荒野の西にあるというドゥームス王国へオービターで移動中、俺はOrdisと会話しながら、この世界の生物の生態を調べるべく、先程スキャンしたシルバーウルフとハードストーンの情報をコーデックスで調べる。
『オペレーター。全く心配しましたヨ。ポータルを抜けた瞬間に通信が途絶えるのですカラ。前例が無い行動は以降からヤメテください』
「止めてと言われても、俺もびっくりしたんだからしょうがないだろ」
Ordisはいつもこういう感じだ。心の内にヤバい物を秘めながら、オペレーターが大好きで隙あらば何かしら語ってくる。船内にいると小煩くもあるが、安心感のあるやつだ。
ただ、その心のヤバさが元からある性格なのか。敵を蹂躙したいだとか、血の海に高揚感を抱いたりだとか。ある日はその心に支配されて、オービターをぶっ壊そうという時もあった。
あれこそ正に例外の無い行動なんだが、あの時のOrdisだけは俺もやめて欲しいな。
ただOrdisはオービターのサポートセファロンとしてはかなり有能で、ミッション中の空爆は勿論、敵のセキュリティプロトコルを無効化したり、タレット支援から物資の探索まで。様々な支援をしてくれて、それは気持ち程度ではなく、今までかなり役に立っている。
「さて、シルバーウルフとハードストーン。一体どんな生物なのやら」
俺は船内のコーデックスから、スキャンした生物の情報を開示する。
すると、特にシルバーウルフでさえもクブロウとは全く別の性質が表示された。
シルバーウルフは、陽に照らされると輝く銀の体毛を持ち、鉄の剣程度では傷を付けるのもままならない剛体を持つ。また電気と毒に耐性を持つとある。
見た目は原生生物だというのに、変な体質だ。電気と毒に耐性ということは、複合属性の腐食に耐性か。意外と厄介な敵だった。ただ弱点は切断。ただ硬いだけで切れないことは無いらしい。
あの冒険者とやらは“ゴールドランクの冒険者でも"と言っていた。つまり、この世界でいう"ゴールドランクの冒険者"とは、それなりの腕を持っていると言うことだろう。
さて、もう一つはハードストーン。
種族は『自然生物』で、切断と衝撃に耐性を持ち、貫通と爆発が弱点。シールドを持たないヘルスのみで構成された身体で、それ以外の弱点は無いものの、言うてあまり効果は無いようだ。
つまり、スナイパーで撃ち抜けば特に気にする事もないと。
『シルバーウルフはなかなか興味深い生物デスネ。あぁ、こんな情報。Simarisがいたら大喜びしていたデショウ。あの研究と狩りが大好きなセファロンは他にいませんかからネ』
「だろうな」
そんな談笑をOrdisとしていると、いつのまにか真下にドゥームスだろう大きな都市が見えた。
俺はその都市の中で一際大きい建物の前にオービターを滞空させると、真下のハッチを開けて飛び降りる。
今回の所持武器はとりあえず切断では有用なNIKANA、連射と貫通力が効くGORGON、これさえ撃っていればなんとかなりそうなANGSTRUM。
あー、殲滅というより制圧型だな。知らない世界にやって来ておきながら、生物を殲滅するのは悪印象ってやつだ。まずはこちらの戦力を見せないと。
さて、俺は今ここで再度例の救難信号を受け取っていた。場所はまさしく目の前にある建物。
黄金の装飾がこれまでかと散りばめられた豪華な建物だ。まるでオロキンを彷彿とさせる。
が、そんなところで俺に多くの目線が突き刺さっていたことを今気がつく。
「なんだよあれ……飛んできたぞ?」
「あれがまさか勇者だってのか?」
「でもあれ、人間なのか?」
「Ordis。周囲の生物を全てスキャンしておけ」
『分かりマシタ』
さて、これで大凡のこの世界の人型生物をスキャン出来ただろう。
そう俺は徐ろにスキャンした生物のホログラムをその場で投影する。恐らくは全て人間だろうと思ったが、そこに投影された情報は俺の目を疑うものだった。
確かに7割はHumanと書かれた人間だったが、その中の3割程に人間ではない他種族が含まれていた。
どちらも聞いたことがない種族だった。
全く、多種族が多く混在しているこの世界はますます興味が湧く。本当に、この中にはCephalon Simarisがいればどうなっていたか。
この新たな生物はを詳しく調べたいなら後でまたオービターに戻って調査しよう。俺はそう考えながら目の前の建物へ侵入しようとした。が……すぐにその門番らしき"人間"に止められた。
「止まれ。混乱に乗じて城に入ろうとなどと考えないことだ。まぁ、そういうつもりも無いかろうともだがな。
ここより先は王城である。許可と特別な日が無い日は立ち入り禁止だ。どうやら空から来たようだが……つまり関所も無視したという事だな。入り口まで案内してやるから、しっかり手続きしてから入ってきてくれ」
関所か……。どの世界にもやはり金は必要なようだ。俺が知る地球という惑星こそ。正に多くの人間が暮らし、多くの人種と国に分かれていたという歴史があるが、その地球が滅んでも尚、金という全てを繋ぐその線は断ち切られない。
「分かった。そうする」
「よし。物分かりが良くて助かる。こっちだ」
俺はその人間について行き、この王国の入り口まで連れられた。実質そこは王国の外のようだが、ここでは中に入るためには通行証というものが必要らしい。
通行証はしっかりとした出身地の村や国から発行されるもので、無い場合は料金を払うことで発行してもらえるようだ。
俺は当然金は持っていない。いや、クレジットとプラチナはある程度持っているが、ここでは使えない通貨だろう。
いや、両替は出来る……か?
「すまない。勝手に国へ侵入したことは悪いが使えそうな金を持っていない。その代わりにプラチナがある。これを売れないだろうか?」
俺たちテンノが持つプラチナは、どこで製造されているものかは定かでは無いが、歴史上の地球に存在したプラチナよりも貴重で純度はほぼ100%。良くテンノ同士の物品の売買などに用いられ、1個の大きさは小さなサイコロ程度の立方体で作られている。
この世界では知らないが、当時の地球でならありえない価値があるだろう。
「プラチナ? あぁ、良いだろう。これくらいの大きさならそこそこの価値になるだろう。どれだけ持ってる」
「50個だ。どうせもう使えない。全部売却する」
「50個だな。良しここで待っていろ。今換金してくる」
「分かった」
思ったより反応が薄かった。この世界ではプラチナはそこまでの価値が高く無いのだろうか。若しくはわざと平然を保っているという可能性もあるが、俺がプラチナの塊を見せた瞬間にも全く動じていなかった。
それから数十分後。人間が戻ってきた。片手に両手で鷲掴みできるほどのそこそこ大きい袋を持って。
「全部で15万金貨だった。ここから俺の仕事分と通行証分の3金貨を取って……14万9997金貨。ほらよ」
「あぁ」
この物質は……goldか。よく見るありきたりな物質だな。素材としてはあまり使わないが、オロキンの建物で腐るほど見ている。
プラチナがここまで価値の低い物質へ変えられてしまうとは……まぁ、それで15万が妥当な数字なのだろう。
「良し、これで通行証は出来た。それで、王城にはどうすれば入れる?」
「なに? まだ諦めていなかったのか。そもそもなんの用事なんだ。用事なく暇つぶしで入っていい場所では無いんだがな」
「あぁ、そうだな……」
用事といえば俺が調査中の一つである救難信号の追跡があるが、これを言ってこの人間が理解出来るかどうか。
『オペレーター。それならここで使うには最適な言葉がありマス。助けが必要デハ? と答えてみましょう。我々も相手も目的を把握していないのなら、カマをかけるのも一手というものデス。
おっと、今ワタクシのことまともな事も言うんだなコイツって思いマシタ? 安心してクダサイ。ワタクシは煽りに使う言葉しか教えませんカラ』
「え……あぁ、うん。それもそれでどうかと思うけど」
「あ? なんか言ったか?」
「いいや。そうだな。ちょっと小耳に挟んだことなんだが、助けが必要なんじゃ無いのか?」
「な……。何故それを知っている……」
「いや……」
まさか。初めから知っていたなんて言えば逆に疑われるだろう。Ordisめ。この先の展開をどうしてくれる。
『オペレーター? ワタクシに全任せするおつもりデスカ? それなら大歓迎デスガ、相手の逆上を買うことになってもシリマセンヨ? まぁ、その方がワタクシの性にあっているんですがネ。
イイデショウ。少々驚かれるかも知れませんが、今ワタクシが作り上げた即席無線機を支給します。
これをその人間に渡してクダサイ』
即席無線機ってなんだ。
すると、俺の上空にどこからともなくオービターが飛んできて、両腕で抱えられるサイズのけんちな箱が落下してきた。
「な、なんだ!?」
『やぁ人間。ワタクシは
今ワタクシが、貴方の疑問にお答えシマショウ。何故助けが必要なことを知っているかッテ?
ワタクシ達は、宇宙から来たアナタ達の使者デス。なんていうのは嘘で、たまたまこの世界に侵入してしまった侵略者ともいえマショウ。若しくは漂流者? ま、そんなことどうでもいいデショウ。
ワタクシは、アナタ達が助けが必要なのを事前に知っていマシタ。
だから今すぐそこを通せ。さもないと無惨で悲惨な血の海を見ることになる。オレに取っちゃあ、その方が好みだがな?』
いや、思いっきり脅し! というか最後は宣戦布告になってるんだが?
「???……そ、そうか。用事があるなら王にとりあえず伝えてこよう。許可は王が下すからな」
思ったより斜め上の反応だった。とは言うものの、Ordisは大分早口で煽っており、話半分聞き取れなかったと言えば正しいだろう。たがその言葉によってなんとなく相手に理解させたようだ。
さて、色々と問題があったが、これでようやく救難信号の正体が判明する。