サイレント・ジンとフレディによる因縁の戦いを見たたきな。勝者は人間離れしたフレディに軍配が上がる。しかし彼の目的はたきなを救うことでもなければ、暗殺者を叩き潰すことでもなかったーーー
東京駅周辺・工事現場
ドラグーンことフレディの因縁の敵であり、得体の知れない依頼主の敵であるサイレント・ジンは、空を見て気を失っている。
ジンを仕留めたフレディは息が1つも上がっておらず、通信を行なっていた。
たきなは、恐る恐る鉄骨の影から顔出した。
鉄骨は大きく歪んでおり、大きな鉄球がそこにぶつけた印象が残る。
「ーーー了解した。合流と確認が取り次第、帰還する。ほかの連中はまだ警戒態勢にしておけ。」
と、フレディは通信を終えて、たきなに振り向いた。
たきなは彼を見た。
まともに防具もつけず、白の外套を身に包み、金属の左腕、そして撃たれても凹んでいない左義足。
マジマジと見ているたきなに、フレディは歩み寄っては、たきなの元に座り込み、たきなの左太腿を確認する。
そして、たきなの了承なしに応急手当を無言で始めるフレディの姿がそこにあった。
先程の一匹狼の戦いとは違い、献身的な親鳥になっていた。
心臓に血がいきやすいように、傷口の上部を圧迫させたのち、傷口の血を取り除き、染みる消毒液でサッと拭き、傷口を覆いかぶさるように軟膏が塗ってあるガーゼを当てる。
ガーゼを仮固定させた後に、包帯と医療用テープで完全にガーゼを固定させた。
この一連の応急手当の流れは、今まで見たDAのリコリスよりも早い。
”私”の顔を一目もくれず、黙々とこなすその姿・・・
彼は懐から赤十字のメモ帳になにか書き記していた。
声をかけようとしたときにー
「平気か?」
「え?」
「ふむ、心拍数に変わりなし・・・大丈夫そうだな。」
何も言っていないのに、声を発しただけで状態がわかるの?
筆を止めて、彼は無言で私の首筋に指を当てた。
「体温も特に異常なし・・・動脈や静脈、頚動脈などの乱れもないーーー」
と淡々と呟き、すべてが終わった際には首筋から離れて筆を進める。
彼の手は血生臭い獣や狼の温かさではなく、正真正銘の人の温もりだった。
これが、彼の戦闘スタイルであり、生きる道なんだろう。
そんな状況の中、たきなとフレディの元に千束が駆け寄ってきた。
「たきな!大丈夫・・・!」
千束は慌てて口を閉じた。
本来居ないはずのフレディ、天を仰いでいる『サイレント・ジン』、大きく歪み凹んでいる鉄骨を見て困惑して口を閉じたのだ。
千束は感づく。
これは”狼”の仕業だと。
フレディはたきなを治療しながら言う。
「いかにも
「あ、え?」
「大丈夫だ。殺してなんかいない。」
と、フレディはメモ帳を閉じて千束に振り向き言う。
千束は、なんでここに居るのかと尋ねると、
「Noceーいやクルミからの救援要請だ。あいつに感謝しておけ。」
と立ち上がってはたきなに、
「拳銃、次からは落とすなよ。」
たきなの拳銃を渡しては、小言で呟きながら、
「そろそろ親玉が出てくるから、俺は消える。」
と資材置き場の影に紛れて消えていった。
千束からは見えなくても、たきなは彼が蠢く闇の姿が見えていた。
資材に深く刺さった小銃を取り出しては、その小銃に弾を1つずつ込めていた。
音もなくただ静かに”獲物”を待つ狩人のように。
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「大丈夫、たきな?」
「えぇ・・・千束も大丈夫ですか?」
「こっちは大丈夫。それにしても怪我の方は大丈夫?」
「はい。フレディさんに治療してくれました。」
「そっか。また助けられたね。」
千束とたきなは互いに無事を確認して、肝心の暗殺者を見ていた。
千束はなぜ倒れているのかを、たきなから聞き出している最中だった。
『ーーー殺すんだ!』
機械音声が2人・・・もう”1人”に届いた。
千束とたきなは振り返ると、今回の依頼主である松下であった。
松下に翻弄されたであろうミズキの姿も疲れ果てて座り込んでいた。
2人は、依頼主の言葉にかなり困惑している。
松下は電動車いすで2人の元に少しずつ近づいている。
依頼主から思わぬ言葉と得体の知れぬ恐怖が少しでも感じた。
松下は2人の反応を見て、こう言い放つ。
『そいつは私の家族の命を奪った男だ。殺してくれ!』
機会音声にはないはずの、感情表現があらわにした瞬間だった。
たきなは初耳だった。
たきなは千束に振り向くと僅かながら俯いていた。
千束は薄々感じ取り、知っていたかもしれない。
依頼主の本来あるべき姿の依頼内容が、”そこ”にあった。
機械音声はまた喋りだす。
『本来なら、あの時私の手でやるべきだった。家族を殺された二十年前にーーー』
言い終わる瞬間だった。
乾いた発砲音が3回鳴り響く。
3発の銃弾は、2発が車いす付近に着弾。
1発が車いすの手すりに弾かれた。
これにはその場に居た全員が驚いた。
小銃を構えて影から光に映し出された時、”狼”ことフレディが現れた。
「よう、Mr.マツシタ。待っていたぜ。」
「フレディさん!?」「・・・」
千束は驚き、たきなは傍かもわかっていたかのように黙る。
松下は彼に向いて、前へ動き出す。
『キミは一体?』
「さぁな。ただ、お前さんの名にリストに入ってなかったから、不思議に思ってこうやって会えたわけだ。」
とフレディの瞼が閉じ、見開いた時には”鷹の目”をしていた。
「お前さん・・・一体何者だ?」
『ーーーキミも昔は”アランチルドレン”に誘われた人間だったはずだ!』
「話を逸らすな。お前の正体を暴くことをこっちは動いている。」
松下の説得に彼は応じない。
むしろ、命を刈り取る為に松下を食いちぎろうとしている。
その2人を他所にたきなは千束に耳打ちした。
「フレディさんって・・・アランチルドレンだったんですか?」
「いや、違う・・・よ・・・」
「私が知らない間に黙っていたんですか?」
「ごめん。言えなかったんだ・・・」
千束の雲行きが怪しくなってきた。
千束のせいではない。
たきなが知る必要がないし、余計に刺激を与えてしまう存在だからだ。
そもそも、たきなや千束を助ける為に彼は動いていない。
松下さんが”リスト”と言うものに入ってなかったから、彼が問い詰めているのだ。
千束は思う。
(なんのリストなんだろう?)
千束は松下さんと押し問答しているフレディに質問する。
「フレディさん!リストって何のことですか?」
「亡命リストだ。
確かにどこかで聞いたことあるかもしれないけどー
「それで松下さんは、その・・・亡命リストの中に入ってなかったからってことですか?」
「その通りだ。」
千束は考える。
この依頼自体そのものが、不思議な点が多い。
そう考えているうちに、時は一刻を迫っていた。
松下はフレディに
『では、キミが代わりにー』
「黙れ。お前に指図する必要がない。奴を始末した所で、お前さんの出所が不明だ。」
松下は話ならないと思い、千束に向けて車いすを動かした。
だが、それも彼の発砲・至近弾によって止められた。
「話は終わっていない。それが礼儀ってもんだろ?次はその電子機器を破壊する。」
『ーキミは何を言っているのか・・・わかっているのかね?』
松下はフレディを横目に言う。
フレディは答えを出した。
「仮にそこのお嬢ちゃんに頼んでくれも無駄だ。彼女は不殺を誓っている。」
『は?』「え?」
松下と千束が漏らした声。
松下はともかく、千束がかなり驚いている。
その状況に関わらずフレディは冷たい声で言う。
「彼女の手を借りて殺したいならば・・・お前がやれ。Mr.”Enemy”。」
彼の発言を皮切りに遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
フレディの「Enemy」という発言でカタフラクトからサイレンを鳴らすよう、オーバーロードに手引きしたのだ。
フレディからすれば、
「さっさと引き上げろ。」
と戒める為の手引きなんだろう。
ふと、千束は彼の居た場所を見た。
彼は”もう”この現場に居なかった。
残っているのはうっすらと黒い塵が僅かに残る。
最初から彼はここには居ないかのようにーーー
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数時間後
Limaたちが立ち去った後、ドラグーンは通信しながら工事現場を見下ろしていた。
「ーというわけだ、フリッツーーーあぁ理解してるよ。今回の依頼はアラン機関だ。間違いなくNovemberを狙っていた。阻止するまでは出来たが、問題はアラン機関ではなく、傭兵内部に居るシロアリだ。」
次回⇒【サードリコリスの消息】
小話【暗闇のハッカー】
クルミは、カズキことリーの異名を見つけ、呟く。
暗闇のハッカーか・・・確かに裏社会だけじゃなく傭兵稼業をやっているカズキのことだから、ボクにもその異名は聞いている。
ボクには及ばないとは言え、20年も前に上海テロを止めた逸材だ。
アイツもボクと同等?
いや、ボク以上に長期間、ネットの海を漂っていたはずだ。
この異名も「鷹の暗殺者」同様に”アラン機関”が付けて、広まっただろうな。
ボクのような影のあるハッカーではなく、カズキは闇の存在。
闇の中で最も暗闇という世界でしか生きられない。
そんな世界にカズキが仲間になったのはかなり大きい。
カズキだけじゃない、あの傭兵たちが千束とたきなを救う・・・
いや、半世紀以上も世界を救ってきたんだ。
カズキは何を心配しているんだ?
クルミは、リーの暗号文の中に「敵の敵は味方。味方に敵が居る」が残されていた。
不可解な暗号文を閉じるクルミ。
思考中に考えうる中でジョージだろう・・・って思う。
二重スパイで暗躍しているんだ。
それぐらいは知ってて当然かもしれない。
あの爺さんがどのタイミングで裏切るのかが不明だから、ボクに情報提供してくれとしか?
益々時間が過ぎていくばかりであった。
~Fin~
それでは、次回までごきげんよう。