NTロリ娘。   作:にゃあたいぷ。

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7.ゴールデンヅダ

「貶す訳ではないが、よくもこんな旧型艦が現役でいられるものだな」

 

 偏に艦長の腕前か、とガデム大尉が乗るパプア級補給艦が合流地点に到着する。

 彼の艦艇が最低限のスラスターで窪みの中まで降りるのを私は、赤く塗装したザクⅡの操縦席で見上げていた。今頃、ガデム大尉とドレン中尉が連絡を取り合っているはずでパプア級は、改ムサイ級軽巡洋艦ファルメルに接舷する。パプア級から伸びる物資搬入用のコンベアパイプがファルメルとドッキングを開始した。

 その檻にファルメルのコムサイとパプア級に搭載されていたW・コムを交換を開始する。素早く補給を済ませる為にヅダ2機とザク1機は、W・コムに搭載されている。

 私は、周囲を警戒している。ミノフスキー粒子に満たされた窪みの中、その縁に立っているとはいえ、電波を用いたレーダーは使用することができない。こういう時に偵察機の一機でもあれば、便利なのだろうなと思いつつもバズーカを片手に頭上を見上げる。

 少し時間が経った後で夜空を駆ける流れ星を見た、青白い光。その先端を戦闘機が駆け抜けている。

 

「木馬には、戦闘機もあるのか……」

 

 私は補給作業を続けるファルメルとパプア級に信号灯で連絡を入れる。

 出来れば、私一機だけで終わらせたいが、しかし、こうなるとバズーカを持ってきたのは失敗だった。高速で飛び回る小型の戦闘機をバズーカで狙うのは至難の業。だが、と照準を定める。出来るかどうかは分からなくても見逃す選択が取れないのであれば、試みる他に手はない。

 やってみるさ、とバズーカの引き金を引くスイッチに指を添える。

 

「……むっ?」

 

 妙な感覚に背後を振り返る。黄色の新型機が、直ぐ傍まで接近していた。

 既に振り被られていたビームサーベルの一撃を咄嗟に飛び退く事で躱す、も手に持っていたバズーカを切断されてしまった。爆発する、寸でのところでバズーカを相手に投げつけて目晦ましにした。艦艇を隠せるサイズのクレーターがある小惑星の地面を踏み締める。右手にヒートホークを構え直す。スラスターを吹かして、バズーカーの爆炎に向けて突っ込んだ。

 爆炎を切り裂くようにヒートホークを振り抜けば、その行く先を光刃が妨げる。

 光刃と熱刃が交錯する時の反発、初めての感覚に戸惑いつつも距離を取った。ヒートホークでビームのサーベルを受け止める事が出来るのか、もしかすると新型機のビーム兵器もヒートホークで防ぐことも可能か? いや、あえて試す気にはなれんな。

 相手がビームサーベルを両手に構えるのを見て、こちらもヒートホークを握り締め直す。

 

「やはり、カナリアと同じ感覚……同じ能力でもララァとは違うな」

 

 だが、と真正面から切り込んだ。

 スラスターを吹かし、ヒートホークを振り抜くふりをしてビームサーベルの攻撃を誘発する。相手は素直に乗って、ビームサーベルを横に薙ぐ。ザクの身を屈めながら相手の懐深くに潜り込んだ。光刃がザクの頭頂を掠める。距離が近い、思っていたよりも踏み込んでくる。ほとんど密着した状態、ヒートホークを振り回せるだけの距離がない。ならば、と左肩のスパイクアーマーを相手の胴体に叩き込んだ。

 相手が二歩、三歩と距離を取る。間合いが取れた、ヒートホークを振り翳す。

 しかし相手はよろけた姿勢のままスラスターを吹かして、強引に態勢を立て直した。熱刃を振り落とす、脇を新型機がスラスターを全開にして潜り抜ける。

 そのまま、互いに距離を取って仕切り直す。

 

「だが、パイロットとしての腕前までカナリアと一緒ではないようだな。まだ可愛げのあった頃を……可愛げ? 兎も角、動きが素直過ぎる!」

 

 ビームライフルを構えようとしたのを見て、使えないように距離を詰める。

 バズーカを破壊されてしまった今、遠距離戦は分が悪いのでな。嫌でも白兵戦に付き合って貰おうか、とヒートホークを振り被った。格闘戦では自分に分があるようだ。しかし蹴りと体当たりを当てる事が出来ても熱刃による一撃だけは、凌がれている。

 それは決定打を与えられていない事を意味していた。

 頭上から気配を感じ取る。先程、遠方を飛び回っていた偵察機のようだ。攻撃能力も有しているようでミサイルを撃ち込んで来た。互いに距離を取る、新型機と自分の間で爆発が起こる。砂煙で視界が妨げられる中、気配を察して身を屈める。頭上をメガ粒子の光線が掠めていった。

 やはり攻撃が素直過ぎる。戦術的には黒い三連星を相手にしてる時の方が余程、手強いというものだ。

 

「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる」

 

 ヒートホークを構えたまま、小惑星の表面を滑るようにスラスターを吹かせる。

 新型機はビームライフルを自分に向けたまま、自分と同じようにスラスターで地表を滑って後退した。出力に違いがあっても、前進と後退では自分の方が速度に分がある。ビームライフルの攻撃を二度、三度を躱して、自分を振り払うように薙いだビームサーベルの一撃を相手の頭上を取る形で回避する。

 相手がビームサーベルで自分の頭上を突いた。姿勢制御用の補助スラスターで位置を調節し、光波を躱しながら相手の胴体を切り落とすつもりでヒートホークを振り抜いた。しかし装甲の表面を剥がした程度、ビームサーベルとヒートホークの間合いの差が顕著に出てしまった。

 相手の脇腹に蹴りを入れた後、空いた間合いをスラスターで距離を詰める。

 

「勘が良いパイロットだ!」

 

 鎬を削る戦いに愚痴を零す。

 モビルスーツの性能の違いで勝敗が決まる訳ではないが、パイロット同士の差は確実に埋めている。そして視界の端に相手の新型艦が補給中のファルメルとパプア級を狙っているのが見えた。舌打ちを零す。ファルメルを墜とされる訳にはいかんのだ。

 しかし援護できる武装が破壊されてしまっていた。

 

「ドレン! 聞こえるか、ドレン!!」

 

 高濃度のミノフスキー粒子による通信障害。この距離では通信が取れない事は分かっていたが、それでも一縷の望みを乗せて叫ばずにはいられなかった。

 

「今すぐ回避をするんだ、ドレンッ!!」

 

 相手の主砲が間もなく発射される瞬間、敵艦の上方から何かが降り落ちる。

 バズーカの砲弾が二発。敵艦の後部を捉えて、艦首が僅かに上がる。その数秒後に敵艦の主砲から極太のメガ粒子が発射された。二隻を同時に捉えるはずだった軌跡がファルメルから外れてパプア級のみを捉える。そして敵艦の上方から黄金色に輝くヅダが、ゆっくりと降りてきた。

 背後からビームサーベルの一撃、私はヒートホークで軽く打ち払う。

 

「先行して来たようだな」

 

 安堵の息を零し、ファルメルに背を向ける。

 

「これで気兼ねなく戦えるというものだ」

 

 戦いを急ぐ必要がなくなったのは大きかった。

 

 

「……なんだ?」

 

 頭上から強い思念のようなものを感じ取る。

 直後に強い衝撃、艦艇が激しく揺れる。攻撃を受けたようだ。

 

 けたたましく鳴り響く警報機に艦内の人間が慌ただしく動き出す。

 パイロットと思しき軍人の一人が、赤いモビルスーツに搭乗した。他にパイロットが動く気配がない。この状況下で戦力を出し惜しむ理由が思い付かなかった。つまりはガンダムに乗れるパイロットが他に居ないという事だ。懸念は当たっていた。僕は物陰から身を乗り出して、皆が自分の事で精一杯になっている中を掻い潜る。

 そして、開けたままになっているガンダムの操縦席に滑り込んだ。

 ハッチを閉じる。デッキに寝かせてあるガンダムを周囲に気を配りながら立たせる。通信用のモニターに映像が映し出された。見た事がある顔だった。艦長と呼ぶには、若い男だ。サイド7でガンダムを格納庫へ移動させる様に指示を出した男である。確か名はブライト・ノア、艦長代理と名乗っていたはずだ。

 ブライトは向こうのモニターに映し出された僕の顔を見て、細い目を見開いた。

 

『君は……サイド7でガンダムに乗っていた……!』

「敵が居るんですよね?」

『戦うというのか、そのガンダムで!?』

「この艦には、僕の友達も乗っているんです。戦力を余らせる理由なんてないでしょう」

『君は民間人なのだぞ!!』

 

 ハッチを開くまでの間、操縦席の脇に置いてあったマニュアルを手に取って操縦系を再確認する。

 

「ブリッジクルーの中には民間人も混ざっていますよね?」

『ぐっ……これは止む終えない処置というものだ!』

「だったらこれも止む終えない処置として、処理してください」

『簡単に言ってくれる……っ!』

 

 マニュアルを椅子の脇に置き直して、近場にあったビームライフルを手に取った。

 そして格納庫の発射口までガンダムを移動させる。周りが僕を止めようと近付いて来た。

 怪我をしないように手で振り払って、出来るだけ慎重に操縦する。

 

「ハッチを開けてくださいよ!!」

『金色のモビルスーツ、来ます!』

『ジョブ伍長はどうした!?』

『歯牙にもかけられておりません!』

『くそッ! 足止めもできんのか……!』

「どうするんです!? このままやられるなんて僕は嫌ですよ!」

 

 ううむ、とブライトの唸り声が聞こえる。

 

『ええい、もう、どうとでもなれだっ!!』

『え、良いんですか?』

『良い訳あるか!』

 

 だが、と彼は続ける。

 

『他に手がない。アムロ君……と言ったな? やれるのだな?』

「やるしかないじゃないか、僕しか操縦ができませんから!」

『ガンダムを出撃させるんだ! アムロ君、撤退の時間を稼いでくれるだけで良い!!』

 

 ハッチが開けられる。出撃しようとした時にまた大きな衝撃が艦艇を襲った。

 

「アムロ、行きます!」

 

 まともには外に出られないと判断し、スラスターを吹かして自力で格納庫の外に出る。

 瞬間、何かが目前まで迫っていた。咄嗟に左手で持っていたシールドを構える。着弾、爆風に機体が中空に投げ出された。今の衝撃、艦艇を何度も揺らしていたものと同じか? まだ残る爆煙を掻き分けて、金色のモビルスーツがメインモニターに映し出された。ザクか? ザクではない、こいつはヅダだ。全開でスラスターを吹かせたまま、シールドの先端に取り付けられた爪をガンダムの胴体に突き立てた。

 機体が地面に叩き付けられる。小惑星の表面を削り、操縦席が大きく揺らされる。

 

「ぐうう……このぉっ!!」

 

 仰向けになった姿勢でビームライフルを撃った。

 しかし相手は機体制御用の補助ブースターで機体を小刻みに振り、装甲を掠めながら距離を詰めて来る。もう撃ち尽くしてしまったのか手にはバズーカを持っていなかった。代わりにヒートホークを右手に握り締めている。仰向けになったまま、スラスターを起動する。頭上に移動、つい先程まで自分が居た場所を熱刃が襲った。

 スラスターを吹かせたまま、機体を立たせる。ビームライフルで相手を狙い撃った。

 メガ粒子の光線をヅダが地面を蹴り、錐揉み状に一回転して回避。二射目、相手の着地を狙ったはずなのに補助ブースターで着地地点をズラされてしまった。三射目は、わざと相手に避けさせる。自分から見て、左に避けた先を四射目で狙い撃った。

 しかし、確かに当たるはずのメガ粒子の軌跡はヒートホークの熱刃で弾かれる。

 

「なんだ、こいつは……!?」

 

 白兵戦の距離まで間合いを詰められる。

 シールドを前に出して身を隠す、ヒートホークが振り落とされた衝撃。赫々した熱刃がシールドの半分を切断したところで光を失った。相手はヒートホークから手を放し、シールドごとガンダムを蹴り飛ばす。体勢を立て直した時、相手は背を向けて逃げ出していた。

 ビームライフルを構える。しかし、残弾を示す数字がゼロになっていた。

 

「……あいつは、なんだったんだ?」

 

 ただただ翻弄されるばかりの初陣に、黄金色の機体の小さくなる背中を呆然と眺めるしかなかった。

 

 

「仕留めきれなかった!」

 

 ダンッ! と操縦席に台パンする。

 メガ粒子をヒートホークで切り裂いたまでは良かったが、そのせいで不良を起こしてしまった。

 シールドクローでは、塗装を剥がすので精一杯。

 有効打を与えられない為、撤退する他に打てる手がない。

 

「颯爽と登場して、華麗に倒し切るはずだったのに!」

 

 ドヤ顔を披露する事ができなくなってしまった。

 キャスバルが苦戦するだけあって、大した奴だ。機体の性能頼りな戦い方ではあったのだけど、射撃の勘が良くて近付けなかった。兎も角、最優先すべきはファルメルの安全確保だ。ファルメルを守る為にペダルの踏み込みを強くした。

 キャスバルが戦闘する頭上を飛び回る戦闘機に向けて、ヅダを突っ込ませる。

 

「武装がなくたって援護くらいは出来る!」

 

 戦闘機が慌てた様子で方向転換し、自分達から距離を取る。

 舌打ちし、眼下を見た。

 赤いザクが黄色い新型機と切り結んでいるのが見えた。

 

「……なんだろ、あの機体……気持ち悪いな…………」

 

 新型機から生理的な嫌悪感を感じ取る。

 上からシールドクローで攻撃を仕掛けてみるか、と思った時、遠くから複数のミサイルが飛んできた。それを身を捩るだけで回避する。どうやら先程、追い払った戦闘機が撃ってきたようだ。バズーカの一発も残っていれば、撃ち落としてやるものを。とファルメルから距離を取ることも出来ず、遠くから自分を狙い続ける戦闘機を睨み付けた。

 今日は厄日だ。戦闘機を放っておく訳にもいかず、ファルメルから付かず離れずの距離を保ち続ける。


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