サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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誤字脱字の報告ありがとうございます。当方節穴なのでとても助かってます。



墨で塗り潰すように、

 

 この『exodus』というゲームには、いくつかのモードがある。

 

 定められたステージ数をクリアする『シンプル』。制限時間内にどこまで進められるかの『タイムアタック』。ゲームオーバーになるまでにずっと逃げ続ける『エンドレス』の三つだ。

 

 俺たちがやっているのがこの『エンドレス』というモードで、このモードの一定のステージ数に到達するまで終わらない耐久配信が配信者界隈ではよく行われている。集まったメンバーによって難易度を調節できるというのも配信にちょうどいい。こういうところも『exodus』がよく配信に使われる理由だ。

 

 今回の難易度は上から二番目で結構難しいほうだが『Golden Goal』の中ではゲームがうまいほうの俺たち『あかいつき』なら、真面目にやれば、という前提条件さえ満たせればなんだかんだでクリアできるんじゃないかと、配信を予定した時には思っていた。

 

 順調にゲームを進めて、目標としていたステージ十の一つ手前、ステージ九まできた今、当初の目算があまりに甘かったことを思い知らされていた。

 

「っ、俺が狩るからジンはトラック動かしといてくれ!」

 

『わかりました。朱莉さん、トラックに斧の替え置いてるので交換しておいてください』

 

『んっ、ちょっと待ってねっ……。ここだけ切りたいっ……せんせー! 足場ってトラックに入ってる?!』

 

『あります。美月さん、申し訳ないんですけど川に足場板置いて反対側回ってもらえますか?』

 

『わかっ、わかったっ。壊斗! 川の対岸にアクティブいる!』

 

「待っ……おっけ! すぐやるからそのまま進んでてくれ!」

 

 ぎりぎりだ。ぎりぎりで(しの)いでいるような状態だ。

 

 俺が進路を指示してジンが後方で支えてくれているからなんとか回っているが、この難易度を三人でやろうとしていたのはかなり無理があったようだ。

 

『石材が少ないので、なるべく地続きの道を通りましょう。この先の谷で橋を架けることを考えると、あまりゆとりがありません』

 

「うっ……おっけ」

 

『あははっ、苦しそうです』

 

『なんでせんせー、笑うよゆーあるのっ……』

 

『ふふっ、ひりついてきましたね』

 

『この状況でひりつきを楽しめちゃうんだ……』

 

〈きっついな〉

〈難易度えぎー〉

〈ハードでこんな大変なのか〉

〈ちょくちょくミスはあったしな〉

〈資材管理ナイス〉

〈直進しようとして資材枯渇とかある〉

〈悪魔ゆとりあるなぁw〉

〈落ち着いてんねー〉

〈ひりつきw〉

〈猛者感あるw〉

 

『光玉は……美月さんが迂回した川の対岸のところです。朱莉さん、トラックが進むルートの木は僕が切っておくので、朱莉さんは光玉を囲んでる木のほうをばっさり切ってもらっていいですか?』

 

『え?! 取りに行くのっ?!』

 

〈ランタンのアビリティか〉

〈教授って意外と強いんだな〉

〈使う人によって合う合わない激しそう〉

〈縁の下できるやつしかやれなさそうだ〉

〈これレンジャーより考えること多いね?〉

〈シングルタスクにはむずい〉

〈取りに行くのか!〉

 

「無理していく必要はないんじゃね? とりあえずこのステージの突破目指そうぜ」

 

『光玉取らないと次のスキルポイント振りでランタンの強化ができないんです。このキャラクターが僕の想像通りなら次のステージで役に立つと思います。取りに行きましょう』

 

〈間に合うんか〉

〈ランタンの最大強化ってどんなんなの〉

〈キャラ読みもしてんのか〉

〈アドミニでも考察してるくらいだからw〉

〈スキレベMAXでランタンがとっても光るようになります〉

〈この回が初見だったよな?〉

〈ゴミで草〉

〈ランタンピカピカは草〉

〈明るい時にランタンいらんだろw〉

〈夜だったら役に立っただろうけどw〉

 

 日が暮れてからのステージならともかく、明るいステージでランタンがそこまで効果を発揮するとは思えないが、ここまでステージを進んでこれたのはジンの尽力あってこそだ。なにか成算があってこそなんだろう。

 

「……賭けるだけの信頼はあるからな。取りに行くぞ」

 

『あはっ! おーっ、行くぞーっ!』

 

『ちょ、ええ……間に合うの?』

 

〈スキルポイントもいるっちゃいるしな〉

〈拾えるなら拾っときたい〉

〈すぐ背中まで迫ってる〉

〈影ちけー!〉

〈ひりついてきた!〉

〈がんばれ〉

〈やり直し時間かかるし今回で行きたいな〉

 

『朱莉さん、光玉までの道はアビリティで真っ直ぐ開けてもらえればそれでいいです。美月さん、そこからの岩をやってもらっていいですか?』

 

『岩の先に段差あるし、先生がスロープ持ってこっちまできて、岩砕いて進んだほうが早そうじゃない?』

 

『石材の貯蓄が尽きそうなんです。次のステージの岩の数によっては危ないので、なるべく補充しておきたいんですよ』

 

『あ、そうか。加工までは先生のキャラはできないんだったっけ』

 

『加工まで考えたら、いっそのこと僕よりも砕くのが早い美月さんにやってもらったほうがいいな、と』

 

〈資材偏りがちになるんだよな〉

〈石材も取っときたいし丁度いいか〉

〈急がんと〉

〈オーダー聞こうぜ〉

 

『うん、わかった。……いちいち訊いてごめんね』

 

『僕も言葉を圧縮してしまいがちですからね。構いませんよ。気になることがあったらいくらでも訊いてください』

 

〈ぴりぴりしてんな〉

〈落ち着いて応援しようぜー〉

〈悪魔冷静だ〉

〈よくあんだけ動きながら説明できるな〉

〈ぜんぜん焦らねーw〉

〈声優しくて落ち着くわ〉

〈オーダーもゆっくり言えるのすげー〉

 

 貴弾だとIGLの指示に疑問を(さしはさ)むタイムロスは致命的だ。 FPSをやってればIGLの指示にはとりあえず従うことが染みついているが、美月はあまりやりこんでいない。気になって思わず訊ねてしまったのだろう。

 

 そのあたりのフォローもジンはうまい。美月のことは任せておいてもいいだろう。

 

 俺は俺のことをやっておかないといけない。

 

 ステージもここまで進むと野生動物は体力も数も多い。耐久値に不安が出てきた。

 

「ジン、弓の修復って終わってるか?」

 

『まだ七割から八割くらいです』

 

「こっちは三割切ってるから交換させてもらうぞ」

 

『わかりました。また修復しておきます』

 

 ノンアクティブは無視してアクティブの野生動物だけを攻撃していても数が多くて耐久がすり減っていく。四人でやってる分難易度が上がってるというのもあるんだろうが、かなり忙しい。ジンがまめに修復してくれていなければ間に合っていない。

 

『みっき! 道できた!』

 

『わかった。すぐ行く』

 

〈いいぞ!〉

〈朱莉まだまだ元気だw〉

〈声出てるねー〉

〈報告いいよ!〉

 

『朱莉さん。たくさん頼んでしまって申し訳ないんですが……』

 

『トラックが進むほうのルートの木を切るのと加工だね! いいよっ!』

 

『ありがとうございます』

 

『うおー急げ急げーっ!』

 

〈やることもわかってるw〉

〈朱莉成長してるぞw〉

〈かわいいw〉

〈いそげー!〉

〈うおー〉

〈うおおおお!〉

〈とことこかわいいw〉

〈声は急いでんだけどなw〉

〈うおー!(とことこ)〉

 

 口では急いでいる感じがしているが、朱莉はダッシュの存在をよく忘れる。そのせいであまり速くはない。

 

 やる気だけはあるようなので『ダッシュ使えよ』なんていう興醒(きょうざ)めな口出しは控えておこう。

 

『先生、段差までの道できたよ』

 

『すぐ行きます』

 

『あとは周りの岩から石材回収してわたしもトラックのほう戻るね』

 

『はい。お願いします』

 

「谷に着いた! ジン!」

 

『橋は必要分作っています。トラックの倉庫に入っているので置いてもらっていいですか?』

 

「ナイス! やっとく! 朱莉はトラック通れる道幅にしといてくれ!」

 

『おーっ!』

 

『わたしも橋の設置手伝うよ』

 

「まだ道幅狭いからぶつからないようにな! 半分置けたら俺はトラック動かすから残りの橋の設置は美月に任せるぞ!」

 

『おっけー』

 

『光玉取れました。僕も戻ります』

 

「ナイスー!」

 

『おーっ! せんせーないすーっ! 回せるもんなんだねっ!』

 

『ナイスー。……案外いけてて驚いてるよ』

 

〈ないす!〉

〈ナイスうううううう!〉

〈取れてるw〉

〈フォローしあってなんとかなったな〉

〈でかい!〉

〈ここで取れるのマジでナイス〉

〈いけるぞ今回〉

 

「影も近いから家建てるとこまで気を抜くなよーっ!」

 

 谷にクラフトアイテムの橋を設置する。谷や裂け目などのギミックには橋を架けなければトラックが通れない。

 

 ジンがうまくやりくりしてくれたおかげで紙一重のところで石材が足りた。石材が不足していたらここでゲームオーバーだったことを考えると背筋が寒くなる。

 

 ここまできて一からやり直しになったら確実に集中力が切れる。俺の睡眠時間のためにも、緊急参戦してくれたジンを解放するためにも、この回でクリアしたいところだ。

 

『壊斗、橋できたよ。わたしは先にいって周りの岩砕いとくから』

 

「おっけ! いくぞぉっ!」

 

『朱莉さんは加工に入ってください。できるだけ木材持っていきましょう』

 

『はーいっ!』

 

 谷に架けられた橋を渡って反対側へと移動する。

 

 あとはこのまま進めば建設予定地だ。

 

 画面の左側から侵蝕してくる影はじわりじわりとその勢力を拡大している。あれが俺の睡眠時間を奪う魔の手だと思うと恐怖を禁じ得ない。早く次へ進みたい。

 

 建設予定地周辺にある岩を根こそぎ砕いて石材を確保し、どうにかセーフハウスの建築ができた。

 

 ステージ九、クリアだ。

 

「おーし! おーっし! お疲れ! ナイス! あと一つだ!」

 

『やたーっ! ないすーっ! あといっこだーっ!』

 

『うわぁ、うわぁっ……ここまできたらミスりたくないなぁっ……』

 

『お疲れ様です。とうとうあと一歩のところまでこれましたね。途中危ういところもありましたがどうにか耐えられました。ナイスです』

 

〈クリアー!〉

〈ないすー!〉

〈ないっすうううう〉

〈あとひとつだああああ!〉

〈こええw〉

〈結構ぎりぎりだぞw〉

〈もうちょいだ!〉

〈がんばれ!〉

 

 ステージ十はやったことがないのでどんなギミックが出てくるのかわからない。でも、きっと行けるはずだ。

 

 三人でやっていた時の最高到達点がステージ七までで、八も九も初見ステージだった。それでもクリアできたんだ。次も攻略できる。きっと、たぶん。

 

「こっからも集中していこうぜ! んで、ジンはランタンのスキル強化できたのか?」

 

『できましたよ。実際に使ってみなければ効果はわかりませんが……おそらく想像通りでしょう』

 

「想像通りって、どんな効果なんだ?」

 

『ふふっ、それは使ってみてからのお楽しみにしたほうがいいでしょうね』

 

〈ランタンのために無理して取りに行ったんだったなw〉

〈めっちゃ光るらしいけどどんなもんなんだ〉

〈想像通り?〉

〈予想はついてるのか〉

〈言わないんだよねw〉

〈笑い声がお上品〉

〈関係ないけど悪魔の声えっちだ〉

〈じらすなーw〉

 

「いや教えてくれてもいいだろうよ」

 

『えーっ?! せんせー、教えてよー!』

 

『ここで教えてしまってはつまらないではないですか。それに……この特殊効果は使う機会がないほうがよさそうです。使う機会がなければ、次のスキル画面の時にお教えしますよ』

 

『うわー、引っ張るー。めちゃくちゃ配信者してるー』

 

『配信者たる者、リスナーさんにはわくわくしてもらわなければいけませんからね』

 

「意識たけー……一番新人のはずなのに」

 

〈気になる〉

〈どんななんだろうな〉

〈どんだけ光るんだろ?〉

〈配信者だなーw〉

〈リスナー思いで草〉

〈ちな悪魔枠ありません〉

〈悪魔配信してねーじゃんw〉

〈唯一配信してないやつが一番意識高いw〉

 

『次のステージは岩が多めにあると助かるんですけどね』

 

『そうだね。岩がないとわたしは手が空いちゃって、なにしたらいいかわからなくなる。先生に指示してもらってばっかりだと悪いし』

 

『気にしなくてもいいんですよ? 率先して木材の回収やクラフトアイテムの設置をしていただいたのはとても助かりました』

 

『へへ、うんっ。……できること探してたんだ』

 

『みっき働き者だったよねっ! いっぱい動いてたよ!』

 

『朱莉もね。木がいっぱいあって大変だったでしょ』

 

『うん、大変だったー。でもアビリティでばさああぁぁって切れて楽しかったよっ!』

 

『あははっ、楽しそうでしたよね』

 

『きゃははっ! うんっ! テンション上がっちゃった!』

 

「よっし。その調子で頼むわ。全員準備できたか? ラストがんばるぞーっ!」

 

『やーっ! れつごーっ!』

 

『これで終わるといいなー』

 

『これで終われたら壊斗さんの寝る時間もたくさん作れそうですね。頑張りましょう。……必ず皆さんをクリアさせなければいけませんね』

 

 妙な言い回しをするジンに言及したかったが、ステージ十の初期配置の衝撃で頭から吹っ飛んでしまった。

 

「川っ……ふざけんなっ! 石材ねーって!」

 

『えーっ! 川ーっ?!』

 

『……フラグになっちゃった。ごめん、わたしのせいだ』

 

〈くそみたいな配置〉

〈終わったか……〉

〈このやり方は性格悪いな〉

〈あしばだ〉

〈フラグ回収はえーよw〉

 

 ステージの上から下へと川が流れていた。画面左側に位置する俺たちと、建設予定地のある画面右側を綺麗に分断するような配置になっている。

 

 前のステージで作った橋は、そのコストのほとんどをトラックの倉庫に貯蓄していた分から捻出したのだ。セーフハウスの建築はステージの端にある岩も砕いてどうにか掻き集めて作った。もうトラックの倉庫には川を渡るための水上道路をクラフトする石材はない。岩は対岸にはたくさん並んでいるのに、こちら側にはちらほらと見えるだけ。まるで足りない。

 

 終わった。詰んでいる。

 

 俺たちが慌てふためいている中、ジンのキャラクター、教授がランタンを掲げた。カメラのフラッシュのようにぱぁっと、一瞬光が広がった。

 

 それはこれまで見てきたオレンジ色ではなく、眩しいくらいの真っ白な光だった。

 

 初めて見た白い光。もしかしたらランタンのスキルを上げて手に入れた新しい特殊効果だろうか。試しで使ったのか。

 

 なんにせよ、その輝くような白い閃光は動揺していた俺たちを驚かせ、一瞬黙らせる効果があった。

 

 その間隙を縫うように、ジンが落ち着いた声を響かせる。

 

『……なるほど。壊斗さんが足場板を作って、朱莉さんと美月さんで川の上に足場板を置いていきましょう。向こう側に渡れたら、美月さんはとりあえず水上道路を作れる分だけの石材を確保しましょう。僕はこちら側の岩を砕いておきます』

 

「あぁっ、くそっ……そうじゃん! 足場板で渡れんじゃんか! ナイス、ジンっ! すぐやる!」

 

『あ、そっか! ありがとせんせーっ!』

 

『パニックになっちゃうと視野が狭くなっちゃってだめだ……。落ち着かないと、落ち着かないと……』

 

〈うおおおお〉

〈悪魔ナイス!〉

〈落ち着いてんねぇ!〉

〈やっぱIGLは冷静じゃないと〉

〈クラフトは悪魔がやらんでいいんか〉

〈トラック動かさないとすぐやられんぞ〉

〈間に合うか〉

 

 ジンの指示に従い、俺たちは各々散らばった。俺はクラフトするためにトラックに。足場板がクラフトされ次第、朱莉と美月は急いで川の上に並べていく。

 

 ジンはというと、まだ動いていなかった。どうしたんだ、ラグか、と思っているとすぐ動き出した。

 

『壊斗さんはクラフトできたらルート確認しつつお二人を守ってあげてください。朱莉さんには申し訳ないですが、美月さんを優先で』

 

 ここからの動きやどうオーダーを出すかを考えていたのか。

 

「ん? おお、おっけ」

 

『いーよっ、大丈夫っ! 石材がたりないんだもんね、わかってるよっ!』

 

〈安心感ぱない〉

〈オーダー神だ〉

〈美月がやられたら石が終わるからな〉

〈優先はしゃあない〉

〈えらい〉

 

『あ、ごめっ……前のステージでスタミナの上限回復するの忘れてたっ……』

 

「おっ……っ。おぉっ……とう」

 

〈まっずい〉

〈回復する時間あったでしょ〉

〈なんでー〉

〈ケーショク!〉

〈一番まずいポジション〉

〈こんな時のための携帯食料〉

〈怒鳴りかけてて草〉

 

 声を張り上げそうになって、途中でどうにか押し留めた。

 

 美月だってふざけてるわけではない。今は真剣にやっている。やることが重なったせいで回復を忘れていただけだ。

 

 とくにスタミナの上限回復は頭の中のリマインダーから抜け落ちやすい。スタミナの上限は、トラックの荷台を開き、端にある食事のボタンで回復させる。すぐに目につくところに食事ボタンが配置されていないせいで、倉庫を確認しても自分のスタミナ上限が減っていることを思い出せないことも多い。

 

 ステージが進んでいって忙しくなってくるとやりがちなミスだ。このミスは誰でもありえる。それが今回はたまたま美月だったというだけだ。

 

『お渡しした携帯食料は?』

 

 教授のスキルにあったクラフト効率強化のレベルを上げた結果、新たにクラフトできるようになったのが携帯食料だ。倉庫内に入れた肉を材料にしてクラフトする。トラックでの食事と消費する肉の数は同じだが、回復量は携帯食料のほうが少ない。

 

 しかし、このアイテムの最大の利点は、通常はトラックに接して食事しないと回復できないスタミナ上限をトラックから離れた場所でも回復できることだ。回復量としては物足りないが、緊急時のつなぎとしては十分に役目を果たせる。

 

『……使っ、ちゃった。……ごめん』

 

 使っちゃってんだよね。なんなら俺も使っちゃってんだけど。

 

『大丈夫です、大丈夫ですよ美月さん。問題ありません。計算上……いけます。スタミナが半分もあれば川を越える分くらいは集められます。石材をトラックに持ってきた時にでも回復してくださいね』

 

『ごめんねっ?! あたしも使っちゃってもう持ってないっ!』

 

「わり。俺もねーわ」

 

〈んー〉

〈まっずい〉

〈報告ー〉

〈すまんやで悪魔……〉

〈使ったら言おうぜ〉

〈落ち着いてこう〉

〈悪魔がんばってくれ〉

〈GGの報連相はズタボロ〉

〈みんなないんだよねw〉

〈報告しろー!〉

 

『……皆さん、気を遣ってくださってるのは理解していますが、報告してくださいね? 壊斗さんが序盤からこまめに補充してくれていたおかげで肉の量には心配いりません。使ったよ、と言っていただけましたら作りますからね』

 

「……すまん」

 

『ごめんなさいぃ……』

 

『ごめんっ、ごめん……っ』

 

〈悪魔おこ〉

〈キレていいw〉

〈間があったなw〉

〈これ悪魔がいつキレるかのドッキリ?w〉

〈がんばってくれ!〉

〈せっかくきてくれたのに申し訳ない〉

〈助っ人が一番働き者で草〉

 

『大丈夫ですよー、先生怒ってませんからねー』

 

『くふゅっ、んふふっ……』

 

「おまっ、だははっ! やめろお前、そういう先生が一番怖いんだよ!」

 

『っ…………』

 

〈先生こわw〉

〈メンタルケアまで〉

〈空気清浄機かよw〉

〈どんまい!〉

〈こっからこっから〉

〈まだ舞える〉

〈影がくるまでには間に合うぞ!〉

 

『切り替えていきましょうね。ドンマイですよー』

 

「おお! まだ行ける! もうちょいなんだからなぁっ!」

 

『おーっ! 最後までがんばろーっ! ねっ、みっき?』

 

『っ……うん』

 

〈声出して〉

〈盛り上げてんだから〉

〈声出してけ〉

 

『朱莉さんは岩までの道の邪魔をしている木から切っていってくださいね』

 

『みっき……う、うんっ! わかった!』

 

『美月さんはスタミナがなくなったら加工をして回復させて、スタミナが回復したら岩を砕いていってください。なるべく手が空かないようにしましょう。僕もそっちにすぐに回ります。川の左側にある岩は全部砕いたので、トラックに食事に行く時についでに加工してもらえると助かります』

 

『っ、うん……』

 

『大丈夫ですよ。全然取り返せますからね。心配しなくて大丈夫です、クリアはできますよ。一つ一つ、順番にやっていきましょうね』

 

『ごめんっ……うんっ、がんばるよ』

 

『ふふっ、頼りにしていますからね』

 

「気にしすぎんなよー! まだまだ間に合うぞー!」

 

〈IGL降格〉

〈壊斗には無理だったか〉

〈しれっとオーダー変わっとるw〉

〈めっちゃ励ましてくれるやん〉

〈天使みたいな悪魔だ〉

〈先生優しすぎ〉

〈悪魔あったけぇ……〉

〈こんなにフォローされたら泣いちゃう〉

 

 ジンは俺の配信画面を観ていると言っていたし、もしかしたらコメント欄にも目を通していたのかもしれない。

 

 耐久配信になるかもしれない今日の配信で、ようやくステージ十に辿り着いた。終わりが見えたのだ。

 

 リスナーも今回で行ってほしい、がんばってほしいと思っている人が多いようで熱が入っている。熱が入っているせいで、クリアに影響のありそうなミスがあった時、投稿されるコメントにも棘のあるものが増えてしまう。

 

 そういうコメントはどうしたって出てくる。リスナーの数が多い以上、否定的なコメントを完全に防ぐのは不可能だ。仕方ない部分はある。

 

 ジンはコメント欄のそういう気配を感じ取っていろいろ気を回してくれたのだろう。場を和ませようとしたり、美月が気にしているようだから励ましの仕方も変えた。

 

 いや、さすがに指示を出して自分も動いてとなるとコメント欄まで観る余裕はないか。タイミングがよかっただけなのかもしれない。

 

 いずれにせよ、落ち込んでいるやつがいたら放っておけないくらい優しい悪魔がジンなんだろう。どこが悪魔なんだ。悪魔の定義が揺らいでいる。

 

『壊斗さん、手が空いたら石材をトラックに持ってきてもらえますか? 僕はもうクラフトしていきます』

 

「おっけ。朱莉、ルートは真ん中から斜め上に進んでいく形で頼む」

 

『わかったーっ!』

 

 クラフトにかかる時間を考慮すると、石材を全部回収してからだと影に呑まれるかもしれない。作れる分から順次作っていくのが最善だ。

 

 ジンにはクラフトに注力してもらい、俺は石材の回収と完成した水上道路を川に敷いていく。

 

 画面の左側から影が湧き出したとほぼ同時に、川を越えるための道が完成した。どうにか間に合った。

 

『トラックの運転は壊斗さんにお任せします。僕では遅すぎます』

 

「任せろ。ジンはルート切り開くの手伝ってやってくれ」

 

『わかりました』

 

〈あぶねええええ!〉

〈ないす!〉

〈危ねえw〉

〈ぎりぎりやw〉

〈盛り上がってきたああ!〉

〈ひりついてんねーw〉

〈ナイス〉

 

 間一髪で川を渡り、影の魔の手から逃れる。

 

 少しでも遅れていたらトラックが影に呑み込まれていた。

 

 可能な限り影から離れ、トラックを停車する。相変わらず余裕はないが、わずかに時間は確保できた。

 

「うっ、おおぉぉっ……あっぶねー……」

 

『あははっ、ぎりぎりでしたね』

 

「お前は心底楽しんでんなぁ……」

 

『ええ、それはもう。こうして大人数でゲームができるだけでとても楽しいですから』

 

〈草〉

〈危なかったw〉

〈悪魔w〉

〈楽しそうw〉

〈悪魔だけウキウキで草〉

〈かわいいw〉

〈イケボでかわいいこと言うなw〉

〈かっこいいとかわいいのギャップで風邪引くわw〉

 

『あはっ! せんせーいいこと言うーっ! お友だちと遊べたらそれだけで楽しいもんねっ!』

 

『わたしは、楽しめる余裕はないかもっ……』

 

〈友だち作るのが目標だったっけ〉

〈朱莉もそのタイプだもんなw〉

〈悪魔くらいじゃないと楽しめねーよw〉

〈余裕はないw〉

 

 ジンはいつの間にかIGLをやりながら、隙を見つけてはクラフトや修復も続け、サブ職のスキルを活用して木や岩の処理もしている。脳みそが焼き切れそうな作業量だが、ジンはさらに楽しみながら笑ってやっている。どうやら積んでるCPUが違うらしい。

 

『かいとくんっ! こっち動物出てきた! オオカミ!』

 

「わかった、すぐ行く。朱莉もジンも切り続けといてくれ。間に合う」

 

『わかりました。お任せします』

 

〈オオカミならセーフ〉

〈動きが早いのはだるいけどあたればすぐ倒せる〉

〈今は朱莉が生命線だからな〉

〈道ができないとトラックでアウトになる〉

〈影から逃げる空間はほしい〉

 

『壊斗! こっちにも近くに出てきた! クマだ! ちょっと下がるよ!』

 

「っ、同時かよっ!」

 

〈まっずい〉

〈あっ……〉

〈しかもクマ〉

〈きっつい〉

 

 ステージの中央から斜め上にルートを進行させていっているのが朱莉とジンだ。木が密集しているので朱莉がメインで切り進め、補助でジンも手を貸している。

 

 二人と離れて美月は下側にいた。いまだ不足しがちな石材を回収する重要な役割を担っている。この先に崖や裂け目、湖などのギミックがあればまた石材が枯渇する。

 

 ルートを作っている朱莉も、石材を取りに行っている美月も、どちらも手を止めさせるわけにはいかない。

 

『壊斗さんは先にクマを倒してください。僕がオオカミを相手します』

 

「レンジャーのサブも取ってたのか……。悪い。任せる」

 

〈全ステージで光玉取ったかいがあった〉

〈スキル充実しとる〉

〈弓矢もちゃんと持ってんのえらい〉

〈オオカミなら倒せそう!〉

〈がんばれ!〉

〈悪魔ならいける!〉

 

 教授のスキル、サブレンジャーを取得していれば弓矢を扱えるようになるが、あくまでもサブでしかない。ジンがどの程度スキルを強化しているかわからないが、本職のレンジャーよりも威力も射程もはるかに劣る。

 

 だが相手がオオカミであればサブ職でも十分倒せる。オオカミは動きが早くて矢を当てづらいが、体力は多くない。威力が低くても当てられるのなら倒せる。

 

 朱莉の護衛、オオカミ退治はジンに任せ、俺はクマ退治に向かう。

 

 すぐ背中に影が迫りつつある中、ここで美月がダウンしたら致命的だ。ダウンの回復の間、俺も美月も身動きが取れなくなる。美月がクマに攻撃される前に速やかに仕留めなければいけない。

 

 クマは素早さはそこそこで体力は多め。それだけならただの(まと)なのだが、こいつの脅威は一撃の重さだ。二発は絶対に耐えられない。難易度とステージの進み具合によっては、一発受ければそれだけでダウンしかねない攻撃力を有している。

 

 だが、レベルを上げたレンジャーのスキル、狩猟効率強化とアップグレードされている弓。さらにアビリティも重ねればクマでもすぐに始末できる。

 

 野生動物たちには遠距離にいる俺を攻撃する術はない。安全な位置から一方的に矢を撃ち込んでやろうと攻撃モーションに移った。

 

 その時だった。

 

「……は?」

 

 墨で塗り潰すように、ステージの中央を上から下へと影が走った。

 




感想くれてる方、ありがとうございます。ちょっと返す余裕なくて返せてないんですが、すべてありがたく楽しく読ませてもらってます。
あと前話の飯テロは申し訳ないです。でも僕も書いてて空腹に苦しんだので、おあいこですね(にっこり)
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