獣拳のヒーローアカデミア   作:魔女っ子アルト姫

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第50話

『―――っ……』

 

口を紡ぐしかなかったのだ、言葉を発する訳には行かなかったのだ、身体を動かす訳には行かなかったのだ。身体がいかに血に染まろうとも身体を動かす訳には行かなかった。

 

『この位にしておくか、予定通りに末裔の血を捧げる事は出来たのだからな』

『至高の御方の乾き、これにて僅かにでもか分か瀬す事が出来たのならば僥倖』

『『『『『全ては至高の御方の為に』』』』』

 

言葉の意味は理解出来なかった、だが奴らが自分の家族を……いや街を崩した事だけは分かっている。一体何者だったのか……何も分からず、自分は生き残ってしまった。様々な犠牲の上に偶然生き残った自分は何も救わず、何も行わず……その後悔を忘れた事は無く、薄れた事も無い。あの地獄を忘れた事なんて……一度も。

 

「おい、零一」

「……なんだ」

「臨気、漏れてるぞ」

 

精神統一を行っていた零一だが、如何にもそれが上手く行っていないのか臨気が漏れている。それを紫道に指摘されてしまう、気を落ち着けながらも溜息を吐き出した。

 

「お前にそんな事を言われるなんてな……ったく俺も修行が足りないな」

「ホントにアンタ、俺に対して棘あり過ぎません事?」

「当然の処置だ」

 

座禅を解きながらも冷蔵庫から麦茶を入れて一気飲みする。その様子に紫道は何処か心配そうな瞳を作って見つめる。

 

「なあ、お前まさかまた暗黒咆と漆黒咆で……」

「……分かってる筈だ、あれは俺にとって無くてはならない記憶だ」

 

そういうと自分の部屋へと向かって行く零一、もう直ぐ登校時間だからだろうが幾らなんでもあんな姿を見せられれば不安にもなる。精神統一をしている最中に臨気を荒げて漏れださせるなんて事は今までなかった。それこそ出来ていなかったのは完全なコントロールができていなかった昔だけだった筈……零一の中で何かが変わり出そうとしているのかもしれない……。

 

「にしてもさ、俺の編入試験もお前の期末試験の最終日に合わせるってなんかあれだな」

「そっちの方が楽な面もあるだろう、纏めてやれるからな」

「アハハ……ああ、不安だ……」

 

乾いた笑いを浮かべている紫道を連れて、零一は共に雄英へと向かうのであった。そして雄英では零一は期末の三日目が行われる事となった、これでも成績は優秀な方である零一。鍛えるのは身体だけではなく頭の中も確りと行っているという言い証明になっているのか、中間テストのクラス内順位は轟と同率で5位であった

次は実技試験。場所は実技試験会場中央広場、そこでコスチュームを纏ったA組を待っていたのは……プロヒーローでもある教員の面々であった。

 

「それでは演習試験に入る。当然これにも赤点はある、補修地獄に遭いたくなきゃ死ぬ気で乗り越えてみろ」

「あれ、先生多い……?」

 

全明らかに先生の数が多い。相澤にエクトプラズム、セメントスにミッドナイト、13号にパワーローダーと雄英が誇る教師陣が集結している。ヴィランが前にしたら絶望必死だろう。だが慣れ親しんでいる生徒達からすればそんな事は考えていなかった。何故ならば事前にテストの情報を手に入れている―――そう、先輩から話を聞いた結果ロボを相手にした戦闘だと聞いているから―――

 

「尚、君達なら事前に情報を仕入れてこの試験の事を聞いてるかもしれんが生憎その情報は無駄になった」

「「……えっ」」

 

その言葉に絶望し真っ白になったのは上鳴と芦戸であったこの二人に共通しているのは対人相手では全力で個性を使いづらいという事。だがロボ相手ならば一切の加減をする事なくぶつかっていけると踏んでいたのだが……どうやら変わっているらしい。

 

「残念!!今回から内容を変更しちゃうのさ!!」

『校長先生!!?』

 

相澤の捕縛布の中から顔を出す根津、その口から語れるのは変更するのは試験をロボから対人戦、つまり教師との対決へと変更。ヴィランの活性化を警戒してより実戦的な物に変更し、より高みを目指した教育の為との事。そして、これから行われるのは二人一組か、三人一組での教師と戦う試験となる。

 

「ペアの組と対戦する教師は既に決まっている。動きの傾向や成績、親密度…その他諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」

 

発表されていく組み合わせ、零一は一体どうなるのかとドキドキしながら待っていると遂に自分の名前が呼ばれた。

 

「無月、お前は―――」

 

 

 

遡る事数日前の事、学校の一室では教師らが集まりA組の演習試験についての検討が行われていた。試験の変更理由はヴィランの活性化、生徒達を危険に晒さない為に教師は何をするのか、そう言われたら生徒達を更に強くすること。その為に壁になる、それが変更理由だった。その試験においての組み合わせを話し合う為の会議だったのだが……今年のA組は21人、例年より一名多いので一人を増やした三人一組を作る場合は如何するか、そんな協議も行われている中でその生徒の名前が挙げられた。

 

「続いて無月ですが……こいつを如何するかです」

 

そう言われて校長を含む全員が首を縦に振る。

 

「戦闘力は言わずもがなですが、それは全く個性に由来する事のない自らを鍛え抜いた末の自力、故に俺の抹消で個性を消すにしても意味はない」

 

例えを出すとすれば、以前の轟ならば故に個性を主軸にした立ち回りをしていた為に相手の個性を一時的に使えなくする相澤ならば上手く立ち回る事が出来る。だが零一の場合は無個性であるので相澤の個性でも封じる事は出来ない。

 

「加えて自分の中の獣だったか、それを具現化させることまでも出来てしまう。それに……保須市でのこれもあります」

 

そう言いながらも各自に配られている一番の紙、そこにはでかでかと保須市での巨大戦を映し出した紙があった。まさか此処までの事が出来るのは予想外だった、入試でも零一はライガーを呼び出す事で0ポイントのロボヴィランを撃破しているが……此処までの事も出来るのは予想外だった。

 

「う~ん……編入試験の方もあるのに結構な難関ねぇ」

「此方も此方で獣拳使いが来るとは……」

 

今年の雄英の編入試験は期末に合わせて行う事になった、が問題なのはその生徒。紫道 狼我、零一と同じく獣拳を修めており彼とは友人関係であるらしいとの話が相澤から上がってきている。しかもその実力は零一に匹敵する者だと思われる、そんな相手に誰がやるか……と思う中で校長の根津が妙案我に有、と言わんばかりに手を上げた。

 

「良い事を思い付いたよ、無月の相手は僕がしよう」

「良いんですか校長、貴方には芦戸と上鳴のペアの相手が決定しておりますが」

「問題ないよ、肉体的な事じゃなくて頭脳的な労働をするつもりだからね。パワーローダー、頼んでおいたロボの脳波制御デバイスは出来てるよね?」

「ええ、後はテストするだけですが……校長まさか」

「そのまさかさ!!より優秀な生徒には、より高い壁を用意する、それが雄英であるPLUS ULTRAさ!!」

 

 

「まさか、こんな試験方式とはな……」

「全くだ」

 

無月 零一、紫道 狼我。共に市街地を模した試験場へとやって来た、そして言い渡されたのは……此処で互いに戦う事、試験官は根津校長、勿論根津を確保すればクリアなのは変わらないが……それ以外にもクリア条件はあるという。

 

「三つ巴か」

「単純じゃねぇなぁ……零一を確保してもクリアじゃないらしいし、俺のクリア条件が全然見えない」

「自慢の鼻で嗅ぎ分けてみろ犬っころ」

「狼っだっつの!!」

 

例えどんな条件でクリアなのかは分からない、だがやるだけ、そして見極める事もきっと良い修行になる筈だ。

 

「轟け、獣の鼓動!!臨気激装(ビースト・オン)!!」 「目覚めろ、獣の咆哮!!ビースト・オン!!」

 

「勇往邁進。魂から全身へ、猛る勇気の力―――勇者の魂(ヒーローズ・ソウル)!!激獣ライガー拳、無月 零一!!」

「艱難辛苦を乗り越えて、辿り着くは己の境地―――貫き通した情熱(ペネトレイト・パッション)!!激獣ウルフ拳、紫道 狼我!!」

 

互いにビースト・オンを行い、その身に激気を纏った姿となった。そして―――

 

【試験……READY GO!!】

 

「ハァッ!!」

「ダァリャ!!」

 

互いの拳が炸裂し合い、周囲に衝撃波が四散する中……試験は始まりを告げる。

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