異聞 黒の剣士   作:こしあん

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 いつも感想評価ここ好き誤字修正等々誠にありがとうございます!

 遅くなり申し訳ございません。年末が近づくにつれて仕事周りが忙しくなる⋯⋯。なお、決算のせいで年始はさらにやべーことになるので、執筆は絶望的です。今のうちにストックをつくっておかねば⋯⋯。


 繋ぎの回ゆえ、例によって進行が牛歩&短めです。アインクラッド編、いつ終わるんだ⋯⋯?

 遅筆&地雷要素山盛りの本作ですが、少しでも楽しんでいただけるようでしたら幸いです。



第14話 穏やかな幕間

 

「んっ、ぁ⋯⋯。ふあぁぁ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 処女雪を思わせる白く滑らかな艶肌。熱を帯びて普段よりも仄かに桜色づいたその上を、透明な雫がつぅっと伝っていく。

 

 濡れた金糸の髪先から滴った水の玉が上気した頬をつるりと滑り、形のいい鎖骨の上の窪みへ。先に溜まっていた水が押し流され、再び糸を引いて落ちていく。

 

 光の粒はやがてなだらかな膨らみの上を通って水面へと帰っていく。自然とアスナの視線もその先を追い、不可避的な引力の発生源に意識の全てが吸い寄せられた。

 

 山、と言うには少々起伏が物足りない。丘と評するのが正しいくらいのボリューム。しかし、確かな筋肉によって下支えされた白い双丘は、世の中の大きさ偏重主義的な風潮を一掃するほどに素晴らしい。ハリと柔らかさを完璧なバランスで備えた理想的な美乳だ。

 

 胸部より下は反射の加減で見ることができないが、透き通るように白く艶かしい肢体が続いていることは想像に難くなかった。

 

「ふっ⋯⋯はあぁぁ⋯⋯⋯ぅんっ」

 

 加えて、官能を多分に含んだ甘ったるい声音と、普段の凛々しさからは考えられないほどに緩んだ(かんばせ)

 

 言葉を選ばずに言うなら、その全てが目の保養を遥かに超えて()だった。ずっと眺めていると自分の中の大切なナニカが決定的に歪んでいくような気さえした。

 

 この時ばかりはここが仮想世界でよかったと心の底から思う。何せ、もし現実でこんなシチュエーションに遭ったら鼻血を吹き出して失神したりしてもおかしくはないのだから。

 四肢を脱力させ、お風呂を堪能するセイバーの艶姿は、それだけの破壊力があった。

 

 斜向かいでは、一時的にパーティーに加入したアルゴが同じように放心状態で見入っている。

 気持ちは痛いほどによくわかった。むしろ、彼女の芸術的なまでの裸体を見て平然としていられる方がおかしい。アスナは本気でそう思っていた。

 

 視線に気がついたのか、セイバーがこてんと首を傾げた。

 

「どうかしましたか?」

 

 仕草に合わせて湿り気を帯びた髪の束が解れる。髪を櫛で纏めているせいで露わになった頸が惜しげもなく晒され、背筋にぞくりと痺れが走った。

 

 黙り込むアスナに、セイバーが顔をハッとさせて体を掻き抱いた。見る見るうちに頬を紅潮させ、眦を吊り上げて睨んでくる。

 

 (よこしま)成分100%でジロジロ見ていたのが気付かれたのだ。焦るアスナに、セイバーが唇を尖らせた。

 

 

「⋯⋯どこを見ているのですか。確かにアスナと比べるとそれほど大きくありませんが、アルゴのは私とそこまで変わらないでしょう。そもそも胸の大小などというのは女性の魅力の一部に過ぎず、そこだけ切り取って判断基準とするのは如何なものかと思います。重要なのは全体のバランスと比べてどうかということでしょう。その点で言えば決して小さすぎるということはないはずですし、同年代の女性と比べても見劣りするほどではありません。加えて言えば、大前提として私は全く気にしていないので羨ましいとか悔しいとかそういうのは微塵も感じていません」

 

 

 怒涛の勢いで何か言っていた。普段とは打って変わって饒舌な早口に思わず瞠目してしまう。

 

 とんだ勘違いなのだが、どうやらコンプレックスを刺激してしまったらしい。慌てて弁明しようとするアスナより先に、セイバーが拗ねたような声で続けた。

 

「そも、私は将来的に背も胸も大きくなることが確定しています。これからが成長期なのです。現実に戻ったあと、直に会う時を楽しみにしているがいい」

 

 やけに確信じみたトーンに、弁解のセリフを紡ごうとしていた舌の付け根が硬直する。

 

 再起動を果たした脳はその思考力のあらん限りを注ぎ込み、シミュレーションを開始した。

 物語の世界から飛び出してきた妖精のような少女が、美しい女性へと成長した姿の想像を。

 

 

 ────よくない。非常によろしくない。

 

 イメージするだけで頭がクラクラしてくる。もしそんな姿を目の当たりにした日には、理性がブレーキを効かせてくれる自信がなかった。

 

 放っておくとよからぬ妄想ばかりを思い浮かべそうになり、アスナはぶんぶん頭を振ってから、二、三度咳払いをし、口を開いた。

 

「⋯⋯誤解よ。決してセイバーのお胸を見ていた訳では無いし、そんなこと微塵も思ってないわ。フォレストエルフの村もやっぱりお風呂が大きいのかなって、ぼーっと考え込んでただけ」

「あ、ああ⋯⋯なるほど。それは失礼しました。⋯⋯そう言えば向こう側の陣営がどういった特徴なのかはあまり知りませんね。アルゴ、何か知っていますか?」

 

 黄金の瞳を向けられ、ようやくアルゴも我に返ったらしい。視線を水面に浮かぶ香草に移し、くるくると髪束を弄りながら答えた。

 

「⋯⋯⋯森エルフ側はフロは狭いけどメシがすごいらしーナ。なんでも、どこの三つ星レストランだヨっていうくらいの豪華メシが出てくるらしーゾ」

「なん⋯⋯だと⋯⋯? アルゴ、貴女フォレストエルフ側のストーリーを進める気はありませんか」

「おいおい、オイラがそんなに暇に見えるカ? 流石に2層まで戻ってクエスト待ちの行列に並ぶような余裕はないヨ。ディアベル辺りにでも頼むんだナー」

「⋯⋯ふむ。それはいい案だ。カルルインに戻ったら早速メッセージを────」

「ダメよ」

 

 反射的に口をついて出ていた。アルゴがニヤニヤと口許にやらしい笑みを浮かべているのが目に映る。最初からアスナが食いついてくるのを見越していたのだろう。

 ほわーっと熱くなる頬を誤魔化すように咳払いをし、言葉を続けた。

 

「アルゴさんもディアベルさんも、攻略情報収集のために奔走してるのよ。負担になるようなことをお願いするのはよくないわ。それに、ダークエルフのご飯もじゅうぶん美味しいじゃない。こんなすっごいお風呂にも入れるんだから贅沢言わないの」

「むぅ⋯⋯わかりました。クライン────私の友人が第三層まで上がってきて、フォレストエルフ側のストーリーを進めていたら誘ってもらうことにします」

「なんにもわかってないじゃない⋯⋯。もうっ」

「?」

 

 やはり、彼女をふらふらさせないためには胃袋を掴まねばなるまい。まだスキルスロットに余裕はないが、いずれ必ずや《料理》スキルを習得しよう。アスナは改めて固くそう誓った。

 

 二人のやり取りを黙って聞いていたアルゴが、不意に吹き出した。

 

「ニャハハハッ。お二人さん、いつもこんなにイチャついてるのカ?」

「イチャ⋯⋯? いえ、別にそんなつもりはありませんが」

「イヤイヤ、昨日だって二人してぎゅーって抱き合ってたじゃんカ。しかもあんなダンジョンの奥深くデ」

「むっ⋯⋯」

「あ、あれは⋯⋯。だから、別にそういうのじゃないって言ってるでしょ?」

 

 昨夜の一幕を思い出し、今度は耳の先っぽまでが真っ赤になった。

 湯船に鼻下まで沈降し、ぶくぶくとお湯を鳴らしながら抗議の視線を向けるがアルゴは笑みを深めるばかりだ。

 

 

 モルテとその仲間との邂逅、続く一触即発の状況を辛くも切り抜けた後。色々あって熱い抱擁を交わしていたアスナたちは、攻略ガイドブック作成のために再び地下墓地に訪れていたアルゴと偶然出くわした。

 

 当然あらぬ疑いをかけられそうになったのを必死になって釈明────もとい、事情を説明し。

 

 翌日、情報交換の意味も含めて、こうして第五層北部の村《シヤーヤ》────キャンペーンクエストでダークエルフ側のストーリーを進めているパーティーメンバー以外は入れない、インスタンス・マップ────の大浴場に招いて一時の休息をとっているのだった。

 

 

 一頻り笑った後、アルゴは表情を引き締めた。

 

「まっ、それは置いておくとしテ。⋯⋯昨日の話、マジなのカ? 」

 

 セイバーもまた神妙な顔でこちらを見遣る。二人の視線を受け、アスナは居住まいを正して重々しく頷いた。

 

 昨夜、モルテとダガー使いのマント男の会話を盗み聞きした際に掴んだ衝撃的な情報。

 

 その内容は、アスナにとっても俄には信じ難い話だった。

 

 ────翌日に控えたALSとDKB合同主催の年越しカウントダウンイベント。年末を前に、気力の補充と二大ギルドの緊張関係緩和を意図された企画だ。

 しかし、黒マントたちPK集団の扇動により、ALS側はパーティーをすっぽかして単独でフロアボス攻略を狙うというのだ。

 

 セイバーもアスナも、二大ギルドの完璧な融和など元より考えていないが、それにしたってこれは行き過ぎだ。とても捨て置けるような話ではなかった。

 

 

「ンン〜〜⋯⋯。でも、オイラの攻略本───ボスクエの情報も、ましてや偵察もなしで挑むなんテ⋯⋯。煽られたにしても、そんなに急ぐもんカ? ンな強硬策をとってまでして、どんなメリットがあるってんダ⋯⋯?」

「私もそこが判らない。一番手っ取り早いのは、本人たちに直接訊いてみることでしょう」

「本人たち?」

「ええ。イベントの企画者はALS側にもいるのでしょう? 作戦によって折角のパーティーが台無しになるとなれば、担当者も不満を持っているはず。詳しい話を聞かせてくれるかもしれませんから。ただ、問題は⋯⋯」

 

 トーンを重くしたセイバーの言葉の続きをアルゴが引き継いだ。

 

「パーティー自体が作戦の一部だったっていう可能性だナ。嘘の共催を持ちかけてDKBをカルルインに釘付けにしておけば、抜け駆けの成功率は跳ね上がル。その場合は話なんて聞かせちゃくれないだろーナー」

 

 セイバーは黙って首肯し、溜息を吐きながら視線を落とした。そちらの方が可能性が高いと思っている風だった。

 

 アスナは視線を落とし、手遊びにお湯を掬い上げながら胸の中の想いを口にした。

 

「……わたしは、ALSがそこまでするとは考えたくない。黒マントたちの煽動で一時的に強硬派が優勢になっているんだとしても、DKBとの融和を考えてるプレイヤーだってきっといるはずだわ」

 

 眉を顰めながら話し終えると、セイバーがふっと口許に笑みを浮かべた。

 それは、非論理的で希望的観測に満ちたアスナの言葉を嘲笑うような類のものでは決してなく、慈愛と憂いを帯びたような優しい微笑みだ。

 

「⋯⋯貴女はそのままでいて下さいね、アスナ」

「え?」

「何でもありません。⋯⋯そうですね、元より他に策がない以上、そこに賭けるしかないでしょう。時間もありませんし、すぐに《マナナレナ》に戻ってコンタクトを図りましょう」

「決まりだナ。ALS側の実行委員の情報、超特急で調べてみるヨ」

 

 立ちあがろうと腰を浮かせかけたアルゴだったが、セイバーが待ったをかけた。

 

「いえ、それには及びません。それは私たちがDKBのシヴァタから直接訊き出します。すみませんが、アルゴはボスクエの方を進めてもらってもいいですか?」

「ン、別にそれは構わないケド⋯⋯どうしてダ?」

 

 小首を捻るアルゴに、セイバーは真剣な眼差しを返した。

 

「ALSの暴走を止められないとなれば、最悪の場合は私たちだけでフロアボス攻略に臨まなければいけなくなる。その時のために、可能な限り攻略情報が欲しいのです」

 

 ────フロアボスとは、その時点でのあらゆる敵モンスターの中でも最強の存在。通常のmobとは一線を画する圧倒的な戦闘能力とHPゲージを有しており、アルゴリズムも複雑だ。

 事実、これまでのボス戦でも、一歩間違えれば死者が出てもおかしくないような場面は幾度もあった。

 

 何十人ものハイクラスプレイヤーを束ねたレイドでそれなのだ。僅か数人のメンバーで挑むなど無謀もいいところ。ただの自殺志願者だ。

 

 だが、あるいは、彼女なら。

 無敵無双を地でいくセイバーであれば、ひょっとしたらそんな絶望的戦力差でさえもあっさり覆してくれるかもしれない。

 

 そんな身勝手な希望を抱いてしまうほど、彼女は隔絶した強さを誇っていた。

 

 アルゴもセイバーの実力をよく知る一人。やれやれとアメリカンなジェスチャーで肩をすくめた。

 

「ふぅ⋯⋯わかっタ。ンジャ、ボスクエと並行して元テスターたちからもベータの時のボス情報を集めておくヨ」

「ありがとう、アルゴ。では、DKBがいる《マナナレナ》に移動しましょうか」

 

 方針が決まり、セイバーがざばっと立ち上がった。

 

「────────────⋯⋯⋯⋯ぁ」

 

 

 僅かな桜色を帯びた蕾、ほんのりと縦筋の見える腹筋、綺麗な流線を描く引き締まった臀部、そこから続く細く長い魅惑の脚線美。

 

 全身に纏った水滴でキラキラと輝くそれらが突然目に飛び込んできて、視界に強烈なハレーションを引き起こした。

 

 

 アスナの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────よし、メッセージを送りますよ」

「────⋯⋯はっ」

 

 意識(正気)を取り戻した時には、アスナは既にマナナレナの村にあるレストランの前にいた。

 

 視線の先、窓越しに見えるレストラン内部では、DKBのメンバーがガヤガヤと騒ぎながら昼食をとっている。その中にはDKB側のパーティー企画者であるシヴァタの後ろ姿もある。

 

 ホログラムのキーボードを叩くセイバーを尻目に辺りを見渡すが、いつの間にかアルゴの姿はない。アスナが夢遊病患者のようにしている間に別れたらしい。

 恐らくはボスクエの方に取り掛かっているのだろう。

 

 こめかみを押さえながら記憶を遡る。

 しかし、何か非常に幸福なことが起きたような気はするものの、その内容はとんと思い出せない。セイバーとお風呂に入った際に時折発生する摩訶不思議な現象だった。

 

 うんうんと唸りながら記憶を掘り起こしていると、セイバーのメッセージに釣られたシヴァタが店から出てきた。

 

「ついてこい」

 

 すれ違いざまにポツリと囁かれた低い声。やけに険しく硬質な声音に疑問符を浮かべながら、アスナは慌ててセイバーとともに彼の少し後ろを追跡する。

 

 

 DKBが根城にしているエリアから離れるように数十メートルほど坂を登り、とある空きのNPCハウスの中に姿を消した。

 

 二人も後を追い、後ろ手に扉を閉めた、その途端────。

 

「何が目的だ⁉︎」

 

 怒号が劈いた。思わずぴくりと肩を跳ねさせる。

 詰問の主────シヴァタは、唇を真一文字に引き結んでキッとこちらを睨めつけていた。スポーツマン然とした髪は上向きに逆立ち、正に怒髪天と評するに相応しい様子だ。

 

 セイバーの肩当て(ポールドロン)の辺りをつつき、こしょこしょと囁きかけた。

 

「セイバー、どんなメッセージ送ったの? シヴァタさん、すっごい怒ってるわよ。謝ったら?」

「私が失礼な文を送ったような前提で話さないで下さい。ただ一文『ALS側の実行委員を教えて欲しい』としか書いてません」

「⋯⋯え、それだけ?」

「ええ」

 

 セイバーも心当たりがないらしく、困惑した様子で首を傾げている。

 こちらの会話が漏れ聞こえたのか、対するシヴァタも、ゆるゆると眉を下げて口許をへの字にした。

 

「………アンタら、オレとあいつのことを知ってて接触してきたんじゃないのか?」

「“あいつ”⋯⋯? いえ、私たちは何も⋯⋯。───ALSのメンバーと、何かあるのですか」

 

 セイバーの声音が鋭くなる。シヴァタの妙な態度に猜疑心を膨らませているらしかった。即ち、ALS側の企画者とは実は共謀関係にあり、シヴァタ自身も抜け駆け作戦を進めんとする工作員なのではないか、と。

 

 しかし。

 

「あ、あー⋯⋯⋯⋯。いや、それは⋯⋯」

 

 自分の早とちりを悟り、焦った様子で視線を泳がせ、誤魔化すように咳払いを繰り返す姿は。とてもそんな奸計を看破された人間の反応には見えなかった。

 

「ほっほーう⋯⋯」

 

 “その手の経験”が絶無のアスナといえど、その態度はあまりにも解り易く、すぐにぴんときた。自然と目がキラキラしてしまいそうになるが、状況が状況ゆえ自重する。

 

 問い質そうとするセイバーを手で遮り、落ち着いた声音で語りかけた。

 

「大丈夫よ、シヴァタさん。わたしたちはただ、パーティーが企画された経緯を知りたいだけなの。それさえ教えてもらえれば他のことは一切詮索しないし、ここで知ったことは誰にも漏らさないわ」

「⋯⋯⋯そんな口約束を、どうして信じられる?」

 

 そっと相棒を一瞥し、答える。

 

「──わたしも⋯⋯わたしたちも、パーティーが無事に開催されてほしいと思ってるのよ。すごい楽しみにしていたから。……これは当て推量だけど、ALSの企画者から、芳しくないメッセージが来てるんじゃないの?」

「ど、どうしてそれを……?」

 

 目を見開き驚愕を露わにするシヴァタに、ずいっと一歩詰め寄った。

 

「問題の解決に力を貸すわ。だから、詳しい話を聞かせてくれない? できれば、ALSの人も一緒に」

 

 しばらくじっと視線を交錯させる。やがて観念したのか、角刈りの青年は小さく頷き、右手でメニューウインドウを呼び起こした。

 

 

 達成感とほんの少しの期待に額の汗を拭っていると、セイバーが胡乱げな声で問うてきた。

 

「あの、アスナ。話が見えないのですが⋯⋯」

「セイバーは解らなかった? シヴァタさんのリアクションを見ても?」

「シヴァタの? ⋯⋯いえ、まったく」

 

 ひょっとしたら彼女はアスナ以上に“そういうの”に触れてこなかったのかもしれない。当然本人にもその手の経験はないのだろう。

 

「ふふっ、鈍いのね。すぐに解るわ」

 

 不思議と声は弾んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼色のパーティクルが散る。全身を覆っている無骨な重鎧のうち、アーメットヘルムが光の粒子となって宙に溶けて消えた。

 

 その下から現れたのはオレンジ色の髪をぱつっと凝り揃えた可愛らしい少女。

 

「────信じます。私……アスナさんのことは尊敬してるから。それに私も、シバと一生懸命準備したパーティー、絶対に成功させたいし」

「り、リッちゃん⋯⋯」

 

 

 全て予想していた通り。説得にも成功した。

 

 どやっと相棒の方を見遣ると、彼女は呆然とした様子で固まっていた。

 

「─────⋯⋯⋯⋯なん、だと⋯⋯」

 

 全身を重鎧でガッチリと固めていた目前のプレイヤー────ALSのパーティー企画者が実は女の子で、しかもシヴァタと(恐らくは)ただならぬ関係であるという現実をまだ受け止め切れていない様子である。

 

「⋯⋯⋯⋯いや、貴女も似たようなものじゃない⋯⋯」

 

 フルプレートアーマーに全身を包んだ相棒に対する呆れ混じりのツッコミは、幸いにも二人だけの世界に入り込んでいる彼らの耳には届かなかった。

 

 





 ふと気付けばSAOP最新刊発売から2年半近くが経過。先生、どうか我々に供給を⋯⋯!と祈るばかりです。


 以下、本編の副音声的なやつ。

お風呂
→セイバーはリアルでは中学3年生。修学旅行では実際に鼻血を噴き出した同級生が多発したとかしてないとか⋯⋯。

胸のサイズ
→年齢的には決して小さすぎるサイズではない。きにしてない。

将来的に成長すると確信しているセイバー
→果たして本当にそうなるのか。現実は非情なのか。
 それは、フェアリィ・ダンス編まで誰もわからない⋯⋯私もわからない⋯⋯。

フォレストエルフのメシ
→事前に知っていたら、セイバーは第3層でキズメルに加勢しなかった⋯⋯かもしれない。

料理スキル
→前線組の中で、貴重なスキルスロットを割いてまでこのスキルを取る人間がいれば酔狂どころただの狂人。セイバーすらレベルが6に上がった時に丸2日の葛藤の末諦めた。

ボスクエ
→フロアボスの情報───弱点属性や行動パターンなどを知ることができるクエスト。七面倒でやたらと長い癖に報酬の経験値やコルは少なく、前線組の面々からは敬遠され気味。二大ギルドはアルゴに任せきりの状態。

「貴女はそのままでいて下さいね」
→甘い思考ではあるが、だからこそ人間味溢れるアスナへの願望。
 セイバーは若干人間不信気味だが、アスナは信じているので、彼女が信じているものは信じられる。ゆえに、例え裏切られることがあってもアスナにはその考えを捨てないでいて欲しいという期待。
 偶像化、依存とも言う。

意識が途絶えた
→仮想空間で果たして起こりうるのか⋯⋯まあええか⋯⋯。

シヴァタ
→DKBの幹部で、両手剣使い。ネズハに愛剣をパクられて売り飛ばされても感情的にならなかった聖人。プログレッシブ本編で恐らくあまりいい末路を辿らなさそうな人1。

謝ったら?
→セイバーは割と無自覚に人を煽るのを知っているため。

フルプレの下から可愛い女の子が!
→驚愕するセイバー。どの口が言うてんねん。
 プログレッシブ本編で恐らくあまりいい末路を辿らなさそうな人2。

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