ナーヴギアで焼き芋作ったら日本を救えたらしい   作:エヴォルヴ

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研修の合間に投稿です。社会人って、大変だ。


38.プロジェクト【オーディナル・アリシゼーション】

「和人ー、こいつなんだけどさー」

 

 高校に入学してから早くも半月が経過した。同じ高校に入学した俺と瑞理は、帰り道に見つけた珍しい店や、美味しいものを売っている店を報告するというのを主な活動にしている帰宅部に所属し、家路を急ぐ毎日を過ごしている。

 

「ん? どの────って、こいつかぁ……」

 

 そんな中で見つけた喫茶店で、ノートパソコンを弄る瑞理が見せてきたのは、俺達の夢である【オーディナル・アリシゼーション】のボスエネミー、『Sacrifice Blood Harvest』。安直なネーミングで申し訳ないが、直訳すると『贄血の収穫者』。最初のボスであり、オーディナル・アリシゼーションの世界観をチラ見せするためのデモで使うボスの一体でもある。

 

 こいつの見た目は収穫者とは名ばかりの化け物だ。醜悪な獣と人が7:3の割合で融合し、左手は犠牲者の血と己の血で汚れており、右手にはボロボロになった大鉈を握っている。更には宣教師のような服に鎧を着ているため、不気味さを引き立てることができている……はずだ。

 

「こいつ、バグでフリーズするんだけど」

 

「何? ……あー……こりゃ致命的だな……」

 

 俺達が入学してからすぐに発売したオーグマーによる投影でシミュレートしてみても、五秒のフリーズが生じる。これは致命的だ。最初のボスなんだから、しっかり動いてもらわないと……

 

「どこが邪魔してるんだ?」

 

「多分、ここの人間と獣の接合部。互換性が取れてないのかなァ」

 

「うーむ……デモ映像では動けてたはずだけどな……5:5で作り直すかぁ?」

 

「いやァ……ちょっとそれは嫌だなァ」

 

 だよなぁ……俺も嫌だ。四苦八苦して生み出したボスだというのに、修正なんて……

 

「……ふむ、何か悩んでいるようだね、君達」

 

「はい? ────おや?」

 

「あ、すみません、うるさかった────って、あれ?」

 

 この人、どこかで見たことがあるぞ……? 俺の記憶が正しければ、ゲーム雑誌か何かで。

 俺と瑞理がスーツを着た男性を見て首をかしげていると、男性は薄く笑みを浮かべながら名刺を渡してきた。

 

「初めまして、キリト君、トーマス君。私は茅場晶彦────」

 

「あ、漂白剣カヤバーン」

 

「ブフゥッ!?」

 

「こらこら、比嘉君……ツボったからと言って噴き出したらダメじゃないか」

 

 ああ、思い出したぞ。俺と瑞理の動画によって危険性が示されたナーヴギアにより発売延期となって凍結、その後ALOに接続されたSAOを作り、真っ白に燃え尽きているように見えたせいで、ネットミームにもなった天才……茅場晶彦だ。

 

 しかも、彼が座っていたであろう席には、見覚えのある人がいる。ALOのGMを務めている須郷氏と────ツボってる金髪の人と緑がかった黒髪の女性は誰だろう? 

 

「和人、和人」

 

「なんだよ」

 

「今思い出したんだけど……須郷さんも茅場さんも、重村伯父さんのゼミの人達だよ」

 

 …………世間って、狭いんだな。

 茅場さんから名刺を受け取り、店の人の許可を得て席を移すと、須郷さんが人当たりのいい笑みを浮かべて口を開く。

 

「やぁ、二人共。トークショー以来だね」

 

「あ、はい。お久しぶりです。須郷さん。……ところで、そちらの二人は?」

 

「ああ、二人は────」

 

 間髪入れずに茅場さんが紹介しようとしたのだが、当の二人がそれを止めて、茅場さんのように名刺を渡してくる。防衛省仮想部所属エンジニア比嘉健……仮想現実サポート会社代表取締役神代凛子……? 

 

「初めまして、二人共。私は神代凛子。よろしくね」

 

「防衛省の比嘉健ッス。茅場先輩と須郷先輩、神代先輩の一つ下の後輩ッスよ」

 

「これはご丁寧に……あ、俺達も名刺あるんで、よろしければ」

 

 高校に入ってから、葦名の観光大使としての仕事が増えることになっていたため、葦名の方から名刺を作るように言われていたのだ。……元々、重村教授からも名刺の作成を勧められてたし、一応作っていたのだが……

 

「【ARMMOオーディナル・アリシゼーション】制作チームリーダー……?」

 

「和人ォ、間違えてるよ?」

 

 あ、ヤバい。二パターン作っていた弊害が……やっぱり分けておいた方が良かった────

 

「ほう、【ARMMOオーディナル・アリシゼーション】制作チームサブリーダー……」

 

「お前もじゃねぇか!?」

 

「あら本当」

 

 瑞理も間違えたようで、もう一枚の名刺を取り出している。だが、目の前に座っている大人達────もしかしたら子供のまま大人になったのかもしれない人達は、オーディナル・アリシゼーションという存在に興味を示しているらしい。話すまで逃がさねぇぞ、という意思が凄まじい。

 

「二人共、オーディナル・アリシゼーションとはなんだい?」

 

「これは君達が悩んでいたことに関係するのかな?」

 

 ……わぁ、これはもう逃げられないなぁ…………瑞理とアイコンタクトだけをして、ノートパソコンに保存してある動画を起動する。制作チーム以外には、まだ誰にも公開していないプロモーションビデオってやつだ。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 月明かりに照らされた真夜中の都市の真ん中で、機械的な武装をした戦士二人が何かを睨んでいる。視線の先には何もない────はずだった。

 

『────────次元の歪みを捕捉、来るぞ!!』

 

 通信越しにオペレーターの声が響き、二人が睨んでいた方向で時空間が歪み、扉のようなものが開け放たれ、扉の奥から大量の異形が現れる。

 

 扉から現れた醜悪なそれに対し、二人は武器を構え────笑った。楽しそうに、吐き捨てるように、歓迎するように。

 

「全く……夜中にご苦労なことだよなぁ」

 

「……仕事だ、起きろ桜楔(おうかつ)

 

「ストイックだよな、お前……ま、いいや。行くぞ、イ=ガル、シル=ガナ」

 

「「……参る……!!」」

 

 二人の叫び声が響いた瞬間、《Ready Fight!!》の文字と画面が砕けたようなエフェクトと共に、戦いが始まる。

 

 黒衣に身を包んだ戦士は二振りの直剣を用いて異形を切り刻み、白衣に身を包んだ戦士は腰に下げていた刀で向かってくる異形達を両断していく。

 

『ッ!? 化け物共の数がいつもより多いぞ!』

 

「はい?」

 

 切羽詰まったような声を上げるオペレーターに対し、気の抜けるような声で返す白衣の戦士。首をかしげるや否や、追加の異形達と共に巨大な化け物が現れた。

 

 現れたのは、どの異形よりも醜悪な化け物。獣と人が融合したような姿の異形は、左手をドス黒い血で染め、右手には血糊が付着したボロボロの大鉈を握っている。

 

「我らが偉大なる者へ捧げる供物、収穫の時は今……」

 

「……面妖な」

 

「歌姫は不在……追い返してやりますかねぇ……!」

 

 二人の戦士と異形がぶつかる瞬間、場面が切り替わり、OPのようなものが始まった。躍動感のある主題歌を歌うのは、今話題のVRシンガーソングライターのユナ。

 

 最初の場面では二人の戦士が拳を打ち付け走りだし、日常風景が映された。サビに移る直前、場面が切り替わると、化け物に奪われたものに手を伸ばす白衣の戦士らしき少年と、悔しそうに地面に拳を打ち付ける黒衣の戦士らしき少年の姿が映し出される。

 

 サビに入ると、異形達を相手に獅子奮迅の活躍を見せる戦士達の姿。終わりにはボロボロになった二人の武器が朝日に照らされ、映像はフェードアウト。動画が終了した。

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

「────以上、オーディナル・アリシゼーションのプロモーションビデオでした」

 

「体験版の配信は今年の秋を予定しています」

 

 本編配信は来年までにできればいいと考えている。高校生だし、色々やらないといけないことだってあるわけだからな。

 

「……凄いな。これは君達だけで?」

 

「細かいところは重村教授や知り合いにも少し手伝ってもらいましたけど、それ以外は全部俺と瑞理で……ですね」

 

「二人はまだ高校生ッスよね? これだけのクオリティをほぼ二人だけで……いやぁ、若いって素晴らしい!」

 

 あなた達もまだまだこれからな世代だと思うんですけどね? 茅場さんなんて、アインクラッドのアップデートチームのリーダーなわけだし。

 

「それにしても、このエネミー……どこから現れたの?」

 

「別次元からですね。このゲームの設定として、こいつらが原因の行方不明事件が多発しているって話を最初にします」

 

「なるほど。あれらは侵略者(インベーダー)のようなものなのか」

 

 ゲームを作っているだけあって呑み込みが早い。全部話すつもりはないが、情報をいくつか出したら答えに辿り着いてしまいそうだぞ、この人達は。

 

「ま、そういうのもマテリアルみたいな感じで読めるようにします」

 

「ふむ……それで、これについて悩んでいたようだが、何があったのかな?」

 

 おっと、大事なことを忘れるところだった。

 

「プロモーションビデオにも出てたボスなんですけど……」

 

「五秒くらいフリーズするんですよねぇ」

 

 デモでは動いてたはずなんだけど、今になってフリーズするようになってしまったのだ。修正なんてしたくないぞ……折角の夢、妥協はしたくない。

 

「ふむ……異形と人の形、どちらにも引っ張られているね」

 

「7:3でやったのにどうして……」

 

「あー……それは多分、バランス調整を半々にしてるからッスよ。割合が大きい部分を重心にしてやれば────」

 

 お、本当に動いた。……シミュレートでもフリーズしてない。ちょっとアンバランスなのは許容範囲────いや、攻略の手口として使えるから問題ない。

 

「これで大丈夫のはず」

 

「凄いなァ……さすがプロのエンジニア」

 

 プロはやっぱり違う。俺達が首をかしげる問題も、すぐに解答を見つけてしまうのだから。

 

「いやいや、二人のプログラミング能力が優秀だからこそ見つけられただけだよ」

 

「はは、お世辞でも嬉しいです」

 

「お世辞抜きで凄いものよ、これは」

 

 神代さんがそう言ってくれるが、俺達は実感がない。これは確かに俺と瑞理が大部分を作ったが、重村教授や鋭二さん、悠那さんが手伝ってくれてやっとここまで辿り着いたものなのだから。

 

 多分、俺と瑞理だけだったら、普通の同人ゲーム程度のものしか作れなかっただろう。

 

「このゲームからは、君達の努力が伝わってくる」

 

「色々苦難ありましたからね……」

 

 システムの組み上げ、組み直し、バグの検出と修正、瑞理へのクラッキングとか、迷惑メールとか迷惑メールとか迷惑メールとか迷惑メールとか迷惑メールとか。……あれ? 迷惑メールばっかりあるな? 仮想現実サポート会社っていうのがあるなら、そこに相談するのも有りだったのか……

 

「あの、神代さん。ちょっと質問なんですけど……」

 

「何ですか?」

 

「この迷惑メールって、どこから来てるか分かりますか?」

 

 そう考えていると、瑞理がぶっ込んだ。一番迷惑を被っているのは瑞理だもんな。仮想世界にいる時にピンポイントで迷惑メールがやってくるわけだったし。

 

 状況を説明すると、神代さんの穏やかそうな雰囲気が一変し、バリバリのキャリアウーマンというか、ビジネスウーマンみたいな雰囲気を纏い始めた。

 

「見せてもらってもいいですか?」

 

「あ、はい。これです」

 

 未だに怖くて開いていないメールを瑞理が開く。神代さんはすぐに持ってきていたパソコンに繋げて、メールの送り主を精査し────茅場さんと須郷さんと比嘉さんに非難の目を向けた。

 

「茅場君、須郷君、比嘉君……これ、あなた達の落ち度が招いたものよ」

 

「何……?」

 

「なんですって?」

 

「マジッスか?」

 

 メールの解析結果、送り主はとあるサーバーからこのメールを送りつけてきていた。サーバー……というか、アカウント名はカーディナルとアドミニストレーター。その名前を俺達は知らないけど、三人は知っているらしい。この世のものとは思えないくらい苦いものを食べた俺達みたいな顔してる。

 

「AIの自己成長を促した結果がこれか……」

 

「現実にまで干渉してくるなんて……しかも一般人に干渉……? ああ、上になんて説明すれば……」

 

「ALOを経由して……!? 確かにALOは茅場先輩のSAOのβデータを一部流用してたけど……」

 

「リスクをしっかり考えてやらないからこうなるのよ」

 

「「「申し訳ございません」」」

 

 わぁ、古今東西、男は女の尻に敷かれるのが常って言葉は本当だったんだなぁ……うちの親父と母さんを見ていても分かってたことだけどさ。

 

「申し訳ない、和人君、瑞理君。こちらの落ち度で君達に迷惑をかけてしまった」

 

 茅場さんが代表するように頭を下げてくる。いや、別に実害はなかったから────いや、瑞理のアミュスフィア壊すハメにはなったけど……本人は気にしてないのもあって、俺も何か咎める……なんてことはしない。命あっての物種だ。

 

「別にいいですよ。俺は気にしてませんし」

 

「瑞理が気にしてないなら、俺もとやかく言うつもりはありません」

 

 脅されたわけでもないからな。……脅されたと言えば……

 

「比嘉さん、秘匿情報とかだったら言わなくていいんですけど……菊岡って人、どうなったんですか?」

 

「菊さん? ────ああ、遠間氏関連ッスね? えーと……謹慎処分と降格処分と減給ッス。なんだかんだ優秀ッスからね、上も切るに切れなかったみたいッスよ」

 

「それでいいのか防衛省……」

 

 出雲さんがよくそれで許したな……? あの人が怒ったら地の底に沈むまで徹底的にやると思ったんだけど。

 

「ま、二人に接触することは二度とないとは思うッス」

 

「そうですか」

 

 その後、俺達はちょっとだけアドバイスをもらってから、喫茶店を後にした。驚きの邂逅があった今日だったが、そんな帰り道で────

 

「和人」

 

「……ああ」

 

 葦名での修行と、動画撮影によって鍛えられた五感が語りかけてくる。誰かに追跡されていると。

 

「誰だろ? 喫茶店出てすぐだよね?」

 

「知らね。どうするよ?」

 

「警察に通報、交番に駆け込む。以上」

 

 ストーカー被害は、初期段階で断ち切るのが最善なのだ。迷えば敗れる。敗れたら、自分だけではなく身内にも被害が及ぶこともある。だからこそ、自分の行動に迷いをなくす必要があるのだ。

 

「というわけで」

 

「……いざ」

 

 そうと決めたら全力疾走。最寄りの交番の場所は記憶してある。

 

「瑞理!」

 

「追ってきてるねェ」

 

 これでも陸上部に勧誘されるくらいには足が速いんだけどな、俺達は。それに追い付いてくるってことは、普通の人間じゃないな……

 

「どうする?」

 

「公園!」

 

「なるほど」

 

 何かしてきても、そこなら対処しやすい。瑞理の提案により近くの公園に走り込むと、直後に拍手が聞こえてきた。

 

「Wonderful……俺が見てきたJapaneseの中で、お前達がトップの速度と判断力だ」

 

「そりゃどーも」

 

(……この声、どこかで)

 

 瑞理が何かを考えている中、拍手と共に現れた男性はニヤリと笑いながら話を続ける。

 

「こうして会うのは二回目か? キリト、トーマス」

 

「……外国人の知り合いはあんまりいないんだけど────」

 

「────────Poh」

 

「……………………ヴァッ!?」

 

 瑞理の呟きで、目の前の男が誰なのかを把握した。把握、したのだが……あの時よりも変わりすぎじゃないか? リモートで対面した時、彼の雰囲気はもっとこう……ビリビリ、ピリピリしていたような気がする。

 

「Good evening,friends.暖かいところだな、Japanってのは」

 

「……ご用件は?」

 

「Ah…………うちの雇い主がお前達に興味を持っていてね。ちょっとした勧誘を────と思っていたが、やめだ」

 

「それでいいのかビジネスマン」

 

 ちょっとした仲介業を営んでいるというPohさんの雇い主が、俺達に興味を持っていたため、顔合わせをさせようとしていた……らしいのだが、断ることにしたようだ。

 

「クライアントからの前金も少なかったからな。それに……」

 

「「それに?」」

 

「仕事は選ぶ質なんだよ。戦場を知らない未成年を労働させるほど、俺は暇じゃないんでね」

 

 労働って、やっぱり戦場(いくさば)なんだなぁ……

 

「ま、何かあればここに連絡してくれ。安くしておくぜ」

 

「「あ、これはご丁寧に……」」

 

 名刺を渡して、白人の男性Pohは音もなく去っていった。……凄いビジネスマンってのは、歩法も嗜むのか……やはり葦名は普通の場所なのでは? 皆、歩法やってるし。

 

 

 

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