サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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「銃弾一発受けたら死ぬ覚悟で街を守ってるよ」

 

「ここに礼ちゃんがいるはずです。いやはや、長い道のりでしたね」

 

〈他のお願い全無視したけどな〉

〈一直線やった〉

〈人襲われててもスルーしてたw〉

〈兄悪魔「チャンスですね。ヘイト買ってくれているうちに行きましょう」〉

〈まさに悪魔〉

〈最低で草〉

 

 主人公のアパートを出た後、いろいろとイベントがあった。どこかの施設が避難所みたいになっているから一緒に行こうと言われたり、怪我をして動けないから手を貸してくれと言われたり、子どもたちを避難所に誘導するから援護してくれと言われたり、家に家族が取り残されているから助け出すのを協力してくれと言われたり、避難所を守るのを手伝ってくれと言われたり。それはもうイベントと選択肢が目白押しだった。

 

 ちなみに全部断った。

 

「悪魔の目的とは反するお願いでしたからね。断ったら素直に諦めてくれたのが幸いでした。しつこくお願いされてしまうと、さすがにこちらも……ねえ?」

 

〈こいつ撃つ気だったのかw〉

〈草〉

〈草〉

 

「しつこく引き止められてしまうなんて、そんなのは足止めされてるのと同義ですからね。敵意を向けられなければ銃口を向けるなんてことはしませんけれど、邪魔をするならそれは敵です。排除します」

 

〈敵認定からの排除までが早すぎるんだよなぁ〉

〈足を止められただけで敵は草〉

 

「僕は悪くありません。でも助けを求める人間様も、悪い人ではないはずです。ご自身の力だけでなんとかできるなら、他人を頼りはしないでしょうから。悪いのはこんなに殺伐とした世界と、引き金の軽いピストルです」

 

〈引き金w〉

〈撃ってんのお前やぁ!〉

〈すぐ撃っちゃう〉

〈引き金も人の命も軽い〉

 

「ちなみに今のところ、撃った人数は人間様と推定元人間様ということで一対一の比率ですね。これからのストーリー次第では、元人間様より人間様を撃つ回数の方が多くなりそうです」

 

〈草〉

〈草〉

〈草〉

〈ゾンビゲーなのに人撃ってやがるw〉

 

 ゾンビと出会い頭にエンカウントしないよう、常に音には気をつけて、曲がり角はゆっくりと確認しながら進んで、ようやく研究員の家に到着した。ゾンビに見つからないよう努力し、なるべく最短ルートを早歩きで駆けつけたけれど遅くなってしまった。レイチェルも待っているかもしれない。

 

「それではそろそろ礼ちゃんを保護しに行きましょう。安全に親御さんの下まで送り届けるのが悪魔の役割です。インターホンを押せば出てきてくれるのでしょうか。悪魔なら、こんなご時世で扉を開くなんてこと絶対させませ……音がしました」

 

〈女の子を送り届けるゲームだったのか〉

〈目的変わってもうとるんよ〉

〈草〉

〈落とした〉

〈音したな〉

〈おふざけからまじめなモードへの切り替えよ〉

〈ぞくってした〉

〈かっこよ〉

 

 白を基調とした清潔感と高級感のある大きな一軒家。その門扉の前で、どうやって入ったものかと悩んでいた時、物音がした。音の反響や籠り具合から、家の反対側といったところか。

 

「ガラスの割れる音。それを踏み砕く音も小さく聞こえます。ガラスが飛び散ったフローリングを、硬い靴底の靴で歩いたのでしょう。たしか回想シーンで映ってましたね、掃き出し窓。リビングから入ったようです。……このゲーム、本当によく作り込んでいますね。キャラクターの表情もそうでしたが、サウンドの一つ一つすら細やかです。音が粒立っています。」

 

〈音したんか?〉

〈どんな耳してんだこの悪魔〉

〈デビルイヤーだ〉

〈よく覚えてますね〉

〈気づかなかった〉

〈喋ってたりしたら音に気づかない人もいる〉

〈耳良すぎん?〉

〈どんな耳してるんです?〉

 

「耳ですか? 見ての通り、長くて尖っています。それより、礼ちゃんが危険に晒されています。すぐに向かわなくては……」

 

〈くっそwww〉

〈w〉

〈形の話はしてねぇわw〉

〈そこじゃないw〉

〈草〉

〈真剣な声で笑わさないでw〉

 

 門扉に近づくと、これまでは出てこなかったアクションボタンが表示された。乗り越える、というそのアクションをこなし、玄関には目もくれずに裏口へと回る。

 

〈玄関入らないの?〉

 

「玄関からは入りません。小さい子どもが一人でお留守番しているのなら確実に施錠されていることでしょう。危機感を煽るようなガラスの割れる音がしたのに、玄関の鍵を開けにきてくれるとは思えません。なんなら扉の前で侵入者が迎え撃ってくるかもしれません。掃き出し窓のところからお邪魔するほうが早いし安全です」

 

 家の裏手に回ると中庭が広がっていた。青銅製のように見えるテーブルセットがあるが、錆びているし倒れたままになっている。以前は手入れされていたのかもしれないが、植木も中庭自体にも雑草が繁茂していた。外周をなぞるような形で生垣が背伸びしており、周辺住民から見られにくくなっている。プライバシーは守られる反面、同時に視線を遮られる格好になるので強盗にはうってつけとなってしまっている。

 

 中庭を眺めるためか、家の裏には大きな掃き出し窓があった。今は窓ガラスが割られて枠だけになっている。

 

「……やっぱり。この周辺では一番大きなお家でしたからね。この世間の混乱に乗じて強盗でも働くつもりだったのでしょうか。……幸い、相手は一人なようです。体格はいい勝負でしょうけど、そこは元軍人。出会(でくわ)してもなんとかなるでしょう。礼ちゃんの保護を急ぎましょう」

 

〈動きやば〉

〈なんでわかる?〉

 

「なぜ相手が一人だと思ったのか、という話ですか? 靴跡が一人分だからです。すぐ外が土ですからね、跡はしっかり残っています。足のサイズと身長はある程度比例しますから、そこからの推測です。主人公より少し大きめですね。描写がしっかりした良いゲームです」

 

〈もしかしてお兄ちゃんさん賢い?〉

〈探偵か?〉

〈やってることは今のとこサイコパスなのに……〉

 

「ただそういう知識があったというだけですよ。さて、行きましょう。おそらく礼ちゃんの部屋は二階です。キッズルームといえば二階ですからね」

 

 リビングから不法侵入すると主人公は勢いよく駆け出した。

 

 家の中なのでゾンビの心配はしなくてもいい。強盗犯には足音が聞こえたって構わない。なんなら足音に気づいてまっさきに主人公を襲いにきてほしい。強盗犯の矛先がレイチェルに向かわないのであれば、たとえ主人公が一発二発くらい銃弾を喰らってもいい。主人公はどうなろうといい。レイチェルが無事であるならなんでもいい。

 

〈なんで階段の場所知ってるん?〉

〈迷いなくて草〉

 

「回想シーンで主人公が帰ろうとしているところありましたよね。あのシーンで玄関に背を向けた主人公と礼ちゃんが喋ってましたけど、その端っこに階段が見切れてました。玄関のある方向に向かえばすぐ見つかるはずです」

 

〈やっば〉

〈めっちゃ記憶力いい〉

〈なんでそんなとこ見てんだ〉

〈レイチェルちゃんしか見てなかった〉

〈かわいかったとしか覚えてない〉

 

「ふふっ、これでも知性を武器にする狡猾な悪魔ですからね。……まずいですね。足跡も二階に続いています」

 

 すぐに見つけられた階段を駆け上がり、二階に着いた時だった。

 

『きゃああぁぁっ』

 

 大きな物音と、甲高い悲鳴が聞こえた。

 

 部屋はいくつかあったが、一つだけ扉が開いていた。その扉目掛けて走ると、急に動けなくなった。

 

「ん、イベントムービー……」

 

 自由に操作できなくなったかと思えば、ストーリームービーが挿入された。

 

 客観的な視点になる。ばたばたと忙しなく主人公が部屋にやってきたところだった。

 

 視点が主人公の後方上部へと移動する。部屋の中が画角に入った。

 

「……この害獣は、駆逐してしまってもいいですよね」

 

〈よし〉

〈やってよし〉

〈やってよし〉

〈ぶっ◯せ〉

 

 部屋の中では大柄な男がレイチェルの首を掴んで床に押し付けていた。野卑な笑みを浮かべていた強盗犯は、部屋の前まで主人公が来て、そこでようやく存在に気づいた。

 

 強盗犯がベルトに挟んでいた拳銃に手をかけようとしたところで、ふっと画面が色褪せる。スローモーションになっていますよ、という演出だ。

 

 であれば、次に何が来るのかは明白だ。

 

「選択肢……」

 

 この瞬間どう動くか、という問いだ。

 

 選択肢は『銃を抜く』『壁に隠れる』『前に出る』の三つ。

 

「前へ」

 

 選択肢が現れた瞬間に『前に出る』を選ぶ。

 

 主人公が部屋の中へと一歩、二歩と踏み込む。

 

 灰色に霞んだ世界。主人公の動きはひどくゆっくりと、しかし確実に動くが、強盗犯も動く。

 

 強盗犯は腰の後ろに回した手で銃把を握り、ベルトから抜いて、主人公へと向けようとする。この距離であれば、どれだけ狙いが雑になろうと撃てば当たるだろう。

 

 再び、選択肢が現れる。

 

 が、これまでとは少し趣向が違った。これまでは画面中央に文字とそれに対応するボタンが表示されていたが、今回は文字は一切出てきていない。強盗犯の顔、腹、そして銃を握っている右手に、アクションのボタンが重なっている。

 

「まずは武装解除」

 

 右手に重なっていたアクションボタンを選択すると、次第に画面に変化が起きる。色褪せていた画面に、じんわりと染み渡るように色彩が戻り始めた。スローモーションになる区間はここで終わりらしい。

 

 踏み込んできた勢いそのままに、主人公は足を振り抜いて強盗犯の右手を痛烈に蹴り上げた。

 

 強盗犯の右手が蹴りの衝撃で跳ねる。手にしていた拳銃は部屋の隅へと吹き飛んでいった。

 

「ここからはもう消化試合みたいなものですね」

 

 倒れていたレイチェルの首を掴んでいた強盗犯は床に膝をついている。対して主人公は立っている状態。体格は同程度だろうが、体勢に差がありすぎた。

 

 主人公は膝立ちになっている強盗犯の顔に拳を叩き込み、追撃で頭を掴みながら膝を入れる。

 

 ふらつきながらも立ち上がった強盗犯は闇雲に腕を振り回していた。それを落ち着いて躱して、隙が生じたタイミングを逃さずに抉りこむように打つ。

 

 腹に重い一撃が入り、強盗犯の腰が引ける。頭が下がったところを右のアッパーが強盗犯の頭をかち上げた。その勢いたるや、首根っこから千切れて頭が飛んでいってしまいそうなほどの迫力だった。

 

 攻撃する際、強盗犯の攻撃を回避する際、その都度都度にボタン入力が求められていた。残りの体力を暗に示しているのか、最初はボタン入力の制限時間が短かったが、攻撃を加えるたびに入力するまでの制限時間は長くなっていった。強盗犯の体力が残り少なくなったことで動きが段々と鈍くなってきている、という演出だろうか。

 

 とてもユニークな演出だと個人的には思うけど、一番最初のボタン入力までの猶予は体感的に一秒あったかどうかといったところで、二秒は確実になかった。なかなかにハードな難易度だ。反応の良さを求められる。もっとも越えるのが難しいハードルを越えなければ易しくなってくれないあたり、意地が悪い。

 

「……成敗。あれだと少なくとも数時間はまともに動けはしないでしょう。綺麗に首から振れましたからね。確実に脳震盪が起きています。……もしかしたらお亡くなりの可能性も……まあ、それも致し方なしですね」

 

〈うおおおおお〉

〈おおお!〉

〈成敗!〉

〈すげええ〉

〈ノーミス!〉

〈一方的w〉

〈それは致し方なし〉

〈サンドバッグかよw〉

〈なんで銃で撃たなかったんですか?〉

 

 強盗犯を叩きのめしたところで、ボタン入力しなければ次のシーンに進まない画面になったので、一旦ここで小休止してリスナーが投げかけてきてくれるコメントを拾っていく。さすがに連続でコマンド入力している時は、コメントに返事ができなかった。

 

「礼ちゃんが無傷のまま暴漢を退治できてよかったです。ありがとうございます。どうして銃を使わなかったのか、ですか。あの距離なら早撃ちでもヘッドショットはできたでしょうけど……すぐ間近にいた礼ちゃんがトラウマになってしまいます。頭に真っ赤なお花が咲くところを見せるよりかは、殴り倒したほうがまだ精神的な負担は少ないでしょう」

 

〈よくそこまで考えれるな〉

〈さすがお兄ちゃん〉

〈これはベテランお兄ちゃん〉

〈兄悪魔は伊達ではない〉

〈銃蹴り飛ばしたのもそう?〉

 

「構えられる前に飛ばせれば一番安全だなとは思いましたね。顔や胴体を狙って、その方法が殴りなのか蹴りなのかタックルなのかはわかりませんが、アクションを起こした拍子で銃が暴発したら困ります。セーフティを外している拳銃のトリガーに指をかけようとしていましたから、まずはこれをどうにかしてからだと考えました」

 

〈こわいこわいこわいw〉

〈あの一瞬で見えすぎでは?〉

〈すごすぎて怖い〉

〈悪魔の視界もすろーになっとったんか?〉

〈めっちゃいい判断〉

〈あーなるほどなぁ……〉

 

「ではそろそろ進みますね。礼ちゃん、お兄ちゃんが迎えにきたよ」

 

〈この子はレイラちゃんじゃない上にお前はレイチェルの兄じゃない〉

〈ツッコミどころしかないw〉

〈草〉

〈さっきまでとのギャップで風邪ひきそう〉

 

 ボタンを押すと、強盗犯をノックアウトした画面から動いた。

 

 再びストーリームービーが入る。

 

 一人称視点から、二人を画角に収めるような視点に変わった。

 

 いろんなことが起きすぎて混乱しているのか、レイチェルはぺたんとへたり込んだまま動かない。

 

 回想シーンではきっちりとした印象のワンピースドレスだったけれど、起きたばかりなのか、今はルームウェアを着ていた。アイボリーカラーの薄手のパーカーとショートパンツというラフな格好だ。

 

「小さい礼ちゃんかわいい!」

 

〈今日イチ声出とるw〉

〈おい悪魔〉

〈レイチェルちゃんかわいい!〉

〈草〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈お兄さんかわいい〉

 

 混乱が収まり、頭が現実に追いついてきたのか、レイチェルはひっくひっくとしゃくり上げるように泣き出した。

 

「ああ! 僕が大きな声出したせいで! ごめんね、ごめんなさい礼ちゃん……」

 

〈パニックw〉

〈ゾンビいても冷静だったのにw〉

〈草〉

〈一番わたわたしてるw〉

〈強盗見つけても動揺してなかったくせにw〉

〈有能悪魔はどこいった!〉

 

『ああ! ビル、ありがとう! わたし、もうダメかと……』

 

 泣きじゃくりながら、レイチェルは主人公に縋りついた。

 

 主人公はレイチェルをしっかりと抱きとめて背中をさする。『もう大丈夫だ、もう安全だ』としきりに口にして安心させていた。

 

 人付き合いの苦手なタイプかと思いきや、ちゃんと子どもを慰められている。立派な大人だ。

 

「愛称で呼ぶほど親密だったのですね。意外です。頻繁に研究員さんのお家にはご招待されていたのでしょうか」

 

〈かわええ〉

〈かわいい〉

〈こいつの名前ビルだったっけ?〉

 

「主人公の名前はウィリアムですね。ビルはニックネームみたいなものです。ウィリアムならニックネームはウィルやビルなどと呼ばれるみたいですね。名前の最初の文字の子音を変化させて呼ぶのは一般的らしいですよ」

 

〈へー〉

〈知らんかった〉

〈博識〉

〈物知りですね〉

 

「あはは、ありがとうございます。礼ちゃんから聞かれた時に答えられるように日頃から勉強していた甲斐がありました」

 

〈兄悪魔……〉

〈シスコンの鏡〉

〈お兄ちゃんの鑑やな〉

 

 ストーリーは進んでいく。

 

 主人公は、家の外では世界が変わってしまっていることをレイチェルに教えていた。ゾンビのように変わり果てた人たちが襲いかかってくる。見つかると危険だと、レイチェルに話す。

 

 不安そうに主人公を見上げて『どうしたらいいの?』と訊ねてくるレイチェルに、主人公は『お父さんのいる研究所へ行こう』と向かう先を示した。

 

 主人公の言葉に素直にこくりとレイチェルが頷いたところで、ストーリームービーが終了した。

 

「ああ! 礼ちゃん可愛い! 頷いてたところめちゃくちゃ可愛かったですよね?!」

 

〈うるせえw〉

〈どこよりも声がでけえ!〉

〈でもたしかにかわいかった〉

〈かわいいなw〉

〈ちなみにこいつがかわいいのはここまでだ〉

 

「あっ! 礼ちゃんついてきます! とことこついてきます!」

 

〈うるせえw〉

〈テンションたっかw〉

〈草〉

 

 ストーリームービーの最後の頷くシーンや、キャラクターの操作に戻った後、主人公の後ろをちょこちょこついてくるレイチェルに、否応なしに気持ちが高揚する。

 

 一時期、礼ちゃんにも僕をどこまでも追いかけてきてた時があったなあ、なんてことをつらつらと思い出していると、がちゃっ、と扉を開く音がした。ゲーム内のサウンドではない、僕の背後からだ。

 

「お兄ちゃーん、呼んだー?」

 

「あ、本物の礼ちゃん」

 

〈妹悪魔召喚されたw〉

〈草〉

〈草〉

〈お嬢!〉

〈あれだけ名前叫んでりゃなw〉

〈盛り上がってまいりました〉

 

 僕が礼ちゃんの名前を呼んでいたのが聞こえてしまったのか、レイチェルじゃないほうの本物の礼ちゃんが部屋に来てしまった。

 

 ペットボトルのお茶を持っている礼ちゃんはすたすたと部屋に入って僕の近くまで寄ってくる。

 

「いや……本物ってなに? 本物も偽物もないよ」

 

「ゲームしてたらね、礼ちゃんが出てきたから礼ちゃんって呼んでいたんだよ」

 

「うん? ぜんぜんわかんないや……えっと、配信中だよね? みなさん、急にお邪魔してごめんなさい。『New Tale』二期生のレイラ・エンヴィです。本日はお兄ちゃんの配信を観に来てくれてありがとうございます」

 

〈お嬢!〉

〈妹悪魔きた!〉

〈お邪魔なんてとんでもない〉

〈草〉

〈自由で草〉

〈もともとリア凸から始まった兄妹だからな〉

〈楽しんでます〉

 

 マイクに近づいた礼ちゃんは、配信を視聴してくれているリスナーさんに向けて挨拶した。それを聞いてリスナーさんも反応してくれている。

 

 『Island(アイランド) create(クリエイト)』配信時のリア凸や昨日の『Noble bullet(ノーブルバレット)』コラボ配信を経てのこれなので、リスナーさんたちも寛容だ。なんなら楽しんでいる空気すらある。

 

「それで、礼ちゃんはどうしたの? たしか今日は勉強してたはずだけど」

 

「うん。勉強してたよ。一段落ついたから小休憩と思って飲み物取りに行ってたんだけど、部屋に戻る時にお兄ちゃんの部屋から私を呼ぶ声が聞こえてきたから入ってきたの。それで結局なんで呼んでたの?」

 

「ゲームやってたらレイチェルっていう女の子が出てきたんだよ。レイチェルを礼ちゃんに聞き間違えて、それからレイチェルのことを礼ちゃんって呼んでたんだ。この子がまたつんつんした性格でね、昔の礼ちゃんに似てて可愛いんだ」

 

「ちょっ、やめてよ。私は昔からいい子だし。……ん? あ、これ『administrator(アドミニストレーター)』?」

 

「そうだよ。とても作り込まれていてすごいね、このゲーム」

 

「これ私もやったことあるよ。すっごいリアルだよねー。……ていうか、ちょっと待って! この子と私が似てるって?! 私ここまでわがままじゃないから!」

 

「え、な、なに? ネタバレやめてね? 僕、この子のこと回想シーンくらいでしか知らないんだから」

 

「うぐぐっ……もどかしい。私こんなクソガキほどわがままじゃないのにっ……」

 

「クソガキやめてね?」

 

〈あー……〉

〈やってたらね……〉

〈まぁ一緒にされたくないわなw〉

〈草〉

〈妹悪魔発狂〉

〈そんなにワガママなんか〉

〈かわいい〉

〈お嬢キレる〉

〈お嬢お気を確かに……〉

 

「……お兄ちゃん、これ何周目?」

 

「このゲーム何周もするものなの? ……ああ、マルチエンディングだもんね。何回も楽しめるのか。まだ一周目だよ。今のところゾンビよりも人のほうが多く倒してる」

 

「それはお兄ちゃんらしいというかなんというか……。私とはだいぶプレイ変わりそうだね。ほら、早く進めてよ」

 

「う、うん……え、礼ちゃん見てくの? お勉強は?」

 

「大丈夫。あとからお兄ちゃんに家庭教師してもらうから! ほら、お兄ちゃん足広げてよ。私が座りにくいでしょ」

 

「あ、結構がっつり見ていくんだね……」

 

「リスナーさん。ちょっとお邪魔しますね」

 

「礼ちゃんのほうもよろしくお願いします」

 

〈やったー!〉

〈祝・今日もコラボ〉

〈お嬢参加だー!〉

〈草〉

〈突発コラボきた!〉

〈悪魔兄妹てぇてぇ〉

〈てぇてぇ〉

〈リアタイで見れたうれしい〉

 

「それで、今はどのあたり? 次はなにするの?」

 

「これから小さい礼ちゃんを研究所まで送り届けるところだよ」

 

「小さい礼ちゃんやめて」

 

〈w〉

〈怒られとるw〉

〈草〉

〈それはそうw〉

 

 主人公はレイチェルを引き連れて、部屋を後にした。

 

 階段を下って、一度玄関を無視して家の中を調査する。

 

「うーん……特にこれといってないみたいだね」

 

「すぐに向かわないんだ?」

 

「だって、きっと小さい礼ちゃんは起きたばっかりだよ? お腹空いてるんじゃないかなって思ってキッチン見てみたんだけど……ご飯はなさそうだね」

 

〈やさしい……〉

〈お兄ちゃん……〉

〈まま……〉

〈一流のお兄ちゃんや〉

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。そいつお腹空いたらなんか言ってくるよ、きっと」

 

「そいつやめて。この小さい礼ちゃんは小さい頃の礼ちゃんなんだよ?」

 

「私じゃないってば! ここまで生意気じゃないもん!」

 

「似てたよ? 好き嫌い激しいところとか。にんじんきらいっ、ピーマンやだっ、って言ってたなあ……」

 

「びゃっ?! 言ってない! ぜえったいにっ、言ってない! リスナーさん、私言ってませんからね! お兄ちゃんのジョークですから!」

 

 足の間に収まっている礼ちゃんは振り返るようにしながら僕の腕を掴んで抗議した。ぐいぐい揺らしながら否定する。

 

 礼ちゃんには残念なことだろうけれど、事実である。今の僕であれば苦手な食べ物があったとしても調理次第で誤魔化せるけれど、当時の僕はまだそこまでの技術がなかった。礼ちゃんには苦労させてしまった。

 

〈なんちゅう声出してんだw〉

〈かわいいw〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈にんじんきらいっw〉

〈草〉

〈てぇてぇ〉

〈妹悪魔かわええ〉

 

 礼ちゃんはリスナーさんに向けても必死に否定していたけれど、あまりその効果は出ていなさそうだ。微笑ましいものでも見るように、コメントが流れていく。

 

「でも、今はもう好き嫌いはなくなったもんね? 納豆とかオクラとか、ぬるぬるする食べ物くらいしか苦手なものはないもんね?」

 

「やめてえ! 好き嫌いあるとかそんな子どもっぽいところ、私のキャラじゃないよ!」

 

「いや、そこはもう手遅れだと思うけど……」

 

〈わかる〉

〈俺おっさんやけど納豆無理やぞ〉

〈ぬるぬる苦手はしゃあない〉

〈妹キャラ定着してますよ〉

〈妹悪魔w〉

〈かわいい〉

〈キャラはもう崩壊しとるんよ〉

〈うん手遅れだわw〉

〈草〉

〈かわいい〉

 

 礼ちゃんと喋りながら家探ししていると、テレビの近くにいくつか写真立てがあった。

 

「写真だ。小さい礼ちゃんと研究員さんと、これはお母様、かな?」

 

「みたいだね。もっと小さい時、赤ちゃんのレイチェルと三人で写ってるのもあるよ」

 

「お母様は……ご病気だったのかな。小さい礼ちゃんが成長するにつれて、(やつ)れていっているように見えるね。車椅子に座っているものが最後かな」

 

「この子のお母さんが現在の時間軸で出てきてないってことは……そういうことなんだろうね」

 

 この家にも研究員の奥さんはいないし、回想シーンでも食卓に同席していなかった。おそらくこの写真立ては病かなにかで逝去された、というメタファーなのだろう。

 

〈つら……〉

〈レイチェルたん……〉

〈このゲーム結構シリアスだよな〉

〈本来はそう〉

〈兄悪魔のおかげで笑えてるけどな〉

 

「研究員さんはお仕事忙しいらしいし、もしかしたら小さい礼ちゃんは寂しくてわがままに振舞ってたりするのかな?」 

 

「あー……それはあるかもね。私にはお兄ちゃんがいたからよかったけど、家に誰もいなかったら寂しいよね……」

 

〈え〉

〈おおう……〉

 

「うん、そうだね…………あ、ちょっと待って? そういう言い方すると、もしかしたらリスナーさんたちが誤解しちゃうかもしれないよ? まだ僕たちの両親は存命しておりますので、ご心配なきようお願いします」

 

「おお、危ない危ない。大丈夫ですよー! お父さんもお母さんも忙しくてあんまり家に帰ってこれないだけで、二人とも元気ですからね!」

 

〈びっくりしたー〉

〈おおあ〉

〈よかった……〉

〈びっくりした〉

〈こっちもシリアスかと思った〉

 

 レイチェルのお父さんのように家を空けがちになっている、というニュアンスでこちらは言ったつもりだったけれど、リスナーさんによってはレイチェルのお母さんのようにもう亡くなっているのか、と捉えられかねない。そのあたりちゃんと言明しておかないと心配させてしまう。

 

「さて、それじゃあそろそろ小さい礼ちゃんを研究所まで送りに行こうかな」

 

「ふふふ……ここからがお兄ちゃんの見せ所って感じだね」

 

「腕の見せ所じゃないんだ……」

 

 後ろからてくてくついてくるレイチェルを引き連れて、主人公は研究所への旅路に出た。

 

 研究員の家は街の中心部、対して研究所は街の郊外にある。道路のあちらこちらにはひっくり返って火の手が上がっている車や、その横転している車に道を封じられた結果放棄された車によって何重にも塞がっている。よって自動車という足は潰され、研究所までは歩いて向かうほかない。

 

 研究所までの正確な距離はわからないけれど、小さな女の子を、おそらくは遠いだろう場所まで歩かせるのは感情的に辛いものがある。

 

 ゾンビにも遭遇せず順調に街の中で歩みを進めていると、特徴的な看板が現れた。

 

「あ、ガンショップだ」

 

「おおー……ほっほっほ」

 

「何その笑い……意地悪なお嬢様なの?」

 

〈絶対この後ボス出てくるやん〉

〈入った瞬間襲われるか?〉

〈ご都合主義!〉

〈ARとか欲しいとこやな〉

〈草〉

〈www〉 

〈悪役令嬢みたいな笑い方w〉

 

 そんなタイミングで出てくるか、と言いたくなるほど都合良くガンショップがあった。しかも店主は既に避難しているようなのにシャッターも格子も降ろされていない。

 

 ゲームの進行上の事情なのだろう。そろそろ難敵や面倒な事件に巻き込まれるので、ここで武装を整えてくださいね、という制作サイドのアナウンスだ。面倒な事件には絶賛巻き込まれ中ではあるが。

 

 まあ頂けるのなら頂いておこうかな、とガンショップへ足を向けようとした時だった。

 

 主人公の袖をくい、と引っ張るレイチェル。

 

『ねぇ、ビル……。さむい……』

 

 小刻みに震えて縮こまりながら、レイチェルが言った。

 

 ここで選択肢が表示された。今回は二択。『ガンショップ』とその隣にある『アパレルショップ』の二つだ。

 

 二択と言ってみたが、こんなもの実質一択しかない。

 

「うん、おめかししに行こっか!」

 

 ゼロコンマ一秒以下で『アパレルショップ』を選択した自信がある。

 

 ガンショップの前を綺麗に通り過ぎて、吸い込まれるように無人のアパレルショップへと入店する。元からお洋服を買いにここまでお出かけしにきたような自然さだった。

 

「おいこら」

 

「なに? お口が悪いよ、礼ちゃん」

 

「何事もなくここまで進んで、(あつら)えたようにガンショップがあるんだよ。これからボス戦とか難しいステージが出てきますよって言ってるようなもんなのに、なぜアパレルショップ? デートしにきたんじゃないんだよ」

 

〈絶対こうなると思ってたw〉

〈草〉

〈あいかわらず迷わないw〉

〈お兄ちゃんw〉

〈まーた怒られとる〉

〈妹悪魔がぜんぶ言ってくれた〉

〈草〉

 

「だって小さい礼ちゃんが寒がってるんだよ。ならお洋服見に行かないと」

 

「そんなのこいつが家出る時に着てこなかったのが悪いでしょ! 着替えたりする時間はあったのに!」

 

「主人公が急かしたからだよ。それにあの部屋には強盗犯もいたしね。あんなところで着替えたいだなんて思えないよ。仕方ないんだ。お洋服見繕って、目一杯お洒落しよう。うん、それしかない」

 

「目的変わってる! お洒落しにアパレルショップ行くんじゃないでしょ! 隣のガンショップで銃とか防具もらえたのに!」

 

「せっかくお店入るんなら着飾ったほうがいいに決まってるよね。こう……気持ちも明るく楽しくなるんじゃないかな?」

 

「こんな世紀末で?! おしゃれするの!? 本気で?!」

 

「女の子とのお出かけでガンショップは……ちょっと、ねえ? センスが悪いどころの騒ぎじゃないよ」

 

〈初デートで硝煙臭いのは……ちょっと〉

〈二回目はないよねw〉

〈お出かけw〉

〈草〉

〈友だちの間で馬鹿にされちゃうよ〉

〈レイチェル「ガンショップとかないわー」〉

〈レイチェルたんのことも考えてよ!〉

〈www〉

 

「なんでリスナーさんもお兄ちゃん側なの?! ゾンビだらけの世界でお洒落気にする必要ある?! 誰に見せるの?! ゾンビはお洒落しても褒めてくれないよ!」

 

〈ゾンビ「お、マブいスケいんじゃーん」〉

〈妹悪魔キレる〉

〈草〉

〈ゾンビにお洒落見せるのは草〉

 

「礼ちゃん、そんなに大声出さなくても……落ち着いてよ。ね?」

 

「ふーっ、ふーっ。……そうだね、ふうっ。取り乱しちゃった、ごめんなさい」

 

「もう、そんなに必死にならなくてもいいじゃない。相手はまともじゃないんだから」

 

「自分で言わないでよ! 私が言いたかったセリフだよそれ!」

 

〈草〉

〈草〉

〈腹痛いw〉

〈一生コントしとるw〉

〈兄悪魔ほんとw〉

 

 礼ちゃんが憤慨している間にもストーリーは進んでいる。レイチェルが試着室に入ってがさごそ、という音がするとすぐに試着室のカーテンが開かれた。絶対にそんな速度で着替えられるわけはないのだけど、ゲームの主幹と異なる部分でリアリティを追求してもテンポが悪くなるだけなので助かる。

 

 出てきたレイチェルは、ルームウェアから大変身を遂げていた。襟と袖にふわっふわの大きなファーがついた真っ白の膝丈コート、ダークグレーのタートルネックセーター、シックな色合いのチェックミニスカートとロングブーツという、おませなお洒落さんに仕上がっていた。

 

「うわあ! 小さい礼ちゃんかわいい!」

 

「うっわあああっ、かあいいいっ! こんなの顔面が良くないと着れないって! 自分のかわいさ完っ璧に理解してるよこの子!」

 

〈かわいいい!〉

〈かわいい〉

〈かわいい!〉

〈レイチェルちゃんかわいい!〉

〈妹悪魔流されててくさ〉

〈なんのゲームやったっけ……かわいいからええか!〉

〈草〉

〈かわいい!〉

 

「髪色ともよく合ってる! すごく似合ってるよ小さい礼ちゃん!」

 

「ちょっとお兄ちゃん! ほかのコーディネートとかないの?! もう絶対なんでも似合うんだから違うコーデ見たい!」

 

「これ一個しかないみたい。ゴシックとかでも着こなせるのにもったいないなあ」

 

「私はこの子の顔でストリート系のコーデが見たい! お人形さんみたいな綺麗な顔でストリートファッションとかギャップでおかしくなっちゃうよ!」

 

〈ゲームのジャンル変わってまうw〉

〈アイドルゲーかな?〉

〈お嬢テンション上がってて草〉

〈もうプロデューサーやってこいよw〉

〈結局ノリノリやんけw〉

〈もうだいぶおかしいよw〉

 

 しばらくレイチェルに似合いそうな服で侃々諤々(かんかんがくがく)議論を戦わせて、結局どっちも見れはしないんだと悲しくなったところでアパレルショップを後にした。

 

「だいぶ長い時間お店にいた気がする。きっと本来はすぐにストーリーに戻るんだろうね」

 

「今日の配信、ゆーに手描き切り抜き描いてもらえたらレイチェルのアナザーコスチュームも描いてもらえないか頼んでみようかな。ストリートファッション」

 

「それじゃあ僕も頼み込んでみようかな。ゴシックコーディネート」

 

「ところでお兄ちゃん、このゲーム装備見れるの知ってた?」

 

「知らなかった。さっきのガンショップが出てくるまでぜんぶピストルで戦う物だとばかり思ってたからね」

 

 礼ちゃんに促されるまま、装備画面を開いてみる。

 

 その画面の構成は『Noble bullet(貴弾)』よりかは、まだ配信では一度もやったことがないけれど僕がプライベートでよくプレイしている『Absolute defense zone(絶対国防圏)』に近しいものがあった。人型のシルエットがあって、メインウェポンとサブウェポン、防具の項目がある。防具の欄の下には小さな四角のスペースが二つあり、そこにはアイテムを設定できるようだ。

 

「レイチェルは装備のグレードが上がったけど、お兄ちゃんはこんなのだよ。武器はピストルとナイフ。防具はジャケット。服じゃん。防具じゃないじゃん」

 

〈草〉

〈レイチェルの装備は充実しとる〉

〈お洒落は女の子の武器だから〉

〈まさしく紙装甲〉

〈裸も同然やんけw〉

〈アーマーなし〉

 

「いいんだよ、これでも。ほら見て! 小さい礼ちゃんがあたたかそうにしてる!」

 

「うっわかわいっ……いや違う! 今は装備の話をしてるの!」

 

「そう言われても……。ADZでもこんな感じの装備だけど問題ないし……」

 

「……嘘でしょ? 本気で言ってるの? あのゲームで? 並のプレイヤーよりもエイムがいいNPCがわんさか出てくるあのゲームで?」

 

「うん。銃弾一発受けたら死ぬ覚悟で街を守ってるよ」

 

〈まじかよ……〉

〈なんでそんな縛りプレイを……〉

〈覚悟がすごいw〉

〈草〉

 

「まあ……お兄ちゃんなら大丈夫……なのかな?」

 

「大丈夫大丈夫。このゲームにはキャラクターアビリティとかないけど、なんとかなるよ。……ん? 小さい礼ちゃんが……」

 

『ビル。ねえ、ビル。こんなの落ちてたわ。あげる』

 

 アパレルショップから退店して再び研究所へと向かおうという時に、レイチェルに呼び止められる。あげる、と言いながらアイテムを手渡された。

 

 貰ったアイテムを見て、礼ちゃんは『へえ……』と納得するように反応した。

 

「スタングレネード……一応アイテムはもらえるようになってるんだね。なにもないよりかはましってところかな。よかったね、お兄ちゃん」

 

「……やっぱり。本当になんとかなるかもね」

 

「え、なに? どういう意味?」

 

「僕もまだ確証がないから、今は控えるよ。先に進もうわあ! 見て礼ちゃん! 小さい礼ちゃんが! 手を繋いできてくれてるよ!」

 

 主人公の歩くスピードを調節してゆっくり歩くようにすると、後ろをてくてくついてきていたレイチェルが主人公の隣に並んだ。主人公の顔を見上げるようにしながら、レイチェルは小さな手を主人公の手の中へすっぽりと収めた。

 

 はたから見ると、ごつくて厳つい草臥(くたび)れた感じのおじさんと、とびっきりにキュートな女の子というかなり怪しい図になるが、内情を知ってさえいればとても心温まる光景だ。これが尊いという感情か。

 

「うっわかわいいっ! なにこの、なに、なっ……かわいいっ!」

 

〈なんや?〉

〈また考察の時間か?〉

〈もう兄悪魔ダメそうやねw〉

〈お嬢語彙力がw〉

〈草〉

〈オタクおるw〉

〈レイチェル出てきてから兄悪魔デレデレで草〉

〈こんなモーションあるんや〉

〈見たことない〉

〈もう兄妹そろってだめみたいだw〉

〈知らんかった〉

〈めっちゃかわいい〉

〈お嬢も可愛い〉

 

 わりとハードな難易度のこのゲームが、選択肢だったとはいえわざわざガンショップという救済措置を用意していたということは、これから赴く先には相応の難所が待ち受けているのだろう。研究員の家で出会した強盗犯などとは比べ物にならないはずだ。

 

 少々気を引き締めてかからなければならない。

 

 何があってもこの子だけは守らなければ、と決意を新たにする。主人公はレイチェルの手を取り、歩みを進めた。

 

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