シスの暗黒卿ダース・シディアスが発令したオーダー66により、当時1万人ほど存在したジェダイの数は一気に減少した。
ヴェリウスの活躍もあって事態は速やかに収束したが、それでも1000にも満たない数まで人数は減り、生き残った者も共和国やオーダーに対する不信感から去る者も少なくなかった。
さらにヴェリウスとダース・シディアスの戦い—————パルパティーン最高議長によってジェダイの反乱の“事実”と銀河帝国の樹立が宣言された特別議会が開かれていた元老院議会場で始まったこの戦いは、銀河の舵取りをしていた議員達を巻き込む形で終焉を迎えた。
独立星系連合のトップであり分離主義評議会のメンバーらも、グリーヴァス将軍がダース・シディアスからの指令を伝えたことで惑星ムスタファーに集結、暗黒卿の弟子となったダース・ベイダーによって皆殺しにされた。
双方とも国の舵取りをしていた指導者を失い、共和国は平和の守護者であるジェダイを、分離主義者らはバトル・ドロイドを失い、残された者達は国の立て直しに奔走することとなった。
しかしその1年後、共和国と銀河最大の犯罪者組織連合間で大規模な戦闘が勃発した。
漆黒の仮面と鎧に身を包んだ闇の騎士—————ゼロと呼ばれるヴェリウスのクローンが共和国に宣戦布告したのだ。
大きな犠牲を払いながらも結果的にこの戦いは共和国の勝利に終わり、銀河に蔓延る犯罪者組織の指導者の多くと独立星系連合の残党、その構成員を討ち取ることに成功したこの戦いは共和国にとって大きな益となるものであった。
この戦いで犯罪者組織の連合体であるゼロ・ドーンは事実上の崩壊を迎える事となる。
パイク・シンジケートやハット・クラン、ハクシオン・ブルード、クリムゾン・ドーンなど、これらの犯罪者組織は協力こそしないものの、それぞれが縄張りを持ち、今まではある意味バランスの取れた状況が続いていた。
しかし各勢力が大きな打撃を受け、指導者を失ったことで歪ながらもある意味で均衡を保っていたバランスが崩れることとなった。
古い体制が破壊されたことで、
『誰もが新時代の頂点に君臨できる』
そう考えた犯罪者たちは欲望の赴くままに行動した。
各地で略奪や殺し、誘拐や破壊などの犯罪行為が拡大した。
共和国も対応に追われたが、クローンだけで銀河全域をカバーすることは不可能だった。
しかしある時から、ギャングや犯罪グループよる犯罪行為が減少していった。
漆黒の鎧とマントに身を包んだ謎の騎士が犯罪者組織を壊滅させていったのだ。
□11ABY(EPⅢから30年後)
30年という長い時間を掛けて、銀河は以前よりも圧倒的に安定した状態を保っていた。
各惑星の代表達も自らの利益や権益よりも、民の幸福を望む者がほとんどだった。
これは元老院議会の監査役であるジェダイ評議会の一貫した指針と透明性に由来していた。
本来であれば中立の監査・調停役である筈のジェダイ評議会は、クローン戦争当時、理由はどうあれ元老院の利となるよう命令され、それを拒否することができなくなっていた。
平和の守護者から元老院の望む体制維持装置に成り下がったのだ。
今のジェダイ評議会は本来の役割をこなしているだけだ。
これが本来、共和国の目指した民主主義であり、ジェダイにとってもフォースに基づく中立の立場として真の平和の守護者といえるのだった。
<惑星コルサント ジェダイ聖堂>
ここは長きに渡りイニシエイト達が訓練してきた訓練場だ。
名のある騎士やマスターも、例外なくこの場所で汗を流してきた。
今も多くのイニシエイト達が壮年期のジェダイ・マスターに基本の型であるフォームⅠシャイ=チョーの指導を受けている所だった。
「心を平穏に」
幼きイニシエイト達はブラスト・シールドを装着することで物理的に視界を遮断し、トレーニング・リモートの場所や動きを感じながらライトセーバーで防御している。
「よし、そろそろ休憩しよう」
マスターの言葉でイニシエイト達はブラスト・シールドを外し、各々額に滲む汗を拭きとっている。
深くフォースと結び付くにはまだまだ経験も知識も感覚も何もかも不足している。
しかし子供たちの浮かべる表情は実に生き生きとしていた。
そんな子供たちの姿を見て訓練を受け持っているジェダイ・マスターは窓際で微笑みを浮かべている。
彼の美しい長髪は差し込む太陽に照らされ、金色に輝いている。
ジェダイ・マスター、ヴェリウスは彼らの姿を目に焼き付け、日々の平和に感謝していた。
そこに一人の騎士が現れる。
「マスター、失礼いたします」
「やあカル! みんな、マスター・ケスティスに挨拶を」
『『『こんにちは、マスター・ケスティス!』』』
「こんにちは」
訪れ人はジェダイ・マスターのカル・ケスティスだった。
彼はオーダー66の際に、師であるジャロ・タパルを失っていた。
単身惑星ブラッカに逃れたカルは、後にジェダイ評議会に保護されたのだ。
オーダーの建て直しやマスター・クラスの不足など様々な問題のあったがジェダイ・オーダーだったが、カルはヴェリウスのパダワンとなり、今ではジェダイ・マスターとして評議会に席を置いている。
「それで、どうしたの?」
「はい、議会が開かれるのでご出席を」
「うーん、任務に出てることにしてくれない?」
「・・・・・行きますよ、マスター」
ヴェリウスの慎ましい抵抗は全く効果がなく、無事(?)に評議会へと連行されていった。
◇
<ジェダイ最高評議会>
ヴェリウスが議会場を訪れた時には既に他の評議員らは集合済みだった。
彼らの様子からこの状況が“いつも通り”なことは明らかだった。
「マスター・ヴェリウス?」
「あー・・・子供たちの訓練に手間取ってしまって」
「私は今まで貴方が“何かに手間取っていた所”を見たことが無いのだけれど?」
『私もです』『同じく』『同意します』
ヴェリウスを諭すように口を開いたのは老齢のジェダイ・マスター、シア・ジュンダだ。
彼女はグランド・マスターとしてオーダーの精神的な柱のような存在だ。
他のメンバーも口を揃えて彼女の言葉に同意する。
「それでは始めます」
慣れた様子で会議を仕切るのはアナキン・スカイウォーカーだ。
彼は評議会の執行役として、かつてのメイス・ウィンドゥのような役割を担っている。
「全てのクローン・トルーパーの退役が完了し、相談役として軍に残る者のみとなりました」
「銀河の治安維持において軍の存在はもはや無くてはならない存在です。完全に置き換わったとはいえ、彼らの知識や経験値は軍にとって貴重だ」
そう話すのはカル・ケスティスとケイレブ・デュームだ。
評議会の中で若い二人は現場での任務に就くことも多い。
軍の質の維持、向上は国家の存立に直結すると言って良いほど重要なものだ。
単純な練度だけで比べればクローン・トルーパーのみで構成された軍の方が勝るかもしれない。
しかし長期に渡る軍の維持を考えた場合にクローンは寿命やコスト、元となる遺伝子の劣化など課題が多すぎるのだ。
それ故に共和国は段階的にクローンではない軍人を増やしていき、訓練の質や練度の維持を保ちつつ、内部の改編を行ってきた。
それがようやく実を結び、クローン全兵士の退役を終えたのだ。
しかしケイレブの言葉通り、オブザーバーや教官職として軍に携わる者も少なくない。
彼らの存在は未だ貴重なのだ。
「軍については注意が必要ね。クローン主体で無くなることで良からぬことを企む者が増えるかもしれない。過去の惨劇を繰り返してはならないわ」
シアの言葉に評議員達の顔が一層引き締まるようだった。
この場にいる騎士たちは全員オーダー66を経験している。
『決して繰り返してはいけない』
その想いが彼らの根底にはあるのだ。
「とにかく今は行く末を見守るしかありません。傍観では無く、細心の注意を払って」
そう口にするのはトグルータのジェダイ・マスター、アソーカ・タノだ。
かつてアナキンの弟子であった彼女も、今ではオーダー屈指の実力者の一人としてその名を馳せている。
彼らはかつての形骸化したオーダーとは違っていた。
平和の守護者として、民の為にその持てる力を活用するのだ。
そして議題は別のものに進むのだった。
「各地で犯罪行為が増加しているとの報告がありました」
アナキンの言葉がきっかけになったかのようにヴェリウスはフォースを通じて“何か”を感じ取った。
長い間、感じることのなかった何かを—————
「ゼロ・・・?」
ヴェリウスの発した言葉は決して大きなものでは無かった。
しかし、この場にいる者全員の耳にしっかりと届いた。
「ゼロ? 先の戦いで多くの犯罪者組織を束ねたという?」
グランド・マスターであるシアが確認の意味を含めて口にするがカルとケイレブは何のことか分かっていない様子だった。
オーダー66から約1年後、犯罪者組織連合ゼロ・ドーンとの一件でヴェリウスと闇の騎士ゼロの関係は極秘事項の一つだった。
この情報を知る者はオーダーの中でもごく一部の者に限られている。
当時パダワン見習いだったカルやケイレブは何も知らず、同じくオーダーに復帰していなかったシアについても後に“情報”として知るのみだった。
『我々はコインの裏表、光と影だ』
『君が裏の世界で秩序を保つのなら、私は表の世界で希望を紡ぐ。フォースの意思やそのバランスが何を指すかは分からない。だけど、どちらかだけでは均衡は保てないんだ。私たちは“共に在る”べきなんだと思う』
共和国とゼロ・ドーンの戦争終結後、ナブーの湖水地方で二人は自らの光剣を掲げた。
まるで騎士の誓いのように。
生まれも、育った環境も、置かれた状況も、何もかも異なっていたが遺伝学上は同一の存在。
互いの大切な人を失い、同じ痛みを感じた時、二人は真に平等だったのかもしれない。
これ以上、傷つけ合う理由は無かった。
だから決めたのだ。
表と裏、それぞれの世界の均衡を保つと。
30年もの間、この均衡は保たれていた。
このバランスが崩れている理由は一つしか考えられない。
「フォースに乱れを感じました」
フォースとより深くつながる為に瞳を閉じてきたヴェリウスは徐に口を開く。
60歳を目前に控えているヴェリウスだったが、彼の輝きは未だ衰えることを知らない。
窓から差し込む優しくも力強い太陽光を受けて、彼の長髪は銀色に近くなった白金色に光り輝いていた。
「僕は何も感じません」
ヴェリウスに匹敵するフォースを備えているアナキンが皆を代表するように言葉を発する。
彼が感じることができないのであれば、それはヴェリウスの勘違いなのか、他の要因が関係している。
しかし誰も前者の可能性は考えていなかった。
「それはマスター・ヴェリウスとゼロとの関係が?」
アソーカは自らの疑問をそのまま口にし、ヴェリウスは静かに頷く。
「この件は私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」
ヴェリウスの発した言葉は許可を得る為のものだったが、まるで決定事項のように、誰も反論する余地などないほどの雰囲気を纏っていた。
「勿論です。この件はマスター・ヴェリウスに任せましょう」
◇
会議が終わり、ヴェリウスが議会場を後にするとアナキンが声を掛けてくる。
30年という人間種にとって決して短くない年月は、かつて“選ばれし者”と呼ばれた二人の若き騎士をより逞しく成長させていた。
当時から当代最高レベルの騎士と噂されていた二人だったが、年齢と経験を重ねた二人は精神的、技術的に円熟し、よりフォースへの理解を深めている。
生物としての肉体レベルのピークは過ぎていたが、当時の自分と剣を交えても負けることはないだろう。
彼らは己の“ジェダイとして”の完成形を迎えていた。
「ヴェリウス、任務には僕も同行します」
アナキンは許可を求めてはいなかった。
それ程までにヴェリウスの身を案じているのだ。
「君には評議会での仕事があるでしょ? 私の立場の良い所は比較的自由が利くところだし」
「アソーカに任せてきました」
「彼女なら心配はないだろうけど・・・」
「それにケイレブもいます。彼の弟子も騎士に昇格しましたし、我々の役割を次の世代に任せるのも良いかと」
オーダー66発令時、デパ・ビラバの弟子だったケイレブ・デュームは師の助けもあり、クローンの魔の手から生き延びていた。
後にアソーカによって救出されたケイレブは彼女の弟子となったのだ。
その後、騎士に昇格したケイレブは評議会の指示でエズラ・ブリッジャーを弟子に取り、見事騎士にまで育て上げたことでマスターの称号を与えられた。
「次の世代が育っているのは喜ばしいことだよね、うん」
「強引に話を変えようとしていませんか?」
「いやいや、そんなことはないよ!」
「はぁ・・・それで、どちらに向かわれるのですか?」
◇
<ジェダイ聖堂内奥 深層瞑想室>
ヴェリウスとアナキンは聖堂の内奥に存在する深層瞑想室を訪れていた。
この場所は一般のジェダイは立ち入りを禁止されており、ジェダイ評議会のメンバーや特定の地位の者のみアクセスが可能な場所だった。
隔離や保護、静謐されたこの場所は長時間・長期の瞑想を行う区画という側面も持っている。
二人の騎士が歩みを進めて行く。
すると、ある部屋の前でヴェリウスが立ち止まる。
そこには寝床に身体を横たえたかつてのグランド・マスターの姿があった。
何百年もの間、多くのジェダイを育て見守って来たオーダーの最長老ともいえる人物、マスター・ヨーダその人だ。
「おぉ、マスター・ヴェリウス、マスター・スカイウォーカー・・・久しいのぅ」
「「マスター」」
ヴェリウスとアナキンは声を揃えてヨーダに礼を示す。
かつてジェダイ・オーダーの精神的柱のような存在で、その豊富な知識と強大なフォースで多くのジェダイを導いてきたヨーダだったが、今では聖堂の内奥で多くの時間を瞑想に費やしている。
「こんな年寄りの下にわざわざ出向いてくれるとはのぅ。ワシもまだまだ捨てたもんじゃないの」
『ほっほっほっ』とヨーダは笑い声を上げている。
しかしその声は非常に弱々しいもので、すぐに咳込んでしまう。
そんなヨーダの様子を見て、ヴェリウスとアナキンは複雑な表情を浮かべている。
「・・・老いたじゃろう。もう身体も思うように動かん」
「いえ、そんなことは—————」
「よいのじゃヴェリウス。生と死は表裏一体、自然の摂理・・・ワシはフォースと共に在る」
身体を起こしながらそう続けるヨーダに、ヴェリウスとアナキンは寄り添うように力を貸す。
少しでも楽な体勢になるようにクッションを使ってようやくヨーダは身体を起こすことができた。
この様子だと、満足に食事もとっていないだろう。
「アナキン、すまぬが水を汲んできてはくれぬか?」
「はい、マスター」
アナキンは静かに立ち上がる。
その場にはヨーダとヴェリウスの二人になった。
「それでヴェリウス、何か用があって来たのではないか?」
「はい、マスター。彼に・・・ゼロに何かあったようなのです」
ヴェリウスはゼロに変化があった際には報告をするように指示をしていた。
この30年間、この指示が遂行されることはなかった。
それはゼロの“活動”に変化がなく、フォースから報せを受けることもなかったからだ。
「うーむ・・・深く、深く瞑想を続け、フォースと繋がろうとワシには全てを見通せる訳ではない。これほどまでの長い年月を懸けても、其方とフォースの深い繋がりの足元にも及ばん」
「な、何を・・・私など」
「以前も申したことがある筈じゃ」
『うーむ・・・ヴェリウス、お主は既にワシよりもフォースと深い繋がりを持っておる』
『まさか! マスターには到底及びません』
『事実を語っているまでじゃ。我らは長きに渡って暗黒面を遠ざけ、フォースを探求してきた。じゃが、フォースの意思を見出した者は未だ現れてはおらん』
※参照:スピンオフ第4話
29年前、瞑想室でヨーダに言われた言葉だった。
「60年も前になるかのぅ。ドゥークーが生まれたばかりの赤子を抱いていたのがまるで昨日のようじゃ」
力無く声を出してヨーダは笑う。
その顔は遠く過去のことに思いを巡らせているのが分かる。
ヴェリウスのことだけではなく、ヨーダ自身が思い起こせる遥か昔まで遡っているのだった。
「数百年もの間、多くのジェダイを訓練し、見守って来たが其方のような子供は初めてじゃった。その強大なフォースのことだけではない。どこまでも思慮深く、慈愛に溢れ、他者を優先するその特性はまるで往年のジェダイ・マスターのようじゃった。子供は時に残酷じゃ。疑問も罪悪感もなく虫を殺め、まるでナイフのような鋭さを持った言葉を言い放つ。そして己と違う者を理解しようとせず、どこまでも排他的じゃ」
彼が、ヴェリウス自身がどう思っているかは関係のないことだった。
ヨーダの言っていることは事実なのだ。
イニシエイト時代、周りの仲間たちから異端の目で見られていた日常は幼いヴェリウスの心を深く傷つけていた。
そして彼の経験は、自身の生来持つ“他者を思いやる心”をより増長させた。
痛みを知っているからこそ、本当の意味で他者を理解できたのだ。
しかしヴェリウスには知る由もなかった。
その優しさは時にナイフよりも深く、相手の心を傷つけることがあるのだと。
そして相手だけでなく、己自身の心を傷つけるということを。
ヨーダは一息に言葉を言い切ったことで呼吸が荒くなっている。
彼の呼吸は中々落ち着かず、咳込み始める。
「マスター」
ヴェリウスは優しくヨーダの背を擦る。
少しでも落ち着くように自らのフォースを流し込みながら。
「最期にワシができるのは、リビング・フォースについてお主に語ることのみだ」
ヨーダは呼吸を整える為に深呼吸をする。
そしてクワイ=ガン・ジンが提唱した“生けるフォース”について語り出す。
ジェダイの教えとは異なる概念だったが、ヴェリウスは驚くこともなく静かにヨーダの言葉に耳を傾けていた。
「その様子じゃと“感じている”ようじゃな?」
「—————はい、マスター。ハッキリとしたものではありません。しかしその存在を感じるのです」
フォースの一つの側面であるリビング・フォース、この世に生きとし生ける全ての生命体から発せられるエネルギーは死を迎えると宇宙のフォースに溶け込んでいく。
しかし“生けるフォース”を学ぶことで死後もフォースの霊体として自我を保つことが可能だった。
ヴェリウスは感覚的にリビング・フォースを不完全ながらも理解していたのだ。
「ヴェリウス、お主は予言にある“選ばれし者”なのかもしれぬ」
「最早その言葉には何の意味もありません」
ヴェリウスの放った言葉は決して威圧的なものではなく、とても静かで冷静なものだった。
かつては“選ばれし者”という言葉が足枷のように付きまとっていた。
その言葉はヴェリウスを縛り付け、決して逃れることのできない重圧が圧し掛かっていた。
しかし様々な経験を積んだヴェリウスは“選ばれし者”という予言が全てではないと悟ったのだ。
それは対外的な言葉や考え方、ペルソナでは無かった。
ヴェリウスの心からの言葉には確固たる意志が込められていた。
その時、水を汲みに行っていたアナキンが戻る。
遅すぎる彼の帰還は二人の時間を尊重するためのものだった。
「すまぬのぅ、アナキン」
ヨーダはヴェリウスに支えられながらアナキンから受け取った水を一口飲み込む。
そのまま身体を横たえるヨーダの顔には満足気な表情が浮かんでいた。
「新たな、旅立ちは・・・いくつになっても心躍るものじゃ—————」
数百年もの長い時間、ジェダイ・オーダーを見守り、支えたかつてのグランド・マスターは静かに瞼を閉じる。
肉体が生物としての活動を停止した瞬間、まるで彼の存在が幻だったかのようにその身体は消失するのだった。
________________________________________
□銀河外縁部 セレノー星系 惑星セレノー
銀河系全体を横断する唯一のハイパースペース航路であるハイディアン・ウェイをはじめ、入り組んだハイパースペースの一等地に存在するセレノーは銀河史においても非常に重要でユニークな場所に存在した。
かつてシス帝国に支配されていたこの惑星は、セレノーと呼ばれる人物によって解放され、その後は長きに渡りセレノー家によって統治されることとなった。
しかしセレノー伯爵家最後の生き残りだったドゥークーが命を落としたことによって、長らくセレノーを治めた血筋は絶えることとなる。
さらにクローン戦争終結後、戦後の混乱に乗じて海賊や犯罪者組織によって惑星の都市部は破壊され、人々も虐殺されたのだった。
セレノー伯爵家の正式な後継者としてドゥークーがヴェリウスを指名したことで、この星は共和国の保護下に置かれることとなるが、既に守るべき国民の大半は存在せず、残ったのは傷ついた城や建物、豊かな自然と莫大な財産だけだった。
ヴェリウスはセレノーを放置していた訳ではなかったが、ジェダイ・オーダーに所属する身として積極的な介入と言うのが難しいのが現実だった。
しかし継承した伯爵位と莫大な資産をジェダイ・オーダーが特例として認めたことで、ヴェリウスはセレノーの建て直しに対して大義名分を得た形となった。
長きに渡りセレノー伯爵家に仕えて来たデラ=セール家、ゼロの世話係として彼を支えたノアもこの家の出だが、ヴェリウスはデラ=セール家を中心に生き残ったセレニアンを雇用してセレノーの復興を目指した。
彼の采配もあり、街や城も修復された。
しかしこの星が活気に満ちているという訳ではなかった。
セレノーは長い歴史の中で様々な組織に利用され、支配され、混沌の渦中に置かれた。
そして生き残ったセレニアンは、母なる大地が再び戦果に巻き込まれることを望まなかった。
“ただ静かに生きたい”
それがセレニアンの唯一の願いだった。
<セレノー城>
ここはセレノー城の地下深くに存在する隠された空間。
円形に作られたこの場所はゼロが幼少期、最も長い時間を過ごした訓練場だった。
そしてドゥークーによって、バクタタンクに封じられた場所でもある。
この場所だけは当時の状態そのままに残っていた。
元々、使用人すら知らない隠された場所と言うこともあったがアナキンやヴェリウス、クローン部隊が訪れたことで使用人の間ではこの場所は既知のものだった。
しかしヴェリウスはあえてこの場所の修復だけは禁じた。
誰に頼まれた訳でもなかったが、彼は“そうするのが良い”と考えたのだ。
◇
薄暗く、人々の記憶から忘れ去られたようなこの場所は円形状に作られた広い訓練場だった。
中央には設備の整ったバクタタンクが鎮座している。
そこに漆黒に染まった衣服を纏った人物が俯いた状態で壁に寄りかかっている。
深くローブを被っており、その顔はまるで影そのものかのように確認することができない。
その様子はまるで石像のようだった。
「やっぱりここだったんだね」
29年前から、まるで時が止まっているかのような訓練場で声を発したのはヴェリウスだった。
訓練場と同じように、座り込んだまま時が止まってしまったかのようだった人物は静かに顔を上げる。
その顔は深い皺が刻まれ、無精ひげに覆われているが、かつての輝きの面影が感じられた。
「———久しいな」
その声は嗄れており、覇気もなかった。
ヴェリウスが訪れなければ、このまま朽ちてしまったと思わせる様子だ。
「ゼロ・・・」
ヴェリウスは目の前の老人———ゼロの様子に言葉が出なかった。
ヴェリウスのクローンであるゼロはカル・ケスティスと同年代の筈だが、目の前にいるゼロは80歳を優に超えているように見える。
「成長加速の影響だ。もう長くはない」
ヴェリウスの様子を察したゼロが自身の状況を説明する。
彼は自分に“終わり”が、死期が近づいていることを感じていた。
急激な老化は細胞を傷つけ、全身を絶えず激しい痛みが襲っている。
「そんな、他人事みたいに・・・!」
まるで世間話でもするかのようなゼロの様子に、ヴェリウスの語気が強くなる。
「・・・何故お前が狼狽える。これは俺の問題だ」
「君がそんな様子だから、私が代わりに・・・感情的になっているだけだよ」
「ジェダイが感情的? 笑わせる」
彼は一瞬口角を上げ、不器用な笑みを浮かべたように見えたがすぐに無表情に戻る。
この時も細胞一つ一つが悲鳴を上げているかのような痛みが身体を襲っている筈だが、ゼロは決して顔には出さなかった。
「どうして、そうなるまで・・・」
ヴェリウスは言葉を続けることができなかった。
『何故そうなるまで一人で戦い続けたのか? どうして助けを求めなかったのか?』
口から言葉が漏れそうになるが、その理由は聞かなくても分かる。
“あの日”の誓いをゼロは守り続けていたのだ。
「この身体が朽ちようとも元から存在する筈のない・・・誰でもない存在だ」
予言にある“選ばれし者”かもしれない人物のクローンとして生み出されたゼロには選べる選択肢など存在しなかった。
そんな自分の命に欠片ほどの価値も感じてはいないのだ。
『ただ闇に溶けるだけだ』とゼロは言葉を続ける。
「君のフォースは君だけのものだ。その命も、感情も、君だけのものなんだ。闇に溶けたりなんかしない・・・君の魂はきっと私と同じ場所にいく」
ヴェリウスは真っすぐな瞳でそう告げる。
その言葉を静かに聞いていたゼロは暫く無言だったが、徐に、まるで独り言のように口を開く。
「—————そんな所まで、貴様の真似事か」
しかし、その言葉に反してゼロの浮かべる表情はどこか満足そうなものだった。
そんな彼は言葉を続ける。
「最期に・・・頼みがある」
“彼女の下へ”
◇
<惑星ナブー 湖水地方>
ヴェリウスはゼロの願いを聞き届ける為に、彼を連れてナブーの湖水地方を訪れていた。
この場所は二人にとって大切な人が命を落とした場所だった。
「着いたよ」
誰にも邪魔されない、静かな場所に二人の墓は建てられていた。
もはや歩くことも叶わないゼロはヴェリウスに抱えられていたが、地面に降ろすように頼む。
ここはゼロの世話係として長年仕えていたノア・デラ=セールと、ヴェリウスの愛弟子であるティア・アテミスの墓所だった。
命を落とした二人は火葬され、この地に埋葬されたのだ。
なんとかノアの墓の前で座り込むゼロ。
身体を起こしているだけで命を削るような負担が身体に掛かっていた。
ヴェリウスもティアの墓の前で膝を着く。
彼女のことを考えなかった日は一度たりとも無かった。
後悔しなかった日は無かった。
彼女の優しさに、明るさに、強さにどれほど救われていたのか、感じずにはいられなかった。
ヴェリウスは深くフォースと繋がる。
ナブーでは死者の魂は惑星に回帰すると信じられていた。
この場所は生命に、フォースに溢れている。
ヴェリウスは深く深く——————————
どこまでも深くフォースと繋がり、肉体を持つ身でありながら、まるでフォースと一体になったかと感じるほどに繋がりを深めていく。
惑星全体の息遣いを感じる。
風が吹くと草木、水面が揺れ、魚が跳ねる。
風に乗った種が地面に落ちるとそこから新しい命が根ずく。
その草木が成長し、実らせ、虫や小動物がそれを食べ、鳥や肉食動物が狩をする。
そして彼らの命が尽きると、虫や地の養分として還元されていく。
破壊と再生、生命の育みと誕生、そして死・・・・・
全ては繋がり、バランスの下に成り立っていた。
『より深くフォースと繋がり、一体となることでティアを“感じる”ことができるかもしれない』
ヴェリウスはそう考え、何度もこの場所で瞑想したが一度として彼女の存在を感じることは叶わなかった。
彼女は“個”としての存在ではなく、“全”として惑星のエネルギー、フォースに溶けて行ったのだ。
それでもヴェリウスは彼女を想い続ける。
ヴェリウスの意識が表層に上がり、目を開けると高かった陽は傾き、世界は燃えるような黄昏時を迎えていた。
彼が視線を横に移すと、変わらず座り込むゼロの姿があった。
ゼロは瞳を閉じ、どこか満足そうな表情を浮かべていた。
そこには痛みや苦しみ、怒りと言った負の感情は存在していなかった。
彼はようやく解放されたのだ。
◇
太陽が姿を現し、生命が活動を開始する。
ヴェリウスの目の前には三つの墓標が並んでいる。
墓石の朝露が太陽光を反射しているその様子はどこか幻想的だった。
肌寒さを感じる身体は体温を上げようと肉体を震わせる。
ヴェリウスは身体を暖めるためにローブで身体を包み込む。
寒さを感じることでヴェリウスは自分が生きていることを実感していた。
「・・・・・」
ヴェリウスは並んでいる墓標をもう一度視線に収めると、静かに背を向けて歩き出すのだった。
________________________________________
<惑星コルサント ジェダイ聖堂>
その後、ヴェリウスはジェダイ聖堂に植えられたグレート・ツリーの下を訪れていた。
フォース感応力を持ったこのユネティー・ツリーはかつてゼロの手によって切り落とされた。
しかし残った切り株からは新たな命が芽吹き、この30年で見違えるほどに成長した。
※参照:スピンオフ 第5話 独立国家
ヴェリウスは腕を伸ばしてグレート・ツリーに触れる。
彼はこの木が好きだった。
溢れる生命力、生きるという強い意志が感じられるこの木にも確かにフォースが存在した。
「マスター、私は・・・私の選んだ道は正しかったのでしょうか?」
ドゥークーは言った。
『お主がどのような選択をしても私はその道を信じておる。お主が選んだ道、それがこの銀河にとって正しい道となるだろう』と。
※参照:第13話 真実
しかしヴェリウスには確信が持てなかった。
『本当に自分が選んだ道がこの世界の為になるのか?』
『私の選んだ道が何もかも間違っていたら?』
考えても仕方のないことだとは理解している。
しかし考えずにはいられない。
大切な人が死を迎えることとなった自身の選択が正しい道だとはヴェリウスにはどうしても思えなかったのだ。
その時、項垂れているヴェリウスの肩に手が置かれた。
瞬間的にアナキンが来たのかと思ったが、その感覚は酷く懐かしい、不思議なものだった。
彼が顔を上げ、振り返るとそこにはドゥークーの姿があった。
ヴェリウスは自分の目が信じられなかった。
「マス・・・ター?」
ドゥークーは微笑みを浮かべている。
彼の姿は30年前と変わらないものだった。
そしてヴェリウスは理解した。
これがヨーダの言っていたリビング・フォース、死後も“個”としての自我を保つことのできる技なのだと。
【立派になったな、ヴェリウス】
「何度・・・・・何度、貴方にお会いしたいと願ったか」
【ヴェリウス、すまなかった。何もかも】
ドゥークーの顔に影が差し、謝罪の言葉を口にする。
ホロクロンでその真意を知ることになったが、こうして直接言葉を交わすのは何年ぶりだろうか?
クローン戦争が開戦したジオノーシスの戦い、その時は怒りのままに彼と刃を交え、その三年後に彼は命を落とした。
師と再開を果たしたヴェリウスは、まるでパダワンの頃に戻ってしまったかのようだった。
“甘え”から来る様々な感情全てが、口から溢れ出しそうになるのをなんとか耐えている。
「でも、どうしてマスターが?」
ヴェリウスはヨーダから聞いていた。
フォースの霊体として死後も“個”を保つには訓練が必要だと。
【それは私の“師”が導いてくれたからだ】
ドゥークがそう口にしながら振り返る。
すると現れたのはクワイ=ガン・ジンだった。
「マスター・・・クワイ=ガン?」
【久しぶりだな、ヴェリウス】
ナブーで命を落としたクワイ=ガン・ジンそのままの姿だった。
「私は・・・貴方に謝らなければならない」
【・・・・・】
「私が共に戦っていればマスターを死なせてしまうこともなかったかもしれない。最悪の事態だけは避けられたかもしれない」
ヴェリウスは意味のないことだと分かってはいても“もしも”の、過程の話を口にする。
過ぎた時間は戻ることはない。
しかし、あり得たかもしれない可能性、別の選択をすれば避けられたかもしれない未来を考えずにはいられなかった。
【そうなればオビ=ワンが命を落としていた】
「え?」
【—————かもしれない。女王や別の誰かが命を落としていたかもしれない。それでもお前は自分の選択が間違っていたと言えるか?】
「私は・・・・・」
【未来は確定しているもの、普遍的なものではない。絶えず変化し、それを完璧に予測することなどできない。過去に、未来に囚われてはいけない。今この時に意識を集中しなければ、それは“生きている”とは言えない】
【ふぉっふぉっふぉっ、新しい“マスター”は厳しいのぅ。そうは思わんかドゥークー?】
笑い声を上げながら姿を現したのは先日命を落としたヨーダだった。
彼も修行によって死後も“個”を失わずに自我を保つ術を体得したのだ。
「マスターはどうして?」
【ある時、声が聞こえた。それは命を落としたかつての弟子のものだった。私は彼から試練を受ける機会を得たのだ】
ドゥークーはそう言いながらクワイ=ガンの方を向く。
それを受けてクワイ=ガンは口を開く。
【私の修行も完全では無かった。特にフォースの強い場所でなければ声を届けることすら叶わなかった。しかし二人に道標を残すことで彼らも同じように修業を積んだのだ】
ドゥークーはシディアスの下で暗躍すると同時に、クワイ=ガンの修行を受けていたというのだ。
その結果、こうしてリビング・フォースを体得するに至ったのだ。
【さてマスター・クワイ=ガン、師弟水入らずで話すこともあるじゃろう】
ヨーダの言葉にクワイ=ガンは頷き、まるで初めからそこにいなかったかのように二人の霊体は消え去ってしまう。
その場に残されたのはヴェリウスと霊体のドゥークーのみになった。
「貴方と話したいことが数多くありました。しかし、いざその機会がやってくると・・・」
ヴェリウスの中で様々な感情が渦巻いていた。
突然のこと、そして思いがけない出来事に感情のコントロールは不完全なものだった。
それはフォース感応者でなくとも、今のヴェリウスの顔を見れば誰にでも分かるだろう。
【ヴェリウス】
そんなヴェリウスの様子を察してか、ドゥークーは彼の肩に手を置く。
かつては見上げる程の身長差があった二人だったが、それも過去のこと。
二人はお互いに対して師弟時代のイメージが強かったが、今では何もかもが違っていた。
「マスター、ゼロが命を落としました」
違った。
ヴェリウスが師と話したいこと、伝えたかったことはそうでは無かった。
しかし彼の口から出たのはヴェリウスのクローンであるゼロのことだった。
まるで相手を責めるような、そんな言葉が出てしまう。
【No.0、彼も私の罪の一つだ】
「彼はゼロです。クローンか否かなんて関係ない・・・他の誰でもない彼は彼というたった一人の人間です!」
ヴェリウスは自身の中で湧き上がってくる感情に驚いていた。
彼を前にするとパダワンに、まるで子供に戻ってしまったかのようだった。
そんなヴェリウスの様子に、ドゥークーは彼が落ち着くのを静かに待つのだった。
「・・・申し訳ありません。私はまだまだ至らない」
【そう言うな、かつてのパダワンよ。お主は示してくれたではないか。フォースにバランスをもたらし、銀河に平穏を齎すことができると】
「今の銀河は本当に平和なのでしょうか? フォースはバランスを保っているのでしょうか?」
確かに大きな戦争などは起きていない。
次代のジェダイも育っている。
しかしこの状況が平和だと本当に呼べるのだろうか?
フォースのバランスとは?
そもそもジェダイを増やすことがこの世界の為になるのか?
ヴェリウスは何も分からず、確信も持てなかった。
【民を想い、平和を願い、人々の為に尽くすお主の選択を私は信じておる。お主の選択がこの銀河を正しい道に、民を導くものだと信じておる】
かつて共和国の腐敗に、ジェダイの形骸化した在り方に絶望したドゥークー。
しかし彼は“ヴェリウス”という存在が現れたことで一筋の光を得たのだった。
ヴェリウスの存在は暗雲立ち込めるこの世界を照らす光になると心から信じていた。
ドゥークーもクワイ=ガンもヨーダも、この世に命ある者として存在する訳では無い。
彼らは自分たちの存在が今を生きる者達に必要以上に干渉することを是としていなかった。
【ヴェリウスよ、お主は他の誰でもない。人はクローンであったとしても唯一無二の存在だ。それは先程、お主自身が申した通り】
「・・・・・」
ドゥークーはヴェリウスのことだけではなく、ゼロのことも後悔していた。
ヴェリウスには“選ばれし者”という役割を押し付けてしまった。
そのせいで彼本来の特性や可能性を潰してしまったのではないか、重荷を背負わせてしまったのではないかと。
それにNo.0—————
アナキン・スカイウォーカーの予備として、ヴェリウスの遺伝子から生み出されたクローン。
彼に与えられたのは拷問とも呼べるほどの激しい訓練の日々と数えきれない程の傷、そして理由の分からない自身に向けられる負の感情だけ。
ドゥークーにとってゼロの存在は、ヴェリウスがいない喪失感を増長させ、“ヴェリウスであってヴェリウスでない”という何よりも許すことのできない矛盾の存在でしかなかった。
姿形は同じでも、彼は決してヴェリウスではなかった。
彼の代わりになる筈もなく、中身が全くの別ものの存在にドゥークーはコントロールできない程の怒りを覚えた。
そして同時に、ヴェリウスと共に在れない現実に絶望した。
一度として彼を名で呼んだことは無かった。
“個”の存在として認められなかった。
故に番号で呼んだ。
しかしドゥークーは心のどこかで自身の感情がただの“八つ当たり”に過ぎないと分かっていた。
死を迎えることで初めて、己の感情に素直に向き合うことができたのだ。
【かつて私は失敗した。お主を“選ばれし者”という枠で括り、その可能性を抑圧してしまった。“あの子”にも関係のない怒りや喪失感、悲しみという負の感情のみで接してしまった。全てこの私の過ちだ。失敗した者が今更何を言っても意味は無いのかもしれぬ】
「マスター・・・」
ドゥークーは静かにヴェリウスの肩に手を置く。
彼は多くを語るつもりはなかった。
【お主はかつて“選ばれし者”と呼ばれ、その鎖に縛られて生きて来た。しかしお主は他の誰でもない。ただヴェリウスという存在なのだ】
ただ“平和の守護者”であれ
ドゥークーはその言葉を最後に、まるで初めから存在しなかったかのように消え去ってしまった。
一人残されたヴェリウスだったが、彼はもう何も分からないパダワンではなかった。
「ありがとう、マスター」
もう一度グレート・ツリーに振り返って一瞥すると彼は歩き出す。
この世に生まれ落ちてからずっと彼を縛っていた鎖から解き放たれ、あるのはヴェリウスという自分自身だった。
今この時を生きる術を知ったヴェリウスに迷いはなかった。
“かつて選ばれし者”と呼ばれたヴェリウス。
彼は“選ばれし者”という鎖から解き放たれ、本当の意味で自分自身を得たのかもしれない。
この物語は、選ばれし者になれなかった——————————
いや、“選ばれし者”という枠組みから解放されることになる一人の騎士の物語である。
はい、お疲れ様でした。
長くなりましたが、これで本当に完結という形になります。
色々なことに迷い、遠回りをしたとしても、自分自身で得た答えには価値があって、その後の人生にとって必ず糧になると、皆さんだけでなく、作者自身にも向けたものです。
恥ずかしいことを抜かしております気にしないでください()
長い間、お付き合いいただき本当にありがとうございました。
当初描きたかった物語とはだいぶかけ離れたものになってしまったような気もしますが、終わってみればこれはこれで良かったのかもと思ったり・・・
ひとまずヴェリウスには休んでもらおうと思います。
クローン戦争中のヴェリウス×ティアの活躍を見たいというご意見も頂いているのでスピンオフ的な意味合いで投稿するかもしれません・・・が、まだ未定ということで()
というか思ったよりティア人気が高くてみどり色自身も少し驚いています。
気に入っていたの作者だけかと思っていたので()
それでは皆さん、フォースと共にあらんことを。