サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
あと注意点です。読者の方の中には読んでいるうちに似たようなゲームを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、それはすべて気のせいです。当作品はフィクションです。
恩徳さんの画面が訓練場から移動し、マッチング待機画面になる。
気づけばなんだかんだで配信開始から二十分くらいずっと訓練場にいた。イラストの話や二人の軽妙なトーク、恩徳さんのエイム調整という名の腕前披露もあって退屈は感じなかった。
「……あら? このゲームは三人で一つのチームを作って戦うのよね? 礼愛さんと仁義君の二人しかいないけれど、この場合はどうなるのかしら? 二人で戦うの?」
「いや、最初から数的不利を押し付けられたらやってられないよ。デュオの時は余ってる枠にソロでプレイしている人がマッチングされるようになってるの」
「そう、それなら問題な……さっき言ってたわよね、オーダーが重要だ、って。礼愛さんと恩徳さんはボイスチャットで情報伝達できるけれど、もう一人のソロの人とは意思疎通できないのではないの?」
「……ほんと、よく気がつくなぁ。一応ゲーム内にもボイスチャットができる機能がついてるから、それ使えば報告とかはできるよ。ボイスチャット使いたくないっていう人には普通のチャットもあるし、チャット打つ暇がなかったら、ここにアイテムとか銃とか落ちてるよ、ここに敵が見えるよ、とかっていうふうに使えるシグナルがあるから、大雑把には連携が取れるようになってるの」
「なるほど、よくできてるわね」
「……まぁ、そういう機能があるのと、そういう機能をちゃんと使ってくれるかどうかはまた別の話なんだけどね……」
友だちとかで組んでいない、その場限りのマッチングでチームを組むというのはギャンブルみたいなものだ。力量もわからないし、どういう考え方を持っているかもわからない。敵の位置やアイテムの位置を報告してくれる人かどうかもわからない。マナーの悪い人もいるしモラルのない人もいる。
なんならわたしは、どんな敵と遭遇するかより、どんな味方とマッチングするかのほうがどきどきするくらいだ。FPSは人の本性を曝け出させるゲームだからね。とくにクラスマッチだとポイントを下げられたくない気持ちが強いから、何かミスしたら暴言が飛んできたり、香ばしいチャットを送ってきたり、いろいろある。
『あ、マッチングしたよ、お兄ちゃん。この試合ご一緒する方のお名前は……少年少女Aさん。チャット打っとこっと。〈よろしくお願いします〉っと』
『うん、挨拶は大事だね。少なくともこの試合は背中を預ける仲間なんだから。〈よろしくお願いします〉と……ん? 少年少女さんのチャットが……』
『……うん。なんだかスパムメールみたいなチャットがきてる……。お、お兄ちゃーん……こ、これどう受け取ったらいいのー?』
『ええと……とりあえずは普通にやっていこうか? 何か事情があるのかもしれないし……』
二人が礼儀正しく丁寧な挨拶をしていると、今回のマッチング相手からキーボードの上を猫が歩いたみたいなローマ字の羅列が届いた。誤字にしては最初から最後まで誤字り過ぎだし、かな表記にできていないのだとしても意味が伝わらない。
戸惑いに若干の恐怖を混ぜたような声で話す二人に、もう一度少年少女さんからチャットがきた。
『あ、また……お兄ちゃん! 〈配信見てます〉だって! 少年少女さん、リスナーさんだったよ!』
『わあ……有名な配信者さんならリスナーさんと一緒のマッチングになるのわかるけど、まさか僕たちの配信でそれが起きるなんて思わなかった』
『やったね、少年少女さん! 今回ポイント盛れるよ!』
『うぐっ……マイナスにだけはならないように気をつけるよ』
『マイナスじゃないよ、三桁プラスだからね。ん……あははっ! 少年少女さんから〈オーダー従います〉だって!』
『……たとえクラスマッチの昇格戦でもこんなに息苦しいことないよ……。いや、頑張るけどさ』
そんなゆるいやり取りをしながら、三人は戦場へと降り立った。
そこそこ高めのクラス帯でのマッチングということもあるのか、少年少女Aさんも中々に動きがいい。
「飛行機から同時に降り始めたのに、別々のところに降りてしまうのね」
「別々っていうか、ちょっと離れたところに降りないといけないんだよ。こういうFPSって建物の中とかちょっとした広場とかに銃とか弾とかアイテムが置かれてるんだけど、一緒のところに降りちゃうとそれだけ回収できる物資の量が減っちゃうからね。近くに敵のパーティが降りてきてるとか、そういう事がない限りは別々に降りるほうが効率がいいの」
ふむふむ、と頷きながらあーちゃんは画面をじっと見る。
近くに敵も来ていないし、そんなに凝視していても面白くはないと思うけど。
『礼ちゃんは何持つ? アサルトライフルでいい?』
『そうだねー。見つからなかったらサブマシンガンか、スナイパーライフルかなー。お兄ちゃんは?』
『僕はせっかくだからピストル持とうかな。イラストで持っていたんだしね』
『いいねそれ! それじゃ私はアサルトライフル二丁持ちだ! 少年少女さんはふだんはなに持ってますか?』
『……少年少女さんチャット早いですね。〈基本的にはSG・SMG・ARです〉……なるほど、わかりました。接近戦がお好みなんですね。礼ちゃんがアサルト持つこと考えると、この編成なら僕はピストルとマークスマンかスナイパーか、って感じかな』
『いっそのことお兄ちゃんもサブマシンガンとかショットガンでいいんじゃない? 見敵必殺だ! あ、あったよー。最強ピストル、スウィングワン!』
『ありがとう。それがあるなら……うーん、どうしようかな。少年少女さんは近距離戦がお好みみたいだし、礼ちゃんもどちらかといえば前に出るほうが好きだし、その上僕までショットガン持って近距離に寄っちゃうとムーブに幅を持たせられなくなっちゃうしなあ……』
『いいじゃんいいじゃん! ぜんぶ倒したら問題ないよ!』
『キルムーブは不確定要素が発生しやすいから順位が安定しないんだよね。中距離から遠距離はもうスウィングワンでいっぱい頑張るとして、アサルトライフルは弾がなくなりそうだしサブマシンガンかな。今回は高順位を目指してるし、手堅く行こう』
『サーチアンドデストロイはまた後でかー。あ、ちなみに高順位じゃなくて一位だからね』
『さらっと流せなかったか……』
お喋りしながらも手は止まらず、素早く物資を回収し終えた恩徳さんたちは再集合して移動を始めた
「漁るの早いなぁ……」
「ねぇ、雫。仁義君が鉄砲の種類を聞いたのは、交戦距離を考慮してのことなのかしら?」
「あ、うん。それもあるんだけど、弾薬の都合もあるんだよね」
「弾薬……そういえば銃や他のアイテムとは別に弾がどうのと言っていたわね」
「そうなの。銃を拾えば無限に撃てるわけじゃなくて、銃に対応した弾薬を拾っておかないと撃てなくなっちゃうんだよ。パーティメンバーがみんな同じ弾薬使ってると終盤あたりで足りなくなってくるから、できれば違う種類の銃を持っておいたほうがいいの」
「……そんなことまで考えないといけないのね。難しいわ」
「まぁ……そのあたりは慣れだよ。途中で武器持ち替えたりもできるんだしね」
なんなら銃や弾薬以外にもアタッチメントも影響するので考えることはもっと多くなる。けど、そこまで話し始めるとあーちゃんがFPSに苦手意識を持ってしまうかもしれないので控えておく。
もしかしたら恩徳さんの配信を機に、あーちゃんもFPSをするようになるかもしれないのだ。沼に引き摺り込むためにも、余計なことを口走るのは慎もう。
しばし戦場を移動していた恩徳さんたちの歩みが止まる。少年少女さんからシグナルが発せられたのだ。
『第一村人発見! 結構遠いのに、少年少女さんよく見つけましたね!』
『ありがとうございます。ちゃんと銃にも敵にもシグナル示してくれるのは助かります。人によってはやらない人もいるからね』
『そういうところがマッチングの怖さだね。じゃ! あの敵倒しに行こっか!』
『いや……行かないけど』
『なんで?!』
『こ、怖いよ、声の圧が……。今前方で走ってるパーティが向かってるのは……だいたい東北東方向でしょ?』
『うん? ……うん、そうだね』
『さっき僕たちが漁ってた建物の南にいたパーティも東方面に移動してた。僕たちは次の収縮がどこになるか確認できなかったけど、他のパーティの動きを見るにきっと東や北東あたりなんだと思う』
『ふむふむ。いや、敵いたんなら報告してよ!』
『いるって言ったら突撃してたでしょ』
『してたね』
『だから言わなかったんだよ。南のパーティはこっちに詰めてくる素振りもなかったしね。で、あの前方のパーティもおそらくは安地に向かって移動してると思うんだけど、ここで問題なのは、あのパーティのさらに西方面にも一つパーティが降りてたってこと』
『え? 銃声はなかったよね?』
『降下中にできる限り付近に降りるパーティの確認はしてるよ』
『おー、さっすがー!』
『オーダー任されてるんだから、これくらいはね。西に降りたパーティは敵を避けてそっちに流れたんだと思う。西のパーティが向かったところは他のスポットと比べると物資に乏しいから、あまり望んで行ったわけじゃないだろうね。でも、多少物資的に厳しくても収縮は真逆だからすぐに動かないといかない。道中の物資はほとんど漁られてるだろうから、進みも早いだろうね。今頃はもう……僕たちの前方に見えるパーティの背後についているんじゃないかな?』
恩徳さんのその言葉が合図になったかのように、視線の先で光が瞬き、銃声が響いた。
『わー! ほんとに戦い始まった! お兄ちゃんの読みって本当によく当たるね! でもそれはそれとして戦いたい!』
『言うと思ってた。だから僕たちは西から迂回しようか。タイミングを見計らって攻めよう。多少心苦しいけど、漁夫はするのもされるのもバトルロイヤルの定めだからね』
『やたーっ! 戦だー!』
『れ、礼ちゃん? わかってると思うけど、すぐに撃っちゃだめだからね? 今攻め込んだら漁夫じゃなくてただの三つ巴になっちゃうからね? わかってるよね?』
再三再四戦場に響き渡る剣呑なBGMとは裏腹に、彼らはまるでピクニックにでも赴くように陽気なお喋りをしながら移動を再開した。
「オーダーという役割は考える事が多そうで大変ね。冷静さを保ちつつ視野を広く持った上で、敵の部隊がどう動くかも推測しなければいけないなんて」
「い、いや、いやいや……オーダーっていうのは、こんな予知みたいなことまでする人のことじゃないよ……」
オーダーする人は大変。そこは同意だ。相手の動きに合わせて攻めるか引くかを思案して、常にパーティメンバーの報告に耳を傾けて指示を出しながら、横槍を入れられないように自分たちの周囲にも注意を払わなければいけない。なおかつオーダー役自身も戦闘に参加することになる。負担の大きい役回りで集中力を戦闘以外にも割かなければいけないため、オーダー役を務める人のスコアは上がりにくい。
間違いなく、オーダーする人は大変だ。
でも、恩徳さんのやっていることはオーダーのそれとはまた別物な気がする。きっとこれはまだ恩徳さんの天稟の、その片鱗でしかないのだろう。レイちゃんは、まるでいつものことだとでも言うように、このような度し難いオーダーに対して反応をしていないのだから。
『あ、キルログ流れたよ、お兄ちゃん。どうする? もう行く?』
『うーん、僕たちにはどちらも気がついていないみたいだし、安全に行こう。どちらかのパーティが中遠距離から一人落としたんだ、きっと詰めに行く。僕たちの位置だと……そうだね、ショットガンの音がし始めたくらいで動き始めよう。リスクの高いことをする必要はない。彼らが疲れたところを僕らはおいしくいただこう』
『それだといっぱい戦えないー』
『今回ばかりは言うこと聞いてもらうよ。なんせ、このマッチは絶対に勝ち残らないといけないんだからね。でも安心して、礼ちゃん。後から嫌ってほど戦ってもらうから』
『おー! お兄ちゃんのオーダーがあるならいくらでもどんとこいだ!』
『信頼が
これまで敵に発見されないように必ず遮蔽物を一つは隔てて動いていたけれど、ここにきて大胆に動き始めた。サブマシンガンでも充分に交戦可能な距離にまで近づいている。
「……まだ撃たないのね。なんだか観ているだけなのにどきどきするわ」
「……うん、すごくどきどきする。わたしだったら、あんな無防備な背中見せられたら我慢できずに撃っちゃうよ」
スコープなしでも狙えるくらいの位置にいるのに敵が恩徳さんたちに気づかないのは、その敵が今まさに戦っていた相手を追い詰めているところだからだ。後退していく敵を仕留めるために前へ前へと進んでいて、後ろは全く警戒できていない。目の前の獲物に集中しているのだ。
だからこそ、恩徳さんたちは安全に距離を詰めていける。注意を向けられていないから距離を詰めて、高い位置から俯瞰して絶好の機会を待っている。
『手前のARフォーカス。二、一、ファイア』
端的な指示で的を絞り、同時に三つの銃口が火を噴いた。集中砲火を浴びた敵は──おそらく撃たれた本人ですら何が起こったのかわからなかっただろう──数秒と耐えることもできなかった。恩徳さんたちのパーティを視界に収めることもできずにダウンした。
「
「お、うおお……合ってるよ」
「そう、よかった。ふふっ、ちょっとずつ仁義君たちが何をしているのか、どんな話をしているのか理解できるようになってきたわ」
「ちょっとずつじゃないけどね……」
知識だけなら三段飛ばしくらいで駆け上がってるよ。
『まず一枚!』
『うん、ナイス。礼ちゃんは左から、少年少女さんは右から回って建物中の二人を挟んで。僕は建物前のショットガンをやってから入る』
『おっけー!』
敵パーティの一人をダウンさせるや、すぐに恩徳さんは二人に指示を出した。
当の恩徳さんは建物の上をジャンプしながら移動して高所の有利を維持しつつ、言った通りに建物前にいた敵へとエイムを合わせる。
もう敵も漁夫に襲われていることには気がついているけれど、姿はまだ視認できていない。
「うわっ……エイム良……」
見当違いの方向を見ていた敵の頭に、落ち着いてまず一発。すぐに撃ち返してくるも距離が開いているせいで敵のショットガンは満足なダメージを望めない。その間にもう一発。
威力は申し分ないけれど連射が利かない
エナジーコートと呼ばれる防護フィールドを破り、本体にもがっつりダメージが喰い込んだ敵は、位置も武器も圧倒的に不利であると察し、たまらず物陰に隠れた。
「え、降りたっ」
敵が物陰に入ると同時に、高所から一方的に攻撃していた恩徳さんはピストルからサブマシンガンに持ち替えて、建物の屋上から飛び降りた。
物陰に隠れていた敵を真上から撃ち据える。爽快感すらある連続するヘッドショット判定の効果音。
相手は一度射線を切って武器を持ち替えようとしていたのか、はたまた回復をしようとしていたのかわたしにはわからなかったが、結果として銃弾の雨に成す術なくダウンした。
『お兄ちゃん合わせる?』
『こっち終わったしそうしよう。三、二、一、ゴーゴーゴー』
カウントダウンの間にリロードを済ませて『ゴー』のタイミングで入口のドアから銃口を突き入れる。
レイちゃんと少年少女さんは、おそらく窓や裏口に回っていたのだろう。敵がどこに身を隠そうとしても、三方向からではすべての射線を切ることはできない。
もともと恩徳さんたちが介入する前から戦っていたこともあってか、建物内にいた敵二人は恩徳さんがマガジンを替える前にダウンした。
どうやら敵のパーティは片方が残り一人、もう片方のパーティは三人全員残っていたようだ。それを人数が多いほうのパーティから各個撃破していった。理想的なゲームメイクだ。
『ナイスー!』
『ナイス。うまく行ったね。少年少女さんもファイト強いですね。頼りになります』
『いい感じに漁夫れたね! おー少年少女さんも〈ナイスオーダー〉だってさ!』
『あはは、ありがとうございます。有利な状況に加えて味方は頼もしいとなれば、さすがにあれでは負けられません』
お互いにプレイを
「プレイヤーが倒されると箱になるのね」
「うん。その棺桶には倒した敵が持っていた武器やアイテムが入ってるから、こういうところで弾薬やアイテムを補充したり、使い慣れてる銃とか強い銃とかに交換したりするんだよ。これからの戦いを有利にできるし、敵を多く倒しておいた方がクラスポイントにボーナスがつくから、そういう面でもメリットがあるね」
だからといって、無理に遭遇する敵全員と交戦していると強いパーティとかち合ったり、戦っている最中に横槍を入れられたり、物資を切らしたりして負けることも多くなりがちなので、攻めるかどうかの見極めも大事だ。
「それにしても、危なげない戦いだったわね」
「漁夫に……戦闘中の敵を狙いに行ったっていうのはあるけど、それにしたってあれだけ早く倒した上で全員ほぼ無傷はすごいよ」
迅速に戦闘を終えられれば態勢を整える時間を作れる。ここで仮に、さっきの戦闘音を聞いて別の敵パーティが攻めてきても、何の問題もなく押し返せるだろう。なんならこのメンツなら返り討ちにしそうだ。
『さ、そろそろ僕たちも安地内に寄っておこうか。結構離れてることだしね』
『おー! 勝つぞー!』
目ぼしいアイテムを回収し終えた恩徳さんたちは、再び移動を始める。目指すは、続々と他のパーティも集結しつつあるだろう北東のエリアだ。
しばらくFPS配信です。ライブ配信的な雰囲気出てたら嬉しいです。
*スパチャ読み!
セルキーさん、スーパーチャット、ありがとござます!
Gatgatさん、スーパーチャット、アリガトゴザイマァス!
goatttさん、赤色のスーパーチャットありがとうございます!
他羅湖牌須田さん、赤スパてーんきゅっ!ありがとうございます!