一般的にラテン語はスペイン圏と思われがちだが、元来はイタリア・フランス・スペイン・ポルトガルから成り立っている。
【前回のBullets Price】
DAに対して秘密裏に動いていた”北押上駅爆破テロ”の情報収集。目的のテロ組織の手掛かりを見つけた。だが、あくまでも手掛かりであって、確信的な情報源ではないからだ。そんな中、ジョージの言葉をさえぎってテロ組織に支援しているバックヤードが判明したところから始まるものの、たきなの目覚めによって話はテロから治療へと変わっていくーーー
東京・錦糸町 喫茶リコリコ前
1900時
傭兵達が用意した車輌に慌ただしく医療用にセッティングしている。
ジョージの部下だけじゃない。
フリッツもジョージ、ワタナベと言った老兵たちが率先して体を動かしていた。
その間、店内では井ノ上たきなの心電図を計る為、井ノ上たきなを負傷させた責任としてフレディ自ら、錦木千束に対して説明していた。
「いいか?井ノ上の左胸、右胸、左腹部の3つにこのケーブルのついたシールを貼るんだ。貼った直後にはすぐには出ない。そうだな・・・15秒前後で心電図が井ノ上の状態を確認できるだろう。」
「・・・わかりました。」
錦木千束は、俯いたまま返事をした。
フレディがあることを言う。
「錦木。貴様の相方を負傷させて申し訳ない。」
「・・・」
「だが、それはもう二度とやってこないと”神”に誓う。」
「えっ?」
『神』のことを信じないはずのフレディの言葉を聴いて、千束は顔を見上げてフレディの顔見た。
彼の手には十字架を義手ではない確かなる手で、強く握り締めて黙祷した姿だった。
彼の行動は読めなかった。
何を考えてるかわからなかった。
ただ単に、たきなやDAに対して殺意しかないと思っていた。
でも、先程の迅速な治療といい、武器を台無しにしてでも、たきなに献身するその姿。
本当に?
「世界に蔓延っている闇の半分以上を屠っている」者の姿なのか?
千束はそう深く思いつつ、彼は目を見開いた。
「さぁ、俺が見ないうちにやってくれ。」
フレディは携帯式心電図を千束に手渡した。
受け取った千束は頷いて、たきなに向かって行った。
次にフレディはミカに歩み寄った。
「ミカの旦那。これを。」
フレディが取り出したものは、情報チップの入ったカードだった。
ミカはそれを受け取り、困惑した顔で言う。
「これは一体?」
「それは俺らの情報や各通信機の周波数などをまとめた媒体だ。それをウォール・・・いやクルミに渡せばわかるだろう。そして応援の必要があればリーに言え。あいつが今回の依頼に関しての全ての決定権を持っている。」
「その応援は確約なのか?」
「あぁ。そうでもしない限り、フリッツはまた海外で仕事をさせてもらえないからな。」
フリッツ・・・か。
この男は、どこまでもあの老兵に忠義を捧げいるということがミカにはわかった。
あの老兵が居るから、この男も存在し続ける。
そんな気がしてきた。
すると千束がフレディを呼ぶ。
「フレディさん。準備できました!」
「わかった。」
千束へ振り返りそう頷くと、フレディは右耳を押さえて独り言のように行った。
「こちら”ドラグーン”からオーバーロードへ。護送準備完了だ。」
そうフレディが言うと、店内にジョージ、ワタナベが移動式医療用ベッドを持ってきた。
ワタナベは千束に確認を取る。
「Miss.千束。Miss.たきなに心電図は取り付けましたか?」
千束は頷く。
ワタナベは礼を言う。
「ありがとう。Miss.千束。」
一方、ジョージはミカとミズキに謝罪した。
「ミカ殿。ミズキ殿。俺たちのくだらない闘争に付き合ってしまって申し訳ない。」
ジョージは深々と頭を下げた。
「あの子をさらに傷つかせたらただじゃおかないわよ。」
「ミズキ・・・いいんだ。本来ならばこちらから本部に言うべきだった。こうなる前にな。それより彼女を頼んだ。バーグ・ジョージ中佐。」
ジョージはすぐに頭を上げて敬礼した。
「ハッ!」
後ろではフレディとワタナベがたきなを抱えて、迅速かつ慎重に医療ベッドに降ろしていた。
フレディがジョージを呼ぶ。
「ジョージ!」
「準備できたな?よし行け!」
たきなを載せた医療ベッドは、店前に止めてある医療用にセッティングした車輌へ向かって行った。
ジョージは簡易ベッドを素早く折りたたみ抱えて、店から出るとき振り返って敬礼して出て行った。
千束は出ていったジョージの後を追いかけて喫茶リコリコから出て来た。
そして、たきなを載せた車輌を見つめていた。
千束の視線に気づいたのは、マイケルだった。
「お嬢ちゃん!安心しろ!彼女は俺たちの命に捧げてまで守り抜くし、必ず返してやる!」
と言ってマイケルが車輌に乗り込んだら、先頭車輌が出発しては後続の車輌も続いて出発していった。
3台の車輌が出ていった表路地には千束が目を伏せて、たきなの健康を願って立っていた。
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出発してから数分後
たきなを載せた車輌を含め、3台の車輌はフリッツ傭兵集団のアジトに向かって行った。
先頭車輌から通信が入る。
<<こちらカタフラクト3。最短距離で5分でつく見込みだ。オーバー。>>
たきなを載せた車輌『カタフラクト1』は、リーを筆頭にマイケル、たきなの医療担当のフレディ、運転手のリックが乗っていた。
リーが応える。
<<了解した。カタフラクト3。引き続き先導してくれ。>>
<<了解。>>
<<カタフラクト2も了解した。>>
カタフラクト1の車輌は救急車と劣らないぐらい、医療機器が揃っていた。
ただし、どれも多言語かつ民間では見ないもので、たきなにとってあまりにも見慣れないものばかり。
この医療ベッドもDAの硬い医療ベッドに比べれば、かなり快適で体にストレス無く、このまま眠ってしまうぐらいだった。
考えて間もなく、ちょっとウトウトし始めるたきな。
フレディが全ての医療機器のチェックをしながら、眠そうなたきなに尋ねた。
「居心地はどうだ、井ノ上?」
「えっ!・・・えっと・・・快適です。」
「そうか。なら良かったな。」
たきなの応えにフレディは優しく笑みをこぼした。
いくら心が読めたとしても、相手は負傷者。
しかもフレディ自身が負わせた負傷者だからだ。
フレディは引き続き、たきなの医療に集中した。
しばらくすると、リーが弄る機器に反応があった。
隣で外を警戒していたマイケルが顔をのぞく。
マイケルの目には二次元レーダーがあり、識別不明の1点の粒が反応を示していた。
リーはマイケルに指示した。
「マイケル、フレディと交代してフレディにライトを持たせろ。」
「了解。」
マイケルは後部に移って、黙々と医療従事しているフレディを呼んだ。
「フレディ。」
「敵か?」
「わからない。ガラス越しだが識別してほしい。」
「んじゃ、井ノ上の医療項目のチェックを頼んで欲しい。異常値のものは、別の適切な医療機器を使用して欲しい。」
と言ってフレディはチェック項目をマイケルに渡し、マイケルはライトをフレディに渡した。
受け取ったフレディは後部ガラスを見上げた。
高度は高くは無いが、識別できる範囲にドローンがいた。
フレディが行動起こす為、通信を始めた。
<<こちらドラグーン。各カタフラクトに警告。所属不明の偵察ドローンを上空に視認。カタフラクト1へ通達。識別のため許可求む。>>
<<カタフラクト1からドラグーンへ。承諾されたし。>>
ドラグーンは識別を開始した。
目を閉じては再度、目を見開くと黄色の目・・・
いわゆる”鷹の目”に変わっていた。
ドラグーンの目にはドローンの識別が判明した。
カタフラクトの車輌を追尾するドローンの色が黄色と言えば違うが、橙色よりの色彩だった。
どっちかいうと航空宇宙産業で使われる、インターナショナルオレンジに近い色彩だ。
現実の東京タワーの塗装がまさにこの色だ。
<<カタフラクト1に通達。識別完了した。”#ff4f00”。>>
リーはドラグーンの言う16進数の識別に困惑した。
近い色ならウォールナットなんだが、ゴールデン・ゲート・ブリッジと同じ色なら違うはずだ・・・
リーは再度、識別を確認した。
<<”#ff4f00”?”#ffa500”ではないのか?>>
<<遮光ガラス越しだから、そのように見える。>>
なるほど。
いくら鷹の目とはいえ、遮光ガラスの前じゃ色が違って見えるわけか。
ドラグーンの力を過信しすぎた。
リーはすぐさま次の指示を仰ぐ。
<<カタフラクト3へ。敵味方の識別が完了するまで迂回ルートを取り続けよ。>>
<<了解。>>
<<ドラグーンへ通達。モールスの発光信号で『味方ならばカタフラクト1と連絡を取れ。出来なければ撃墜を辞さない』と。>>
<<了解。信号を開始する。>>
ドラグーンは後部ドアの片方を開けて、ドローンに向かってライトの点灯で信号を開始した。
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あれから10分後のこと。
ドラグーンが点灯によるモールス信号をひっきりなしに送り続けた結果、リーの機器に反応があった。
リーが画面をタッチすると、画面いっぱいにウォールナットのマークが出てきた。
リーはため息ついた。
(クルミの奴め。面倒な事しやがって・・・)
リーは指示を仰ぐ。
<<各車輌及びドラグーンへ通達。味方だ。カタフラクト3は最短ルートに向かえ。ドラグーンは識別任務を解け。>>
<<こちらカタフラクト3、了解。>>
<<ドラグーン、了解。>>
ドラグーンはドアを閉めて、たきなの医療を見ていたマイケルに尋ねた。
「医療項目はどうだ?」
「全て正常さ。おつかれさん。」
マイケルは任務を解かれたフレディにチェック項目のシートを渡した。
代わりにマイケルから受け取ったライトを返した。
リーが代わりにクルミと通信をとっていたのを他所に、たきなを挟んで2人で会話を始めた。
「まさかウォールナットとはな・・・」
「マイケル、まだ奴としては俺たちのことを味方と思っていないだろう。」
「それもそうだが。」
「味方は多く居たほうが良い。DAはともかく、あそこなら問題ないだろう。」
「心が読めるお前が言うなら、そう信じるしかないな。」
「あんまり過信して困りすぎるなよ。」
「それはお互い様だろ?」
「フッ、それもそうだな。」
フレディは一息ついて・・・ふと、たきなを見た。
彼女はずっとフレディを見ていた。
「どうしたんだ?井ノ上?」
「本当に・・・心が読めるんですね。」
たきなの言葉にマイケルが笑い、フレディをからかった。
「よかったな、フレディ。ようやく解りあえそうじゃないか。」
「理解を深めた上ではな。」
フレディはマイケルにぶっきらぼうに言い放つと、再びたきなの顔を見て優しく言った。
「だが、心が読めるのはデメリットでもあるんだよ。」
「・・・どういうことですか?」
たきなは困惑した。
フレディは言葉を選んで話した。
「簡単に言えば、心は第二の顔なんだよ。顔を読まなくても相手の心で識別するんだ。だが、それを過信すると今度はそっちに注意が行くから、危険性がより一層に増す。」
「だから、”あの時”は攻撃してくださいと言うぐらい無防備だったんですね。」
「違うな。」
「え・・・?」
「死を覚悟してるから無防備になれるんだよ。特に貴様は判りやすかったから、集中して無防備で構えることが出来る。」
「貴様じゃありまー」
「まぁまぁ、落ち着け。嬢ちゃん。」
たきなの言葉をマイケルが遮る。
僅かながらムスッとする彼女の表情でもマイケルは優しく言う。
「日本語って難しいよな?でも、ワタナベが教えてくれたぜ。『貴様』という古語は尊敬や敬意に値する、もしくは非常に親しい者として扱う言葉だってな。そうだろフレディ。」
「あぁ。錦木にも言ったが、これからは仕事仲間だ。親しみを込めて敢て『貴様』と呼んでいる。嫌なら呼び捨てにするが?」
「・・・」
たきなは思う。
いくら外国人傭兵とは言えど、日本語の古語を理解したうえで流暢しゃべるなんて不思議でしょうがなかった。
こんなに流暢に喋れる傭兵は、今まで出会った外国人は居なかった。
目の前にいる2人を含んで、今回タッグを組む傭兵集団は別格だ。
そしてフレディとマイケルは、たきなの了承なしに会話を続けた。
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傭兵のアジトに到着するまで、たきなは会話していた2人を興味津々で観察し続けた。
日本語以外にも英語やラテン語、ロシア語にドイツ語などなど様々な言語が飛び交っていたが、全て流暢に喋っていた。
特に、左に居るフレディは傭兵の中でも別格な存在らしい。
この男が得た情報を全て暗号化した上で仲間に投げていたらしい。
DAの存在や本部の位置、DA内部のごく一部でしか知らないはず情報、得た情報全てを全部暗号化してリーに最終解読していた。
この男に挑むのはかなり無謀で蛮勇がすぎるほどだ。
先の”模擬戦”ではこの男によって、ファーストやセカンドを含め、失いかけたというのは本当のことだと思って良い。
それに対して右に居る、マイケルは会話を聞く限り、粗暴な感じだが元々そうでは無さそうだ。
気さくに馴れ合いの声かけができるほどの信頼性を持つ人間。
ジョンと張り合えるほどの射撃能力を持っているなど、兵士としては第一線級を維持できる年齢とは思えない。
平均年齢も何とか聞けたが、フレディとリーを除けば50代後半。
一番の老齢が傭兵団長のフリッツが65歳。
その次にジョージが64歳、唯一の日本人であるワタナベが60歳直前。
高齢なのになんて実力の持ち主なんだろうか?
そんな事を、たきなが考えに考え詰めているとマイケルに声をかけられた。
「お嬢ちゃん。降ろすから舌を噛むなよ?」
次回⇒【存在意義】
没ネタ【味方は多い方が有利とは限らない】
マイケルはふと、フレディの言葉を思い出して考えていた。
フレディの奴は「あの喫茶店は問題ない」と言っていた。
だが、何度も味方に裏切られた俺にとって、100%信用できない。
ただでさえ、あのジョージの顔色が悪くなったものだから、この傭兵集団も一枚岩ではないからだ。
ふと考えてみると、味方が多くてもそれほど有利に働かない。
むしろ逆だ。
”アラン機関”の存在が公になった状態、ジョージとその部下が第三勢力として敵対関係に陥る可能性だってあるのだ。
ジョージからの勧誘もあり得るが、断っておかないとフレディに看破される。
悪いな、ジョージ。
俺は傭兵集団で異質な存在であるフレディを認めている。
フレディがいなければ、前の戦争もその前の戦争も生きて帰れなかっただろう。
俺はフリッツたちを見捨てることは出来ない。
カリスマ性のあるフリッツと異質な存在であるフレディがいる限りは特になーーー
~Fin~
それでは、次回までごきげんよう。