そういう時に限って見当たらない、なんて。
裏も表もあるけれど、なかなか甘くはいかない。
それでも進む、その道を。
あとキャンプファイアは…?
なんだ、いないのか。やれやれ何処へ行ったんだかあのバカは。風呂か買い物か、まさか練習で走り足りなかったとか言うんじゃないだろうな。
とりあえず大喜が不在と知って、私は男子部屋を後にする。他に用事もないし、変に長居して妙な事を考えられても困る。
昨日は不意打ちみたいな形だったし皆がいたし、ゆっくり話も出来なかった。せっかくの王様カードゲームも、匡のせいでグダグダ。だからこそ、ちょっとその辺まで誘おうと思ったのに。……せっかく一つ屋根の下にいられるチャンスなんだから、活かさないと。
もっと積極的にいかないと上手くいくものもいかなくなる、菖蒲もそう言っていたし――。
「あー……ダメだなぁ……」
余計なことばかり考えてしまう頭を軽く小突き、自販機の方へと向かう。お茶でも買おう、どうも水気が足りない気がする。それに練習しすぎだ、疲れが抜けていない。頭の中がグチャグチャなのは、きっとそのせいだ。一息吐けば、きっと楽になる。そう思いたい。
現実逃避だと、分かっていても。
相談する相手を間違えたかも、とは思っている。「ひなっちが勇気だして告白したんだから、いのたはちゃんと受け止めるべきだよね」と言ってはくれるんだけど、それは少し違うんだ。告白を受けたら好きにならないとおかしい、なんて。
でも菖蒲はそうやって、好きだと言ってくれる人を好きになってきたらしい。よほど好みじゃない相手であれば断るけど、基本は告白された時点で付き合いだして、そこから「好きになるための努力」をする。そしてそれとは別に「好きになっている人」がいて、誰かと付き合いながらそっちも進めていくマルチタスク。或いは――蛸足配線、か。
私は大喜が好き、大喜にも私を好きになってほしい。でもそれは、理想でしかない。大喜が本当に好きなのは千夏先輩、それが揺らぐことはないだろう。
もし菖蒲が言うように、押して押して押し続けたらいつかは大喜をモノに出来るかもしれない。告白したあの日から、少しずつ私たちの関係は変わりつつあるから。今までみたいな「只の友達」ではなくなり、大喜は私を意識してくれている。異性として、そして自分を好きになった人として。
でも、それでも。心の底までは、変えられない。菖蒲なら「それでも良い」と言えるんだろうか。
大喜が好きだから、傷付けたくない。笑顔でいてほしい、でもその為に必要なのは私じゃない。千夏先輩を好きでいる、それが大喜の望み。だから私を好きになんか、なってくれない。
考えるほどに、分からなくなっていく。私はどうしたいのか、分からなくなっていく。
大喜と千夏先輩が近付いていくのは苦しい、でも千夏先輩と離れて苦しむ大喜を見るのは辛い。
人を好きになるのは、こんなにも難しいんだろうか。
だけど、でも。どんなに辛くても苦しくても、歩みを止めたくはない。
無敵の蝶野雛は、挫けない。
お茶の缶を屑籠に放り込んで、また溜め息を一つ。
ああ、良くないな。こんなんじゃ、それこそ大喜の前に出られない。しっかりしないと。
――しっかり、か。考えてみたら大喜って、好きな人と四六時中一緒にいるわけだ。常に気を張ってしっかりし続けないと、やってられないんじゃないだろうか。だって弱い部分を見せるなんて、死にたいくらい恥ずかしい筈だ。
まったく、良く身体が持つな。最初は羨ましいとか思ったけど、もし大喜と同じ家に住むことになったら私は三日で壊れるだろう。いやそんなに持たない、最初の夜でギブアップする。
……夜、か。大喜と隣り合って眠るとか、どんな感じになるのかな。寝顔を見たり見られたり、照れ臭くて仕方なさそう。何となく色々
大変だな、恋って。面倒で苦しくて痛くて辛くて、でも――楽しくて仕方ない。
さて、そろそろ大喜は戻ってきただろうか。もう一回男子部屋に顔出して、それでいなかったら寝てしまおう。
明日で合宿も終わり、そしたらまたいつもの日々が始まる。一歩一歩、進んでいこう。
振り返った時悔やまないよう、全力で。