傭兵集団は1つの答えにたどり着いた。だが確証を得られるには情報が足りず、結局のところフレディとリーの共同作業に移る。そしてやっと答えが出た。次のターゲットにされるのは”錦木千束”。どのタイミングで襲撃されるかわからないまま時が過ぎていったーーー
東京・某所
フレディは言われた通りに48時間かけて睡眠していた。
一滴も水を飲まず、食を摂らず、ひたすら寝ていた。
数か月にわたって情報収集任務や威力偵察などこなしたうえで、先の戦争で深い傷が表に出て、治療したりと忙しい。
その反動で深い眠りについていた。
まるで熊のように冬眠するかのように・・・
だが、通信機からモールス信号が入ってパチッと目が覚めた。
それはリーからの通達信号だった。
「
という単独信号だったが、フレディはすぐに仕事モードに切り替えた。
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東京・某所
ブリーフィング室
リーが中心になって、フレディを除いた傭兵全員がブリーフィングを始めた。
「喫茶リコリコから緊急通達だ。Novemberが何者かに襲撃された。ここまでは解っている。問題は敵の数だ。既にフレディが向かっているが、奴曰く『40名以上』と思われる。こちらも直ちに応援に向かう重要度の高いものとして出撃する。カタフラクトで行きたいところだが、ワタナベの友人の技研から試製80式歩兵戦闘車を借りることにした。交渉に出たアイツと情報提供してくれたワタナベには恩に着る。選抜メンバーを発表するー」
ワタナベの友人は、自衛隊の変態が集いし紳士がいる技術研究本部から試製80式歩兵戦闘車(コールサイン:フッサール)を借りた。
本来、試製80式歩兵戦闘車は皇紀2680年、つまり2020年に正式採用・生産開始されるはずだったが、最終投票で北欧の装甲車に負けてしまい、試製80式歩兵戦闘車を1台調達するのに対して、北欧の装甲車5台分という破格の値段でコストパフォーマンスがかなりめちゃくちゃだった。
それでも高性能且つロケット弾無効の近接防御システムや、直上に打ち上げるミサイルフレア・チャフ、夜間戦闘も可能車輌としては別格の高パフォーマンスである。
ただ、却下された以上は破棄せざる負えない状況だった時に、フリッツに忠義を尽くしているフレディが現れて、2つ返事で無償提供したそうだ。
今作戦に投じる戦力は、
・ドラグーン:威力偵察兼攪乱攻撃騎兵・フレディ
・フッサール1-1:車長・フリッツ、操縦手・リック、砲手・ワタナベ、管制手、ロック、
・フッサール1-2:搭乗支援兵・ジョン、マイケル、ジョージ、ガウディー
と決まった。
既にドラグーンは作戦中である。
彼の連絡は逐一、オーバーロードとフッサール、Noceに届くように指令を送っている。
今作戦は彼の偵察次第で投じれる戦力がわかる。
今回は対車両も考え、ドラグーンとフッサールであれば十分な火力だろう。
拳銃はともかく対戦車ロケット程度ならばフッサールで十二分に防げるし、攪乱はドラグーンと搭乗支援兵の5人が担当する。
久々の激戦に腕が鳴る傭兵らはリーの号令ですぐさま取り掛かった。
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車庫にて、フッサールの装備を見て選抜メンバーの9人が驚嘆の声を上げた。
半世紀も活躍していた傭兵にとって、次世代の最新式の装備が目の前に広がっていることすら稀なのだ。
フリッツを始める4人は乗り込んで各システムの動作チェックを始めた。
搭乗支援兵は、敵の撤退能力を削ぐために『GP-25 カスチョール』の付いた東側兵器で統一した。
東側兵器で統一したのは、テロ組織の同士討ちとDAに誤判断・攪乱するために用いることにした。
フリッツがチェックリストを確認終えると、搭乗支援兵に指示を仰ぎ、搭乗するの確認してから出撃した。
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1850時
東京・旧隅田公園
<<ーーー今のところ言えるのはそれだけだ。>>
という声が通信機から発されるのはNoceことクルミの声だった。
直後、オーバーロードから通信が発せられる。
<<了解した。こっちも同様に判明していて、おおよその筋書きは解っていた。お前の責任じゃねぇよ。>>
<<・・・お前は本当に根が真面目で優しいんだな。>>
オーバーロードの優しさの言葉にクルミは小声で言う。
<<褒めても何も出ねぇよ。>>
<<・・・皮肉なの知らないのか?>>
クルミの皮肉の込めた小声だったが、リーは『皮肉』は通じない理屈があった。
<<皮肉だろうがなんだろうが、俺たち傭兵は関係ない。目の前の障壁を崩壊させるのみ。>>
<<なるほどな。それがカズキたち・・・いや傭兵の執念って奴だな。>>
<<執念じゃないさーーー>>
2人のやり取りをずっと黙って聞いていたドラグーンが会話を遮る。
「2人共、黙れ。作戦中且つオープンチャンネルだ。静かにしてろ。」
<<おっと、ついな・・・すまん。>>
オーバーロードは謝るが、クルミは”あること”を思っていてそれを言ってみることにした。
<<フ・・・いや、ドラグーン。質問していいか?>>
<<Novemberが居ない今ならな。>>
<<お前の『
<<知らん。>>
単純で分かり易い一言で片づけたドラグーン。
その言葉で困惑するクルミ。
<<おい・・・それだけか?>>
<<29になっても、
ドラグーンの信念は簡素且つ固かった。
自身の道を探している。
何が正解ではない。
『正解』という道なんて存在しないからこその彼の生きる道なんだろう。
これを聞いたのはクルミだけではなく、オープンチャンネルで聞いているオーバーロードやフッサール、千束と単独行動中のたきな以外の喫茶リコリコが聞いていた。
傭兵の連中は薄々解っていたかもしれないし、千束以外の喫茶リコリコだって、あのデータを見てしまって以来、”そういう”風にしか捉えられなかった。
ドラグーンの言葉の重みを噛みしめながら、クルミは次の質問に移った。
<<お前の事は大体は解った。それで、なんでそこに千束が来ると思った?>>
そうドラグーンは千束よりも先回りして、この公園でずっと偵察をしていた。
<<この公園は周囲が広く、尚且つ邪魔する障害がほぼない。集団戦になったとしてもNovemberの反応速度なら対応できる。特に追いかけられているNovemberが待ち伏せするには、狭い所より広いところの方が非常に対処しやすいってことだ。>>
ドラグーンの言うには、狭い道で待ち伏せすると慎重深い敵は、必ず警戒するし「絶対殺すであろう」という殺意を感じるだろうと見ていた。
ならば、周りが広く障害物が無いところならば、待ち伏せしたところで獲物は1つ。
慎重深い敵であっても隙が生まれるだろうとドラグーンは予測していた。
そしてドラグーンはクルミに指示を仰いだ。
<<ドラグーンからNoceへ。Tangoに通信を変わってほしい。>>
<<解った。>>
クルミは直ぐにたきなの通信に切り替えた。
<<こちらたきなです。クルミ、どうかしましたか?>>
<<Tangoへ。こちらドラグーンだ。旧隅田公園の場所しってるか?>>
<<・・・え!?>>
たきなは通信相手がクルミでもなければミカでもない、ドラグーンの声に驚いた様子だった。
<<どっちだ?>>
<<・・・場所は知ってます。>>
<<なら早く来い。アンブッシュ出来る場所がある。消音器つけて来いよ。>>
ドラグーンの淡々とした対応にたきなは疑問に思う。
<<なぜ、千束がそっちにー>>
<<来るとしたらここにしか来ない。詳しい説明はNoceから聞け。>>
<<腑に落ちません・・・がわかりました。すぐに向かいます。>>
たきなの心情を他所に、続いてドラグーンはフッサールに呼びかける。
<<ドラグーンからフッサールへ。どうだ?Limaと合流できたか?>>
Limaとはミズキが運転する喫茶リコリコが所有する救援車輌の事である。
ドラグーンからの応答にフッサールの車長であるフリッツが答える。
<<こちらフッサール1-1。既に合流済みだ。>>
<<了解。Limaはどうだ?>>
<<今、アンタらの後ろについているわよ。>>
<<了解。フッサールが威力攻撃位置についたら同時に動け。アウト。>>
と、ドラグーンは通信を切る。
ドラグーンは斜面に地を這って射撃位置に居続けた。
ドラグーンの位置はハルダウン出来る位置であり、敵からはほぼ見えず一方的に撃てる位置であった。
斜面の根元にはドラグーンが乗ってきた軍用馬が大人しくいる。
ドラグーンの由来は竜騎兵。
乗馬しながら射撃や、サーベルでの攪乱突撃、下馬して散兵戦術にも持ち込める。
彼はそれら戦術を理解した上でコールサインにしている。
18世紀の騎兵の中で、追撃専用の軽槍騎兵や乱戦に持ち込める胸甲騎兵の損耗率は8割を超えており、大抵は20代半ばで亡くなることが多い(30代まで生き残ると職を追われたり、わざと殉死させたり、部隊の爪弾きものとして侮蔑の対象になっていた)。
塹壕、機関銃、航空機の誕生で近代戦争からは全くお荷物ではあるが、単独での行動ならば損耗は「1」で抑えられる。
だから、命を引き換えに1つ1つの作戦に従事していては、0%に近い作戦でさえ完遂する実績さえある。
それが彼のコールサインの由来だ。
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ドラグーンの偵察する先にNovemberが右から走ってきた。
Novemberの後ろには所属不明の一般車両が追ってきた。
明らかに敵意をむき出している。
ドラグーンは総員に通達した。
<<Novemberを視認した。所属不明の車両とセットだ。>>
<<ドラグーン、よくやった。行動開始まで待機せよ。オーバー。>>
<<了解、ゼロアワーまで待機する。>>
Novemberこと千束が振り返って車両に向かっては射撃する。
拳銃弾のフレシブル弾こそ命中率は低いが、何発かは車両に当たり、運転手に当たったのか車両は横転した。
ドラグーンは単独で音源周波収集器で盗聴を始めた。
後々の情報としてオーバーロードと共有するためである。
<<アンタが一連の襲撃犯?>>
周波数特性的に錦木のモノだろう。
ドラグーンは声を確認すると、再びスコープを覗く。
<<酷ぇじゃねぇか>>
緑髪の男が千束に向けた言葉だった。
千束はその顔を見て絶句している。
ドラグーンはスコープを赤外線スコープに切り替え、2人のいる場所を注視していた。
目視だと男が血まみれなのがよくわからないがドラグーンのことだ。
鷹の眼で識別しているだろう。
千束が若干引き気味で、男の背後に回ろうとした瞬間だった。
男の口から液体を吐き出し、千束の視界を奪う。
同時に男の拳が千束に直撃した。
ドラグーンは、心にこみあげるものがあったが、抑えて引き続き監視を続ける。
まだ援護射撃出来る状態じゃない。
もしここにたきなが居たら、思わず助けに入って奴らの思うつぼだっただろう。
作戦そのものが失敗になりかねない。
男の高笑いが聞こえて、ドラグーンは虫唾が走った。
男が千束に対して暴力振るい、千束の士気低下を図っている。
その2人に注視したせいか、警戒を怠ったのか・・・いや両方だろう。
既に野次を飛ばすテロリスト共が千束の周りを囲んでいた。
品のない野次と低学歴並みの甘い包囲網。
散々テロリストを見てきたが、これでは単なる的ではないか。
とその時、ドラグーンの肩を叩くものが居た。
ドラグーンは確認すると、たきなだった。
「何が起きているんです?」
ドラグーンは無言で赤外線スコープを外して、たきなに手渡す。
たきなは、それを取ってはスコープを覗き込む。
千束に対しての暴行が行われていた。
流石に感化出来ない。
だが、ドラグーンは止めた。
「3時方向にアンブッシュ可能な場所がある。ゼロアワーまで射撃は控えろ。いいな?」
「しかしー」
「気持ちはわかる。
ドラグーンの言葉は戒めるための重みに聞こえる。
たきな頷いて、消音器を自分の拳銃に取り付けて、林の中に隠れる。
ドラグーンは監視を再開する。
男がとあることで質問する。
<<お前の使命はなんだ?>>
男は千束の首元に対して何かを指していた。
ドラグーンが休息がてらに千束と前に会った時を思い出す。
(そういや錦木の奴。確か梟の首飾りだったよな・・・アラン機関の子供たちに配られる神の偽りの印。)
男は続ける。
<<”アラン”のリコリスか。フッ、面白いな。>>
男の言葉でドラグーンは確信に近づけた。
男もアラン機関を知っていて、DAも知っている。
となると、奴もジョージ同様にアラン機関であり、腐った納屋を貪るシロアリだと。
そして、1つの引き出しからある人物の名前が浮かび上がる。
「真島・・・10年前の電波塔・・・テロ主犯の1人・・・アランによって生きてたわけだ。」
新たな獲物に思わず口角が上がるドラグーン。
”真島”という名はリーの情報網から得た数少ない情報の1つ。
それが目の前にいることは何ら不思議でもない。
最も不思議なのは10年前の敵同士が相対していることだ。
真島は千束が立てない状態まで追い込んでいる。
たきなが通信で叫ぶ。
<<これ以上は!>>
<<こちらオーバーロード。まだ動くな。どんな状況であれ、フッサールが援護につかない限り、勝ち目はない。>>
<<千束を見捨てるなんてー>>
<<Tango。止まれ。
<<
<<あぁ。お前さんの言った通りの人物だ。>>
<<許可する。・・・Tangoならびにフッサール、Limaはそのまま待機せよ。仕掛けどころもタイミング、ゼロアワーも彼に任せるしかない。アウト。>>
次回⇒【圧倒的制圧力】
小話【ジョンとマイケルと時々たきな】
ジョンとマイケルは訓練が終わると喫茶リコリコに立ち寄っては、珈琲を片手間に談笑をして、帰っていく。
今日も下らないジョークとスコアアタックの話ばかり話していた。
明らかに異質な存在。
常連客からは、
「ねぇねぇ、たきなちゃん。あの人たち、何の言葉で言ってるか分からないけど・・・なんだか物騒なこと話ばっかりしてるわね?」
と常連客の伊藤さんから言われた。
仕方がない。
彼らは傭兵で、伊藤さんを始めとする常連客は一般人である。
戦いこそが日常の彼らとは、程遠い世界観と価値観を持っている。
そんな視線があっても彼らは止まらない。
彼らがこんな些細なことで気にしていたら、世界一の傭兵集団とは言えないだろう。
そんな彼らがたきなを呼ぶ。
「たきなお嬢!追加注文だ!」
とラテン語でたきなを呼ぶ。
たきなが2人に注文を取ると、ジョンがフランス語でミルクコーヒーを2つ頼んだ。
「ただいまお持ち致します。」
とたきなが厨房に戻ると、彼らはまた話し出す。
今度はたわいのない話や、土産話、互いの嫁話など、日本語以外で喋り出していた。
たきながミルクコーヒーを持ってくるとマイケルが、
「おう、ありがとさん。」
とロシア語で感謝を述べる。
「いいえこちらこそ。」
たきなも常連客に悟られないように敢えて”日本語”で返し、お辞儀して去ろうとしたとき、ジョンがドイツ語で止めた。
「お嬢、この間はフレディが申し訳ない。」
この間?
あぁ・・・”不殺”の下りか・・・
たきなは無言で2人に頷く。
その”答え”にマイケルが答える。
「アイツはな、俺たちがこうやって楽しんでいる時も寝ている時も、ずっと生死の狭間の訓練している。」
「どういうことですか?」
「あの若さで俺たちを超える実力を持っているってことだ。誰にもアイツには勝てない。だが、”死”に慣れてしまった哀れな戦士になっていたよ。どんな痛みでも常に無の表情を保とうとする。」
たきなは思う。
死を恐れない戦い方。
たきな自身もそれは感じ取っていたが、まさか傭兵仲間からも呆れるぐらい感じていた?
ジョンが〆の言葉を”敢えて”日本語で言う。
「いいか?お嬢さん、アイツには絶対に喧嘩売るなよ。俺たちだって命があっても足りないぐらいだ。奴は、フリッツ以上の力を秘めている。それぐらい厄介なんだよ。」
そう言って2人はミルクコーヒーを飲み干しては互いに1万円札をチップに置いて帰っていった。
彼らはそれぐらい”狼”を恐れているのと同時に味方にいりゃ安全だと思っている。
でもそれぐらい恐ろしいからこそ、彼らは”狼”を認めているってことになる。
益々、”狼”の存在が分からない。
なぜ命を張ってまで戦うのか?
彼にとっての”道”とは何か?
たきなは片づけながら考えていた。
~Fin~
それでは、次回までごきげんよう。