サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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ハッピーエンド。

 

「ふう……。やっと一段落、ってところかな」

 

 めろさんとの通話を終えて、長く息を吐きながら僕はぐぐっと背伸びをした。

 

 これでデビュー配信から続いていた騒動も完全決着だ。

 

 おそらくめろさんのグループに影響された荒らしはこれからもちらほら現れるだろうけれど、それらは個人個人で好き勝手に動いているだけ。統制も連携も取れていない烏合の衆以下の荒らしなんて、特別に対策を用意する必要もない。

 

 基本的には無視、あまりに目立つようならブロック。一般的な対処で問題は起きないはずだ。

 

 これだけ無駄に目立ってしまったことだし、再び法的措置をしなければいけない事態になんてそうそうなりはしないだろう。

 

 直近で頭を悩ませている課題としては、はたしてどのように切り抜き師(めろさん)の話を安生地(あおじ)さんにするかである。

 

 めろさんとの通話ですら、だいぶ渋られたのを強引に認めてもらったのだ。その上さらに公認切り抜き師として承認してください、とお願いするのはかなり心苦しいものがある。どんな顔して言えばいいやら。

 

 この際、菓子折り持参で直接事務所に話をしに行くのも一つの手である。これまで多大なるご心配をかけたお詫びと、これからも過大なるご迷惑をおかけすることになってしまうだろうことを先に謝っておくのだ。

 

 先のことはまた今度考えるとして、とりあえず安生地さんへの報告を早々に済ませてしまおう。

 

 通話が終わったら、どのような話をしてどのような結果になったのか、詳細に教えてほしいと念押しされていたのだ。すべて方がつきましたよ、と吉報を送ることができそうでよかった。

 

 それでは早速安生地さんへのメッセージを打とうかな、と思った矢先、扉をノックする音が聞こえた。ノックする音が、どこか剣呑な雰囲気を漂わせていたように聞こえたのはきっと気のせい。

 

 そう。課題はもう一つあったのだった。

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

 椅子から立ち上がり、返事をしながら扉へと向かう。

 

 ふだん僕の部屋には鍵なんてかけないけれど、めろさんとの通話中に礼ちゃんが部屋に突撃してきそうだったので、今回ばかりは施錠していた。

 

 鍵を解いて、扉を開く。

 

 開いた瞬間に、視界の下のほうに黒い影が迫っていた。

 

「わっ、ちょっと、礼ちゃん? ちょっ」

 

 お腹のあたりに抱きついた礼ちゃんは、しかしそのまま止まることなく、さらにぐいぐいと前進する。

 

 無理にその場に留まってしまうと礼ちゃんが体を痛めてしまうかもしれないので、押されるがままに僕は後退していく。

 

 僕の部屋はラグビーごっこができるほど広大ではないのですぐに限界がきた。

 

 踵やふくらはぎに物が当たる感触があり、これ以上後ろに退がれない状態でさらに礼ちゃんに押し込められたのでバランスを崩して仰向けに倒れる。倒れた場所がベッドだったのは、きっと偶然ではないだろう。僕の部屋に入り浸る礼ちゃんなら、扉からベッドまでの方向と距離くらい目を瞑っていてもわかる。

 

 ベッドに倒れ込んだ僕の上にかぶさるような形で、礼ちゃんも一緒に倒れ込んでいた。

 

 ぽそりと、サーモグラフィでも計測できなさそうなほど低い温度感で礼ちゃんが言う。

 

「話、長かったね」

 

 肝が冷えた。

 

 もしかして聞いていたのだろうか。めろさんと通話していた短くない時間、扉の前で、ずっと、静かに。

 

 想像すると怖いので詮索はやめておいた。

 

「まあね。お互い積もる話があったからね。でも有意義な時間になったよ。昨日の配信で荒らしていたグループは解散、唯一諦めていなかっためろさ……荒らしグループのリーダー的存在の人も」

 

「いいよ。『めろさん(・・・・)』で。そう呼んでたもんね? 親しげにね?」

 

 聞いていたらしい。

 

 いや、僕の声が大きくて礼ちゃんの部屋にまで声が漏れてしまっていただけ、という可能性も残されている。希望を捨てるにはまだ早い。

 

「そ、そう。めろさんも、今回よくお話ししたら和解できたんだ。だからこれで困っていた問題は解決ってこと。礼ちゃんも、もう安心していいよ」

 

「うん。それは本当に嬉しいな。これでやっと、お兄ちゃんが自由に活動できるわけだもんね」

 

 そう言って、ようやく礼ちゃんがその端整なお顔を見せてくれる。文句のつけようがないくらい、とっても愛らしい笑顔だ。なのに、どうしてか背筋が寒くなる。

 

「そうだね。これからゆっくり時間をかけて『New Tale』を推してくれているリスナーさんに受け入れてもらえるように頑張って、いずれ同期の四人や先輩たちとも一緒にゲームとか──」

 

「お兄ちゃん」

 

「はい」

 

 喋っている途中で、礼ちゃんに呼ばれた。

 

 その『お兄ちゃん』という一言には到底収まりきらないほどに、僕を咎めるようなニュアンスが含まれていた。

 

「荒らしの人……めろさん(・・・・)とどんなことをお話ししたのか、私気になるなあ。教えて?」

 

 この場合、末尾の訊ねるようなイントネーションに意味はない。

 

 もともと礼ちゃんにお願いされれば否やはないし、そもそも礼ちゃんだって無関係とは言えないし、なにより今の礼ちゃんであれば答えなければ僕の身が危険だ。

 

 話した。

 

 それはもう、立て板に水というか、俎板(まないた)の鯉というか、とにかく淀みなく、しかし一から全部となると時間がかかりすぎるので要点を抜き出して、なるべく事細かに話した。

 

 僕が話している間、僕の胸におでこを当ててうつ伏せにひっついている礼ちゃんが言葉を発することはなかった。それがかえって圧力があり、釈明の口上にも熱が入る。

 

「──それで、めろさんには罰という名目で切り抜き師をやってもらうことにしたんだよ」

 

 しばし僕の独演会が開催されたが、これにてようやく閉会だ。めろさんとたくさん話した後にこの弁解なので、少々喉が渇いてきたし口も疲れてきた。

 

 礼ちゃんがどんな反応をするのか、緊張しながら待つ。

 

 なんなら、めろさんと通話している時のほうがリラックスしていた自信がある。めろさんは最初は緊張していたのか固い喋り方だったけれど、慣れてくるととてもラフな言葉遣いをする人で、フランクな対応はとても新鮮で話していて楽しかった。共通点もあることだし、めろさんとはこれから仲良くやっていけそうだ。いずれ友人と呼べるくらいの間柄になれたら嬉しい。

 

 などと考えていると、ごすっ、と胸部に衝撃を感じた。どうやら頭突きしたらしい。

 

 どうしたのだろうと思って目を向ければ、長い黒髪の隙間から、つぶらな瞳が僕を射抜いていた。黒目の大きな瞳は、なぜか夜の海を彷彿とさせた。その真っ暗闇の奥に何が潜んでいるのかわからないあたりが、特に酷似している。

 

「女のこと考えてる」

 

 たしかにめろさんのことを考えていたし、めろさんは女性だけれど、なぜわかるのだろう。そんなに僕は考えていることが顔に出るのだろうか。

 

「いや、ちょっとめろさんのことをね。通話を──」

 

「へえ。めろさんとかいうのは女だったんだね。仲良くなれて、よかったね?」

 

 礼ちゃんはすべてを明瞭に聞いていたわけではなく、ところどころが聞こえていただけだったようだ。迂闊、鎌をかけられた。

 

「つっ、通話を切る直前の話している感じだともう大丈夫そうだったんだけど実際のところどうなんだろうなあって考えてたんだよ」

 

 ダークサイドに堕ちた礼ちゃんはとても怖いので勢いで押し切ることにした。論理的な説得が効く相手と効かない相手というのがこの世には存在している。

 

 めろさんとは切り抜きの件をお願いしてからも少しだけ話を詰めたりしたけれど、その時は声に活力を感じられた。あの様子なら大丈夫だとは思っているが、僕とめろさんは直接顔を見て話していたわけではない。音声でのやり取りだけだったのだ。

 

 通話を終えた後、めろさんが部屋で一人きりになった時、精神状態がどちらに振れるか、心配な面は確かにある。

 

「お兄ちゃんはさ、荒らしていた人たちのこと恨んでないの?」

 

「え?」

 

 礼ちゃんの問いに驚いて、天井に逃していた視線を再び礼ちゃんに戻す。

 

 暗澹(あんたん)としていた虹彩は取り払われ、心配するように僕のことを見ていた。

 

「お兄ちゃんを苦しめていた人たちだよ。めろさんとかいう女はそんな人たちの首魁(しゅかい)なんだよ。あんな人たちがいなければ、お兄ちゃんはいらない苦労をせずにすんだし、もっと楽しく配信できてたはず。もしかしたら今頃はもう同期の子たちともコラボとかできてたかもしれない。なんでお兄ちゃんの配信活動を邪魔してた張本人を気にかけたりしてるの?」

 

「首魁とはまた妙な言葉を……。別に恨んでないよ。前も言ったでしょ? この炎上騒動がなくたって『New Tale』からデビューする時点で多少なり問題は起こっていたはずなんだ。このくらいは想定内だよ。むしろ礼ちゃんとのコラボのおかげで思ってたより早く終わったくらいだ。ありがとうね、礼ちゃん」

 

「納得できない。そんな言葉で誤魔化されないんだから。あいつら、お兄ちゃんを好き勝手馬鹿にして、侮辱して……っ! そのくせ開示請求されそうになった途端に逃げて! 謝れば許されるなんて思ってッ! あいつらッ……ッ!」

 

 礼ちゃんが僕の服を掴んで叫ぶように言う。硬く握り締められた手は震えていた。

 

 それだけ礼ちゃんは怒りを堪えていたのだろう。これまでその激憤を口にしなかったのは、きっと僕が気に病むと思って我慢していたのだろう。

 

「さすがに誹謗中傷していた人全員に開示請求は無理があるからね。謝罪どうこうっていうのは選り分けるための(ふるい)。言い方が悪くなるけど、見せしめみたいなものだよ。素直に謝罪する人は、これからは開示請求を恐れて荒らし行為なんてやらなくなる。それを聞いてもなお誹謗中傷を続けようとする人には適切に対処していく。そうしたほうが対処しないといけない数が減るし、将来的な荒らしへの抑制にもなる。謝れば開示請求しないっていうのは、そうしたほうが都合がよかっただけなんだ。気にすることないよ」

 

 謝罪をすれば法的措置は行わないけれど、礼ちゃんへ誹謗中傷や犯罪予告などの違法行為をしてきた人まで許すとは言っていない。そちらの人については厳格に対応していく所存である。礼ちゃんを傷つけるような真似をしたのだ、逃すつもりなどない。

 

「あの首魁も見逃すの?! 荒らしてた奴らのリーダーなのに?!」

 

「礼ちゃん、落ち着いて。もう時間も遅いんだから、近所迷惑になっちゃう」

 

 冷静になってくれるように、怒りに打ち震える礼ちゃんの手に手を重ねる。力が入って白くなった礼ちゃんの手は冷たかった。

 

「通話の時だって絶対卑怯なことしようとしてたはずだよ! 捏造動画作った奴なんだから!」

 

 礼ちゃんの言っていることは正しかったりする。死なば諸共マインドだったはずの通話前のめろさんなら確実に策を用意していただろう。でも配信ならともかく、個人的な通話になったのでそこまで大それたことはできない。

 

 めろさんの編集技術を考えると、通話を録音するといったところか。録音した音声を後日切り貼りしてそれっぽい会話を捏造する、くらいのことは考えていたはずだし実行もできたはずだ。

 

「大丈夫、大丈夫だよ礼ちゃん。和解したからそんな心配はもう必要ないし、仮に和解できなかった場合でも問題はないよ。これでも発言の内容には気をつけてたんだから」

 

 それに、こちらも録音くらいはしていたし。

 

「責任を取らせるべきなんじゃないの?!」

 

「めろさんはグループの中心的な人物だったけど、それは担ぎ上げられただけなんだよ。技術もあって、切り抜き動画も投稿していて、名物リスナーみたいな感じで知名度もあった。都合がいいから、リーダー的なポジションを押し付けられただけなんだ」

 

「そんなの関係ないよ! 実質的に指揮していたのはそいつなんでしょ?! なんで許せるの?!」

 

「指揮していたって言っても、やり過ぎているメンバーを(たしな)めたりする役が多かったんだ。グループの方針から外れてメンバーの一部がレイラ・エンヴィにまで誹謗中傷や犯罪予告をし出した時も、暴走していたメンバーを最後まで注意してたんだよ」

 

「自分が集めた荒らしたちの手綱を握れなかったそいつが悪いんだ! 勝手に動いたから私には責任ありませんなんて都合が良すぎるよ!」

 

「別にめろさんが集めたわけじゃなくて、推しの女性がいなくなって悲しんでた人たちが集まってできたのがあの荒らしグループだったんだよ。そもそも、めろさんは推しの女性が事実上引退した時もどうにか現実を受け入れようとしてたんだ。時間があれば乗り越えられていた。乗り越えて踏ん切りをつける前に外野がめろさんを(そそのか)して悪意を吹き込んだせいで、男への憎悪を抑え切れなくなってしまっただけなんだ。外野の甘言に流されてしまっためろさんにも、もちろん責任はあるよ。だけど唆した人たちや、暴走したメンバーがやらかしたことまでめろさんの責任にしてしまうのは、僕は違うと思う」

 

 めろさんは言っていた。

 

『男女でコラボなんてしなければ自分たちは……自分は、こんなに苦しむことはなかった。推しに会えなくなるようなことにはならずに済んだはずです』

 

 男女でのコラボ云々という激しすぎる主張に話の焦点を合わせそうになるが、肝要なのはそこではない。めろさんの『こんなに苦しむ』理由は『推しに会えなくなる』という部分だ。見誤ってはいけない、履き違えてはいけない。論点はここなのだ。

 

 めろさんの深層心理では、推しが男と付き合っているのは別にいいと考えていた。めろさん自身は男嫌いだけど、だからといって推しの女性にまで自分の考えを押し付けるほど傲慢でもなければ、男と一切の関わりを断つように強要するほど潔癖なわけではなかった。それを表に出さないのであれば、構わなかった。どれだけ自分が愛していても推しと結ばれることはないという現実をちゃんと理解していた。

 

 現実を、許容できていたのだ。

 

「でも、でもっ、でもっ! 許せないっ……許せないよそんなのっ! だって、お兄ちゃんは無関係だもん! その女にも理由があったのかもしれないけど! それとお兄ちゃんは関係ないのに!」

 

「まあ、たしかに関係ないと言ってしまえば関係ないね。でもね、めろさんが腹を割って話してくれたおかげでわかったんだ。めろさんは僕が礼ちゃんを大事に思っているのと同じくらい、推しの女性のことを想っていたんだって」

 

「んっ……むう」

 

 めろさんが一番悲しかったのは、もう二度と推しを見られない、推しの活動を応援できないことだった。推しに自分の存在を認めてほしい、自分のことを見てほしいなんて気持ちはなかった。推しがいてくれれば、笑って配信してくれていればそれで満足できていた。

 

 観ることも、聴くことも、応援すらできなくなったから、途方もないほど絶望して、傷ついて、悲しんだのだ。

 

 なのに、それほどの絶望や傷心、悲哀を抱えながら、それでも推しが幸せになるのならと、そう納得しようとしていた。自分のぐちゃぐちゃになった心にどうにか折り合いをつけようとしていた。

 

 外から悪意や憎悪を煽られなければ、めろさんは前を向いて歩き直すことができていたはずだった。余計な愚か者が接触しなければ、めろさんの純粋な想いが歪むことはなかった。

 

「その愛情の大きさに気づいた時、めろさんの事情を考えたら、身につまされる思いだった。自分が似たようなことに遭遇したら、どうするだろうって。どうなるだろうって。もし、例えば、礼ちゃんがある日突然僕の前からいなくなって、もう二度と顔も見れない、言葉も交わせない、触れ合うこともできないってなったら、どうなるんだろうって。想像してみたんだ」

 

 自分の前からいなくなるのに、もう会えないのに、それでも愛している人の幸せを祈ることが、めろさんにはできていた。

 

「僕ならきっと、耐えられない」

 

 めろさんの為そうとしたそれは、未熟な僕にはできない立派なことだ。尊敬すべき、素晴らしい人だ。

 

「礼ちゃんは? 礼ちゃんならどう思う? 自分にとって何よりも大事な人が突然いなくなったとしたら」

 

 考えてみて、と促すと、礼ちゃんはじっと僕を見て、眉を寄せて、瞳を潤ませて、唇を噛んだ。

 

 二度三度口を開閉して、ようやく喋る。いや、喋ろうとする、といったほうが正しいか。

 

「っ……っ、むり……しぬ。おに、ちゃ……いなく、なっだらっ……。も、あえ、なっ……んぐっ、じぬ」

 

 およそ言葉にはなっていなかった。

 

 瞼をきつく、おそらくは力いっぱいに閉じているのだろうけれど、それでもぽろぽろと溢れ出る涙はまるで止まることを知らず、僕の服を濡らしていった。

 

 めろさんの気持ちに少しでも寄り添ってほしい、少しでも共感してほしいと思って礼ちゃんにも想像してもらったのだが、どうやら効き過ぎたようだ。想像するだけでそこまで駄目なのか。

 

 ぽろぽろと大粒の涙を流して悲しそうにしている礼ちゃんを見るのは僕も辛いけれど、大事な人としか言っていないのに僕のことを連想してくれて、しかもここまで泣いてくれているのを見ると少し嬉しくも思ってしまう。お兄ちゃん冥利に尽きると同時に、だめなお兄ちゃんだ。

 

「礼ちゃんにはもう少しだけ耐えてほしかったけど、僕も同じだから強くは言えないや……。でも、めろさんはその苦しみを一人で耐えて、悲しみをどうにか呑み込んで、乗り越えようとしていたんだよ。自分のことは二の次で、愛した人のことを最優先にして、その人が幸せになるのならそれでいいって、そう納得しようとしてたんだ。その努力だけは知っていてほしいし、できるなら認めてあげてほしい」

 

 めろさんが僕の配信の切り抜きを作るとなれば、現状僕のコラボ相手率驚異の百パーセントを誇る礼ちゃんも多く登場することになる。僕一人での配信ももちろんしているけれど、コラボする頻度は高いし、予定がなくてもなんだかんだでコラボみたいな配信になることが間々ある。僕の配信を切り抜くとなれば、礼ちゃんは避けて通れない存在なのだ。

 

 礼ちゃんとめろさんで直接お話しする機会があるとは思えないけれど、広いニュアンスでは仕事仲間みたいな間柄になるのだ。悪感情を持ったままでいるのは違う火種を生むかもしれない。仲良くして、とまでは言わないから、万が一お話しする機会があった時、最低限のコミュニケーションが取れる程度の関係ではあってほしい。

 

「すんっ……ぐすっ、わがった……。まだぜんぜん許せないし、好きになれるとも思えないけど、同情する境遇に置かれてたことは……理解した」

 

「ありがとうね、僕の話聞いてくれて。礼ちゃんがそこまで怒ってくれて嬉しいよ」

 

 礼ちゃんは決して短気な性格ではない。温厚、とは言えないかもしれないけれど、それでも他人の痛みに共感できて優しくできる心の清らかな子だ。

 

 礼ちゃんが怒る時は、大抵僕が絡んでいる場合が多い。他人からの言葉に何も感じることができない冷血な僕の代わりに、礼ちゃんが感情を(あらわ)にして怒って、悲しんで、泣いてくれるのだ。人情味があって、血の通った人間味のある礼ちゃんが、僕はとても愛おしい。

 

「聞き分けが悪くてごめんなさい……。でも、やっぱりすぐには許せなくて……」

 

 礼ちゃんはまるで頭を下げるように、顔を僕の胸元にひっつける。

 

 気持ちが伝わるように、その頭に手を置いた。

 

 それはこれっぽっちも謝ることではない。礼ちゃんは僕のためにしてくれているのだ、嬉しくは思えど気分を害することではない。

 

「和解したから今すぐ許せ、なんて僕も言えないよ。めろさんには辛くて悲しいことがあったけど、だからといって罪を犯した事実が消えるわけじゃない。でも今は反省してるし、後悔もしてた。罪と向き合う覚悟も、罪を償っていく決意もしてる。だから今後、めろさんの行いを見て、それで礼ちゃんが許すかどうか判断すればいいんだ。礼ちゃんがどんな判断をしても、僕はその判断を受け入れるよ」

 

「……うん、わかった。……ありがと」

 

 そう言って、しばらくじっとしていた礼ちゃんは納得できたのか、ここでようやく僕の上から降りる。もぞもぞ動いてベッドの端に腰掛けた。

 

 一区切りついたようだ、よかった。

 

 あとは報告書を提出すれば、すべて終わりだ。みんな幸せ、ハッピーエンド。

 

 僕は当初のタスクである安生地さんへの報告を済ませるべく、PCの前へと向かう。

 

 通話を繋いでめろさんとの通話内容を報告したほうが早い気もするけれど、時間も遅くなってしまったし通話の内容もかなり濃密だった。音声で内容を説明しようとすると抜けや漏れが発生しないとも限らないし、聞き間違いや解釈の違いなど誤解も起こりかねないので文章で報告することにした。そのほうが安生地さんもいつでも確認できるし楽だろう。

 

「そうだ、お兄ちゃん」

 

「うん? なに?」

 

「最後に一個だけ確認したいんだけど、いい?」

 

「確認? うん、どうぞ」

 

 安生地さんへ送る報告の文章をかたかたと打ち込みながら、礼ちゃんへ答える。

 

 報告書はできるだけ精確に仕上げたいけれど、そうなるとめろさんのプライバシーに干渉しそうで、塩梅が難しいところだ。

 

 軽快にキーボードを叩く僕に、礼ちゃんは大きく息を吸って、凛とした声で。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんは、どこからどこまで仕組んでたの?」

 

 

 

 

 




「もう一度初めから読んでもらえる機会があった時、一回目に読んだ時と次読んだ時に違う印象を与えられるような作品にしたかった」などと犯人は供述しており……。
こんなサブタイしておきながら終わりじゃないという。お兄ちゃんにとってはこれでハッピーエンドだったので嘘ではないです。

次回こそ最終回、別視点です。始まりがそうなのだから、最後を締めるのはあの子しかいませんね。
古のオタク的に言うと祭り囃子編ってところです。
最後までお付き合いいただけるととても嬉しいです。


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文量といいストーリーの進み方といい、かなり読む人を選びそうなこの作品でこんなにたくさんの人に読んでいただけるだけならず、ここまで評価をいただけるなんて思っていませんでした。とても嬉しいです。ありがとうございます。

最後まで楽しんでもらえるような作品になっているといいな。
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