砂漠の従者   作:ひみつ

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Q.国境のジェムって誰ですか?

A.皆が小さい頃に真似していたあの人です。DBのかめはめ波やるろ剣の牙突のように模倣したくなる──そうです、Mr.5。鼻空想砲の使い手です。


尚、本作品では原作開始前は無能力者だったとし、
原作準拠で噛ませ犬とする。





悪魔と悪魔

 

 抱いたのは純然な憤怒であった。

 

 悪として生き抜き、人を殺す事にも躊躇は無い。

 南の海(サウスブルー)でそれなりに名を馳せて、ついた賞金首の額は1000万ベリー。4つの海、そして個人である事を加味すれば有能な人材であるのは窺えよう。

 

 チリ毛のボンバーヘッドにサングラス。その容姿と国境のジェムと言う二つ名が結び付く程に売れ始めた頃、更なる高みを目指して偉大なる航路(グランドライン)へと進出する。

 そして偉大なる航路(グランドライン)でも殺し屋としての仕事が安定し始めた頃、一人の女が彼の元へと訪れた。

 

 理想国家などと絵空事を描く犯罪組織への勧誘。戯言だと一蹴するも、その女は美しく、強かった。

 関節技を極められて敗北を喫する。女一人にやられたその事実を広められれば殺し屋家業は廃業──そう脅されて多額の報酬を元に契約。殺し屋として雇われる事となる。

 

 淡々と業務をこなして着実に地位を確立させていき、フロンティア・エージェントとして優秀な成績を収め続けた。

 オフィサー・エージェントには戦闘力で劣るものの、飽くまでそれは悪魔の実の能力だけなのだと、無能力者であるジェムは自身の力を信じて疑わない。

 

 そしてオフィサー・エージェントの空席に加えて、仕事の最中に手に入れた悪魔の実。絶好とも言える好機にほくそ笑み、これを以てMr.5の地位を手に入れる──その筈だった。

 

 突如として打ち切られた出世街道。抗議の如く詳細を問えば、社長に勧誘された新入社員が幹部に選ばれるのだと言う。

 

 だがジェムとしても、納得出来る回答の筈が無い。幾度と副社長に抗議。結果、妥協案として出されたのはその新入社員を倒し、自身の有能性を示せ──それだけであった。

 

 故にその怒りは正当なものであったと言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 首都アルバーナから遥か南西。大きなサンドラ河を越えて、海沿いにある緑の町、エルマル。

 その町を更に西へと進めた先の砂漠。そこにぽつんとB.Wの本社がある。本社とは言え、小さな詰所であると同時に、表向きは喫茶店でしか無かった。

 

 スパイダーズカフェ。

 

 それがロビンとラムセスの向かう場所である。二人は水陸両用の巨大ガメであるバンチに引き摺られる車内で、リラックスした様子を見せていた。

 

「人の気配が無い砂漠、年頃の男女、密室。何も起きない筈が無く──」

「……そうね、あるとしたら密室殺人かしら」

「なるほど、名探偵ラムセスの出番だね」

「殺される側なのに?」

「……死ぬなら腹上死が理想かな……」

「それだと貴方の言う何かが起きてるじゃないの」

 

 都度繰り返されているラムセスの問答。移動時間の暇つぶしとばかりに、大した意味の無い会話が繰り広げられているものの、ロビンはその時間が貴重とばかりに楽しんでいた。

 

「かの有名なゴールド・ロジャーの死因も腹上死だって噂もあるし」

「ローグタウンはそう言う町じゃないわよ」

 

 だが奇天烈なその会話について行くのは至難の技である。

 

 窓の外を眺めていても一向に変わらない砂漠の景色。集中力の無いダラけた様子を見せているラムセスは、ロビンへと問い掛けた。

 

「どこに向かってるんだっけ? ロビンちゃんの家?」

「……最初に言った通り、B.Wの本社のある場所よ。と言っても小さなカフェだから、店主と呼んでおいたMr.6しかいないと思うけれど」

「四人でお泊まり会? パジャマパーティーでもしちゃう?」

「しないわよ」

「えー、今度しようよ」

「また今度ね」

 

 パジャマパーティーへの憧れから小躍りし始めるラムセスを他所に、ロビンは深く溜め息を吐いた。

 

「ねえねえ、ロビンちゃんはどんなパジャマ着るの? セパレートとワンピースならセパレートの方が似合いそうだよね。んー、でも見た感じ可愛いのも好きそうだから着ぐるみタイプだったり?」

「何の話かしら?」

「もしかしてセクシーなネグリジェとか着るタイプ!? ロビンちゃんが着ると──想像しただけでヤバいね。鼻血が出そう。捗るよ」

「だから何の話よ!?」

 

 鼻を押えて上を向き出したラムセス。女のロビンには理解の及ばない、男のみに通じる妄想の世界に対して強い口調で問い掛けるも、返って来る言葉は無い。

 寧ろ帰ってきたところで録でも無い答えでしかない以上、答えないのが適切とも言えた。

 

「……あのね、これから貴方はMr.5の座を争ってMr.6と殺し合うかもしれないのよ?」

「でも番号に興味無いんだけど。あ、俺の事はラムセスで良いよ」

「貴方に興味が無くても──」

「ラムセスで良いよ」

「……ラムセスは興味が無いかもしれないけど、オフィサー・エージェントであるMr.5とフロンティア・エージェントであるMr.6。No.が一つ違うだけで権力や立場に天と地ほどの差があるのよ。他の組織で言うのなら、幹部と隊長くらいの違いがあるわ」

「よっしゃ、ワンパンしてやんぞ」

「……やる気満々ね」

「ワンパンしたらボーナスとかある?」

「無いわよ」

 

 意気揚々と気分を上げたラムセスが空を切るようにパンチを繰り出す。その風切り音が耳鳴りを起こす程に化け物じみていたものの、ロビンは気にも留めずに問い掛けた。

 

「そう言えばラムセスはB.Wの内情を何処まで把握してるの?」

「何も知らないよ。流石に宮殿に住んでるだけじゃ情報は入ってこないし。て言うかアラバスタ王国としては存在すら知らないから」

「……へえ。なら幹部の人数や能力の有無も知らない訳ね」

「そうだね。教えてくれても良いんだよ?」

「教えないわよ。傍で力量を見極めさせて貰うわ」

「じゃあ隣に座る?」

「傍の意味が違うわ」

「よいしょっと」

「……好きにしなさい。それにもうすぐ着くわよ」

 

 半日以上の長い道のり。されど道中の車内では気まずい雰囲気は無く、こうして肩を並べて座っていても緩い空気のままに会話は絶えないで続いていた。

 

 そして目的地に到着したと言わんばかりにバンチが停止する。急停車して揺れる車内の窓からちらりと覗けば、ラムセスの視界にはぽつんと立つ小さなカフェがあった。

 

 こんな所にカフェがあるのは異様な光景であるも、まさか犯罪組織の本社である事は誰も気付きはしないだろう。

 

「……変なところにあるね」

「幹部には裏社会で名が売れてる人もいる。顔で気付かれる可能性も考慮すれば、その方が都合が良いのよ」

「ロビンちゃんみたいに?」

「……ラムセスに見つかって以降、人前に出る時は気を付けているわ」

 

 軽口を叩きつつも、急いで先に車内から飛び降りたラムセスが、エスコートをすると言わんばかりに手を差し出す。予想外の行動に少しばかり驚愕した表情を見せたものの、即座に余裕のある笑みを浮かべてロビンはその手を取った。

 

「あら、意外と紳士なのね」

「初対面となれば第一印象が大事だからね。今日は紳士な生き様を見せつけちゃうよ」

 

 背筋を伸ばし、優雅な立ち振る舞いで歩みを進めるラムセス。王宮育ちの経験を十全に奮う姿は、まさに貴族宛らである。

 突き出した肘にロビンが腕を絡めた。先を歩くラムセスの堂々たる佇まい。見る者が見れば目を奪われるような美男美女のペアである。

 

 そしてラムセスは入口の前に立って静かに一呼吸。CLOSEの看板を掲げたスパイダーズカフェの扉を静かに開けて口を開く。

 

「よお大将! 今日は貸切かい!?」

「…………」

 

 盛大な前振りに何となく察していたロビンは、最早突っ込む事は無かった。

 

 だがそんな言葉の似合う大男のような店主の姿はどこにも見当たらない。中にはメガネの掛けた20代前半の女性が一人いるだけ。特徴的なパーマの掛かった髪を後ろで束ね、頭部を手拭いを巻いたモデルのような女であった。

 

 流石に唐突の大声には驚いたのだろう。呆気に取られた表情でラムセスを見つめている。

 

「……店主が男じゃなかった」

「……新しいエージェント候補と聞いてたけど、随分と変わった子を連れて来たのね、ミス・オールサンデー」

「オールサンデー……?」

「私のコードネームよ。……言動に騙されない方が良いわ。こう見えて理解の及ばないレベルの天才よ」

「どうも、世界の誇る天才です。コードネームはMr.ジーニアス。夢はロビ──サンデーちゃんとパジャマパーティーをする事だよ。好きな物は甘いものと見とれるような美しいもの。嫌いな物は見た目だけ良くて中身はスカスカなサンドウィッチ。宜しくね」

「……は?」

「ポーラ、深く考えたら負けよ。後、Mr.ジーニアスも嘘だから」

「天才なのに?」

「関係無いわね」

 

 トントン拍子に展開されていくラムセス節に、ポーラと呼ばれた女性は言葉を失くして呆気に取られる。初対面である以上仕方の無い事かもしれないが、少しばかり不憫に思ったロビンが助言した。

 一瞬だけ目を閉じ、気を取り直したポーラが静かに口を開く。

 

「……私はポーラ。ここの店主をやっているわ。戦闘員では無いけれど、B.Wの一員として集いの場を経営してるの。宜しくね」

「…………」

「……あら、そんな目で見つめてどうしたの?」

 

 無言で無表情のまま、ラムセスの視線がポーラを捉え続けている。まるで絵画や石像に見られているような──そんな無機質な瞳に不気味ささえ覚えつつも、ポーラは心の内を一切口にしない。

 

 一目見るだけでポーラと言う人物を何処まで把握できるのか──そんな期待にも似た様子でロビンはラムセスを見つめていた。

 

「……うーん」

「あら、貴方が悩むなんて珍しいわね」

「だってポーラさんが戦闘員じゃないとか嘘だよね。え、もしかしてB.Wの社員ってだけでそんなレベルの高い組織なの?」

 

 交差する視線から読み解くポーラと言う人柄。そして身のこなし、重心。視線──ありとあらゆる動作が練磨されており、常人の物と逸してあるのを、ラムセスは瞬時に見抜いていた。

 

 素人が達人を模倣するのは困難でように、達人もまた、素人を模倣するのは困難である──そう理解している為。

 

 オフィサー・エージェントにも素性を明かしていないポーラは目を見開いて静止する。そんな様子がおかしかったのだろう。ロビンは小さく笑い声を漏らしていた。

 

「……ふふ、やはり貴方に隠し事は難しそうね。……言ってなかったけど、エージェントは必ずペアで行動しているの。彼女はそのオフィサー・エージェントのパートナーの一人。立派な殺し屋よ」

「ちょっと! ミス・オールサンデー!」

「隠しても無意味よ。私ですら本性は見破られているもの。……それに彼は貴方に執着しないわ」

「え、て事は俺のパートナーはサンデーちゃん? サンデーちゃんが良いなぁ!」

「……ミス・オールサンデーには執着してるようね」

「……残念ながら私はMr.0とのペアよ」

「寝取られ!? ……うう、あんまりだぁ……」

 

 隠し通してきた自身の素性をあっさりと暴露されたポーラは怒りを露わにするも、ロビンは一蹴。だがラムセスの興味は一転して相方の方へと向いたようであり、それ以上詰問する様子は無かった。

 

 落ち込んだ様子を見せたラムセスであるも、ロビンでさえ心配する様子は見せない。

 

「あ、小腹が空いてきたのでいちごパフェ一つ」

「ねえ副社長。B.Wの人事が心配になってきたわ」

「Mr.2よりはマシだと思う事ね」

「……どっちもどっちでは?」

「いちごパフェ出来た?」

「あぁ、もう。そんな早く出来る訳無いじゃないの。……待ってなさい」

 

 渋々と言った様子でポーラは背を向けて調理をし始める。いつの間にかスプーンとフォークを手にして待っているラムセスを、呆れた様子でロビンは見ていた。

 

 食器同時で金属音を鳴らしながらラムセスがウキウキを隠せないでいる──そんな時である。

 

 入口のある背後から荒々しい物音と足音。僅かに感じる鉄の匂い。

 

 敵意、殺意、憤怒──嫌な気配と予感。

 

 それは巫山戯ていたラムセスの思考を瞬時に切り替えさせた。

 

「ミス・オールサンデー。このガキだな?」

 

 聞こえてきたのは落ち着きのある成人した男の声。振り返ったロビンが返答するよりも早く聞こえてきたのは、衣服の擦れる音と同時に甲高い破裂音。

 

 それは紛れもなく銃声であった。

 

 直後に鼻を突く火薬の匂い。

 

「ぬわーーっっ!!」

 

 銃口を向けられていたラムセスが悲鳴と共に椅子から転げ落ちる。背を向けていたポーラも銃声には驚いたようであり、ロビンと同時に目を見開いて事態を見ていた。

 

「いちごパフェ……食べたかった……」

「……Mr.6! 私の店でなんのつもりなの!?」

「フン、このガキと殺し合えと言うボスの指示に従っただけだ。そうだろ? ミス・オールサンデー」

「パジャマパーティー……したかった……」

「しないわよ。どうせ当たってないんでしょう?」

「え、さっきはまた今度ねって言ったのに!」

「……なんだと?」

 

 ロビンの声に呼応し、当たり前のように立ち上がり、倒れた椅子を戻してラムセスは着席する。怪我をした様子も痛がる姿も一切見当たらない事に、射撃したMr.6──ジェムの表情が僅かに強ばった。

 

「ポーラさん、フォーク駄目になっちゃった。請求はサンデーちゃんにね」

 

 カタンと置かれた手に握られていたフォーク。そしてそのひん曲がった先端部に挟み込んでいたのは鉛玉。

 

 ずり落ちていた眼鏡を片手で戻しつつ、ラムセスは申し訳なさそうにポーラへと謝罪する。

 

「……は?」

「……ひ?」

「……ふふっ。流石ね」

「……はっ──運が良かったな」

「そこは、へ、だろうが!」

 

 呆気に取られたポーラの言葉に続いたラムセスと、手を叩いて褒め称えるロビン。だが吐き捨てるように呟いたジェムの言葉が気に食わなかったのだろう。突如としてラムセスは叫びながら側方宙返りを始めた。誰もが呆気に取られる中、その勢いを十全に乗せた回し蹴りがMr.6の鎖骨へと直撃する。

 

 避ける事は敵わない速度から放たれた一撃。

 えげつない衝撃に骨の砕ける鈍い音。

 

「ぐふっ──!!」

 

 Mr.6は吐血をしながら、壁を穿いて吹き飛んでいく。

 

 銃撃よりも遥かに衝撃的な出来事に、ポーラとロビンは呆気に取られたまま硬直している。

 ポンポンと埃を払ったラムセスは自身の一撃に満足そうに頷いて、再度着席した。

 

「イチゴ多めでお願いします」

「……えーっと、その……」

「あ、金額はお気になさらず。サンデーちゃん持ちなので」

「……ポーラ、彼の言う通りにしてあげて。私はMr.6を回収してくるわ」

「ほう、言う通りに。ならポーラさんもパジャマパーティーしますか?」

「……それは遠慮しておくわ」

「がびーん」

 

 クールな佇まいをそのままに、ロビンは遥か彼方に吹き飛んで行ったMr.6を追うようにしてスパイダーズカフェの外へと出て行く。

 一瞬の出来事とは言え、命のやり取りがあったとは思えない緩いラムセスの態度。未だ困惑の隠せないポーラであるも、言われるがままに調理を続けた。

 

「……君って強いのね」

「えー、でもあの男よりポーラちゃんの方が強いでしょ」

「ポーラちゃんて」

「パジャマパーティーしたら友達って知らないんですか?」

「まだしてないわよ」

「じゃあ今からするかぁ……」

「真昼間だけど!?」

 

 いそいそと脱ぎ始めたラムセスに盛大な突っ込みを入れつつも、ポーラは作りかけていたいちごパフェを完成させて、ラムセスの前へと置いた。

 

「はい、注文のパフェよ」

「いちごの宝石箱や……」

「……それで、君は社長の推薦らしいけど。一体何者なのかしら?」

「んー、んま! ……ん? でもB.Wって素性を探るのは厳禁じゃないの?」

「あら、良く知ってるわね、残念」

「教える訳ないじゃないですか。今話題のラムセス君だなんて」

「……ねえ、君ってやっぱりバカじゃないの? って……あぁ。あの国王暗殺未遂の」

 

 いちごパフェを堪能しつつも口を開き続けるラムセス。止まらぬ会話の中でポーラは湧き続ける好奇心がままに質問を繰り返す。

 

「だから社長の目に止まったのね」

「そう言う事。アラバスタに拠点置くくらいの会社だから、国の内情を知る人は使えるんだろうね」

「そういう事ならミス・オールサンデーと仲が良いのも納得できるわ」

「その上、一夜を共にした仲だからね。美脚に溺れる魅力的なガウンパーティーだったよ」

「──私のいない所で勝手にイメージをねじ曲げないで貰えるかしら?」

 

 ハナハナの実の能力を用いて引き摺られてくる男と共に、ロビンが苦言を呈しながら店内と戻ってくる。

 Mr.6であるジェムは口から血を垂らしたまま、ピクリとも動く事は無かった。

 

「……え? サ、サンデーちゃん。こ、殺したの……?」

「やったのは貴方よ。そもそも何よその演技は。それに死んでないわ」

「……見事な三段突っ込みね」

「ポーラちゃんも頑張って見習ってね」

「嫌よ」

「友達でしょ?」

「パジャマパーティーはしてないわよ!」

「え、したいの?」

「そういう意味じゃなくて……!」

「……ポーラもちゃん付けなのね」

 

 何とも言えない程に会話が混沌とし始めた時、ロビンが大きく咳払いをする。

 

「ここに来た目的を忘れないで。貴方はオフィサー・エージェントになる為に、私が立ち会いの元でMr.6と戦うのよ」

「え、宣言通りワンパンしたのに」

「……ま、まだ……終わっちゃ……いねえ……」

「──と、言う事よ」

「鬼の副社長ね」

 

 曲がったままの首。息も絶え絶えの様子のジェム。それでも尚、戦闘意欲を見せるあたりは流石の胆力と言ったところか。ラムセスはでさえ若干引いた様子を見せていたものの、ロビンの意志は揺るぎはしない。

 

「……マ?」

「マジよ。貴方が不意打ちしたせいでこうなったんだから」

「いや先に銃で撃たれたんですけどそれは」

「当たってからが不意打ちよ」

「えぇ……」

「良いじゃないの、相手は死に体なんだから。ミス・オールサンデーが仕切ってないと意味が無いって事なのよ」

「殺し屋の思考こっわ……」

 

 敗者に情け無用──そう言わんばかりの殺し屋二人に、ラムセスはドン引きした様子を見せる──が、次いで紡がれたロビンに言葉に、その思考は一転する事となった。

 

「Mr.6が持ってきた悪魔の実──勝者が能力者となってMr.5に昇格する。それがMr.0の決定よ」

「よしやろう。今すぐやろう」

「……は、良いぞ。お前の頭に鉛玉を──」

「せい」

 

 小さな言葉と共に、ノーモーションから最速で放たれた、顎の先を掠める右フック。するとジェムの脳内はその衝撃によって酷く揺さぶられ、脳震盪を起こす。殴られた事にさえ気が付かずに彼は意識を手放した。

 

「これで良い?」

「……そうね。失神したんじゃ仕方ないわ」

「ねえ、この戦いに意味はあった?」

「形だけでもやっておくべきなのよ」

「企業務めは世知辛いね……で、悪魔の実は!!」

 

 待ってましたと言わんばかりにテーブルを叩きながら、パフェを頬張っているラムセスは物乞いをする。

 気絶したジェムを長椅子へと寝かせたロビン。呆れたような表情を見せながら、ポーラへと目配せをした。

 その視線を受けて頷いたポーラがカウンターの下へと潜り込み、即座に立ち上がる。その手に持っていたのは禍々しい模様をした果物。

 それはラムセスがずっと欲していた悪魔の実であった。

 

「本当に貰っていいの?」

「その代わり、悪魔の実以上の売上と実績が求められるわよ。相応しくなければ、Mr.0が直々に始末しに来るわ」

「それだけで良いなら食べるよ」

 

 ポーラから悪魔の実を受け取ったラムセスはキラキラとした純粋な目をして見つめ続けている。目を奪われる──まさにそんな表現の通りに、悪魔の実全体を舐め回すように見ていた。

 そしてその手を高く伸ばし──

 

「えい」

 

 パフェへと突き刺した。

 

「悪魔の実パフェの完成だ……」

「貴方って本当にバカよね」

「君って絶対バカだよね」

「1億1500ベリーのパフェだよ?」

「だから何よ」

「バカじゃないの?」

「いただきまーす」

 

 妙に息の合った辛辣過ぎる罵倒をものともせず、パフェに突き刺さっている悪魔の実へと、ラムセスは躊躇なくかぶりつく。

 味わうようにしてその実を噛み締めた瞬間である。端正な顔立ちが酷く歪み、動きが停止した。

 

 数秒の停止の後、ラムセスは何とか悪魔の実を嚥下する。

 

「……私も経験したから分かるわ。とてつもなく不味いでしょう?」

「……初めて愛しの王女(マイハニー)の手料理を食べた時の味を思い出した」

「あら、ミス・オールサンデーはそんなに料理が下手なの?」

「私じゃないわよ」

 

 苦悶の表情を見せながらも何とか食べ終えたラムセスは、口直しと言わんばかりにパフェを一気に流し込む。

 まさかラムセスがここまで必死そうな表情をするとは思わなかったのだろう。ロビンは嬉しそうな笑みを浮かべて見つめていた。

 

「それで、どんな能力なのかしら?」

「うーん、悪魔の実の本を読んだから多分これで合ってると思うけど──」

 

 そう言って手櫛で抜ける毛髪を一本だけ手に取って宙へと投げ捨てる。

 ふわふわと舞い上がった何気ない髪の毛。突如として乾いた音を上げて弾け飛んだ。

 

「ボムボムの実。爆弾人間だね」

 

 国境のジェムが食し、Mr.5となる為の能力だったボムボムの実。その事態は変則的な存在によって大きく変化する事となる。

 掌を見つめて一つ一つの指に能力を用いれば、順々に指先から火花が弾け飛ぶ。

 

 そんな能力を見て様々な思考を巡らせながらラムセスは思案し始めた。テーブルをトントンと叩きながら、本日初めての真面目な顔で虚空を見つめて固まっている。

 

「‎……一体どうしたの?」

「考え込むといつもこうなのよ。声を掛けても反応しないし。癖なんじゃないかしら?」

「……こうしていれば可愛い系のイケメンなのに」

「あら、気に入ったのなら研修がてら連れてっても良いわよ」

「結構よ。只でさえ気難しい相方なんだから。これ以上面倒事は増やしたくないの」

 

 ポーラとロビンが会話する中でも、ラムセスの集中力が途切れる事は無い。ただひたすらに考え込む事数十秒。最後に足をタンと鳴らして、ラムセスはロビンへと振り返った。

 

「サンデーちゃん、鼻くそ投げても良い?」

「…… 三輪咲き(トレスフルール)

「んー! んー!」

 

 気でも狂ったのか、奇々怪々な発言を真顔で放ったラムセス。だがその発言を許可するほどロビンの適応力は高くなかった。ハナハナの実の能力によって生えた腕。ラムセスは両肘の関節を極められ、更に口元を掌で押さえつけられれば声を出せずにもがいていた。

 

 流石に言葉が不躾過ぎたのだろう。ロビンの顔には青スジが浮かんでおり、怒りを露わにしていた。

 

 だがそこはラムセス。口元が塞がれた対策は既にビビで経験済みである。

 

「──きゃっ!」

「ら、らしくない声を上げてどうしたのよ?」

「い、今、貴方、舐め──」

「鼻くその事は冗談だから。爆弾になるからって、流石にそんなのを武器にする人なんていないでしょ」

 

 慌てふためくロビンの力が緩んだ瞬間、ラムセスは腕力に任せて関節技を外す。少しばかり顔を赤くして目を見開いているロビンであるも、ポーラには何が起きたかなどは理解出来る筈も無かった。

 

 対処したのが能力の腕である以上、ラムセスも大して気にした様子も無いまま、唇の端をペロリと舐めて言葉を続ける。

 

「将来的に悪さ出来そうだなって考えてただけだから気にしないで。それよりも──早く戦いたい。能力の使用と実戦経験が余りにも足りてないから急いで身に付けないと」

「……こほん。……ええ、分かっている。Mr.0に今回の報告も兼ねて伝えておくわ」

「──1ヶ月。船さえ用意して貰えれば、その期間で悪魔の実の倍の利益は出すと伝えて貰っても良い? ボスも好きでしょ。こう言う大言吐くけどちゃんと仕事をする人」

「……ふふ、そうね。良く分かってるわ。伝えてくるから待ってて」

 

 こほんと咳払い。若干の顔の赤さを残しつつも、僅かな時間で冷静さを取り戻したロビンが、電伝虫を手にして店の外へと歩を進める。

 齢16の子供には大言壮語の一言に尽きるも、ロビンは疑いはしない。寧ろそのくらいで無ければ困る──そう、言わんばかりの足取りであった。

 

 店内に残されたのはポーラとラムセスと意識の失っているジェム。半ば会話を理解出来ないポーラは即座に問い掛ける。

 

「君、2億3000ベリー稼ぐのがどれだけ大変だか分かってるの?」

「3000ベリーってそれはパフェ代の倍」

偉大なる航路(グランドライン)の前半も前半。仮に君が強くて海賊狩りをしても億超えの奴等なんてここら辺にはいないわよ」

「大航海時代だし大丈夫だって」

「……船の移動だけで何日掛かるか知ってるの? しかも本社はここだけなのだから往復よ?」

「あ」

「それに君が壊した壁も補修して貰わないと」

「あふん」

「幹部になるって事はペアもいるし、そう上手くいくかしら?」

「お、俺にはサンデーちゃんがいるし」

「……そもそもミス・オールサンデーも冷徹で非情な女だったのに、君は何をしたの?」

「ひみつー」

 

 詳細を話す訳にもいかないラムセスは適当に言葉を濁しながらも、悪魔の実を食べて少し浮かれていたと気を引き締める。

 自身の中で早急に計画を立て直しつつ、ラムセスはまだ見ぬ世界に胸を躍らせるのだった。

 






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