アプデ後、任務を進めながら考えた妄想。
ずっとこんな感じがいいなーと思って進めてました。100%捏造なのでおかしいところがあっても気にしないよという人だけ読んでくれると幸いです。ネタバレはない筈。

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ティナリがブチギレるのを見たいという話

 

 旅人とスカラマシュの戦いの余波がここまで響き渡ってくる。

 実際に見なくてもわかる。激しい戦いだ。彼女はモンドで龍を、璃月で執行官を、稲妻で神を打倒したと言っていたが、今回も同じように上手く行くのだろうか。建物が崩れてくる。きっと、聖居はこの激しい戦いに最後まで耐えられないだろう。だから、早く済ませてしまおう。

 旅人は無事に帰って来れるだろうか。

 僕らの神様は、ちゃんと解放されるのだろうか。

 事が済めば、あの子は病から解放されるのか。

 頭の中に湧き出すのは、下らない心配事ばかり。ここまで来ておいて、僕の頭は一つの物事を考え続けることを許してくれないようだ。本当に、僕は厭な学者だ。

 

 彼女は頼りなさそうに笑うし、レンジャーの仕事はまるで向いてないし、いつも煩くて仕方ない。でも、何となく。こういう時は絶対に信頼できると、僕の感が言っている。だから、僕は僕のやりたいことだけを考えよう。

 

 思考を切り替えるんだ。余計な心配をする必要は無い。一度託した以上、余計な気を揉むのは無粋で、効率の悪いことだ。それは、僕らしくない。

 そう、僕らしくないんだ。

 村を出て、この国の大きなうねりに身を投じるばかりか、最も危険な場所の近くに留まり続けている。

 可笑しいな、自然と笑みが溢れる。あの旅人と出会うまでは僕はこんなのではなかったはずなのに。自己の変化を嫌う学者は多いけど、今はただ変わったことが心地よい。

 さあ、行こうか。僕のやりたいことを成し遂げよう。

 

 

 聖居直下、地下空間。

 ファトゥス第二位、博士は地上の風景を映し出し、全てを俯瞰していた。

 出入口が階段一つだけの、殺風景なそこは博士が作った絶対安全空間だ。例え地上で大量の爆弾が起爆してもビクともしない設計になっている。味方の一切も信用しないファトゥス第二位の男の最後の備えだ。誰もこの空間の存在を知らない。

 事が失敗に終わっても彼を探す手は外へ向かうだろう。ほとぼりが冷めるまでここで過ごし、無用な戦いを避けるのに最も適した場所だ。

 博士の目には、何もない。

 興奮も、悲観も、驚愕も、愉悦も、そこにはない。空虚な孔が二つ、仮面の下にあるだけだった。国を揺るがす悪事さえ、博士の心を動かさない。その成功も失敗も、残兵の憎悪の行く末も、彼の感情を呼び起こさない。

 

 故に、彼は意外を知らない。彼の人生に起こり得なかった、想定外を知らない。何よりも、この場に、敵が現れる事を、知り得ない。

 

 

 足音が響く。黒と緑の髪が揺れる。博士しか知らないはずのこの場所に入り込んだ異物は、止まっていた博士の思考を動かしていく。想定外への対処、即ち武力での抹殺へと。

 

「ずっと、考えていたんだ。こんなことは僕らしくない。放っておいた方が簡単な事に介入して、危ない橋を渡っている」

 

「独白を聞く趣味はない。答えを聞くまで待つ気もない。ここを知ったのなら、屍を晒す他に道が無いと知れ」

 

 博士を中心に元素力が吹き荒れる。空間が歪む程の力を前に、侵入者、ティナリは涼しい顔で姿を晒す。

 

「何をそんなに焦っているんだい?ああ、もしかして、あの杜撰な監視と隠蔽に自信があったのかな。だとしたら、さぞめでたい脳味噌を持ってるんだろう。あんなの、レンジャー隊でも簡単に対処できるさ」

 

「笑止。ここに至るのを可能にしたのはお前一人の力だということは理解している。安い挑発は必要ない。お前の死は変わらぬ運命故に」

 

「そうか。でも僕は君に聞きたい事があってきたんだ」

 

「聞く道理がない」

 

 博士が手を挙げる。ティナリの目には、部屋の至る所に収束していく元素力が映る。

 

「発射」

 

 手を下ろすと同時に博士が呟く。

 収束した元素力が、解放される。幾百もの光線が、侵入者を撃滅せんと殺到する。

 凡百の人間なら、例え神の目を十全に扱ったとしても死は免れない状況。絶望と後悔を感じる間もなく命を霧散させる他ない絶死の輝き。

 しかし、ティナリの目は確かに全てを認識し、瞬き程の間に三度、矢を放ち、事をおえる。

 内包した元素力を解放した矢は一瞬のうちに分裂、幾百の光線を全て相殺した。それに留まるどころか、緑の矢は曲線を描いて博士へと迫る。博士は気にした様子もなく、無造作に手をかざし、元素の矢を全て打ち消した。

 異常な光景はすぐに収まった。二人は依然として、飄々とした態度で佇んでいる。博士の兵器による攻撃と、ティナリの異常な弓の技術。拮抗した二人の力は、不思議な静けさを齎していた。

 

「そう焦らずに聞きなよ」

 

 何もなかったかのようにティナリは話し続ける。

 

「お前、コレイという少女を覚えているか?何年か前、お前のもとで体を弄られた少女だ」

 

「私は不要な記録をしない。比喩ではなく、文字通りのことだ。私の記憶に存在しないということは、その少女は不要であったことを意味する。何か、問題でもあるのか」

 

「そうか、そうか」

 

 噛み締めるようにティナリは呟く。表情に変化は無い。しかし、その雰囲気の変化を感じ取れない博士では無い。もっとも、彼は気にすることはない。感情により起きる変化など、たいしたものはないというのが彼の結論だからだ。

 

「それはよかった」

 

 よくティナリを観察していた博士だからこそ、異常に気づく。なぜ、これは笑っている。さっきまでの激情と未だ気の抜けない状況の中で、安心と笑顔が生まれる。

 疑念は毒となり、毒は体を巡る。そうして現れる症状は、好奇心。博士にとってのティナリが、排除対象から要観察対象へと変化していた。

 

「僕はあり得ないと思っていたけど、コレイは優しいから、お前のことも『何か事情があったかも』なんて言うんだ。馬鹿だと思うだろ?でも、それがあいつの一番いいところだ。だから、一応確認したんだ。あの子の意見を尊重してね。まあ、必要なかったようだけど」

 

「何が言いたい」

 

「簡単なことさ。お前が唾棄すべき悪でよかった。それだけ。そうじゃなければ」

 

 ティナリの神の目が淡く光る。纏う元素力は依然として落ち着いたままだ。博士が大瀑布の如き重圧を放つなら、緩やかな大河を思わせるティナリは。

 

「お前を殺す時、コレイに罪悪感を感じてしまう」

 

 惚れ惚れするような笑みと共に、そう言い放った。

 

 ああ、そうか。

 博士は正しく、自分に向けられた感情を、自信を蝕む毒の正体を理解する。

 それは恐ろしい程の殺意。ファトゥスの誰からも感じたことのないほど、濃密で純粋な殺意。それが、先ほどまで害虫と変わらない認識だった存在から放たれていることに、ようやく気づく。

 

「僕のかわいい弟子をコケにしてくれたお前を許す気はないけどね」

 

「それは、大変だ」

 

 そうして始めて、二人は対峙する。その顔に浮かべるのは、笑みだ。殺意と好奇が衝突する異常な空間で、二人は静かに笑っている。

 

 博士は驚く。自分に愉快と感じる機能がまだ残っていたことに。氷神のために捨てた筈のものは、まだここに残っていた。それを思い出させたのが、神ならざるただの人間であることに、驚く。

 

 ティナリは知る。自分を動かすこの気持ちの正体を。旅人の横の小さいのが言っていた、「ムカついてしょうがない」なんて気持ちが自分を動かしている事を、知る。

 

 ここに語るべき言の葉は腐り落ちた。

 互いが互いの在り方を理解し、目的を知り、交わることを否とした。

 ならば、そう。

 

「死ね」

 

「消えろ」

 

 最後に立っていた方が、正義だろう。

 

 博士が邪眼を取り出す。

 ティナリが、赤く光る自分の物ではないの神の目を取り出す。

 互いに禁忌を犯し、目の前の敵を殺す事に集中する。

 元素力が高まる。殺意が破裂する。

 

 ここに始まるのは国を左右しない、決死の戦い。旅人が直面していない、世界の明確な変遷。

 スメールを揺るがす二つ目の戦の火蓋が、今、切って落とされた。

 

 



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