サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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「……悲しい結末ですね」

 

「人間の皆様、こんばんは。『New Tale』所属の四期生にして悪魔のジン・ラースです。お忙しい中、足を運んで頂きありがとうございます。昨日の配信を観てくださった方はまたお会いできて光栄です。今日初めて観に来てくださった方は初めまして。皆々様、どうぞごゆっくりお寛ぎいただければと思います」

 

 礼ちゃんとのFPSコラボ配信から一日経って、今日は一人での配信だ。

 

 本来の計画であれば最短でも一ヶ月、長引けば二〜三ヶ月ほどは同期や『New Tale』の先輩諸氏と一秒たりとも一言たりとも関わることなく交わることなく一人で配信する予定だったのだ。これがスタンダードな形である。

 

 だというのに、礼ちゃんの声が聞こえない状態の配信に一抹の寂しさを感じている。礼ちゃんと一緒にやる配信の楽しさを知ってしまったから、という理由はあるにしても、それにしたって兄として情けなさすぎる。

 

〈待ってた〉

〈配信やめろ〉

〈同じ眷属として応援にきました〉

〈お兄ちゃんさんおっすおっす〉

〈お兄さん俺だー結婚してくれー!〉

〈今日は妹さんいないの?〉

 

 嬉しいことに、リスナーさんはたくさんコメントを寄せてくれている。たまに変な人もいるけれど。

 

 本来の計画通りであればコメントの投稿を制限するつもりはなかったけれど、今はある程度の制限を入れている。あらかじめ指定した単語が含まれているコメントは投稿されないようにしたり、見ている人の気分を害するコメントを何度もしている人はブロック措置を取ったりもした。その甲斐あってコメント欄を流れる悪い言葉は激減した。

 

 フィルターを掛けたとはいえど、それは目の粗いものなのですり抜けてくるコメントもいくつかあるが、罵詈雑言の度合いは明確に下がったのでこの程度で問題ないだろう。

 

 悪意あるリスナーが大多数であれば、対抗措置は取らずに放置していた。誰とも関わらず、完全に無視を決め込んで、荒らしが飽きるのをじっと待っていただろう。本来の予定はそういったものだった。

 

 しかし、礼ちゃんとコラボしてからは悪意のない、ただ純粋に楽しみに来てくれているリスナーが増えたため、悪意あるコメントについてはがんがん対応することにした。ある程度の線引きはしているけれど、ブロックも制限も入れる。楽しみにして観に来てくれている人が多くいるのなら、その人たちが気分を害することなく視聴できる環境を整えなければいけない。そこのクリーンアップも配信者の務めだと思っている。

 

「待っていてくださった人間様方もいらっしゃるようですね。ありがとうございます。そう言ってもらえるのは、なんだか面映い気持ちになりますね。どうやら眷属さんにもお越しいただけているようで嬉しく思います。悪魔違いですけど、兄悪魔のほうもよろしくお願いします。今日は礼ちゃんはお休みですよ。礼ちゃんは学生さんですから勉学優先です。今も部屋でお勉強しているはずです」

 

〈お嬢はガチで賢いからな〉

〈『New Tale』学力テスト殿堂入りは伊達じゃない〉

〈ドブ声消えろ〉

〈二十時間前から待ってました〉

〈悪魔兄妹推しです〉

〈べん、きょう……うっ〉

〈……やめてくれ、俺に刺さる〉

 

 礼ちゃんとコラボしたことに加えて今日は礼ちゃんがオフだということで、眷属と呼称されている礼ちゃんのリスナーさんがたくさん僕のチャンネルにきてくれているようだ。そのおかげか、コメント欄はとてもあたたかい。

 

「勉強の息抜きで来てくれている人の心を刺してしまったようですし、挨拶はこれくらいにしてそろそろゲームのほう始めていきたいと思います。本日やらせていただくタイトルはこちら『administrator(アドミニストレーター)』です。知名度も人気もあるゲームですので観たことがある、もしくは実際にプレイしたこともある、という人間様も多くいらっしゃるのではないでしょうか」

 

 このゲームはFPSゲームも多く世に出している会社が製作したシューティングアクションアドベンチャーという、非常にジャンルがとっ散らかっているマルチエンディング系のゲームだ。繊細なCGと人物描写、いろんな意味で重厚なストーリー、そして明らかに難易度の設定を間違えている、と巷で話題になっている。

 

〈アドミニストレーター!〉

〈おもしろいと聞いたことはある〉

〈これ泣いたわ〉

〈泣いた、むずくて〉

〈ストーリーいいんだよな〉

〈ばかむずいやつ〉

 

「お話を進めていくたびに選択肢があって、選んだ内容によってエンディングが変わるそうですね。非常に評価が高いようです。当悪魔はプレイしたこともありませんし、これをプレイした配信なども見たことがないので実際にプレイしていくのがとても楽しみです。悪魔と同じようにまったく知らないという人間様もいらっしゃるでしょうから、ネタバレは厳禁でお願いいたします」

 

〈一人称草〉

 

「なんですか? 悪魔ですから、悪魔と名乗るのは自然ですよ。なにもおかしくないですよ。それではやっていきますね」

 

〈お嬢とやってた時僕って言ってたやんけw〉

〈普段通り僕でいいよ〉

〈無理すんな兄悪魔〉

 

「礼ちゃんとやってた時も悪魔と言っていましたが? 無理なんてしてませんが? あ、始まりましたよ。僕……悪魔の声とか、BGMの音量とか大丈夫ですか?」

 

〈出てもうとるw〉

〈音は大丈夫w〉

〈www〉

〈草〉

〈僕悪魔!〉

 

「知りません知りません」

 

 からかってくるリスナーさんをあしらいつつ、ゲームを始める。

 

 イベントムービーで幕が開かれる。ストーリーとしては、立派な研究所の警備員として働いている元軍人の主人公が何らかの事件に巻き込まれていく感じらしい。主人公が職場から自宅へ帰ろうとしている時、研究所内で働いている知り合いの主任研究員に話しかけられる。どこかきな臭い雰囲気を滲ませるその研究員としばし話した後、主人公は帰宅して眠りについた。

 

「絶対あの研究員さんが黒幕か、それに近い立ち位置ですよね……」

 

〈メタ読みやめえ〉

〈明らかに怪しい〉

 

 主人公が自室で目覚めた。

 

 ここからはもう自分で操作できるらしい。

 

 主人公の部屋はワンルームのアパートといった印象だ。部屋の家具はというと、主人公が寝ていたベッドと書類が散らかっているデスク、開きっぱなしになっているクローゼット、テーブルと椅子といったところか。最低限の生活はできるというくらいの部屋で、傾倒している趣味があるような気配は室内に置かれた物からは感じられない。一言で表すなら殺風景だ。

 

「はい、おはようございます。いい朝ですね。外から銃声と悲鳴が聞こえます」

 

〈おはようございます〉

〈挨拶大事w〉

〈悲鳴に無反応は草〉

〈?〉

〈魔界では鳥の代わりに悲鳴が聞こえるのか……〉

〈価値観の違い〉

 

 早速いろいろ調べていこうかと思ったけれど、最初はチュートリアルみたいなものがあるようだ。ここに行ってここを調べろ、みたいなテキストが表示されている。

 

「クローゼットですか。……服、ジャケット。お次はデスク。わあ! 古めかしくも懐かしい携帯です! 今のようにいろいろな機能がついてない頃のボタンを押す携帯ですよ! タッチパネルじゃありません! あとは……拳銃ですか。引き出しに鍵もかけないでぽんと銃器をしまって置くのが人間界のトレンドなのでしょうか」

 

〈そんな物騒なトレンドあってたまるかw〉

〈流行りですね〉

〈反応かわいすぎんか?〉

〈拳銃よりも古い携帯見つけた時の方がテンション高いの草〉

 

「悪魔も人間界の情報収集頑張っていますが、こんな物々しいトレンドは知りませんでした。ん……なんだか物音がしていますね。おや、男性の大声が聞こえました。壁薄いんでしょうか? 騒音トラブルが心配です」

 

 きっとお隣で何があったのか見に行くところなのだろう。

 

 ストーリーが進んだということは必要最低限のアイテムは回収できたらしい。

 

〈心配するとこおかしい〉

〈草〉

〈お隣さん心配してあげてw〉

 

「悪魔は把握しておりますよ。音がうるさいなどという理由でお隣さんを注意しに行くとトラブルになるらしいです。騒音やゴミ出しなどのマナーを注意したことを発端に事件が発生したりもするのです。お隣さんは、音が鳴ると書いて音鳴(おとな)りさんとも言いますし、人が生きていれば生活音くらいするものです。このくらいの物音は我慢しましょう。生活には困りません。それよりこの部屋のクリアリングです。漁りましょう」

 

〈別ゲーに頭汚染されとるなw〉

〈誰がうまいこと言えと〉

〈FPSやってんじゃねえんだぞ!〉

〈クリアリングは基本だからな〉

〈タスク無視で草〉

〈お隣さんは犠牲になったのだ〉

 

「……クロスもかけられていない染みのついたテーブル、椅子は一脚、写真立てなどもなし。この主人公には交際相手などはいないようですね。クローゼットにも食器類にもその気配はありません。掃除も行き届いていません。そもそも人を招待できる衛生状態の部屋ではありませんね」

 

〈やめろ〉

〈不要な情報収集すんな〉

〈的確な推理で心が痛い〉

〈やめろ〉

〈やめて〉

 

 人物評価をするとリスナーさんたちから抗議を受けた。仕方がないので家具からの推理はそのあたりにしておき、漁りを再開する。

 

 銃を手に入れたデスクへともう一度向かった。デスクの上に雑然と書類が散らばっている。その書類は健康診断の結果が印刷された用紙だった。

 

「……あの研究所ではどんなものを研究していたのでしょうか。ただの健康診断とは思えない診断項目の多さです。書類の日付をいくつか見た限り、かなり高頻度で行われていますね。大変怪しいです。それはそれとして、人間様方もここまで頻繁に行けとは言わないので年に一度くらいは人間ドックを受診されたほうがいいですよ。健康だと思っていても、意外と何があるかわからないものですからね」

 

〈こんなとこちゃんと見とらんかったな〉

〈怪しさすごい〉

〈今行ったら絶対引っかかる自信がある〉

〈僕悪魔もなにかあったの?〉

〈僕悪魔草〉

 

「僕悪魔ってなんですか……。悪魔は一度、体を壊したことがありますからね。人間様には同じような経験はしてほしくはありません。防げる病気は防ぐべきです。日々の幸せとは、健康という土台の上に築かれる物だと気付かされました」

 

〈そうやね〉

〈たしかに〉

〈お兄ちゃんさん前の仕事してる時倒れたんだっけか〉

〈人間界の闇だよなぁ〉

〈兄悪魔も体大事にしろよな〉

〈もうお嬢心配させんじゃねぇぞ〉

 

 たしか礼ちゃんは兄が倒れたという話を眷属さんたちにしていたはずだ。だから今日僕の配信を観に来てくれている眷属さんたちの中には、何があったかを知っている人もいるのだろう。

 

「ええ。ありがとうございます。もう体調を崩すようなことはしません。妹に心配をかける兄なんて、兄の風上にも置けません。兄の名折れです」

 

〈兄としてのプライドがたけえw〉

〈さすが兄悪魔〉

 

 デスクを調べ終わり、小さなラック、テレビ、冷蔵庫などを調べてみた。ラックからはなぜか弾薬を、冷蔵庫からは体力回復アイテムなのかなんなのかよくわからない飲み物を手に入れた。テレビでは何らかの情報が手に入るのかと思いきや映らなかった。

 

 窓があったので近づいてみる。グラフィック上で存在するだけかと思ったけれど、しっかり開くことができた。窓を開き、窓枠の手すりから身を乗り出すようにしてあたりを一望する。

 

 ひっくり返った車、逃げ惑う人々とそれを追いかけるように走っている人々、窓ガラスの割れた店、燻って煙を吐き出しているよくわからないオブジェクト、周囲で響く銃声や悲鳴。

 

「おや、世紀末」

 

〈おやw〉

〈草〉

〈草〉

〈そんな感想w〉

〈いやー乱世乱世〉

 

「名残惜しいですが、そろそろ外に出ましょうか。お隣さんとの騒音トラブルを解決しろというテキストがずっと出ていることですし」

 

〈騒音トラブルとは言ってねえよw〉

〈こんなに部屋の様子を見る配信は初めてだ〉

〈部屋にもけっこう情報置かれてたんだな〉

〈彼女おらんこととかな〉

〈主人公に親近感を持った〉

〈ほぼ俺らみたいなもん〉

 

「行ってきま……電話?」

 

 外に出ようと扉へ向かった時、電話が鳴った。時間経過で発生するイベントなのだろうか。それとも扉へ近づくことで発生する通常のイベントなのか。初めてプレイする僕には判断できない。

 

 とりあえずデスクの隣のサイドテーブルに置かれている固定電話の元へ向かう。うるさいのだ。早く止めてしまおう。

 

〈ん?〉

〈電話?〉

〈なんだこれw〉

〈知らねえ〉

〈初回でこのルート行くんかw〉

〈うそやろ〉

 

 なにやらコメント欄がざわついている。どうやら特殊なイベントらしい。

 

 今はコメント欄は放置して、ストーリーのほうを重視しよう。鳴り響いている電話を静めるため、受話器を取る。

 

「もしもし、僕悪魔」

 

〈僕悪魔じゃねえよw〉

〈草〉

〈さっそく使っていくぅ〉

〈この悪魔ノリいいぞw〉

〈僕悪魔!〉

〈草〉

 

 受話器からはノイズ混じりで研究員の声が聞こえてきた。その口調は切迫している雰囲気だ。

 

『私だ! ああ、繋がってよかった。君はまだ無事だったか』

 

「こっちが名乗ったのだから相手も名乗ってほしいものですね。もしかしたら詐欺かもしれません」

 

〈名乗ってないんだよなぁ〉

〈詐欺じゃねえよw〉

〈草〉

〈緊迫感もなにもあったもんじゃねぇw〉

〈シリアスが息してないんだが〉

 

 やはり電話の相手は最初のイベントムービーでも登場していた研究員だった。その研究員の話を要約すると、家に一人で取り残されている娘を研究所へ連れてきてほしい、というお願いだった。

 

「なるほど、知ったこっちゃありませんね」

 

〈草〉

〈人の心ないんかw〉

〈つめたい……〉

〈さすが悪魔〉

〈血も涙もない〉

〈www〉

 

 研究員はこちらの意見など無視して話をしていく。

 

 研究員曰く、今は重要な仕事の途中で研究所から出られない。普段はハウスキーパーに頼んでいるが、世間は映画やコミックのようなパニック状態になっている。そのせいできっと家には来れていないはず。どうか娘を助けてほしい。とのこと。

 

 なんと、このゲームはゾンビゲーだったのか。評判だけは見たけれど、せっかくだからと思いそれ以上の情報は入れないようにしていたのだ。情報収集しておかなくて正解だった。そのおかげでこうして新鮮に楽しめる。このゲームのとっ散らかったジャンルの一つに含まれていた『シューティング』は、ゾンビに対するもののようだ。

 

「本当に大事なのなら、ご自身の手で守るべきです。娘さんよりも仕事が大事だと言うのであればそちらを優先すればよいのでは? そもそも、大事な娘さんをこんな何処の馬の骨とも知れない男に任せようとするなんて何を考え──」

 

『レイチェルはきっと一人で心細い思いをしているはずだ。君にこんなことを頼むのは筋違いだと思うが、どうか守ってやってくれないか』

 

「──礼ちゃん? 今この研究員さんは礼ちゃんと言いましたか?」

 

〈言ってない〉

〈それ妹悪魔とちゃう〉

〈いや言っとらん〉

〈草〉

〈ぜんぜん言ってないw〉

〈何を聞いとった?〉

〈レイチェルだぞw〉

 

 礼ちゃんの名前が出たかと思うと、画面は急に回想シーンに移った。

 

 どうやら主人公と研究員は一緒に食事をするほど親密だったらしい。広くて綺麗なダイニングで豪勢な食卓を囲んでいたので、おそらく研究員の自宅で食事をしていた時の記憶を思い返している、というシーンなのだろう。

 

 そのテーブルには主人公と研究員、そしてさっき名前が出てきたレイチェルが席について食事を摂っている。

 

 レイチェルの年頃は、だいたい七〜九歳といったところだろうか。まだ幼い女の子だ。緩くウェーブがかったダークブロンドのセミロングの髪。主人公(他人)とのディナーということもあってか、ややきっちりとしたインフォーマルなワンピースドレスを着ていた。くりくりとして大きな団栗眼(どんぐりまなこ)はヘーゼルカラーで、その服装も相まってお人形さんのような愛らしさがあった。

 

 その子の第一印象は小生意気という言葉がよく当てはまる。とてもつんけんしている。主人公に対しても、父親である研究員に対してもそう。好き嫌いが激しいらしく、食事に文句を言っているシーンもあった。だが、食事を終えて主人公が帰る時、ぬいぐるみを抱えたレイチェルが『もう帰っちゃうの?』とまるで主人公を引き留めるような、もっと一緒にいて欲しがるような、年相応に可愛らしい場面もあった。

 

「礼ちゃんにもこういう時期があったなあ……」

 

〈このシスコンどうしようもない……〉

〈兄悪魔さぁ……〉

〈レイチェルちゃんかわいー〉

〈かわええなぁ〉

〈見た目はかわいいんだけどなぁ〉

〈こいつは中身がなぁ……〉

 

 ゲームでの回想シーンとリンクするように、僕もありし日の思い出を想起した。

 

 今はとてもいい子な礼ちゃんにも、わがままで聞かん坊な時期があった。父さんや母さんの仕事が同時期に忙しくなり、なかなか家に帰って来れなかったり、帰って来れてもとても時間が遅くなり始めていた時のことだ。寂しかったのだろう、いろいろと無茶を言ったり、わがままを言ったりしていた。

 

 懐かしい。あの時はまだ僕もお兄ちゃんとしては素人で、今ほど礼ちゃんの想いを汲み取ってあげることができなかったな。

 

「守らなければ……。礼ちゃんが危ないっ」

 

〈レイチェルな〉

〈レイチェルやぞ〉

〈草〉

〈それ妹悪魔ちがう〉

〈重症ですね〉

〈どうしてこんなになるまで放っておいたんだ〉

 

 ゲーム内の回想が終わり、現実へと帰ってくる。そのタイミングで選択肢が現れた。『任せてくれ』と『できない』の二択。肯定と否定の二つだ。

 

「早く場所を教えてください」

 

 もちろん快諾する。礼ちゃんを守るのは兄である僕の役目だ。

 

〈はっや!〉

〈選択肢見えんかったってw〉

 

 研究員からのお願いを受諾したことでリマインダーみたいな機能にお願いの概要が記載された。他のゲームで言うところのクエストとかミッションのような感じだろうか。はたしてこれはメインストーリーに沿ったシナリオなのか、はたまたサブクエストなのか。

 

 なんにせよ、僕にはレイチェルを救いに行くという選択肢以外は見えない。どんなお願いや任務やメインストーリーよりも最優先にすべき問題だ。

 

「あ、マップにピンが刺されましたね。この場所に礼ちゃんがいる、と……。早く向かいましょうか。お隣さんなんてもう気にしている時間はありません」

 

〈お隣さん見ごろしにされちゃう〉

〈こんだけ時間たってたらもう手遅れだろうな……〉

 

 扉から出たところでイベントが発生し、物音がしている隣の部屋へとゆっくり近づいていくムービーが流れる。

 

 操作を受け付けないということは、このシーンはどういったルートを通るとしても見なければいけないのだろう。当作品がどういった物語なのか印象付けるシーンなのかもしれない。

 

 お隣さん宅の扉は開かれていた。主人公はホルスターから拳銃を抜き、壁に身を隠すようにしてお隣さん宅の部屋を確認しようとしていた。

 

 ちょうどいいタイミングで拳銃を取り出した。拳銃(これ)でお隣さんとの問題を解決してしまっていいのではないだろうか。僕は早くレイチェル(礼ちゃん)の下へ駆けつけたいのだ。

 

「ああっ、なんてことだ。勝手に動いて……強制的なストーリームービーです。……騒音といい時間稼ぎといい、お隣さんは迷惑しか掛けて来ませんね。もういっそのこと、手っ取り早くこれで……」

 

〈やめろやめろ!〉

〈物騒だなw〉

〈草〉

〈ゾンビより先に人撃つのは草〉

 

 緊迫感のあるBGMの盛り上がりに合わせるように、主人公は部屋を覗き込む。

 

 そこには玄関前で重なる二人の人影があった。

 

 仰向けになって倒れ込んで首から大量に出血している大柄な男性と、その男性を上から覆い被さるようにして首元に食らいついている細身の女性。なんとも、衝撃的なシーンだ。

 

「……お盛んですね。よそ様の特殊な性的趣向に口を出すことはしたくありませんが、いくらなんでも扉を開いたまま玄関で致してしまうのはちょっとどうかと……」

 

〈ちげえわw〉

〈どんなプレイだよ〉

〈カマキリかな?〉

〈ちょっと激しすぎますね〉

〈お客様! 困ります! あーっ! いけませんこんなところで! お客様!〉

 

「せめて扉は閉めて頂きたかった。ベッドまでとは言いませんので、せめてリビングくらいまで我慢できなかったのでしょうか。……配信大丈夫でしょうか? だいぶセンシティブです」

 

〈魔界のプレイはこんなに激しいのか……〉

〈グロではあってもセンシティブではねえよw〉

〈草〉

〈全く動揺してなくてくさ〉

〈あーお客様!(AA略〉

 

 あまりに凄惨な光景に主人公が息を呑んでいるところで、急に選択肢が現れた。『男性を助ける』と『女性を落ち着かせる』ともう一つ『撃つ』とあった。

 

「あ、選択肢です。これはもう手遅れでしょうから諦めましょう。介錯するのも優しさというものです。さっさと……いえ、痛みなく黄泉へ送り届けて差し上げましょう。悪魔は礼ちゃんを助けに行かねばなりません。こんなところでリスクを負うわけにはいかないのです」

 

〈迷いなさすぎw〉

〈はやく片付けたい気持ちが口からこぼれとる〉

〈もはや撃つ一択だった〉

 

 選択肢の『撃つ』を選ぶと、馴染みのある画面に遷移した。画面下側にキャラクターの手や銃が表示される、FPSでありがちな光景だ。さすがはFPSゲームも出している会社、こういった部分はお家芸だ。

 

「うわあ、ローセンシ……設定変えられたかなあ」

 

〈うまああ〉

〈うっまああ!〉

〈しっかりADSしてヘッショ〉

〈躊躇なしw〉

〈うま〉

〈頭のど真ん中いった〉

〈いや男の方も撃っとるw〉

〈フリックで男もヘッドショット決めてるw〉

 

「これが痴情の(もつ)れではなくて女性がゾンビだった場合、噛まれた男性の方もゾンビになって襲いかかってくるかもしれませんからね。リスクは排除しましょう。余裕があるのなら確キルを取る。常識です」

 

〈痴情のもつれの可能性残してるの草なんだ〉

〈考え方が完全にFPSなんだよなぁ〉

〈この場合死体撃ちでは?〉

〈死体撃ちは草〉

 

「ふふっ……死体撃ちの場合はバッドマナーですね。くふっ、ふふっ。その時は男性に謝っておきます」

 

 人智を超越した耐久力をしていたらどうしようかと思ったけれど、どうやらワンタップで落とせるようだ。後頭部に弾丸をもらった女性は動かなくなった。しばらくじっと動かずに拳銃を構えたまま待機し、完全に対象が沈黙したことを確認すると、扉の外に肉食系女性と同じような人がいないかを見渡し、玄関の扉を閉めて鍵をかける。

 

 この女性と男性がなぜこんなことになっているか調査はしたいが、その前にまずやるべきことがある。

 

「間取りはほぼ同じですね。……クリア。さて、さっきの男性と女性を漁……調べてみましょうか」

 

〈だからFPSじゃねえのよこれw〉

〈クリアリング完璧かよ〉

〈漁るって言いかけてなかった?〉

 

「ちょっと別のゲームの影響が……うん?」

 

〈ADZの影響が出てますねえ〉

〈お?〉

〈どした?〉

 

「……男性のほうはわかるんです。額の銃創はおいとくとして、頸部(けいぶ)の損傷による出血性ショック。壁や天井にすら血が届いていますね。抵抗したようですけど手を掴まれて、首を()まれたのでしょう」

 

〈ああ〉

〈せやな〉

〈ほうほう〉

〈なるほどな〉

〈俺もそうだと思ってたんだ〉

〈言ってることわかってなさそうなやつ多そうで草〉

 

「でも女性のほうがわからない。血が付着しているのは口周り……これは男性の首に噛み付いた時についたものでしょう。頭の銃創はさっきのあれですね。それ以外、返り血はあっても傷が見当たらないんですよね……」

 

〈おん?〉

〈それが?〉

〈そういうことか……()〉

 

「この人がゾンビ的な存在だったとして、この人はどうしてゾンビになったのでしょうか。映画などではゾンビになるウイルスが外傷によって体内に入ったことで感染してゾンビになる、というものが多いですが……経口摂取や空気感染などなのでしょうか」

 

 女性はOLといった身なりだ。パンツスーツにブラウス、ジャケット。ちなみにバッグは見当たらない。

 

 ゾンビに噛まれるなりなんなりして怪我をすれば、血が滲んだり汚れたりして目立ちそうなものだがそんな様子はない。

 

〈考えもせんかった〉

〈ゾンビっぽかったらとりあえず撃つしな〉

〈つまり、どういうこと?〉

 

「つまり、この女性はゾンビではなかったということです。浮気なのか、一方的に別れを切り出されたのか、理由まではわかりません。最初は話し合いで解決しようとしたでしょう。ですがお二人の話し合いは口論へとヒートアップし、やがて手が出た。そして怒りに支配された女性は男性に馬乗りになり、男性の手を押さえて頸動脈を噛み千切った。これが真相です。……悲しい結末ですね」

 

〈まさかの痴情のもつれエンド〉

〈んなわけあるかw〉

〈嫌な……事件だったね……〉

〈女性強すぎw〉

〈その女怖すぎんか?〉

〈てか兄悪魔撃ってもうとるやん〉

 

「ええ、撃っちゃってますね。……やめましょうよ、過ぎた話です」

 

〈最低で草〉

〈これは悪魔〉

 

 ここまで推測しておいてなんだが、痴情の縺れの可能性もないだろう。

 

 まずどれだけ頑張っても、この細身の女性では、この恰幅のいい男性を組み敷くなんてことはできないだろう。体重差およそ二十〜三十キログラムをひっくり返すだけの技術を、このOLが有しているとは思えない。

 

 それにクリアリングした際に部屋を見たけれど、お隣さんも主人公と同じくおそらく独り身だ。家具や食器が主人公と同じような感じだった。

 

 この男女は交際しているわけではなさそう。ほぼ他人みたいなものだろう。

 

 これが、女性がゾンビだとしたら一部の謎は解決する。

 

 普通の人間では体が負荷に耐えられないから無意識でセーブしているぶんの力を、痛覚のないゾンビは骨が折れたり神経が痛んだりしても気にせずに遺憾無く振るうことができる、みたいな理由でゾンビの力はとんでもなく強かったりする。そういった映画やゲームなどはある。それなら華奢な女性がごつい男性を押さえ込んだとしてもおかしくはない。

 

 だけれど、どちらにしても違和感が残るのだ。

 

「しかしゾンビだとすると、しっかりと出血していたのも不自然なんですよね……。ゾンビって、一応は歩く屍なわけじゃないですか。死んでいるのに、頭を撃ったら血が出ましたよね。心臓が動いてるのでしょうか? それって死んでいないのでは?」

 

〈ゾンビゲーやぞ深く考えるな〉

〈考察班かな?〉

〈言われてみれば気になる〉

〈ますます痴情のもつれの可能性が高まるな〉

 

 この女性の存在について深く思考しようとした時、ふと思い出した。僕には何よりも大事な使命があるのだった。いけない、こんなことしてる場合じゃない。

 

「そうだ、こんなところで油売ってる暇はないんだった。礼ちゃんを迎えに行かないと」

 

〈こんなところw〉

〈推理し始めたところはかっこよかったのに……〉

〈人撃った奴の発言かよw〉

〈兄悪魔はそうじゃないと〉

〈いやレイちゃんじゃないのよ〉

 

 礼ちゃんの待つ研究員さんのお宅に急がなければ、と扉の方向へ視点を移して、気づいた。

 

 足音がする。どたばたと忙しなく、かつ不規則な音だ。しかも一つ二つではない、多人数だ。

 

「扉閉めておいてよかったです。漁夫でしょうか。扉前で足音がしますね。二パーティぶんくらいの人数はいますが……困りますね。チーミングはルール違反なんですけど」

 

〈もうFPS脳になっとるw〉

〈ゾンビゲーなら漁夫もチーミングも当たり前なんよw〉

〈ゾンビ相手にチーミングは草〉

〈初動落ちしてまう〉

 

 こちらは一人な上に持っている武器はピストル一丁にナイフ。なのに相手はチーミング──チームを組んで狩りにくるなんて戦力差があるにもほどがある。

 

 ゾンビ推定二パーティはおそらく素手だろうけれど、逃げ場のない狭い部屋の中であることと、線の細い女性でも大柄な男性を押し倒すだけの筋力があると推測されるゾンビたちだ。雪崩れ込むように入ってきて囲まれたらピストルでは対応しきれない。袋叩きにあったら人の原型を留めていられる保証はない。戦闘は極力避けたいところだ。

 

「これはまずいですね。相手は少なくとも二パーティ以上、対してこちらは味方がツーダウン。人数不利です。引きましょう」

 

〈味方?〉

〈もしかして玄関に転がっている男と女のこと言ってる?〉

〈あんたが仕留めたよ〉

〈フレンドリーファイヤありかー〉

〈利敵行為すぎw〉

 

 扉の外で(たむろ)しているゾンビたちはおそらく、銃声を聞きつけてここまでやってきたのだろう。主人公の部屋の窓から外を見た際には三階か四階といったところだった。そこら辺を適当に歩き回っていてこの部屋に偶然辿り着くなんて可能性は低い。

 

 音に敏感だということを考慮すると、これ以上銃は使いたくない。一時的にゾンビを退けることはできても、結果的に周辺のゾンビを誘き寄せることになる。自分の首を自分で絞めるような真似だ。

 

 発見されてもまずい。一体に見つかれば主人公が逃げる時の音やゾンビが追いかける音で他のゾンビを釣り上げることになりかねない。

 

 銃を使わず、可能な限り静かに、見つからないでこの場を去る。

 

 脱出口など、一つしかない。

 

「さすがに窓から飛び降りたら死んでしまいますかね?」

 

〈それは死ぬw〉

〈草〉

〈それで平気だったらゾンビより化け物〉

 

「ですよね。なら自室へ戻りましょうか。おそらくそのために窓の外に手すりがあるのでしょう」

 

 窓から身を乗り出し、手すり部分に立つ。ジャンプすれば届く距離に、自室の窓が見える。

 

 足場ぎりぎりまで下がり、意味があるのかわからないけれど助走をつけて、落ちる寸前の位置で踏み切ってジャンプ。手すりを掴む、などのアクションがあるのかと思いきや、しゅたっと思いのほか軽やかに自室の窓の手すりに着地した。

 

「す……ごい跳躍力。さすが元軍人といったところでしょうか。元軍人とついていたら多少無茶苦茶やってもセーフみたいな風潮ありますからね」

 

〈着地草〉

〈シンプルにキャラコンがすげえ〉

〈やめろやめろw〉

〈とびすぎw〉

 

 窓から自室へと華麗に舞い戻った主人公。このまま外に出たら、いくらお隣さんの部屋がゾンビに大人気だとしてもさすがに姿を見られてしまうだろう。

 

 走って撒くことはできそうだけれど、撒いている道中で他のゾンビも拾ってしまいかねない。そんな鬼ごっこをしながらではレイチェルを助けになんていけない。かえってレイチェルが危険になってしまう。なんとしてでも、ここでゾンビを振り切らなくてはならない。

 

「んー、研究員さんから電話かかってきましたし、きっと電話回線は生きてるんですよね。電話の音とか使えないんでしょうか。携帯で固定電話に電話をかけて、元人間の皆様を主人公宅へお招きして、その間に悪魔はまたお隣さんの部屋に移動して扉から出る。そうすれば安全にこのアパートから出られそうです」

 

〈え頭いい〉

〈かしこ〉

〈サイコパスと賢者の間を行き来する悪魔〉

〈気づくの早い〉

〈なんも調べてないのにまじか〉

 

「携帯のアドレスに自宅の番号とか……ないですね。一度調べないといけないみたいです。まあ、家族とも一緒に住んでいない、交際相手もいない独り身の一人暮らしだと、わざわざ自宅の固定電話に電話することなんてありませんか。仕方ないですね」

 

〈やっぱこいつ悪魔だわ〉

〈心がいてえ……〉

〈急に刺してくるやん〉

〈辛辣で草。草……〉

〈うちはそもそも固定機置いてないな〉

 

「今はもう固定電話を置かないという人間様も多いそうですね。知人からの連絡はスマホにくるし、わざわざ固定電話を置く必要性を感じないのだとか」

 

 固定電話へと近づいてアクションボタンを押すと、固定電話を操作する画面へと移った。それらしいボタンをぽちぽち押すと、固定電話の小さなディスプレイに番号が表示される。携帯のアドレスに登録する、などのアクションは出なかったのでおそらく、プレイヤー本人が記憶なり記録なりしておけよ、というスタイルなのだろう。

 

「さて、ここからが一番リスクの高いところですね。主人公は育ちがいいので家を出るときはしっかりと扉を閉めてしまいました。出待ちをしている元人間様たちをこの部屋に誘導するためには、ばれることなく扉を開いておかなくてはなりません」

 

〈人気者はつらいな〉

〈元人間様w〉

〈ちゃんと敬意は持ってるんだw〉

〈草〉

〈その表現いいな〉

 

 足音を立てないようにゆっくりと扉へ近づき、ドアノブに手をかける。シューティングアクション(・・・・・)アドベンチャーという看板通り、ここでアクションがあった。制限時間内にこのボタンを押せ、みたいなものではなく、ゆっくりとスティックを回せ、というものだ。

 

「……緊張感がありますね……」

 

〈おお〉

〈ゆっくりだぞっ〉

〈朗報・初の緊迫感のあるシーン〉

 

「今こそあのセリフを使う時でしょうか……押すなよ押すなよ、と……」

 

 一回くらい失敗しておくのがお約束というものだろうか。どうしよう。

 

〈いい声でばか言ってんじゃねえよw〉

〈声とセリフがあってないんよw〉

〈悲報・やっぱりコメディ〉

〈誰もふってないw〉

〈なんでそんな神妙なトーンでふざけれる?w〉

 

 結局物音を立てることなく、玄関の扉を開けることに成功した。

 

 半開き程度だけれど、これだけ開いていれば音は聞こえるという判断だろうか。

 

「ふう……ここまでで一番息が詰まった場面でしたね」

 

〈ああ、笑いすぎてな〉

〈声も出んかったくらいだ〉

〈www〉

 

「頭には浮かんだのですけどね。いったんやらかしておくべきか、と。効率を優先してしまいました。まだまだですね、精進します」

 

〈充分笑ったからもうええw〉

〈どこ目指してんだ〉

〈努力の方向間違えてて草〉

 

 扉を開いた後はとんぼ返りでお隣さんの部屋へ。足を踏み外せばこれまでの努力が水の泡なので、足元を確認しながらゆっくりと戻った。

 

「作戦成功するのでしょうか。いざ、ご自宅にお電話しましょう。携帯電話を取り出して、番号を入力……っと」

 

〈おおちゃんと覚えとる〉

〈記憶力良〉

〈俺もう忘れとったわ〉

〈やるやんけ〉

〈とあるライバーは番号忘れて確認しに戻ったらゾンビにやられとったぞ〉

 

「十桁の数字を覚えていただけですが……。でも他のことに集中してしまうと数字の羅列なんて忘れてしまうこともありますよね。……あ、元人間様たち、移動したみたいですね」

 

〈悔しい……元人間様で何度も笑っちゃう〉

〈w〉

〈数字とか五秒くらいたったら忘れるわ〉

〈元人間様草〉

〈成功だ!〉

 

 お隣さん宅の扉の近くで耳を(そばだ)てると、ぞろぞろと足音が動いていくのがわかった。今頃は、玄関扉前で出待ちしていたゾンビたちが主人公の部屋で鳴り響く固定電話に群がっていることだろう。

 

 携帯電話はコールし続けたまま、扉をゆっくり開いていく。

 

「いませんね。成功です。礼ちゃんの下まで急ぎましょう」

 

〈妹悪魔が待っとるぞ!〉

〈お嬢が不安で震えとるかもしれん!〉

〈いそげ!〉

〈訂正するやつおらんくなってて草〉

〈全員洗脳されてるw〉

〈悪魔の技だ〉

 

 このお隣さん自体には迷惑しかかけられていないけれど、この部屋には大変お世話になった。視点を下げることでしっかりとお辞儀をして、扉を閉める。

 

「お邪魔しました。…………」

 

〈ちゃんと頭下げてるw〉

〈礼儀正しくて草〉

〈家主撃ったくせにw〉

 

「…………。なるほどね」

 

 ここまで頑張ったのに最後の最後で詰めは誤りたくない。急ぎはするけれど、足音を立てないようゆっくり歩いて主人公の部屋を通過する。

 

 開ききった扉からこっそり中を覗き見ると、扉の外からでもゾンビが音の発生源である固定電話に注意を払っているのが見えた。しっかり全員部屋に集まったようだ。やはり音には敏感に反応するのだろう。

 

〈部屋の中こわ〉

〈みっちみちや〉

〈ゾンビの密度やばw〉

 

「とりあえず椅子の数は足りませんね」

 

〈問題はそこじゃねえよw〉

 




最初はとある名作のゲームを参考にしようと思って書き始めたけど、一度方向転換したら方向転換したまま帰ってこなくなって完全に別ゲーになってしまった。そんな経緯の末生まれた『administrator』です。
ここからしばらくお兄ちゃん視点です。

*スパチャ読み!
おれは100さいだからえらいんだまんさん、赤色のスーパーチャットありがとうございます!
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