「透よ。話がある。座敷へ」
「覚悟おじさん」
葉隠一族が集ったある年の正月。屋敷にて葉隠透は葉隠覚悟に呼ばれた。
◆ ◆ ◆
「話ってなに?」
座布団に座り向かい合う二人。といっても透の存在を示すのは、座布団が重みにより凹む形のみだが。
「年頃の乙女が戦火に柔肌を晒すことを、いかが思うか」
覚悟の問いに、すこし間をおいて透は答える。
「散々聞かれたよ、そういうことは。まずいんじゃないかとか傷はとか。
でも……ヒーローにはなりたくてこの道に入ったんだよ。強制じゃないんだ」
少しだけすねたような声。透は可視光では基本見えないという”個性”があるため、
心を伝えるためにある種演技的な声の調整のうまさがある。
「では、恋をしたことは?」
「ええと……」
「俺は恋を知って、それが秘めることの難しいものであることを自覚した。
極力秘めるものと思うが、しかし惚れた相手に触れぬ触れられぬというのは困難なこと」
「う、うん」
「そこで、肌に火傷や縫い跡が残っていたら?見えずとも唇が、指が、その跡にふれることを
求めやまない心というものが恋だと俺は思っている」
「う、えっと……」
たじろぐ透。彼女の内心には誰か男の顔でも浮かんでいるのか。
「で、でもヒーロー同士とかなら、気にしない人だって……」
「それは相手のこと」
「うん?」
「相手が紳士であることと、傷跡を己が恥じぬか否かは無関係」
「まあそうだけど……」
「己が傷跡を恥じぬ心を持ち続けられるならよし。
だが、体の傷が心にまで傷をつけることとてあろう」
「それは……」
二の句が継げぬ透。覚悟の言葉が正論であることが、理解できるからだ。
ヒーローとヴィランの闘いにおいては、重度の傷跡が残ることは否定しようがない事実である。
他ならぬヴィランの中のヴィラン、オール・フォー・ワンと呼ばれる存在がそれを示している。
「それは、そうだけど!おじさんは、私にヒーローの道をあきらめさせたいの!?」
「逆だ」
「え?」
「そこでただ心折れるなら、牙なき者として明日を生きるべきと諭しただろう。
だが反駁を試みるならば、お前もまた葉隠の一族」
「おじさん……」
覚悟はそこで半ば立ち上がり、背の裏にあったトランクを透の前に置いた。
重厚な、銀行の重要案件でも入っているかのような大物である。
どん、と置かれたそれを、覚悟は開き口を向けて透に渡す。
「贈り物だ。留め金に両親指を当てながら、開けてみなさい。本人認証が成される」
「は、はい」
ややあって電子音と共にかぱりとトランクが開き――。
「何も……」
「お前と同じだ、透。中を触ってみなさい」
透がトランクの内側へ手を差し込むと。
「……!」
何もないように見える空間には、確かに硬質ななにかが存在していた。
「強化外骨格・霛(レイ)。それがこの鎧の名だ」
「おお……」
「超硬化させた特殊偏光ガラス製。お前の個性を極力殺さず、むしろ生かすべく設計されている」
「なるほど……見えないけど、確かに防御力は格段に上がるんだね」
「そういうことだ。全身に装備すれば、なまじっかな体格の異形型ヴィラン程度は徒手にて沈められる」
「攻防一体!これ、凄いね!でも……」
「どうした?」
「見た目とかパーツがどれとかが全くわかんない……」
「見た目はあとで設計図面を見るといい。パーツ配置については、集光が出来たな」
「できるけど……」
「集めた光を明滅させながらトランクの中を照らしてみなさい」
そう言われ透が掌をちかちかと大きな蛍のように光らせると、鎧に小さな丸や星の点が浮かんだ。
色も青や赤など微妙に違っている。
「これは?」
「装甲表面に一滴分程度、特定パターンの明滅に反応するガラスがつけてある。
ヘルメット下部、ブーツ左右上部などにな。マークの種別などは説明書で」
「わかった」
返答した透に、覚悟は設計図を見せる。
そこにあったのは女騎士の鎧にも似た全身を覆う強化外骨格であった。
頭部だけは奇妙なことに、大きなゴーグルのような二つ分の目玉覆いがあったが、
流線形を描くそのデザインは美しさを感じさせる。
「おー、いいね!」
「気に入ったようで何より」
では、とトランクを閉じた覚悟はあらためて正座し透に向き直る。
「透よ。勉学に、鍛錬に励め。雄英とはそれでやっとひとかどの存在になれるところという」
「はいっ!」
こうして、葉隠透は心地よい声で喜びを告げ、強化外骨格を拝領した。