挑もうとする覚悟と、挑めなかった後悔と。
それらは混ざり合わず、ただそこにある。
裏も表も、隣り合って。
少し前の大喜なら、迷いはしなかった筈だ。言うこと自体は躊躇ったとしても。
やっぱり告白というのは、切り札になり得る手だったんだろう。致命傷にならないだけで、明確に大喜の心へと雛の存在を刻み込んだ。
それが良いことか悪いことかは、分からないけれど。
雛にしたら告白してようやく千夏先輩の背中が見えてきた、って所だからな。これ以上の手札が無いのに、勝ちを決めきれなかったのは痛いだろう。このまま競り続ければ、じきに力負けする事になる。
大喜の気持ちは揺れることがあっても結局先輩から動かない、それを知ってなお好きで居続ける。その姿勢は見習いたいものだ、――俺には出来なかったことだから。
誰かを好きになる、というのがとても難しい話だと知ったのは中学の時。誰かに好かれる嬉しさを知ったのも、その頃だ。
好きな人の前では格好つけたい、そう思って遮二無二頑張って。曲りなりにも、好意的に接してもらえるようになって。でも俺は、その子の一番ではなかった。好かれてはいても、ただそれだけだった。単なる仲の良い男子Aでしかなかったんだ。
色んな人に愛想がよくて、いつでも皆の人気者。誰もが好きになる要素で溢れている、そんな子に思いを寄せる奴が俺一人な訳がない。
だからあの子に「彼氏」という間柄の男子が出来たと知って、俺は身を引くしか手がなかった。それしか思い付かず、ただ離れた。他にも道はあっただろうけど、選ぶ気さえしなかった。
あれから大分経ったけど、去るものは日々に疎しというのは本当だな。向こうはもう俺の事なんか、綺麗に忘れてしまっている。そうでなければあんな風に、友達みたいな顔が出来る訳がない。
友達ではなかったんだ、確かにあの頃は。それよりも少しだけ踏み込んだ所まで進んでいたけど、そこから先には行けなかっただけで。
でももし、そこで引き下がらなかったら。聞いた話では直ぐに別れて違う彼氏を作り、また別れては次を捕まえて……を繰り返していたそうだし、その隙間に入り込む事くらいは可能だったかもしれない。たいした理由もなく捨てられてしまうかもしれないけど、それでもなにもしないままこうして悔やみ続けるよりはマシだ。
別に俺はもう、あの子が好きじゃない。手に入らなかったから忘れられないだけ、フラれる事さえ無く終わった恋の残骸に悩まされている。解決法は何処にもなく、生きている限りは無意味な苦悶が続くだけだ。
大喜にも雛にも、こうなって欲しくはない。例え一切の勝ち筋が無かったとしても、挑んでいってほしい。不完全燃焼のまま生きていくのは、辛いから。
疲れすぎたせいか眠りは浅く、目を覚ましたのは夜の夜中。そもそもこういう雑魚寝はどうも苦手だ、落ち着かない。
隣では大喜が何やら複雑そうな顔をして、それでもかなり深く眠っている。デコを叩いても反応さえしない。しかしコイツ本当に何処でもぐっすり寝やがるな。こないだは部活の休憩中に体育館の通路で爆睡してたし。でも大丈夫なのか、可愛い部類に入るツラなのに、もっと警戒しろよお前、そのうち襲われるぞ。
――別に、良いんだけどさ。
それより大喜と千夏先輩がどうなるか、雛がどうするのかの方が問題かな。いや、俺が睡眠時間を削ってまで考える事じゃないんだけど。
本人が悩まないと意味がないんだ、こういうのは。助言はできても、代わってやるわけにはいかないんだから。
「にしても半年、なんだな」
高校生になって半年、千夏先輩が猪股家に居候し出して半年。雛と大喜の関係が変わり始めて、半年。
まだ半年か、もう半年か。
大喜は先輩と結婚したいとか能天気な事言ってて、雛はそれをからかって。俺はそれを呆れ半分で眺めている。そんなワチャワチャしていた時間が、とても遠く思える。たかだか半年前なのに。
次の半年、そしてその先、何が起こるのやら。まったく大変だよ実際、余計な事をする奴も混ざってきたし。
まあ骨くらいは拾ってやるさ、友達だからな。