誰じゃ、わらわのバージンロード(予定)に幼馴染みヒロインを置いたのは!!!!!



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匂わせってネタのせいでスマシがめちゃくちゃ便利な設定になってます。てかほぼスマシ=スマホです。



海賊女帝ボア・ハンコック、ウタチャンネルでの度重なる匂わせにより無事アンチへと化す。

 

 

 

 女人国アマゾン・リリー。男子禁制はその名の通り国内に一切の男が居らず、時折国外に出て子を宿す者が現れようとも生まれてくる子はみな女。

 

 ここは女系戦闘民族〝九蛇〟と呼ばれる強者達が守護しており、当然のように覇気を纏う彼女らは外海でも悪名高く知られている。

 

 そんな彼女らを率いる者の通り名は枚挙にいとまがない。絶世の美女、現アマゾン・リリー皇帝、九蛇海賊団船長、海賊女帝。

 

 その者の名はボア・ハンコック。老若男女問わず虜にする美貌は──現在、憤怒に染まっていた。

 

 

「……のう、ニョン婆。この耳障りな音楽は何じゃ」

 

「歌姫ウタの新曲でございます。国民の間でも流行しておりますゆえ、婆も流行りを知っておこうかと」

 

「……ではこの映像電伝虫で映し出された待機中の画面は何じゃ」

 

「歌姫ウタの雑談配信の待機画面でございます」

 

「何故わらわの部屋に映し出しておる」

 

「婆のお節介でございます。一国を治める者は世間の流行にも目を向けるべきかと」

 

「要らぬ」

 

「とは言うても見るくせに」

 

「黙れ老いぼれが!!!」

 

 

 怒声をあげるがハンコックに動く様子はない。何だかんだ彼女も歌姫の虜になっているかと言われれば、しかしそんなことはなく。

 

 

「ほれ、始まりましたぞ」

 

 

 瓢箪のような絵にUTAと描かれた画面から一転、可愛らしい小物で溢れた一室には歌姫ウタが子どものような笑顔で手を振る映像へと移り変わる。

 

 

『みんなお待たせ! ウタだよ!』

 

 

 彼女の一声で画面左側を流れるコメントは滝の如く加速した。同時接続数は脅威の六十万人超えを記録しており、民衆への影響力という点ではかの世界経済新聞に次ぐとも言われている。

 

 

「チッ!!!!!」

 

 

 ハンコックは怒りを隠すことなく舌打ちする。いくら視聴者が多いとはいえ開幕からこれだけ不機嫌な人間は広い海と言えど彼女だけだろう。

 

 

『遅れちゃってごめんね! 実はまた船長さんと勝負してたんだ。え? 勝負の内容? それは私とルフ……船長さんだけの秘密なんだから言ってあーげない。……そんなに気になる? ならヒントだけね! ヒントは十秒間ハグを続けられたら勝ちってことだけ! 他は秘密だよ!』

 

「答えではないか貴様ァ!!!!!」

 

 

 激昂するハンコックの怒号は覇王色を纏って城中を威圧する。先々々代皇帝であるニョン婆こそ失神はしなかったものの、少しして階下の様々な場所から悲鳴が響いた。

 

 

『あ、ちなみに勝負は私の勝ちだったよ! ふふ、ルフィったらちょっと子守唄歌ってあげただけで気を緩めちゃうんだから。……あっ!? ルフィじゃなくて船長さんね! 勘違いしちゃダメだからね!?』

 

『おーいウター! サンジがパンケーキ作ってくれたぞー!』

 

『後で行くから残しておいてー! ……あっ!? ちょっと、コメントで「おは麦わら」とかやめてよ! 私はただの歌姫ウタ! 今どんな船に乗ってても関係ないでしょ!』

 

 

 ビキビキと青筋が立ちまくるハンコック。恐ろしいまでに美しい彼女の般若の形相は芸術品と言っても過言ではなく、だが当の本人は苛立ちのあまり覇王色の覇気を城中から城下町にまで範囲を広げ、八つ当たりと言わんばかりに撒き散らす。

 

 

「ニョン婆。スマシを寄越せ」

 

「またスパチャですか……。国庫から出とると言うニョに」

 

「知らぬ! わらわの国の金はわらわの物じゃ!!!」

 

 

 スマシ、正式名称スマートタニシ。ある日を境に世界に流通したそれは元々ワノ国の技術であり、現代では気軽に世界中の人間と繋がることの出来る画期的な発明品だ。

 

 

ボア 50,000-

 

ウタさん、いつも素敵な楽曲を楽しく拝聴させて頂いております!

さて本題なのですが、最近ウタさんの乗船している船長とのエピソードを語るのは正直如何なものかと思います。例えば先程の勝負の件などは船長さんにも立場があるのでその方のことを思うのであれば話題に出すのは自重するべきではないでしょうか。

少し考えればそういった行為は彼への迷惑になりかねないと何故気付かないのでしょう。これはあなたのことを考えての忠告です。

少しでもご納得頂けたのであれば即刻やめてください。

 

 

「これで少しは懲りるじゃろう」

 

 

 やり切ったと言わんばかりにふうと息をつく。落ち着いたハンコックは垂れ流しになっていた覇王色を収め、先程のスパチャが読まれるのを今か今かと待っていた。

 

 

『……あ、ボアさん! いつもスーパーチャットありがと! この人は本当にうちの船長のことが好きだねぇ』

 

「なっ!? 何故わらわがルフィのことを慕っているとバレておるのじゃ!? わらわの巧妙な隠密が……!」

 

「……恋は人を盲目にするニョう」

 

 

 ハンコックによるお気持ち長文赤スパは初めてのことではない。何ならライブ配信の度に一度は送っている。そんな光景もウタをはじめ視聴者もそろそろ慣れてきた頃であり、今日もまさに視聴者から弄られていた。

 

 

 ──草

 

 ──麦わら罪深くて草

 

 ──いつもの麦わらガチ恋勢ほんま草

 

 ──海賊女帝に憧れる一般厄介リスナーボアさんちっすちっす

 

 ──ルウタは実在する!!!(ドン

 

 

「な、何故わらわが笑いものになっておるのじゃ!!! それにわらわは海賊女帝本人じゃ!!!」

 

「ルウタ……確かに尊いニョう」

 

「黙れ貴様!!! ルフィはわらわと結婚するのじゃ!!! ルウタではなくルハンが正義じゃ!!!」

 

 

 そんな調子で、今日もハンコックははらわたを煮え繰り返す。

 

 

 

 ここは女人国アマゾン・リリー。ベールに包まれた秘密の花園には、ある男へ恋する乙女が突然生えてきたぽっと出の最強幼馴染みに嫉妬の炎を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 女ヶ島、アマゾン・リリー。かの国は九蛇海賊団によって守護されているが、しかし海賊であるため外海に出ることもしばしば存在する。その際の国を守る人間は〝護国の戦士〟と呼ばれ──

 

 ──現皇帝ハンコックから直々に呼び出された彼女、マーガレットもそのうちの一人である。

 

 

(な……何故私が蛇姫様に呼び出されたんだ……?)

 

 

 マーガレットにとってハンコックは英雄そのものだ。ここ女ヶ島において皇帝の地位は絶対であり、また覇王色を有する彼女は肩書きを除いても余りあるカリスマが備わっている。

 

 かつて石にされた経験など些事と思えるくらいに、マーガレットはハンコックを尊敬していた。

 

 

「マーガレットだったな」

 

「は、はい!」

 

「お主は気に食わんことではあるがルフィと親しいと聞いておる。偽りはないか?」

 

「ええ! ルフィは友達です!」 

 

「……ではこれを見て、お主はどう思う?」

 

「……映像電伝虫?」

 

 

 ハンコックが映した映像は歌姫ウタの切り抜き動画。タイトルは『ウタ様による匂わせもとい嗅がせ集www』というもの。

 

 一瞬躊躇いを見せたハンコックだったが、意を決して再生する。

 

 

『タイプの異性? んー……、帽子の似合う歳下の男の子かな? 二個下くらい!』

 

「……ちなみにルフィは十九歳、この女は二十一歳じゃ」

 

「そうなんですね……?」

 

『このマークは瓢箪じゃないよ。でもそう見えるよね。ふふ、やっぱり下手っぴ』

 

「……ふう……ふう……!」

 

「へ、蛇姫様……?」

 

『ねえみんな聞いてよ〜! 今日お風呂入ってたらアイツ当たり前のように乱入してきたんだけど! そりゃ小さい頃はアイツも子どもだったし我慢して入ってあげたこともあったけどね? う〜……ルフィのくせに私を恥ずかしがらせて……でもそこまで嫌じゃなかったのが一番悔しい……!』

 

「──調子に乗るな小娘がァ!!!!!」

 

「蛇姫様!?」

 

 

 映像電伝虫を踏み潰そうとしたハンコックの足蹴を咄嗟に受け止める。覇王色と武装色の覇気を纏ったそれはじんじんなどという擬音では済まない衝撃が襲った。

 

 その間にも、嗅がせ集は再生され続ける。

 

 

『ウタ? 一人で何やってんだ?』

 

『ちょっとルフィ! 今配信中だから! 後で構ってあげるから大人しくしてて!』

 

『構ってあげるって何だ! もうおれの方が背高いぞ!』

 

『今日の勝負は負けたのに?』

 

『あれはお前がズルしたからだろ!』

 

『ふふっ、負け惜しみ〜』

 

「マーガレット!!! これ以上わらわの気分を害するならば石にするぞ!!!」

 

「け、消しますのでそれだけは!」

 

 

 急いで動画を止めるマーガレットだったが、尚もハンコックの怒りは収まらない。やはり鬱憤を晴らすため覇王色の覇気を垂れ流しにし、近頃ではもう日常茶飯事になっていた。

 

 

「……ルフィとこのウタとかいう小娘、恋仲であると思うか」

 

「いえ……ルフィはそういった男ではないかと……」

 

「そうであろう!? ルフィは結婚しないと言っておったのだ! それなのにニョン婆は……!」

 

「……? それが私を呼んだ理由でございますか?」

 

「ルフィと親しい者であれば勘違いもしないと踏んだのじゃ。やはり結果は見えておったな」

 

 

 ハンコックはふんと鼻を鳴らしてそう吐き捨てる。望み通りの返答を得て先程よりは幾分溜飲を下げた。

 

 

「あ、でも」

 

「『でも』? 何じゃ? 貴様も世迷言を宣うつもりか?」

 

「い、いえ! 決してそんなことは! ……ただその、今日の世経に……」

 

「その先はわしが話そう!」

 

 

 バン! と扉を開け放ちずかずかと入ってきたのはニョン婆。また無許可で侵入してきたとハンコックは青筋を立てるが、今回は状況が状況だけに咎めなかった。ハンコックにとってルフィの絡む問題はそれ程重い。

 

 

「これを見なされ! ニュース・クーが嬉々として運んで来おった!」

 

「つまらぬことであればつまみ出すぞ」

 

「構いませぬ! 今回のことはそんニョことが些事に思えるくらい重要じゃ!」

 

 

 小さい体躯でめいっぱい新聞を広げる。ハンコックの目に入ったのは両A面になった一面そして裏面であり、それぞれ記された内容は──

 

 

「──『麦わらのルフィ、歌姫ウタと交際関係か!?』じゃと!? 何じゃこの記事は!?」

 

「そちらだけではありませぬ。裏面のこの内容……、まさか歌姫ウタが赤髪の娘とは……。マーガレットもこのことを伝えようとしていたニョじゃな?」

 

「は、はい! 個人的にはルフィがそういった関係を築くなどといったことは考えられませんが、それでもこの写真は……」

 

 

 マーガレットの言う写真とは、どこぞの悪漢二人がウタに絡んでいるところをルフィが一歩前に出て庇っているものだ。それだけ切り取るとやはりルフィの人となりを知っていれば、恋仲と決めつけることは早計と感じざるにはいられないが、問題は彼のトレードマークである麦わら帽子。

 

 

 

 ルフィにとって麦わら帽子は命ほど大切なもの。それを惜しげも無くウタに被せている事実だけは、彼を知っていればいる程ウタへの信頼感が新聞越しにでもありありと伝わってくる。

 

 

 

「……ニョン婆、マーガレット」

 

「は、はい!」

 

「ルフィの前に立つこの男共、気付くことはないか」

 

「……申し訳ありません。私には皆目見当も……」

 

「見切れてはおるが軍用の拳銃を腰に装備しておるニョ。どの機関所属かはわからぬが、ただの軟派男ではなく意図を持って近付いておると見えるニョ」

 

「海軍であれば変装する必要もない。恐らくこやつらはサイファーポール、それも赤髪やルフィに縁のある女への接触とあらば噂に聞くCP9じゃろう」

 

 

 いくら恋する乙女と言えどハンコックは一国を収める女王。ひと目で正確に情報を見抜く洞察力は伊達ではなく、また彼女の推測は全て的中していた。

 

 

「いくらルフィでもお荷物(ウタ)を抱えながら二人のCP9を相手取ることは少しばかり骨が折れると見える。だから大きな戦闘に備えてルフィは麦わら帽子をこの女に預けた。相違無いであろう」

 

「わしもそう思うがニョ、蛇姫や」

 

「様は?」

 

「失礼、蛇姫様。しかし問題はこの記事の真偽だけではありませぬ」

 

「何?」

 

 

 ハンコックは意味ありげなニョン婆の発言にピクリと眉を動かす。

 

 

「歌姫ウタはルフィのことを好いていると思いますかニョ?」

 

「知らぬ。じゃがあの様子じゃ、どうせあやつもルフィのことを慕っておるのだろう。わらわの愛の方が深いが」

 

「では蛇姫様、もしも蛇姫様がルフィと交際しているという報道がなされたらどうじゃ」

 

「わわわわわらわがルフィと!? そっそれはもう結婚ではないのか!? いいやそうじゃ間違いない!!! いくらルフィと言えどそういう空気になったらいずれはわらわと……!」

 

「それが、今の歌姫ウタの状況と見えますニョ」

 

「なっ!? 貴様、謀ったのか!?」

 

「事実を申しただけでこざいます」

 

 

 恋の始まりは人の数存在する。それは例えばお互いがお互いに一目惚れをするように、例えば過去自分を奴隷として弄んだ忌々しき天竜人を殴り倒した相手を知ることであったり。

 

 例えば、二人が恋仲だという邪推を世界に発信されたり。

 

 無論ルフィに関してはそういったゴシップなど気にも留めないだろう。政府の三大機関であるエニエスロビー、インペルダウン、マリンフォードでの大立ち回りを端に発し、天竜人に手を上げる、また祖父が海軍の英雄であり父が世界最悪の犯罪者である革命軍総司令官など、彼を語る上でのエピソードには事欠かない。しかし彼はそういったレッテルなどをものともしない実力を兼ね備えながら、やはり性格をとっても大きな変化があるとは思えない。

 

 だが少し前まで父代わりのゴードンとしか関わりのなかったウタならば。その事実はハンコックらには知る由もないが、彼女を普通の少女と仮定するのであれば恋仲と噂された相手を意識してしまうと推測するのはあまりに容易である。

 

 

「蛇姫様。偉大なる航路(グランドライン)にはこのような(ことわざ)があります。『 ル ウ タ は 正 義 』!!!」

 

「黙れ!!! 貴様など海王類の餌にでもなれば良い!!! わらわは寝室でヤツのアンチ活動をしてくる!!!」

 

 

 今にも切れそうな血管を浮き上がらせたハンコックは機嫌の悪さを隠そうともせずその場を後にする。

 

 取り残された二人のうち、マーガレットはニョン婆へと小声で問いかけた。

 

 

「……何故あそこまで蛇姫様を追い詰めたのだ?」

 

「正妻の座は一人。海賊達がひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を目指すように、女もまた愛する男の正妻を目指し日々精進するもニョじゃ」

 

 

 自身の在りし日を思い出すように、ニョン婆はどこか遠くを見つめる。

 

 

「待てば最後は自分へ振り向いてくれる。まるで物語ニョように美しいが、同時にそれは綺麗事。振り向いてくれないニョであれば振り向かせる努力をする必要があるニョじゃ。そしてそういった自分勝手の原動力になるもニョはいつだって焦り」

 

「……それで、蛇姫様を?」

 

「蛇姫はな、言わばわしの孫娘ニョようなもニョじゃ。愛する孫娘が幸せになる一歩を踏み出せるニョであれば、こんな老いぼれ、憎まれ役にでも進んでなってみせようではニョいか」

 

 

 その結果がアンチ活動ではニョン婆も報われないが、それもまたいずれ歩む恋の道。恋に浮かされる時期が過ぎ、具体的な関係を望むようになれば、もしかすると一つの恋が報われるのかもしれない。

 

 

 ニョン婆は本人に見せたことのない慈愛に満ちた目でハンコックの背を眺める。そんな親心はハンコックの知るところではないが、そこには確かに親愛があり。

 

 

 聡明な彼女であれば、手遅れになるまでには恐らく。ニョン婆の根拠の無い自信は、隣で静かに聞くマーガレットにも伝播していたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……スマシは本当に便利じゃな」

 

 

 そう呟くのは絶賛アンチ活動中のハンコック。憎悪の対象は当然ウタである。

 

 現在ハンコックは湯浴みをしながらツイッターで『ウタ 結婚 有り得ない』でエゴサーチをしていた。作りたてのアカウントでの慣れないことであったが、元来何事においても要領の良いハンコックにしてみればものの数分で歴戦のクソアンチのような手さばきでツイートを流し読んでいる。

 

 ハンコックは幼い頃からこの世の悪意を一箇所に集めたような地獄に身が置かれていた。だからこそ何となくではあるがツイートには純粋な悪意と行き過ぎた好意の二つに分けられるのだと理解する。

 

 

「『結婚とか有り得ないだろwあのウタだぞ?w』……同感じゃ。あの小娘にルフィが釣り合うわけがない。わらわが直々にいいねしてやる。『ウタと結婚するのは俺なのに……有り得ないってふざけんなよ麦わら……死ね……』……ルフィに死ねと言える程こやつは高尚な人間なのか? ブロックじゃブロック」

 

 

 一つ一つのツイートへ律儀に反応していくハンコック。能力者の入浴はその性質上どうしても長い半身浴になってしまうため、こうして時間を潰せるものが手に入ると夢中で行ってしまうのだ。

 

 すいすいとアンチツイートを眺めていくと、一つだけ他のものとは毛色の違ったものが見つかる。

 

 

 

 赤毛のサンクス@RedHairThx

 

 噂によるとウタは有り得ない程のファザコンらしい。ウタは大きくなったらお父さんと結婚するんだって言っていたんだ。それにそもそも結婚を許した覚えはない。ふざけるなよルフィ。

 

 

「……何故こんなアンチツイートがわらわの目に留まったのじゃ。気色悪い」

 

 

 自身の行いを棚に上げ直接的な罵詈雑言で唾棄するが、どうにもハンコックの目は自身の意に反してツイートから離してくれない。

 

 それはハンコックにとって経験したことのない〝親から子への愛〟。結果がアンチツイートの一つのようになっていること自体は確かに気持ち悪いことではあるが、赤毛のサンクスなるもののツイートは望む望まないに関わらず確かにハンコックの興味を引いていた。

 

 

「……良くはないからいいねはしとうないが、ブロックするようなものでもない。訳が分からぬ」

 

 

 であればそのままスルーすれば良いだけのことなのだが、操作は出来てもハンコックにはまだインターネットの常識が存在しない。どうしたものかと何となく赤毛のサンクスのホームに飛ぶと、画面右上に気になるマークを見つけた。

 

 

「何じゃこの手紙のようなマークは」

 

 

 とりあえずタップしてみると見慣れない画面が表示される。少し考えた後、ハンコックはそれがようやくダイレクトメッセージを送るところだと理解した。

 

 

 

「わらわの機嫌を損ねたのじゃ。直接気色悪いと言われようと文句はあるまい」

 

 

 

ボア︰先程のあのツイートは何じゃ。まるで自分が親のような言い草であったが。

 

赤毛のサンクス︰誰かは知らないがウタは俺の娘だ。それにルフィのことも小さい頃から知っているぞ。

 

 

 

「なっ!? ルフィの小さい頃を知っておるじゃと!?」

 

 

 普通のネットユーザーであれば真偽不明の世迷言など信じるわけもないが、如何せんハンコックはまだ半年ROMる必要のあるネットビギナー。まして恋慕している者の過去を知ると言われてしまえば、恋に盲目な彼女であればいとも容易く信じてしまうことも無理はない。

 

 

 

ボア︰ちなみにルフィはどのような幼少期を過ごしておったのじゃ。

 

赤毛のサンクス︰毎日毎日飽きもせずに船に乗せてくれなんて言ってきたガキだったぞ。それと泣き虫だったな。

 

ボア︰マウントを取るでない!!! 別にルフィの涙を見たことがあるからといって偉いわけではないぞ!!!

 

赤毛のサンクス︰ルフィのことになると随分ムキになっているが、もしかして好きなのか?

 

 

 

「なっ!? こ、こやつ……! わらわの好意を一瞬で看破するなど……何者じゃ……!?」

 

 

 誰がどう見てもわかりやすいのはハンコックの方であるが、端から可能性の一つに考慮していないハンコックは聡明な頭脳を回転させる。

 

 先程見せられた世経にはウタが赤髪のシャンクスの娘と記されていた。はたしてその情報が真かは現時点でのハンコックにはわかりかねるが、頂上戦争で駆けつけたこと、そして過去の手配書にあった彼のトレードマークの一つでもあった麦わら帽子が今ではなくなっている。

 

 もしもそれがルフィの被っているものだとしたら? ルフィとウタが幼馴染みという事実は憎き彼女のライブ配信で幾度となく語られているので、可能性としては有り得る範疇だ。

 

 

 

 赤毛のサンクス=赤髪のシャンクス。線が繋がった。

 

 

 

 ……もっとも、ハンコックの推論は遠回りをしているだけで常人が見れば〝赤毛のサンクス〟などというハンドルネームは一目瞭然であるのだが、そうするとあまりにもわかり易すぎるためなりきりアカウントと捉えてしまいかねない。

 

 ネット初心者かつ優れた頭脳を持っていること。それらを満たすハンコックだからこそ、画面の先に居る相手が赤髪のシャンクスだと確信した。

 

 

 

ボア︰貴様、赤髪のシャンクスじゃな?

 

赤毛のサンクス︰何故バレた? 黒電伝虫(盗聴)か?

 

赤毛のサンクス︰滅多なことをしてくれるなよ。おれは無駄な血は流させたくないんだ。

 

ボア︰ただの推論じゃ。それに男がわらわを殺せると思うな。

 

赤毛のサンクス︰なるほど。さてはお前海賊女帝だな? 本名でアカウントを作るなって教わらなかったのか?

 

 

「……何じゃそれは。利用規約には書いておらんかったぞ」

 

 

 半年ROMるべき理由の一つ、ネットリテラシーの欠如。かく言うシャンクスも『シャンクス』の名前で登録しようとしたところをベックマンに咎められたので大きな口を叩ける身分ではないが、しかしハンコックが自身の危険を省みない非常識を行っていることも事実。

 

 思いもしないタイミングで身バレしてしまったが、ハンコックははたと考える。

 

 彼女は想い人であるルフィから直接結婚を拒否されている。それは自由を重んじる彼の信念を知っていればむしろ当然とも言える帰結だが、それではいつまで経っても仲は進展しない。ハンコックにとっては考えたくもない世界線だろうが、ともすれば四六時中一緒に過ごすウタに下手なことをされないとも限らない。

 

 将を射んとする者はまず馬を射よ。都合の良いことにシャンクスは二人のことを詳しく知っている様子であり、無意識ではあるが彼女はここに来て初めて外堀を埋める選択肢を思いついた。

 

 ニョン婆が焚き付けたおかげかと言われると、恐らくハンコックは怒涛の勢いで否定するだろうが。

 

 

 

ボア︰認めよう。確かにわらわは海賊女帝じゃ。その上でいくつか尋ねたいことがある。

 

赤毛のサンクス︰こりゃ思いがけないやつと知り合ったもんだ。で? 尋ねたいことってのは?

 

ボア︰ルフィはどうすれば結婚してくれると思う?

 

 

 

 あまりに直球な質問に流石のシャンクスも驚いたのか、少しの間返信が滞る。時間にして数分だが、今まで何事も思いどおりになってきたハンコックに忍耐力などあるはずもなく、苛立ちが募り始めた頃、スマシは通知を告げた。

 

 

 

赤毛のサンクス︰今うちのクルーにも聞いてみたんだがよ。

 

ボア︰何じゃと!? 勝手にわらわの恋路を暴露するでないぞ無礼者!!!

 

赤毛のサンクス︰おれたちゃ全員がアイツらの父親みたいなもんだぜ? 意見はいくらあっても足りねえだろ。お前の先輩に当たる既婚者だって何人かは居る。

 

ボア︰知らぬ。

 

赤毛のサンクス︰映像電伝虫はあるか? みんなの意見を打つのは面倒だから口頭で話せるとありがたい。

 

 

 

 思いがけない申し出にハンコックは一瞬頭を悩ませる。憎き男と話すなどルフィを除けば一秒たりとも許容したくないことではあるが、意見自体はいくらでもあった方が良い。

 

 現状の膠着状態や男への恋により、彼女の心境は確かに変化していた。

 

 

 

ボア︰白電伝虫(盗聴妨害)はあるか。

 

赤毛のサンクス︰ああ。

 

ボア︰ならば貴様の戯れに付き合ってやる。関係ないことは話すでないぞ。

 

赤毛のサンクス︰そうこなくっちゃな!

 

 

 

「……誰か! 映像電伝虫での通話環境を用意するのじゃ! わらわは今から赤髪海賊団と話す! それまで私室には誰一人入れるでないぞ!」

 

 

 ハンコックの一声により世話係は驚愕に顔を染めながらも慌ただしく動き出す。

 

 元七武海と現四皇の私的な通信。あまりにも衝撃的なそれは、万全の状態で粛々と行われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 世界経済新聞、通称世経。この世界で最も影響力のある媒体を日々生み出す大会社は、時に政府でさえ手を焼く情報を流布することもある。

 

 時に大金を対価に情報操作を頼まれることもあるが、社長であるモルガンズの信念に背く内容であれば問答無用で無視することもある、ある種海賊よりも厄介な存在。

 

 当然政府に狙われることも少なくない頻度で起きるのだが、いつまで経っても思い通りにならない理由は()()()()にある。

 

 無理に名前をつけるならば移動型要塞、浮遊型船舶あたりだろうか。

 

 動力の大部分をカモメに依存しており、そんな離れ業を可能にするのが世経の社長であるモルガンズの能力。

 

 トリトリの実、モデルアルバトロス。その能力者である彼の対話能力のおかげで世経はいつまで経っても世界一の影響力を誇るのだ。

 

 

 

 

 

 ──そして現在、そのモルガンズの前に対するはハンコック。取り巻きは居らず、単騎で世経本社に歓待を受けていた。

 

 

 

 

 

「クワッハッハ! まさかあの海賊女帝がうちを訪ねてきてくれるとはな!」

 

「わらわが利用しているだけじゃ。妙な気を起こすでないぞ」

 

「心配無用! 元よりこちとら麦わらとの関係性は当たりをつけてたんだ! これで点と点が繋がった!」

 

「……何じゃと?」

 

「二年間あんな目立つヤツらが音沙汰ねぇなんておかしな話だろ? まして麦わらは頂上戦争で様々な人間を味方につけていたと聞く! 経緯こそわからねえがお前が手を貸していたんなら政府が見つけられなかった説明もつくってもんだ!」

 

 

 そう言いながら笑うモルガンズを見てハンコックは彼への警戒レベルを一段上げる。伊達に〝ビッグニュース〟などと呼ばれていない。隙を見せれば背中の焼印(忌々しき過去)すら見抜かれてしまうかもしれないと、ハンコックは無用な与太話は避けるべく最低限の会話だけで切り上げることを決めた。

 

 

「にしても面白いぜ、お前の奸計(かんけい)! さらにあの赤髪まで一枚噛んでるなんて、こりゃ間違いなく世界を揺るがす! 世界会議(レヴェリー)や死亡記事なんかも面白ぇが有名人の色恋のスキャンダルもまた金になる! 民衆は別世界の住人を共感によって理解しようとするって知ってたか?」

 

「あのウタの記事は本当なのか」

 

「かーっ、まともに会話をする気はねえってか? まあ良い、そのくらいなら教えてやる! ありゃフェイクだ! もしかすると付き合ってる()()()()()()が、麦わらのあの様子じゃ良いとこ歌姫ウタの片想いだと思うぜ! 安心したか?」

 

「気分が悪い。出ていけ」

 

「クワッハッハ! そりゃすまねぇな! けど外を見ろ、もうすぐアイツらの居る島に辿り着くぜ! 〝ビッグニュース〟のツテを舐めんじゃねえよ!」

 

 

 取り付けられた窓から景色を覗くと、青々と茂る新緑からするに恐らく春島。上空だからこそ見えた港には獅子であり太陽でもある特徴的な船首(ビークヘッド)の海賊船、サウザントサニー号が停泊していた。

 

 ルフィと会うのはシャボンディ諸島以来。思った以上に早い再会でハンコックの胸は早鐘を打つ。

 

 

(も、もうすぐルフィと会える……!)

 

 

 頬を染め心臓を落ち着かせる姿はただの恋する乙女。そんな様子を見たモルガンズはにいと口角を釣りあげ、小さく独り言ちる。

 

 

「罪な野郎だぜ、麦わら。こりゃ世界最悪の犯罪者の息子ってのも頷けるな」

 

 

 彼は浮かんだ笑みを隠すことなくその場を後にする。別にハンコックのことを気遣ったわけではなく万全の状態の方が面白くなると踏んだだけなのだが、しかし彼女にとって一人の時間は幾分救われた。

 

 世界を揺るがす大スキャンダルまで、残り三十分。

 

 

 

 

 

 

 無駄な聴衆はかえってノイズを生む。そう考えたモルガンズは少しの間ハンコックを社内で待たせ、部下に麦わらの一味を集めさせた。

 

 真偽不明の招集では集めることは難航するかと思われたが、ハンコックが居るということで主に男性陣の熱望により意外にも船員(クルー)は簡単に集めることが出来た。やはりウタだけは渋っていたが、それも旧知と会えると喜ぶルフィの熱に折れ、心底嫌そうにしながらも従うことに。

 

 呼び出された場所は船着場から少し離れた人気(ひとけ)のない海の見える草原。ロケーションとしては中々風情のあるところだった。

 

 ハンコックを呼び出すまでの間、麦わらの一味は各々好きに喋る。

 

 

「おいルフィ! おれも海賊女帝とお近付きになれるかな!?」

 

「ウソップは女ヶ島に行ったらすげー鼻触られるだろうな! ししし!」

 

「何だそりゃ! まるでおめーが触られまくったみたいな言い方だな!」

 

「触られたぞ。人が飯食ってる時にべたべたべたべた。マーガレットと豆バーさんが居なかったらゆっくり肉も食えなかった! ……あ、でもマーガレットも金玉見せろって言ってきてたっけな」

 

「はぁ!? ちょっとルフィ! 何それ聞いてないよ!?」

 

「何だウタ、おめーも金玉見せて欲しいのか? でもこれは取れねぇからダメだ!」

 

「そ、そんなんじゃないから!」

 

「ルフィ……それセクハラって言うんだぞ……?」

 

 

 まるでただの友達のようなノリで盛り上がる一味。連れてきた世経社員はあの悪名高い海賊などどのような悪党達なのだろうかと戦々恐々としていたが、彼らの仲の良さに毒気を抜かれていた。

 

 

「……お! ハンコックだ! おーい!」

 

「んなっ!? シャボンディ諸島の時は遠目だったけど、この距離で見ると美し過ぎて本当に同じ人間とは思えねぇぞ!?」

 

「おいアホコック、何固まってんだ」

 

「……あれが……ルフィの恩人……!」

 

 

 皆がそれぞれの反応を示す中、ハンコックだけはいつものように楚々とした佇まいを崩さずに一歩ずつ歩を進める。

 

 ルフィまでは残すところ十五歩。微妙に遠いその距離を──ハンコックは十度以上地面を蹴り、一気に距離を詰めルフィに抱きついた。

 

 

「ルフィ! またそなたに会えてわらわは感無量じゃ!」

 

 

 海軍では〝(ソル)〟と呼ばれる移動術。さしものルフィも無警戒だったため抵抗することなく抱きつかれ、落とさないようにルフィ自身からも抱き留めた。

 

 瞬間、四方八方から彼女らをライトアップするかのごとくフラッシュが焚かれる。

 

 

「ちょ、ちょっとルフィ! 軽々しく女の子と抱き合わないで!!!」

 

「良いじゃねえかウタ! ハンコックには色々助けられたんだ!」

 

「……ふっ」

 

「なっ!?」

 

 

 ハンコックはルフィには見えない角度で勝ち誇ったようにウタを嘲笑する。

 

 

「私だってルフィと再会した時は抱きつかれたもん!」

 

「わらわは長時間抱きしめられ続けたこともある」

 

「私はルフィが居なかったら自殺してた!!!」

 

「わらわはルフィが助けてくれなかったら国を追われていた」

 

「お、お風呂だって前一緒に入ったもん!!!」

 

「ふっ。わらわもじゃ」

 

 

 最後に関してはただの事故かつルフィは服すら脱いでいなかったが、あながち嘘だと断ずることも出来ない。現にウタはぐぬぬと悔しそうに唸っている。

 

 

「……さて、始めるぞ。世経」

 

「「「はい!」」」

 

「コホン。……ルフィ! そなたさえ良ければ、わらわと結婚してくれぬか……!」

 

「「「結婚!?!?!?」」」

 

「結婚はしねえ! でもハンコックは恩人だ!」

 

「「「しない!?!?!?」」」

 

 

 声を揃えて驚いたのは麦わらの一味。世界一の美女を前にしてかつ当人からプロポーズされたというのに、ルフィは当然と言わんばかりに申し出を蹴る。

 

 

「てっ……てめぇぇぇぇぇ! おれはあのクソオカマだらけの地獄に居たってのに……! レディの勇気を無駄にしやがって! おろすぞ!?」

 

「余計なことを言わないでサンジ! そうだよね、ルフィには心に決めた相手が居るんだもんね! 信じてたよルフィ!」

 

「良いじゃねえか。そういうのは海賊王になってからだ」

 

「見たか世経。わらわはルフィのことを慕っておるが、何度結婚を申し込んでも断られるのじゃ」

 

 

 世経の記者は聞き逃すまいと音貝(トーンダイヤル)を構える。ハンコックは流れに不備がないことを確認すると、おもむろに手でハートを作った。

 

 

「〝メロメロ甘風(メロウ)〟!」

 

 

 ルフィのみを狙ったハンコックの食べた悪魔の実の能力、メロメロの実による石化現象。彼女に少しでも魅入られた者は例外なく石化するという、まさに実が能力を最も使いこなせる人を選んだような代名詞である能力。

 

 この攻撃を受けて無事だったものは、痛みで邪念を消し去った海軍中将モモンガなど、瞬時に対策を行った者がほとんど。

 

 そのほとんどに入らない人間こそ、今能力を食らってピンピンしている麦わらのルフィだ。

 

 

「だからよーハンコック、この能力はおれには効かねえって」

 

「……このように、ルフィはわらわに異性としての特別な感情を抱いておらぬ」

 

 

 努めて冷静に現状を言語化するが、ハンコックの内心は悲しみでいっぱいだった。自身の好きな相手が自らの持つ能力によって()()()()()()()()()()()()()()()()と思い知らされたのだ。そう感じても当然の状況。

 

 かと思うと、ハンコックは途端に感情を怒りにヒートアップさせる。ビシッ! と指差すは未だ悔しがっているウタ。

 

 

「目下わらわの恋敵は貴様じゃ、歌姫ウタ!!! おぬしの匂わせがわらわにとっては何よりも不快!!!」

 

「だから言ったじゃないウタ……。あんなことを続けてると厄介な人も出てくるって」

 

「な、ナミぃ! だって見せつけたかったんだもん……!」

 

「またボアってリスナーから厄介長文赤スパが飛んでくるわよ? まあお金になるから私は良いけど」

 

「ボアはわらわじゃ」

 

「アンタなの!?!?!? 本名でネットとかアンタ向いてないわよ!?」

 

「黙れ泥棒猫。わらわは四六時中ルフィと一緒に居る貴様も敵と認識しておる」

 

 

 もはやハンコックの敵視が見境なくなってきたが、彼女は続け様に爆弾を投下していく。

 

 しかし次のものに関しては、ルフィでさえ驚くであろう取扱い危険物。

 

 

「世経! 映像電伝虫用意せよ!」

 

「「「直ちに!」」」

 

「……時にルフィ、言うのが遅れたがこの様子は世経のチャンネルでライブ配信しておる。視聴者数は百万をくだらんだろうが……良いか?」

 

「おう! 良いぞ!」

 

「良くないわぁ!!! アンタそんなこともしてるの!?」

 

「わ、私の同接よりも四十万人も上……!」

 

「ウタは変なところで張り合わないの!」

 

「ハンコック様! 用意が終わりました!」

 

「うむ。ではルフィ、そしてウタ。この動画を見るのじゃ」

 

 

 即席の大スクリーンに映し出されたのは──威圧的なオーラを放つ大海賊、赤髪海賊団の面々。中央には大頭のシャンクスが隻腕の右腕で顎髭を撫でていた。

 

 事前に録画されただけの動画。しかし久しい顔ぶれに、ルフィは当時の頃のように目を輝かせた。

 

 

『久しぶりだな、ウタ、ルフィ。元気にしているか?』

 

「しゃ、シャンクスだウタ! 本物のシャンクス!」

 

「黙ってルフィ! シャンクスの声が聞こえない!」

 

 

 ウタでさえ先程までの取り乱しようはどこへやら、不意打ちの家族の面々に釘付けになっている。

 

 

『ウタはおれ達の娘だ。お前らもそのことに異論はないよな?』

 

『当たり前だ!』

 

『ウタは大事な大事な愛娘だぜ!』

 

『……ん? ウタが娘ってことはウソップと姉弟になるのか?』

 

「はは、親父も本当に赤髪の船に乗ってる……!」

 

 

 思わぬ映像にウソップは一人他のみんなとは違う理由で感動する。その目は憧れ以外の何者でもないが、今はそんなことよりも。

 

 

『さてルフィ。今でこそウタはお前らの船に乗っているが、小さい頃にアイツが言っていた肩書きを覚えているか?』

 

「もちろんだ!」

 

「『赤髪海賊団の音楽家』!」

 

 

 またも知らないビッグニュースが飛び出てきて世経の記者は映像が残るというのにメモを物凄い速度で書き連ねていく。

 

 赤髪海賊団兼麦わらの一味。その境遇はまさに鬼の如き経歴。

 

 

『つまりお前はうちの船員(クルー)に手を出した上に愛娘を手篭めにしようとしているんだ。結婚はおろか付き合うこともおれは許した覚えはないぞ?』

 

「ちょ、ちょっとシャンクス! 私の意思は!? 別にルフィのことが好きとか全然そういうのじゃないし意味わかんないし何のことか全く本当に皆目検討もつかないけど! 別に私とルフィが結婚しようが良いじゃん!!!」

 

 

 吼えるウタは言外にルフィへの好意をありありと見せていたが、それが画面のシャンクスに伝わるはずもない。

 

 ぽんとシャンクスの肩に手が置かれる。一歩前に出たのは赤髪海賊団副船長であるベン・ベックマンだった。

 

 

『てかよ、ルフィ。聞くところによるとお前海賊女帝に求婚されてるらしいじゃねえか。あんなべっぴんを逃すなんて男として情けねえぜ?』

 

「何だと! おれは情けなくねぇ!」

 

『はは、どうせ「おれは情けなくねぇ!」とか言ってんだろうな。なら海賊女帝と結婚でもしてみたらどうだ?』

 

「ふん! それで情けなくねぇって思わせれるならいくらでもしてやる!」

 

「る、ルフィ……! ついにわらわと……!」

 

「ダメだよルフィ! ベックマンに乗せられてる!」

 

『ま、その程度の煽りで乗せられるくらいじゃウタへの気持ちは性欲じゃねえってこった。うちの娘のどこに不満があるんだってのは不満だけどな?』

 

 

 ベックマンの物言いはまるで画面の向こうにいるルフィ達と話しているよう。全人類の中でもトップクラスに優れた彼の頭脳は、旧知でもありそもそも単純なルフィやウタの返答くらいは容易に予測可能だ。

 

 

『ほら船長、代わるぜ』

 

『ということだ、ルフィ。もしもウタと結婚したいならデービーバックファイトでもしておれ達から奪ってみろ。あ、あとお義父さんなんて呼ぶなよ? お前にそんな風に呼ばれるなんて気色悪ぃや』

 

『だっはっは! 言えてらぁ!』

 

『ウタは渡さねーぞ、ヒヨッコ海賊!』

 

『海の先で待ってるぜルフィ! また会おうな!』

 

 

 彼らの愛に満ちた激励を最後に動画は途切れる。ルフィは十数年ぶりのシャンクス達に嬉しそうに笑い、ウタは反抗期の娘のようにぶすっとしていた。

 

 暫しの余韻。静寂を割いたのは、動画を見せた張本人であるハンコックだった。

 

 

「小娘……いや、ウタよ。そういうことじゃ。ルフィは諦めるのじゃ」

 

「やだ! ……あ、いやそういうのじゃないけど! でも嫌!」

 

「じゃが見ろ、数多流れるコメントを!!!」

 

 

 目で追うのも難しいコメントの奔流。ウタは目を凝らしてどうにか流し読むと、そこには認めたくない世論がライブ配信を駆け巡っていた。

 

 

 ──海賊女帝と麦わらってすげー組み合わせだな! 結婚しろ!

 

 

 ──麦わらと海賊女帝の子どもとかヤバくね? 未来の海賊王だろ。

 

 

 ──ウタに男は良くないよ。ここは海賊女帝と結婚するべきだね。

 

 

 ──こんだけ想ってるのにハンコック様可哀想じゃね?w

 

 

「な……何これ……!」

 

 

「そう! これが世論じゃ!!! わらわの愛はおぬしのような匂わせ程度では収まらぬ!!! 嗅がせでも足りぬ!!!」

 

 

 ハンコックはウタを指差しあらん限り見下す。見下し過ぎて見上げる程に。

 

 

「わらわの愛は〝見せつけ〟!!! 見ておるか民衆よ!!! 探さなくても良い! わらわはこの世の全てを賭けて証明するぞ!!!」

 

 

 ドン! と一歩踏み出す。あまりの気迫は覇王色となってその場に居る者を威圧し、世経の記者がバタバタと倒れてくことも厭わず。

 

 

 ハンコックは己の愛を証明すべく、らしからぬ大きな声で高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

「 ル ハ ン は 実 在 す る !」

 

 

 

 

 

 それはまるで大海賊白ひげの死に際のような力強さ。呆気に取られた面々は皆一様にポカンと口を開けていた。

 

 

「ルフィ!!!」

 

 

「のわっ!? 何だ!?」

 

 

 またも剃でルフィに抱きつき、しかし今度はすぐに顔を離す。

 

 

「愛しております、愛しのルフィ」

 

 

 そして次の瞬間、ハンコックとルフィの唇は一つに重なった。

 

 最愛の者とのキスはハンコックの思っていた何倍も幸福を感じさせる。抱きしめる身体は男特有の固くゴツゴツと起伏があり、しかししなやかな筋肉は確かな包容感があった。

 

 中でも唇は、同じ人間の感触とは思えない柔らかさだった。

 

 

(嗚呼……これがルフィの唇……! 何と甘美な……!)

 

 

「……さーあ♪ 怖くはない♪ 不安はない♪」

 

 

(な、何じゃ!? 急に眠気が……!)

 

 

 まともにウタのことを調べていないハンコックに知る由はないが、それはウタの食べた悪魔の実の能力。

 

 

 ウタウタの実。彼女の歌を一度聴けば彼女が入眠するまでウタワールドに取り込むという、時代によってその強さが跳ね上がった超人系(パラミシア)の能力。

 

 

 この状況下で行うそれは言わば最強の寝落ち配信。その場に居る者のみならず視聴者でさえ例外なく眠るその能力はまさに悪魔の力と呼ぶに相応しく、全員が寝たことを確認したウタはべっとハンコックに向けて舌を出す。

 

 

「バーカ。んべっ」

 

 

 彼女はルフィの上で眠りこけたハンコックを乱雑に退かし、「上書きだよ」と言ってルフィの口元に顔を近付ける。

 

 

 その後何があったかは、配信の外で行われた行為のため誰にも知られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 女ヶ島、その中心に鎮座するは九蛇城。荘厳な見た目に違わぬ内装の美しさも然ることながら、一際異彩を放つのはその国を治めるかの女帝。

 

 ハンコックは苛立ちを隠さずにとんとんと机を叩いていた。

 

 

「ライブ配信はまだ始まらんのか!!!」

 

「どうせルフィといちゃついておるニョであろう」

 

「また忍び込みおったな!!! いい加減にせぬと極刑に処すぞ!!!」

 

「そんなことよりほれ、始まりましたぞ」

 

 

 瓢箪のような絵にUTAと描かれたマークが中央で存在感を示す画面から一転、いつもの子どものような部屋が映し出される。

 

 しかしいつもと異なる点、それはウタの隣に肉を頬張るルフィが居たことだ。

 

 

『みんなお待たせ! ウタだよ! こっちは()()ルフィ!』

 

『お? 映ってるのか? おれはルフィ! 海賊王になる男だ!』

 

「貴様のではないわ無礼者!!!!!」

 

 

 やはりこれもいつものように激昂するハンコック。やれやれとため息をつくニョン婆だったが、諌めることはない。

 

 先日発行された世界経済新聞には、でかでかとセンセーショナルな見出しが書かれていた。

 

 

 

 ──海賊女帝ボア・ハンコック、麦わらのルフィと結婚目前か!?

 

 

 

 色恋に関して史上最も大きなスキャンダルは、麦わらのルフィ、歌姫ウタ、海賊女帝ボア・ハンコック、そして赤髪のシャンクスと名だたる有名人の名を巻き込んで世界を揺るがせた。

 

 ニョン婆も何もここまで焚き付けたつもりはなかったと世経を見た時は頭を抱えたが、しかしこれも一つの成長かと優しく苦笑した。

 

 

『今日はいちゃいちゃ枠! めいっぱいいちゃつくよ、ルフィ!』

 

『ん? おう! よくわかんねーけど任せとけ!』

 

「……こうしちゃおれん。ニョン婆! スマシを寄越せ!!!」

 

「少しは自重しなされ……」

 

 

 そう言いながらもスマシを手渡すニョン婆はまるで孫にねだられお菓子を買い与える祖母そのもの。お菓子にしては額が可愛くないのはご愛嬌だ。

 

 

ボア 50,000-

 

貴様は歌だけ歌っておれ痴れ者が。それに無理やり同席させるなぞルフィに申し訳ないと思わぬのか? あと噂で聞いたがやはりルフィはわらわのことが好きだそうじゃ。貴様はとっとと身を引いてルフィをわらわに任せておけば良い。世はまさにルハン時代じゃ。ルハンのファンアートはいつも見ておるぞ。わらわが直々に褒めて遣わす。その調子でルウタを殲滅するのじゃ。まあ時代の敗北者が姿を消すのは世の道理、いつもの負け惜しみとやらを鏡に向かってしておれ負け犬が。

 

 

『ふん、厄介リスナーのお気持ち赤スパなんて読んであげないよ。それと私の枠でファンアートのお礼を言わないでよバカ』

 

 

『なあウタ、おれもう良いか?』

 

 

『ダメ! さっき勝負に負けたでしょ! だからこの枠は付き合うこと!』

 

 

『あれはウタがズルしたからだろ! ただでさえ腰まで湯が浸かってるのに水掛けるなんて卑怯だ!』

 

 

『負け惜しみ〜』

 

 

『何だとぉ!』

 

 

 ──これ一緒に風呂入ってね?

 

 

 ──どうせ水の掛け合いだろ。寝言は寝て言え。

 

 

 ──ルハン厨涙目で草

 

 

「こっこやつ目を離した隙にまた!!! ニョン婆! こやつはもう切り刻んで海王類の餌にしても問題無いな!?」

 

 

「歌姫ウタはルフィの仲間じゃ。そんなことをすればルフィが悲しむニョ」

 

 

「チッ!!!!! 卑怯な!!!」

 

 

 ハンコックの怒りはしかし画面の向こうで笑ってるウタには届かない。こんなことになるならば九蛇を放ってでもルフィと共に航海するべきだったと覇王色の覇気を撒き散らしながら歯ぎしりする。

 

 

 

 ──世はまさにルフィCP(カップリング)レスバ時代。

 

 

 

 やがて古のルナミ派や超新星ルしら派など、新たな派閥が台頭してくるのは、もう少し先の話。

 

 

 

 

 

 

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