~銃弾と対価~   作:クマぴょん

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※注意書き※
今話からあの人物が出る(タイトルでネタバレしてるがな)。なのでこの話以降は13人のキャラ紹介は無しだ。
いいか?もう言わんからな。文句言われても知らんぞ。

【前回のBullets Price】
DAの”犬”と評された井ノ上たきなは、”狼”ことフレディの対決を挑んだが、戦場の場数が圧倒的過ぎて敗れてた。しかも、怪我を負う羽目になる。それを見た傭兵の頭目であるフリッツの下した手段が彼女を救うことだった・・・


【治療ーそしてウォールナットとの接触】

 

 

喫茶リコリコ

 

「ジョンとワタナベ、リックは車から医療バックに輸血パック、簡易ベッドを、マイケルは医療用麻酔をフレディから、たきなお嬢の心拍と予備治療役はフレディ、メイン治療は俺とジョージでやる。いいな。」

「「了解!」」

 

フリッツの声と傭兵らの声が店全体に広がっていた。

先の闘いで、井ノ上たきなは負傷した。

今回の事態は、フリッツの監視下であるフレディから生まれてしまった。

だから、喫茶リコリコではなくフリッツが全責任を受け持った。

 

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ジョンとワタナベ、リックは喫茶リコリコから目的の医療品を取りに急いで出て行った。

マイケルは、フレディに投げ渡された医療ポーチから様々な麻酔から探し出すが、井ノ上たきなの血液型が判らずにいた。

マイケルは、少し考えるも面倒なのか口に出す。

 

「おい!誰でも良い!井ノ上の血液型を知ってるか?」

 

マイケルの応答にミカが即座に応えた。

 

「A型だ。」

「ありがたい。」

 

井ノ上たきなの血液型が判明した段階で、1つの医療用麻酔を取り出した。

フレディにある医療用麻酔には、麻薬成分も含まれているため、1世紀前に普及したモルヒネなどがそれに当てはまる。

しかし、それらの医療用大麻は、半世紀前に血液型や年齢によって若干の化学反応や中毒症状が判明されている。

その結果、欧米諸国はさらに研究を推し進めて、医療用大麻での直接的な死亡原因を0件に抑えた。

ただ、それはあくまで分解能力のある成人であって、未成年の場合は死亡原因は直接的な死亡原因よりも間接的な死亡原因が多数占める。多くて500件弱と膨れ上がる(だが、FDAことアメリカ食品医薬品局が承認した17種類の医薬品よりも医療用大麻は他の17種の主要医薬品よりも約40倍ほど安全であるデータがFDAで残っている)。

ある程度の麻薬成分を分解できる成人ならまだしも、未成年の娘が麻薬中毒にならないためには、血液型を聞かなければならなかった。

マイケルは、いつにもなく慎重に井ノ上たきな左腕に麻酔を打った。

フリッツはフレディに指示を送る。

 

「フレディ、たきなお嬢の右足を治療だ。」

「脱がすのではなく、靴自体を解離させたほうがいいか?」

「そうだな・・・恐らく足が曲がっている可能性がある。靴に切り込んで剥がしてやれ。」

「わかった。」

 

フレディは右手首から刃物が飛び出して、井ノ上たきなの右足のローファーの靴底付近に突き刺して斬りこんでいる。

錦木千束はその行為を見て、フレディを止めようとしたが、中原ミズキに止められて、思いとどまった。

フリッツは都度、フレディから確認を取る。

 

「どうだ?」

「情報通りだ。つま先とかかとに防護用の鉄板がある。だが、コンバットブーツみたいに全体を保護されているわけじゃない。これなら真っ二つに出来る。ちと硬いが。」

「わかった。急いでくれ。」

「わかってる。」

 

フレディがせっせと斬りこんでいる内に、ジョンとワタナベ、リックが医療バックと折りたたみ簡易ベッドを持ってきた。

ジョンは血液パック。

ワタナベは包帯を含む医療品。

リックは、簡易ベッドを組み立てた。

フリッツはフレディを急かした。

 

「フレディ!」

「わかってる!待ってろ!」

 

フレディのブレードがつま先を切り離したものの、かかとで止まっていた。

フレディはワタナベに聞く。

 

「ワタナベ!木槌もっているか?」

「へ?」

 

あまりの突然の問いにワタナベは固まった。

 

「早くしろ!」

「しかし、Mr.フレディ。刃こぼれするのでは?」

「そんなことは後で良い。人命が最優先だ。あとリー!突っ立てないで、念のためにAEDも用意しておけ。」

「わ、わかりました。」「り、了解!」

 

ワタナベはフレディに工作用の木槌を渡し、リーは慌てて医療バックからAEDを取り出した。

 

ゴンッ!ゴンッ!

 

フレディは慎重かつ大胆に木槌でブレードを、ローファーのかかと部分に斬り込みを入れる。

 

ガンッ!

 

靴底が取れて、床に落ちた時の鈍く重い金属音が鳴り響く。

なんとか、ローファーを上下に分割でき、井ノ上たきなの右足から離れた。

案の定、井ノ上たきなの右足は青痣が出来ており腫れている。

フリッツは、井ノ上たきなのローファーが取れたことを確認して、ジョージと共に簡易ベッドに移した。

 

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僅か10分。

たきなを簡易ベッドに移してから、治療時間がたったの10分で終わったのだ。

フリッツさんやジョージさん、そして”狼”の3人が的確な応急治療を施し、”狼”が心配していたAEDの出番すらなかった。

これが激戦を潜り抜けた傭兵組織の一片・・・と感じた。

ジョージさん曰く、たきなは無事とのことだ。

だが、あまりにも用意周到だった。

始めからわかっていたのかもしれない。

ただ、フリッツさんやジョージさんを始めとする老兵の皆さんは汗をかいていた。

素早い治療は身体に応える。

それが身をもって体験したのが50代を超えた老兵たちだった。

そんな傭兵集団でも一番の若手である”狼”はまだ、たきなの心拍数や検査をしていた。

闘いでは冷たい狼で一匹狼の戦い方だったのに対して、人命の生命となると急に性格が変わる。

”クルミ”が言った通りだ。

 

『例の傭兵集団だが、あらかた調べ上げた。だが、”フレディ”・・・こいつだけは一番やっかいだ。出身国は不明。特に詳しい経歴は調べたものの、ボクでもわからなかった。ただ、奇妙な事に1つだけ判っている事がある。”こいつ”の存在で裏社会ではかなり騒がれているらしい。世界に蔓延っている闇の半分以上を屠っている。ただその反面、人命救助は敵であろうが味方であろうが、命を捨てても助けに行くスタイルだ。出会う時は気をつけろ。千束はともかく、たきなはーーー』

 

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フレディを除く傭兵集団は、疲れを取るために再び珈琲を頼んだ。

フレディは引き続き、井ノ上たきなの面倒を見るそうだ。

フレディ曰く、

 

(オレ)がやったことは、(オレ)自身がやらなければならない。その結果がどうであれ、その責任は(オレ)にある。」

 

と最後まで責務を果たす事だった。

フレディはフレディ自身が役目を果たすことを絶対としてる。

だから傭兵での加入は、親父さんや名誉、英雄と言う肩書きを捨ててまで活路を見出そうとした。

そして、フリッツに忠誠を誓った。

フレディの左腕が金属製なのは、15年前の紛争で迫撃砲から守る為に、フリッツをかばって左腕の全てを失った。

左腕だけじゃない。

出血多量で壊死した左脚も失っている。

代わりに金属製の義腕と義足を装着して以降、性格や戦略面がコロッと変わってしまった。

フレディは、依頼のためなら姑息な手でも使ってまで、傭兵達を生き残らせようと考え始めた。

それが15年前から続いてる。

まだ14歳だった青年が左半身を失った直後だが、何年かけても『(オレ)の為』と言い続ける1つの理由だ。

 

(フレディは何を思っているのだろうか?)

 

たしか・・・フレディが傭兵団に加入したのは10歳の時だ

出会ってから19年。

未だによくわからないフリッツであった。

 

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傭兵達が珈琲で一息つくと、店の奥から小柄な金髪の”子供”がタブレットを持って現れた。

現れるなり、

 

「こいつらがあの傭兵集団か?」

 

と言ってきた。

店主のミカは、

 

「あぁ、そうだ。」

 

と返答する。

傭兵達・・・いや、リーとフレディ以外わからなかった。

”子供”は、タブレットを見ながら言った。

 

「”デューノ”・フリッツ。”ジー・バーグ”・ジョージ。ワタナベ”ミツル”。”カロンド・レックス”・ジョン。”リンド”・マイケル。リー・”ウォーレン”・・・いや”ナガノ カズキ”だなーーーそして最後にフレディ。」

 

傭兵集団は顔を見合わせた。

どの組織にも、どんな連中でも、あのCIAですらも、本来知るはずのない本名が1名を除いて明かされたのだ。

フリッツが恐る恐る声をかけようとしたとき、鷹の目をしたフレディがフリッツの肩にとって、無言の圧力によって止められた。

そしてフレディは井ノ上たきなの医療従事に戻る。

フリッツが気づいたときにはリーが立ち上がり、その”子供”に対して何か口にしていた。

 

「ここまで調べ上げるとは・・・さすがだな”ウォールナット”。死亡説が噂されていたが、ここに匿っていたか。」

「カズキも上海のテロ事件以降、死んだんじゃないかって噂されていたが、そこの傭兵集団に居ると思っていなかった。」

 

ウォールナットと呼ばれた”子供”と本名を知られたリー。

互いに死亡されたと思っていた。

リーは笑って言う。

 

「互いに死んでるはずなのに、こうやって生きてるのもなんら不思議ではないな。」

「そういうお前こそ傭兵で何やっていたんだ?」

「傭兵は傭兵なりの動きをしていたさ。そういうお前こそ、どっかと取引してたんじゃないのか?」

 

リーの言葉に少し黙るウォールナット。

 

「・・・それは秘密だ。」

 

フンッと鼻で笑うリー。

 

「いつもそうだよなぁ。お前さんは。いまでは”クルミ”として活動してるんだろう?」

「・・・一応聞くが、なんで知ってるんだ。」

「さぁな。単なる風の噂を耳にしただけだ。今は”クルミ”として装っているってな。」

 

ウォールナットこと”クルミ”は顔をのぞかせて、井ノ上たきなの面倒を見ている白いフードの衣服を纏った男に目をやった。

 

「ふーん、アイツがフレディなんだな?」

「お前さんなら、あいつの経歴ぐらい調べてあるだろう?」

「まぁね。」

 

クルミはドヤ顔をしたが、フレディはクルミに目もくれず、井ノ上たきなの面倒を見つつ速攻で看破された。

 

「嘘はやめとけウォールナット。それとも”本名”で呼んだほうが良いか?」

 

フレディの冷たい声に看破されたクルミは、真顔になった。

その様子を見たリーは、ウンウンと頷きながら、

 

「やはり心が読める奴が1人でもいるとホッとするな。」

 

とクルミに向かって笑ってやった。

そして、リーが本題についてクルミに話しかけた。

 

「それで、天下のウォールナット様が俺たちを調べ上げたのは良いが、肝心な本題を話してない。」

「・・・なんのことだ?」

 

クルミは怪訝な顔した。

リーは、少し間を置いてから言った。

 

「北押上駅爆破テロだ。」

 

 

次回⇒【真相を求めて】




没ネタ【ジョンの憂鬱】

軍をやめてからまもなく30年が経つ。
出世街道のキャリアを捨てて、傭兵として返り咲いた。
最初こそは100人単位で規模が大きかった傭兵団も今は13人しか居ない。
皆、「死」が怖くて止めてしまったものもいれば、「犯罪者と変わりない」と出て行ってしまったものも居る。
それでも、カナダ移民で北アイルランドに居た従兄弟のマイケルや何度も作戦でであった、ロックやリックの3人は残ってくれた。
だが、俺としては”あの2人”以外高齢で、特に信憑性のない日本での活動は傭兵全員が遠慮していた。
まともに銃が撃てないのもそうだが、この”日本”はおかしな点が多すぎる。
それでもやるしかないのが依頼なんだけどな。
そろそろ引退も考えるか・・・

~Fin~

それでは、次回までごきげんよう。

今シリーズの短い文章の話数に関して

  • 短い文章の話数は月3投稿
  • いつも通り月2投稿

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