「えっと…今度はアレを買って…あぁこっちもか。全く姫さんは……」
クロスベルの記念祭の四日目。
競売の前日なのだが、朝から一人買い物をして回っている。
というのも、我らが白金の姫様が色々と要求してきたからだ。
リベールでもチヨメに何かと頼んでいたみたいだし。
まぁでもその気持ちは痛いほどよく分かる。
俺もジジイのお土産楽しみに待っていたし。
「しかし…帝国と共和国に挟まれてるからか、両国の名物がそれなりにあるんだな。値段は…まぁ見ない事にしよう」
値段には目をそらし、ひとまず要求されている物を一通り揃えていく。
その傍ら周囲の気配も調べていると、出来れば引っかかって欲しくない人に掛かってしまう。
ちょっと不用意だったかと後悔しながら会計を済ませてホテルに戻ると、机には黒い封筒が一枚置かれてあった。
「おっと…予想よりも早かったかな。これがあれば潜入出来る。後は得物の持ち込みだけど…」
『それなら術を使えば持ってこれるわよ。煉獄同様に』
「あぁそれは助かる…って珍しいな。どうした?」
いつの間にか頭に座っているサフィーラ。
どこか上機嫌な様子なのが気になるけど、ここは聞かない方向で行こう。
『修行を経て私の力と大分馴染んできたし、転移術ぐらいなら念じれば使えるわよ。冷気の扱いも様になってきたし』
「少しずつマクバーンに近づいてるってか」
『まぁ…それはこれから次第かしら?(ま、私としては少しずつ馴染ませたいところだけど。一気にやって゛前回゛みたいにな失敗は嫌だし)』
「言い方が気になるんだけど…いつかは話してくれよな」
最近は良く出てくるから多少は信頼してくれてるようだけど、やっぱり遠回しの言い方がかなり多い。
こちらとしても先の事が分かっているのなら教えてほしいが…そもそも何で知っているかのような言い方をするのかも引っ掛かるけど。
「後は明日潜入して古代遺物を回収するだけ…。その前に軽く運動しておきたいけど」
クロスベル周辺の魔獣は警備隊か遊撃士が討伐しているので目撃情報が少ない。
ジオフロントも同様で遊撃士か噂の特務支援課が片付けている。
となると人に頼むのが一番早くなってくるので、ここは兄弟子に甘えさせてもらうことにしよう。
「じゃあ早速拉致しに行きますか」
軽く準備を済ませてから、知り合いの運送会社にお土産の配達依頼をしてからギルドに向かい、何やら難しそうな顔をしていたアリオスを連れ出して、東街道の広い所に移動する。
「うーしこの辺ならいいかな」
「どこがだ。いきなり来たかと思えば運動に付き合えなどと」
「とか言いつつ付いて来てんじゃん」
本当に嫌ならついてこないはず、なのに来ているという事は気分を変えたいのだろう。
まぁ…それが何であれ、火の粉がかからない限りは干渉はしないさ。
「じゃあやろうか。妹弟子が世話になったみたいだし。黒神も見たんだろう?」
「あぁ。その辺りも色々と聞きたい所だが、それは刀で聞くとしよう」
腰に携えている刀を抜くアリオス。
帝国で会った時よりも一段腕を上げている様子。
彼の弐の型は参考になるところが多いし、奪えるところは奪わないとな。
「じゃあ早速…っと客人?」
「む…お前たちは…」
「アリオスさん…?それと……」
「東方の和装…お知り合いですか?」
偶然か必然かは分からないけど、先日見かけた特務支援課の4人が来た。
彼らの対応は兄弟子に押し付け…いや任せる事にして一歩下がろうとしたけど、アリオスはその前にこちらを巻き込んで話を始める。
「あぁ。俺の知り合いでな。ちょうどクロスベル来ていたから手合わせを願っていた所だ。
「風の剣聖が手合わせを望む相手…ですか」
「正直そんな風には見えませんけど……」
(おいおい…人を見た眼で判断したら痛い目見るぞ。カンパネルラみたいな奴もいるんだから)
あれと比べられるのも困るけど、アイツもよく分からない奴だよね。
男でも女でもないし、人間って言っていいのかも分らんし。
「ロイド達はどうしてここに?」
「えっと、大型の魔獣が出没しているという連絡があったので捜査に」
「大型…ヤクモ。どうだ?」
「ん…そうだな…」
アリオスに促されて周囲を探る。
ざっと100アージュ程の範囲を索敵するけど気配は感じ取れないし、怪しい気配も感じ取れない。
となると、気配を消してるか誤情報のどちらかか、あるいは…地中か。
「100アージュぐらい調べたけど何もいない。地中ならあり得そうだけど」
「そうか。だが念のため警戒を。手合わせはその後だな」
「了解した兄弟子」
「…!兄弟子!?」
「それにさらっとえげつねぇ事言ってなかったか?この嬢ちゃん」
「……嬢…ちゃん?」
俺とアリオスの会話に驚くロイドとランドルフだが、俺としてはランドルフに言われたことの方が結構傷つく。
猟兵時代は何度かやり合ったというのに、もしかしてクロスベルに来て記憶まで腑抜けたか?
「一応言っておくけど、人を見た眼で判断すると痛い目を見る時が来る。警察なら尚の事ね。これ身分証明書」
懐から一枚に身分証明書を彼らに見せると、彼らは驚いた顔を浮かべながら身分証明書と俺の顔を交互に見る。
なんとも失礼なと突っ込みたいことろだが、既に共和国に来て二度程経験しているので、何も言わない事にしている。
「…そろそろ証明書返してくれる?もう十分だと思うけど」
「え、あぁはい。すみません(こ、この顔で男性…しかも年上とは…)」
(世界って狭いわね…)
(正直信じがたい光景ですね……)
「……(まぁいいか。ちょっと突っ込みたいけど)」
色々と突っ込みたいがひとまず彼らの探している魔獣の方を優先しないと。
地上に気配が無いという事は地中の方を警戒しないといけないわけだし。
「どうする兄弟子。目撃情報があった以上は警戒の必要があるけど」
「とはいえだ。周囲に居ないとなると……む」
「―――っと!」
地下からの僅かな気配を感じ取り、ロイド君達を弾き飛ばすとほぼ同時だった。
足元から巨大なワーム型の魔獣が飛び出し、大きく口を開けて捕食してくるが、俺は瞬時に高く飛び上がって回避する。
「いたたたた…ってあの魔獣は!」
「目撃された魔獣です」
(成る程。コイツがターゲットか)
どうやらこいつがターゲットのよう。
ここは彼らに倒してもらう方がいいんだろうけど…折角の手合わせを邪魔されたし、ここはサクッと終わらせてしまおう。
「じゃあサクッと終わらせますか」
着地してから愛刀を鞘に納めて迎撃態勢を取ると、魔獣は地面を這うように移動しながら襲い掛かってくるが、奴の口が俺を捉える瞬間に左に回避し、螺旋の動きを捉えた鞘の一撃を側頭部に喰らわせて態勢を崩す。
「伍の太刀・鏡月朧薙ぎ」
そのまま超高速の斬撃を三つ一呼吸で放って魔獣を三等分にする。
「ざっとこんな所かな。ちょっと暴走気味なのが気になるけど…まぁいいか」
愛刀を鞘に収めて魔獣の消滅を確認してから、懐に入れてある小さな箱を取り出す。
中には霊草を葉巻に変えたものが入っている(くれぐれも煙草ではないので体には害はない)。
「む…煙草か?」
「違う違う。霊草を葉巻に変えた物。魔力の回復とかに使える。故郷でも作ってたのを姉さんに譲ってもらったんだよ。作り方も一部の人間しか知らない」
「ならいいが…くれぐれも人前ではやめておけ。色々と誤解を招く」
「誤解って…あぁ成程」
背後で何か言いたそうな顔を浮かべる特務支援課の諸君。
まぁ確かに成人してるとはいえ、こんな成り立ちでこういうものはあまり良くないか…。
「仕方ない。諦めるか。事後処理頼んでいい兄弟子?報酬云々はあの子たちにお願いね」
「帰るのか?」
「うん。軽く運動したかっただけだし。アリオスのおっさんもあまり時間取れないだろうし。明日の準備運動は姉さんに頼むから。んじゃまた」
兄弟子と特務支援課に軽く手を振ってからクロスベルに戻るのであった。