだ。

 

 私は警戒しつつ相手の出方をうかがう。

 

 

 しかし、私の予想に反して、彼は特に何もしてこなかった。それどころか両手を上げて降参の意を示したのである。

 

 どうやら戦う気は無いようだと判断した私は、慎重に口を開いた。

 

 この異常な状況下では少しでも多くの情報が必要だからだ。私は相手が何者かも分からない状態で、相手を刺激しないように細心の注意を払って話しかけた。

 

 できるだけ刺激しないように心がけながら、私は相手に質問を投げかける。

 

「私たちをどうするつもりですか」

 

 誰だとは聞かなかった。顔を隠した相手に誰何したとして、帰ってくることはないだろう。私も答えたことはなかった。

 

 しかし、男から帰ってきた返答はあまりにも予想外のものであった。

 

 男は私に向かってこう告げたのである。

 

 

「お前たちにとある少年を──―してもらいたいのさ」男はそう言うと、私達に背を向けた。

 

 そのまま立ち去ろうとする彼の背中に向けて、私は慌てて声をかける。

 

 このままではいけない、なぜか私は直感的に思ったのだ。

 

「そんな非道なこと!! 誰がするものか! 卑劣な心で人を傷つけようなど、許せるはずがない!」

 

 露出老子や露出太師も、露出貴公子も、最悪の露出世代と呼ばれた若者たちも、おそらくこの尊敬すべき同志たちは正しい勇気を胸に、正しき怒りと友とし、この恐ろしい男に立ち向かったのだ! 

 

 倒れ伏した勇士たちの姿を見て、私は決意を新たにする。

 だが、男は振り返ると、そんな私を見て、彼は馬鹿にしたかのような表情で鼻を鳴らした。そして 私に向かってこう言った。まるで悪魔のような表情で──

 

 ──もう遅い。

 

 

 

 その言葉とともにあの恐ろしいトレンチコートの男が現れ、倒れている仲間を次々と連れ去っていく。

 

 体を支配するかのような悪寒に、動けなくなった私はただそれを見ているしかなかった。

 

 やがて、仲間の露出達が全員連れ去られるのを見届けた後、私の意識もまた闇に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 薄暗い廊下を彷徨いながら考える。考えることをやめてしまえば恐ろしいことになる気がした。

 

 いったいここはどこなんだろうか? なぜ私はこんなところにいるんだろう? 先ほどから同じ事ばかりを考えてしまう。

 

 ぼんやりとした頭で、それでも必死になって考えるが、何もわからなかった。

 

 ただ一つだけ言えることがあるとすれば、いつの間にか学校にいて、誰かを探しているということだ。二つあった。

 

 どんどんと増える、色褪せたトレンチコートの男達、彼らもまた誰かを探しているようだ。彼らは私を見ると何かを言ってきた。

 

 しかし、彼らが何を言っているのかわからない。

 

 私は彼らの言葉を理解できないまま、ひたすら探し続ける。

 

 ふと気がつくと、私の前には階段があった。それを上りきれば屋上に出られるだろう。

 

 不思議なことに、そう、私はきっと自分の意志ではなく、なにかに操られているのだ。とわかる気がした。

 

 だが、私がこうしてなにかに操られていながらも探しているのは、自分の無意識に従っているのだと思う。探しているものが、あの邪悪の、この恐ろしいものを打ち砕く、正しき勇気を持った希望の光だと。そう信じるのだ。

 

 私は恐怖を感じながらもゆっくりと歩を進める。そしてある扉の前へとたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その中にいたのは、()()()()()()小さく震えている子供の姿があった。私が近づくとその子は怯え、後ずさった。

 

 その時、私はその子の悲鳴を聞いた気がしてハッとする。頭の中の霧が消え去った気がした。

 

 そうだ、私はこの子を守らねばならないのだ!  私は正しい勇気を胸に、この小さな子を守るために立ち上がったのだった。

 

「お、落ち着き給え、私だ。君の担任だった男だよ」

 

「せ、先生? いつからそこに? なんですかその恰好は?」

 

 彼はいきなり現れた私に混乱しているようだった。無理もない、この異常な状況では信用できるものが少ないのだから。

 

「ああ、これか。似合っているだろう? 最近はトレンチコートおじさんが流行りじゃないか。君も一緒にどうだい? 私のお古をあげようか?」

 

 私はなぜか色褪せてはいるが、赤色の分厚い生地のロングコートに身を包んでいた。しかし、暖房のついていないこの状況は小さな子供にはあまりに酷だろう。真冬のこの季節だ。寒いだろう。

 

 そう思い私はこの肌を刺すような冷気から少しでも身を守れればいいと、警察に追いかけられた時の変装用に持っていた黒トレンチコートを渡そうとしたが、彼は私を気遣ったのだろう。それを拒否した。やはり優しい子供だ。

 

 だが、そんなことは今はいいのだ。目の前に立っているこの少年こそが私の教え子であり、この学校でたった一人の守るべき、優しきこの少年を無事この学校から脱出させなければならない。

 

 私は彼を安心させるために優しく微笑みながら、ちなみに来たのはついさっきだよと、そう言ってにこやかに笑った。

 

 だが、この子を守るべく気を張っていたから、うまく笑えていたかはわからない。

 

「せ、先生。あの男の人達は、一体なんなんですか?」

 

「さあ、知らないね。あんなの初めて見たよ。きっと変質者なんじゃないかい?」

 

 少年の不安を少しでも取り除こうと、私は彼の言葉に即応した。もちろん知っていたが、事実を話しても余計に彼を混乱させ、不安にさせてしまう。決して彼を傷つけるつもりはない。

 

 嘘や虚飾は嫌いだ。だが、忌々しいことに時に必要なのも事実なのだ。露出行為する私をトレンチコートが時として体を隠すように。

 

 私も怖い、だが彼はもっと怖いだろう。不安にさせることなど、少ないほうがいい。

 

 大丈夫だと何度も言い聞かせてあげると、彼は少し落ち着いたようだ。

 

 私の言葉を聞いて、確かにそうかもしれないと納得してくれたのかもしれない。

 

 今更ながら私はそんな彼を見て、警察に連絡しようかとも考えたがそれは止めておくことにした。

 

 そんなことをすれば、あのスーツ姿の男や、トレンチコートの怪人によってこの子にも危険が迫ってしまうかもしれない。

 

 それは避けたかった。きっと朝が来れば、この状況も解消されるはずだ。私も朝までには止めていたからわかるのだ。

 

「心配はいらないよ。君は私が守ってあげるから」

 

 それに、私はこの子のことをよく知っている。

 

 彼は正義感が強く、勇敢で、そして何より心優しい男の子なのだ! きっと助けが来るまで、朝が来るまで大人しく待っていてくれるはずだ。

 

 私はそう信じた! 名前は知らなくてもわかるものがあるのだ。

 

 彼を、守らなければ。

 

「それより早く逃げよう。ここは危険だ」

 

 私は彼の手を取り、廊下へと続く扉を開けようとした。

 

 

 

 だが彼に拒絶された。自分一人で歩けるということだろうか。手を振り払われた悲しみとともに、彼の勇気を少し頼もしく思った。

 

 その時だった。彼に拒絶された際に何か体から良くないもの、あの恐ろしい男に植え付けられたなにか悪いものが彼のほうへと抜けていく感覚とともに、私の体もまた、何かが抜けるように力が入らなくなった。

 

 思わずその場に倒れそうになるが、ここで倒れれば彼を不安にさせてしまう。

 

 だから、私は廊下の扉を背に、なんとか踏ん張ることに成功した。廊下を開けて、彼を安全な場所へ……

 

 この子の前では決して倒れるわけにはいかない……と、その時だった──―

 

「……へ、変態!?」

 

 

 

 廊下を出た瞬間、巫女服をまとった少女が私に向かってそう叫び、私は全身を駆け巡るような衝撃を受けた! このトレンチコートを身に纏った私の姿を見て、その一言を発したのだ!! なんということだ。まさか、こんなことになろうとは──―!!! 私はあまりの興奮とショックに頭が真っ白になり、意識が遠のくのを感じた。

 

 まずいこのままでは──―

 

 廊下へ倒れこみながら、巫女服の彼女を見やる。子供だ。彼女もまた、彼と同じく私たち大人が守ってあげるべき子供だった。

 

 誰か……誰かいないのか……子供たちを守ってあげなくては……

 

 薄れゆく意識の中で、誰かの助けを呼ぶ声を聞いた気がした。

 

 

 

「御婆様~! この数の変態はワタクシ一人では何にもできませんわ~! ターボで来てくださいまし~!」

 

 そんな彼女の悲痛な願いを聞き届けたのは、果たして誰だったのか。

 

 私はそこで完全に力尽き、床に倒れた。

 

 だが、その時私の頭の中にはなぜか愛すべき我が生徒たちの顔が浮かんできたのだった。

 

 

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