あまり大きな声では言えないけれど。私が初めてアイテム作成に手を出した理由は『暇つぶし』だった。第1層、第2層と次々にクリアされ、アスナたちトッププレイヤーがデスゲーム攻略を推し進めていた頃。
私は、フィールドに出てアスナと鉢合わせすることを恐れ、かといって宿屋に閉じこもることもできず、あてどもなくやってきた第4層主街区にて、バンダナのプレイヤーに出会った。
クラインと名乗る彼との会話で生産職に興味を持った私は、解放されたものの埋めることの無かったスキルスロットに『金細工』スキルを入れてアイテムを自作してみたのだ。もちろん熟練度ゼロで作ったのだから、小さな円盤に紐を通しただけのペンダントだったし、なんの魔法効果をついていないものだった。
「どうしようかな、コレ」
手作り感あふれる仕上がりのアクセサリーを眺めながら、私は独り言ちる。初めてだから仕方ないとはいえとても人に見せられるような出来栄えではない。そもそも何のバフもついていない完全なオシャレアイテムなど今のSAOで買う人間がいるかどうか。
「それに比べてコッチは………」
自作のペンダントとは反対側の手で今日ドロップしたばかりの指輪をつまむ。所持容量拡張+1というスキルに対する上昇補正のかかった一品だ。比較的多くのものが取得するスキルということもあって、プレイヤー相手に価格交渉を持ち掛ければ、それなりにいい値段が付くだろう。
「もしも、こういうのを私が作れたら………」
指輪、ペンダント、イヤリング。アクセサリーにバフ効果を付与したアイテムを作成できたとしたらどうなるだろうか。
例えば、敏捷性を上げる指輪を装備したプレイヤーが間一髪モンスターの攻撃をよけることが出来たり。毒耐性を持ったイヤリングを身に着けたプレイヤーがスタンせずに済んだり。
私の作ったアイテムが見知らぬ誰かを救う瞬間を思い浮かべる。
「あぁ。それは、なんて──────────」
────────幸せなことだろう。
私はきっと、もう二度と自分を許せない。私がアスナを裏切った罪は消えない。私がアスナの隣に立つ日は絶対に来ない。けれど、私の誓いもまた消えてはいない。
アスナを死なせない。そして、出来ることなら、この手の届く人々を護りたい。
それが出来た時、私は少しだけ、前を向けるだろうから──────────────。
*********
アスナとのデュエルを終えた直後。私は木の陰からこちらを窺う気配に気付いて声をかけた。
「誰?」
「悪い。隠れるつもりはなかったんだ」
そう言って素直に出てきた人影を見て、私は軽く目を見開く。そこに居たのはかつてベータテスト時代に私に辛酸をなめさせた黒衣の剣士────名前は確か………。
「悪い自己紹介がまだだったな。俺はキリト。アスナとコンビを組んでる」
「知ってる。貴方有名人だもの」
何ならベータテストの時から顔見知りだったわけだし。けれどそれはそれとして、今はこの感情に水を差されたくなかった。
今日、アスナと会えたことはこの上ない幸福だったと思う。アスナが攻略プレイヤーとして成長している姿は、私の背中を推してくれた。初心者でしかなかったアスナが成長している姿は、見ていて負けれれないと思わせてくれる。
もう友達には戻れないとしても、私はアスナの元相棒として恥じない自分でありたい。
だから、今はその気持ちを少しでもかみしめて居たいのに。
私が少し不機嫌になっているのを知らずにキリトは話を続ける。
「アスナの使ってるシバルリックレイピアは元は君の渡したウィンドフルーレなんだ」
「は?」
「ウィンドフルーレは3層でスペックが限界にきて、インゴットにして打ち直したのがシバルリックレイピアなんだよ」
「なんでそんな面倒なことを……」
「それだけアスナが君にもらったものを大切にしていたんだよ。アスナにとっては今でも君はかけがえのない友人なんだ」
──────────────前言撤回。今日こいつに会えてよかった。
「そう」
「ああ。………じゃあ、俺は行くから」
そう言って去っていくキリトの後ろ姿を眺めながら、私は胸に去来する感情にただただ身を震わせていた。
『私、彼を追うわ。彼と一緒なら見つかる気がするの。この世界で生きる理由』
第1層攻略戦のあと。私に告げたアスナの言葉は、決別の言葉だと思っていた。
でも違ったんだ。今なら、アスナの気持ちが理解できる。
あの時のアスナはただ前だけを向いていたんだ。私との思い出に浸ることも無いほどに、夢中になって。駆けだしていたんだ。
ならば
私は
「行かなきゃ」
アスナの元へ。助けを求め、私を頼ってくれたアスナの元へ、行かなければ。
彼女は誰も追いつけない場所まで走り続けている。ならば私も走り出さなければならない。
だって私は──────────────
────────────アスナの親友なのだから。
それはそうとして。
「私、貴方のこと嫌い」
いつも私の追いつけない所にいるこの黒いのだけは。
どうにも好きになれない。