わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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大独活の苦労

 

 

 

 

 

 大独活(おおうど)安心漢(あんしんかん)は苦労が絶えない。

 

 公安どころか雄英でも問題児を貫き通す七躬治癒々について、全てを一任されているからだ。幾ら上からの指示とは言え、世の平和の為とは言え、彼女と出会ってから気が休まる暇がない。何せ、癒々が何をしでかすか分からないからだ。それだけでも大変なのに、最近は渡我被身子について頭を悩ませることも多い。

 

 常日頃から、癒々が大人しくしてることはない。突拍子もないことを口にして、平然と大人を振り回す。問題発言も問題行動も多く、その後始末に追われる日々は彼の胃をキリキリとさせる。常識やコミュニケーション能力を備えてもらう為に癒々を雄英に入学させたのは、判断ミスだったかもしれないと思い始めてもいる。

 

 そして、今。彼の胃痛は最高潮に達していた。何せ―――。

 

「さて、大独活特務管理官。七躬治癒々さんの度重なる問題行動について、何か弁明は?」

 

 ヒーロー公安委員会。その総本部にある会長室に、ひとり呼び出されたからだ。大きな窓を背に、デスクに肘を付いた会長に真正面から睨まれては肝が冷えると言うもの。しかも彼女の隣には、大きな赤い翼のヒーローが居る。公にはされていないが、公安直属ヒーローのホークスだ。

 

「……ありません。処罰でしたら、何なりと」

「罰するつもりはありません。ですが彼女の行動は、少々目に余る。それに加えて、世間を騒がす敵(ヴィラン)連合に心身の不調。

 ……まだ雄英に通わせるつもり?」

「先日報告した通りです。隔離保護の準備は滞り無く進んでおります。ですが、一ヶ月は待って欲しいと雄英から打診が有りまして」

「断ることも出来たでしょう?」

「……えぇ。ですが、今の彼女は不安定になりつつあります。まずは、サバイバーズ・ギルト(PTSD)の治療を先にしなければ」

 

 これは、つい昨日の話。オールマイト及びイレイザーヘッドの両名から、癒々の精神面について相談がなされた。彼女が、いわゆるサバイバーズ・ギルトに該当するのではないかと。もしそうであれば、ああも自らの命を蔑ろにすることに納得出来ると。

 

 二人のヒーロー、そして教師の言葉に大独活は顔を顰めるしかなかった。自由奔放が過ぎる癒々が、PTSDとはとても信じられない。しかし、即座に否定することは出来なかった。むしろ、納得してしまったのだ。

 

 何故なら。職場体験が始まって直ぐ、癒々は酷く不安定な姿を見せた。とある絵本を読んで気を失い、目が覚めて直ぐに泣き喚いた。過去など要らないと、何も思い出したくないと、そう叫んでいた。翌日には医師によるカウンセリングを受けて貰ったのだけれど、癒々が何も話さない。どころか、医師の言葉を何一つ聞こうとしていなかった。端から見れば、全てに無視を決め込んだのである。その挙句に「どーでも良い」の一言を言い放ち、勝手に退室してしまった。これではカウンセリングも何もない。

 そんな癒々の様子を見た医師は、難しい顔をしていた。しばらく考え込んだ後に「……解離性混迷が疑われます。慎重に、時間を掛けてやって行くしかありません」と告げたのだ。

 

 そして、今朝。大独活はオールマイトやイレイザーヘッドと共に癒々のカウセリングに同行し、医師にハッキリと告げられた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)、それに伴うサバイバーズ・ギルトや解離性混迷を併発していると。

 

「つまりそれは、……記憶が戻りつつあると言うことね?」

「はい。その弊害とでも言うべきでしょうか」

「であれば、尚更雄英に通わせるべきではないでしょう?」

「その通りです。ですが、……彼女は雄英に通うことに固執しています。それを取り上げて良いものなのか、私には判断しかねます」

 

 治療を優先とした場合、癒々は雄英に通うどころではない。嘘か真かステインを迎え入れたとされている敵(ヴィラン)連合に、前々から狙われている。精神が不安定となってしまった癒々が、言葉巧みに惑わされてしまう可能性は無いとは言えない。考えたくはない事だが、大活性が敵(ヴィラン)の手に落ちてしまえば日本は終わりだ。ならば公安としては、今直ぐ隔離保護に踏み切りたい。PTSDの治療だって、それからでも遅くはない筈だ。

 

 けれども。今の七躬治癒々が固執しているものを取り上げてしまった場合、彼女がどうなるのか。その予測は、残念ながら出来てしまう。何せ自らの目的の為には、周囲など気にせず好き勝手に動いてしまうのが癒々だ。強引に隔離保護へ踏み切った場合、彼女は何が何でも雄英に戻ろうとするのだろう。公安からすれば、それこそ見逃せない。見逃してはならない。

 

「……ところで。何故、彼をここに?」

「何故って、そりゃ後輩が気になって。ってのは駄目っスかね?」

 

 大独活がホークスに目を向けると、調子でも確かめるかのように赤い翼を広げた彼は嘯(うそぶ)いた顔をして肩を竦める。とぼけた面をしている優男が何を考えているのかは、まったく分からない。彼の言葉を額面通りに受け取るべきか、何らかの意図が隠されていると探るべきか、苦労が絶えない公安職員は少しばかり逡巡する。

 

「やだなぁ大独活さん。俺は別件の報告でたまたま居合わせただけです。彼女の事については、現状ノータッチみたいなもんですし」

「……戦闘訓練では、随分と可愛がっているように見えましたが」

「あれ、そう見えました? 片手間のつもりだったんですがねぇ」

「ホークス、大独活。今は談笑する場ではありませんよ」

「っと、すんません。じゃ、俺は忙しいんでこれにて」

 

 難しい表情を浮かべた会長に話を遮られ、ホークスはへらへらと笑みを浮かべながら会長室を後にする。大独活は分かり易く溜め息を吐き、天井を見上げた。

 

 これから、七躬治癒々どうするべきなのか。彼女に何をしてあげるべきなのか。それをどう上に報告するのか。ああでもないこうでもないと頭を回しつつ、未だキリキリと痛むお腹に手を当てた。

 

「……彼女の治療を最優先に動くべきかと。出来る限り、癒々ちゃんの希望に沿う形で。下手な刺激を与えるのも良くないでしょうから」

 

 結局のところ。何をしでかすか分からない癒々を、下手に抑え込むことは困難だ。大独活はそう結論付けて、様子見の一手を提案。会長は難しい顔のまま、渋々と頷いた。

 

「……えぇ、分かりました。七躬治癒々さんについては引き続き貴方に一任します。

 ―――それから、富士中事件で発見された遺体の追跡。その進捗が、さっき上がって来たのだけれど」 

「それは、……どうなりましたか?」 

「一人減っているどころか、全て入れ替えられている可能性が高いそうよ」

「……は?」

 

 眉間に深い皺を寄せ、額に手を当てた会長が重々しく語った事実に、大独活は目を見開くしかなかった。

 

 

 

 

 






オマケそのに。ホークス登場と、なんかやべー情報。未来への布石とも言う。
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