宇宙暦797年帝国暦488年
8月自由惑星同盟建国以来初となる救国軍事会議によるクーデターはヤン艦隊によってハイネセンは解放されたことによりクーデターは収束に向かいつつあった。そして統合作戦本部においてそれらの残務処理をこなしていたヤンの元に薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊ワルター・フォン・シェーンコップ准将よりとある人物の名を聞くことになった。
ヤン提督
「済まないシェーンコップ准将、もう一度言ってくれ。」
シェーンコップ准将
「降伏したブロンズ中将の取調べで自決したとされるグリーンヒル大将と同じ部屋で死んでいた男はアーサー・リンチ元少将だと証言した…と申し上げたのです。」
ユリアン
「アーサー・リンチって九年前の…」
ヤン提督
「それは確実…かい?」
シェーンコップ准将
「軍医によってDNA照合されました。間違いありません。」
ヤン提督
「そうか…」
この時ヤンは自分の頼りになる副官のフレデリカ・グリーンヒル中尉がこの場に居ないことに安堵していた。罪を犯したとはいえ自分の父親が亡くなったのである、そのショックで自室で休養をとっていた。もしこの話を聞いていたら間違いなく状況的に父と撃ち合ったであろうリンチの死体が置かれている遺体安置所に突撃していたのは想像に難くなかった。
ヤン提督
「…シェーンコップ准将、リンチ少将の遺体は?」
シェーンコップ准将
「統合作戦本部の地下遺体安置所に保管してあります。」
ヤン提督
「そうか…ユリアン、私は一時間ばかり《散歩》してくる。ムライ少将やパトリチェフ准将が来たら一時間で戻るから報告かあったらその時に聞くと伝えてくれ。」
ユリアン
「分かりました。」
ヤン提督
「シェーンコップ准将、報告ご苦労さま下がって良いよ」
シェーンコップ准将
「なら同行しますよ、護衛は必要ですからな。」
ヤン提督
「もう危険なんてないんたけど…?」
シェーンコップ准将
「閣下、貴方はもうちょい自分の立場という物を考えていただきたい…予想をつかない事を仕出かす莫迦なんて何処にでもいます。今回のクーデターだってそうではないですか。」
ヤン提督
「分かった分かった、なら貴官も同行してくれ。ユリアンじゃあ少しばかり行ってくる。
ユリアン
「はい、ヤン提督行ってらしゃい。」
シェーンコップ准将
「…さほど驚いてはいなかった様ですが知っていたのですか?」
ヤン提督
「いいや、だがある程度予想していた…ローエングラム公が同盟内に工作員を送り込む時に軍の高官と接触出来る人間を工作員に選ぶと思っていた。如何に今の同盟政府に不満が溜まっているとはいえ民間で扇動したところで同盟を分裂するまでに至るとは考えにくいからね?ならば軍の高官に接触できる身分の捕虜を使うのが自然だと思ったんだ。それがまさかリンチ少将だとは思わなかったが…」
シェーンコップ准将
「なるほど、ですがどうやって同盟領に入ったのですか?あの捕虜交換のリストにはアーサー・リンチの名は無かった筈だが…」
ヤン提督
「キャゼルヌ少将があの捕虜交換に先立って何百人かの捕虜や抑留者がフェザーン経由で帰国していたと言っていた、つまりあの捕虜交換は我々の目を引く為の派手な演出だったという訳さ」
シェーンコップ准将
「全ては帝国、いやあの金髪の坊やの手の平だったという訳ですか…いやはやなんとも」
ヤン提督
「さて着いたか」
【遺体安置所】
ヤン提督
「イズミ軍医中佐、失礼するよ」
中に入ると黒い髪を肩まで伸ばした妙齢の女性士官がカルテを作成していた。ヤンに気付くと敬礼したので答礼する
イズミ軍医中佐
「ヤン提督、どうなさいましたか?」
ヤン提督
「中佐、済まないがアーサー・リンチ元少将の死因はもう特定したかい?」
イズミ軍医中佐
「それなら丁度終わりましたので作成していました。死因は腹部にブラスターを複数発撃たれたことによる失血死…後はアルコール反応が検出されただけですがそれだけです。遺体をご覧になりますか?」
ヤン提督
「頼む」
イズミ軍医中佐
「了解しました。少々お待ち下さい…………お待たせしました」
ヤンはカプセルに入っていた遺体の顔を覗いてみたが白髪と無精髭が目立つが記憶の中にある当時のリンチ少将と一致していた。
ヤン提督
「………本人で間違いない。………済まないが二人とも外に出てくれないか?たいして時間は取らないから」
シェーンコップ准将
「承知致しました。」
イズミ軍医中佐
「了解しました。用事が終わったらお声をかけてください。」
そうして二人は出ていったがシェーンコップが中佐の肩に手を回していたのは気にしないとして…ヤンとリンチは9年振りに当時の上官と部下として向き合った。
ヤン提督
「お久しぶりですリンチ少将、この様な形で再会するとは思いませんでした。部下やブロンズ中将から聞きました、貴方は他者に《弁解のしようがない恥を掻かせてやりたかった》と言ったそうですね?当時の同盟政府や私にも貴方を追い込んだ責任は有りますから責められません」
ヤン提督
「ですが敢えて言います、たとえ九年前のあの日に戻ったとしても私は同じ選択をしていたでしょう。私にあの時エル・ファシル市民の脱出を命じたのは他でもない貴方だ、私は貴方の命令でエル・ファシル市民三百万と私の指揮下に入った数千人の部下達の命を預かった責任を負っていました。例え、貴方の逃亡に着いて行った警備艦隊将兵五万人に恨まれようとも脱出を成功させる決心をしました。そして何より我々同盟軍は民主共和制の軍隊です、軍は国家に何より国民を守るべき存在です。国民の税金を使わせて貰ってる軍隊がそれを忘れてしまったら我々は只の暴力集団です。」
ヤン提督
「少し話が長くなってしまいましたが、どうせ私もこんな因果な仕事をしています。何れ私も《そちら》に逝くでしょう…その時に文句を聞きますよ、その時迄もう一度お別れです。これで失礼します」
宇宙暦797年9月ハイネセンポリス郊外に一つの墓が建てられた。その墓には生年没日以外に名前は刻まれてはいなかったがその墓にはただ一言こう刻まれていた〘A・R安らかに〙と…
拙い文章ですが暇潰しにどうぞ