俺達は移動して、エレベーターに乗り込んだ。そこには、道着を着た坊主頭の少年も乗っていた。50階に到着し、エレベーターを降りると、少年が声を掛けてきた。
「押忍! 自分、ズシと言います! 皆さんは?」
「俺、キルア」
「俺はゴン」
「ポンズよ」
「リュウマだ」
「さっきの試合、拝見しました。いやー、すごいっすね!」
「何言ってんだよ。お前だって一気にこの階まで来たんだろ?」
「いや、自分なんかまだまだっす。ところで、皆さんの流派は何すか? 自分は心源流拳法っす!!」
「(心源流拳法……なるほど、ネテロ会長のところの流派か)」
ズシはビシッとポーズを決めながら、自分の流派を名乗った。しかし、ゴンとキルアは顔を見合わせる。
「別に……ないよな?」
「うん」
「ええ!? 誰の指導もなく、あの強さなんすか……。ちょっぴり自分、ショックっす」
「私は護身術程度なら身につけているわ」
「俺もズシと同じ師匠に鍛えてもらってる。流派ってわけじゃないが、体術と剣術を両方とも教わった」
「そうなんすか! リュウマさんにも師匠がいるんですね!」
そんな会話に花を咲かせていると、そこに拍手の音が聞こえてきた。
「ズシ!よくやりました」
「師範代!」
「きちんと私の教えを覚えていたね」
眼鏡をかけ、寝ぐせ全開の優男がズシに近づいてきた。
「(そこそこの使い手だな。念を習得すれば、キルアが勝てるレベルか……)」
「押忍! 光栄っす! 師範代、またシャツが!」
「あ。ごめんごめん」
男は慌てて、はみ出していたシャツの裾をズボンの中に戻す。そして、俺達に顔を向けた。
「そちらは?」
「ゴンさんにキルアさん、ポンズさんにリュウマさんっす!」
「初めまして、ウイングです」
「「押忍!」」
「初めまして、ポンズです」
「リュウマだ」
ゴンとキルアもズシの真似をして挨拶をする。ポンズはその様子を呆れたように見ていたが、俺はウイングに挨拶を返した。ふと、ウイングから視線を感じて顔を向ける。
「なんだ?」
「いえ、まさかズシ以外の子供が来ているとは思わなくて。それに、付き添いがあなたのような若い方なのも少し驚きまして……」
「纏を見て、俺の実力を測ろうとしただろ? 観客席から、ずっと視線を感じていたからな」
「……流石ですね」
「やはり、ウイングさんがズシの念の師匠なんだな。ここなら体術も念の修行にうってつけだしな」
念という言葉に、ゴンとキルア、ポンズは目を見開き、ズシに目を向けた。
ズシは戸惑ったような表情を浮かべて、ウイングを見る。ウイングも、わずかに困ったような表情を浮かべていた。
「その通りです。君達も?」
「そんなところだ。小遣い稼ぎも兼ねて、この後から三人に念を教えるつもりだ。会長から話は聞いていると思うが……」
「なるほど……」
ウイングは顎に手を当て、考え込む。
「とりあえず、先にファイトマネーをもらいに行ってもいいか?もしかしたら、もう一試合するかもしれないしな」
「……そうですね。分かりました。ズシ、くれぐれも自分と相手、双方の体を気遣うように」
「押忍!」
そう言って、俺達は受付に行き、ファイトマネーを受け取った。ファイトマネーは152ジェニー。缶ジュース一本分だ。俺達は自動販売機でそれぞれジュースを買い、控室へ向かった。
「ねぇ、ズシ。あなたも念を使えるの?」
「はい。師範代に教わってるっす」
「ふーん」
キルアはズシを見て、首を傾げる。正直、そこまで強さを感じないからだろう。
「ズシはまだ念を習い始めたところだろ?」
「そうっす。……まだ練の修行で止まってるっす」
「レンって何?」
「念の四大行の一つっす」
「ズシ、ストップ。念の存在については話しているが、まだきちんと教えていない」
「なるほど。失礼しましたっす」
「ポンズ、キルア、ゴンも、念のことは一から教える。まずはこの階で勝つことだけ考えろ」
「うん、分かった」
「ま、焦ったってしゃあねぇか」
「ここで色々聞いても、まだ分からないものね」
控室に入ると、再び挑戦者達がざわつき始めた。女や子供の挑戦者は、それだけ珍しいのだろう。
「ここからは10階ずつ上がっていくんだ。けど、負けたら10階下がって、ファイトマネーもなし。まぁ、この階程度の相手なら楽勝だよ。気楽にいこうぜ!」
「……キルアさん、声がデカいっす……」
ズシがキルアの声量と、その発言に冷や汗を流す。明らかに周囲の者達が殺気立ち、キルアを睨んでいた。しかし、キルア達三人はまるで気にせず、談笑している。
そこに…
『ホンゴ様、リュウマ様。50階A闘技場までお越しください』
「いきなり俺か……」
「頑張ってね」
「まっ、リュウマなら余裕だろ」
「行ってらっしゃい、リュウマ」
「ご武運をっす!」
「ああ」
俺は控室を出て、闘技場へ向かった。中は観客の熱気で溢れていた。10階からは観客が試合を観戦でき、さらに公式に賭けも行われている。
『さぁさぁさぁさぁ!! お待たせしましたー!! 次はなんと、若き青年挑戦者のお出ましだー!』
リングに上がると、向かい側にはいかにもインファイターといった男が立っていた。
『しかーし!! 見た目に惑わされてはいけません! 彼は1階で凄い戦いを見せ、一気にこの50階クラスへやってきた強者です! それでは、二人の戦いをVTRでご覧いただきましょう!』
会場の巨大スクリーンに、1階での戦いが映し出される。
『リュウマ選手はまさに瞬殺!! デコピンで相手を観客席にまで吹き飛ばしました!!』
『対するホンゴ選手は全戦全勝でここまで勝ち上がってきた実力者!その全てをKO勝ちで決めています! さぁ、皆さま! ギャンブルスイッチ~、オン!!』
司会者が賭けの投票を促すと、観客達は一斉にボタンを押す。その集計結果は、ホンゴが1.375倍。俺が2.007倍だった。
『投票の結果、倍率ではホンゴ選手が優勢!インファイターであることが有利に働いたのでしょうか!』
「(早く始まらないかな……)」
『それでは、3分3ラウンド、ポイント&KO制……始め!!』
「しぃ!! あっ!?」
開始と同時にホンゴが一気に詰め寄り、俺の顔面目掛けて拳を叩き込もうとした。しかし、それよりも早く、俺はホンゴの額にデコピンをお見舞いした。1階の試合と同じように、ホンゴはリング外へと吹き飛ばされ壁に叩き込まれた。
「ク、クリティカルヒットォ! アーンド、ダウン!! ポイント、リュウマ!! 3-0!」
『な、なんとーー!? 再びデコピンでリング外まで吹っ飛ばし3ポイント先取ー!!ってか、生きてる!?』
ホンゴは壁にめり込み、白目を剥き、ピクピクと震えながら気絶していた。
「ホンゴ選手、戦闘不能! リュウマ選手のKO勝ち!!」
『一発KO勝ちぃー!!』
「(つまらねぇ……。これじゃあ身体が鈍る)」
試合を終えた俺は、60階へ上がり、エレベーター近くで待つことにした。
5分も経たないうちに、ゴンとポンズがやって来た。
「お疲れ、二人とも。キルアは?」
「お疲れ。俺より先に呼ばれたんだけど、キルアの相手がズシなんだ」
「ズシは念が使えるのよね? キルア、大丈夫かしら……」
「まだ練の修行中って言っていたから、大丈夫だとは思うが……」
纏だけなら、キルアが負ける可能性は低い。纏は体の頑丈さを上げるものだが、攻撃力が大きく上がるわけではない。とりあえず、俺達は先にファイトマネーを受け取ることにした。
それから10分ほどすると、キルアがエレベーターから現れた。思い詰めたような顔をしており、ゴンとポンズがキルアに歩み寄る。
「キルア! ちょっと時間かかったね」
「……ああ。ちょっと手こずっちまった」
「強かったの?」
「いや、全然。素質はあるよ。でも、パンチも遅かったし、隙だらけだった。なのに、倒せなかった。それも念ってやつか?」
「そうだ。念は打たれ強くもなるが……人によって差は大きい」
「それに、構えが変わった途端、凄く嫌な感じがした。ズシの師匠が大声で止めたけどな」
「(練のコントロールが不十分な証拠か……。できることなら、もっと後に戦わせたかったんだが)」
「とりあえず、みんな。キルアはファイトマネーを受け取って、ホテルを取ろう。その後、早速リュウマから念のことについて聞きましょう」
「「押忍!」」
「やる気は充分だな」
キルアがファイトマネーを受け取った後、俺達はホテルを探しに行くことにした。すると、1階に下りたところでウイングが立っていた。
「お疲れ様です。少しいいかな?」
「……ゴン、キルア、ポンズ。先にホテルを探してくれるか? 少し広めの部屋を一つ頼む」
「分かったわ」
ゴン達を先に送り出し、俺はウイングと向かい合った。
「それで?」
「彼らに念を教えることについてです」
「……裏ハンター試験のことだな?」
ネテロ会長達との話を思い出す。新人ハンターに念を教えるのは、プロハンターの役目。それを裏ハンター試験と呼ぶ。ただし俺の場合は試験を受ける前から念を習得しているのでその立場になってる側でもある。
「ええ。私は協会から、君達がここに向かっていると連絡を受けただけです。単刀直入に言います。ポンズさんの方はあなたが教えることになると報告を受けています。しかし、あの二人にも念を教えるなら、私も関わらせてほしいのです」
「……どこまで?」
「できれば、最初から最後まで」
「申し出はありがたいが、もうアイツらには俺がきっちり教えるつもりでいる。それに、横から口出しばかりされるのもストレスが溜まる。けど、俺も念を教えるのは初めてになる。基礎を全て教えた上で、あんたには確認してもらうつもりだ」
「……では、彼らの精孔をどのように開くつもりですか?」
「正直、今の状況だと、こじ開ける可能性が高いな」
「それが外法だと分かって言っているのですか?」
ウイングの纏う気配が険しくなるが、俺は大して気にせず受け流した。
「大事なのは開いた後だ。それに、あいつらはすでに練の気配を感じ取れる。ズシみたいに、他にも念を使える奴が200階より下にいる可能性もあるしな」
「それは……」
「あいつらは数日もすれば200階まで行く。というか、三人にはその話をした上で、外法の方法を選ぶつもりだ。安心しろ。ペースはアイツらに合わせて進める。ウイングさんが心配しているようなことはしない」
ウイングは俺を見つめたまま、しばらく口を閉ざしていた。
「……あなたを信じてよいのですね?」
「信じるかどうかは任せる。ただ、あいつらを危険な目に遭わせるつもりはない」
「……分かりました。ですが、何かあればすぐに私へ知らせてください」
「ああ、約束する」
ウイングとそう話をつけ、ポンズからホテルの場所の連絡を受け、俺はゴン達が待つホテルへと足を向けた。ウイングの表情には、まだ僅かな不安が残っていた。まあ、それも当然だろう。これから俺達が行うのは、念の基礎を教えるだけではない。ゴンとポンズ自身が、ハンターとして新たな一歩を踏み出すための修行なのだから。
念の基礎。そして、あいつら自身が持つ可能性。ここからが、本当の修行の始まりだ。
ポンズの精孔を開いた際の状態について
-
ゴンとキルアのように一発でオーラを安定
-
一度ガス欠にさせる。
-
どちらでもいい