サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
よろしくお願いします。
「寝かしつけてしまおう」
画面中央奥、
シリンジでなんらかの薬剤を注射し、さあダウンした仲間を起き上がらせよう、といったところで、そのプレイヤーに照準が合わさる。
『起こさせないよ。蘇生してる人狙おう』
特にこれといって特徴はない、強いて挙げれば聞き取りやすいくらいの凡庸な声で、僕が──動画の中では僕のヴァーチャルの姿であるジン・ラースが、パーティメンバーに指示を出す。
『おっけー!』
その声だけで全人類が恋をすると言っても過言ではないほど超絶可憐に返事をしたのは、ヴァーチャルの姿ではレイラ・エンヴィと名乗っている僕の妹、
動画内の映像は僕がプレイしていた時の動画なので画面上に礼ちゃんは映っていないけれど、たしかこの時は僕が足場にしているコンテナの物陰から相手を狙っていたはずだ。
〈りょ〉
ゲーム内のチャット欄で短く返事をしたのは少年少女Aさんだ。少年少女さんとはVCを繋いでいないので、ゲーム内のチャット欄やシグナルで意思疎通をしている。
少年少女さんとの出会いは僕と礼ちゃんが配信で初めて、三人一パーティで戦っていくこのFPSゲーム『
三人一組で戦っていくこのゲームは、デュオでゲームを開始した場合、もう一人の枠にはソロでプレイしている人が加わる。その時に入ってきたのが、この少年少女さんだったのだ。しかもその時偶然僕らの配信を視聴していたらしい。僕が出しているオーダーも聞こえるし、指示を出せば従ってくれるし、ファイトは強いし、配信に載せてはいけない暴言や汚い言葉も使わないし、いい具合にゲーム内のチャット欄から話も振ってくれる。これほど素晴らしい人材はいない。
ということで、その試合が終わった後フレンド登録をして、一緒にFPSをするようになった。僕と礼ちゃんでFPS配信をする時はかなりの確率で少年少女さんが一緒にいる。僕と礼ちゃんには配信上で一緒にFPSをしてくれる友だちがいないのでとても助かっている。
「……ここからだよ」
僕の膝の上に座る礼ちゃんが、憮然といった口振りで呟いた。
『フォーカス、カウント』
この貴弾というゲーム、エナジーコートと呼ばれる外部装甲のような要素があり、特別強力な銃で頭を射抜かない限りは一発で相手を仕留めるということができない。なので味方全員で敵に集中砲火を浴びせて相手パーティの一人をダウンさせ、人数有利を作ることが大事なのだ。
そうやって三人いるパーティメンバーの全員が倒す敵を決めて一斉に撃つことを、フォーカスを合わせる、と表現する。タイミングがずれると狙っている相手が逃げてしまうので、三人が撃つタイミングを合わせることが肝なのだ。
『よしっ……』
「ほら、聴いてよお兄ちゃん。この、やってやるぞおっ! ……って気合が入ってる私の声。ほら、聴いて。ねえ」
そう
天使の輪っかが浮かぶほどつやつやした礼ちゃんの黒髪はとても肌触りがよく、何よりどこか甘い匂いがして、僕にとってはまったく罰にならない。
『三……四、五』
〈草〉
『っんああ増えてる! 数字が! いつ撃てばいいの?!』
『撃て撃てー』
『フォーカスってなんだったの?!』
まず僕が、次いで半拍遅れて少年少女さんが、そして少年少女さんから一拍遅れて礼ちゃんが撃ち始める。
ダウンした仲間を起こそうとしていた相手は横腹を突かれるような形で襲われるとは思ってなかったのか、蘇生行動をキャンセルできずにそのまま僕らに蜂の巣にされてダウンした。
漁夫の利を狙い狙われるのはバトルロイヤル系FPSの常だ、警戒を怠ってはいけない。
『残りの一人、AR持ってる人もすぐ倒そう。彼らと戦ってたパーティは安地の収縮がすぐ後ろに迫ってきてるから無理に攻める必要はない』
バトルロイヤル系のFPSは広大なフィールドから始まり、次第に自由に動ける安全地帯が縮小していく。その縮小のことを安全地帯収縮、略して安地収縮と言い、安全地帯の外は立っているだけでダメージを負うので、プレイヤーは安全地帯の外で耐久するといった作戦がない限りは基本的に安全地帯内に入ろうとする。安地外ダメージを受けないように無理に安地に入ろうとすれば隙が生まれ、すでに安地内で待ち構えているほう、つまり僕らは有利に戦えるのだ。
『このポジションで待ち構えるよ。こっちに入ってこようと動いたところを牽制して押さえ込む。物資に余裕あるから投げ物も使っていいよ』
『冷静にオーダー出しても誤魔化されないからね! さっきのフォーカスについては問い詰めるからね!』
『礼ちゃん落ち着いて。北の坂上に別パーティが見えた。攻めてくるかもしれない。注意して』
『なんで私が間違ってるみたいな扱いに?!』
礼ちゃんの嘆きをきっかけに、音声はそのままで画面がワントーンほど暗くなる。
礼ちゃんが愛らしい小動物のようにわーきゃー叫びながら遮蔽物に身を寄せて北側を見据え、僕が抑揚のない平坦な声でオーダーを出しながら坂上の岩陰から頭を出していたプレイヤーをスナイパーライフルで撃ち抜き、少年少女さんは安地収縮に呑まれながら押し寄せてくる南側の敵を牽制しながら器用にチャット欄に〈クラスマッチとは思えなくて草〉と打っていた。相変わらずタイピングが速くて正確だ。
画面下部にテロップで『このあとなんやかんやで全員倒しました』と表示された。
格好良いエンディングが短く流れて、ジン・ラースとレイラ・エンヴィのチャンネル登録を勧める文言が表示され、動画は終了だ。
「ほら! 動画のコメント欄見てよ! 〈お嬢……〉〈妹悪魔不憫でくさ〉〈この日もツッコミキレキレやった〉とか書かれてる! 誰がツッコミだあ!」
「リスナーさんの反応良くていいね。再生数も伸びてるし」
「お兄ちゃんのせいだよこんなに反応良いのは! 大事な場面で! 真剣なトーンで! 急にふざけるから!」
「ごめんね、礼ちゃん。でも思いついちゃったものは仕方なくない?」
「その思いつきのせいで私がパニックになってたでしょ! 言いたくないけどあの時エイムぶれまくって、敵動いてないのに一点しか当たらなかったんだからね!」
「そこは礼ちゃん自身になんとかしてもらわないと。僕では礼ちゃんのエイム練習に付き合うくらいしかできないんだから」
「お兄ちゃんがボケなかったらあんなにエイムぶれなかったよ!?」
「それは過去の僕に言ってよ。現在の僕に罪はないよ」
「たった二日前のお兄ちゃんだよおっ!」
やいのやいの文句を言いながら、礼ちゃんは僕の腕をぐいぐいと押しては引っ張ってを繰り返す。
礼ちゃんは抗議したい様子だが、しかし僕は口頭での抗議やクレームは受けつけていないのだ。ちゃんと書面で用意してもらわないと当方では手続きを行いかねます。
膝の上で躍動感いっぱいに暴れ、もとい動く礼ちゃんが落ちないよう、シートベルト代わりに腰に手を回しておく。まあ、そのうち落ち着くでしょう。
「それにしても……めろさんの切り抜き動画は本当に見やすいなあ。会話は全部字幕つけて、僕と礼ちゃんで色を分けて、状況によってフォントまで変えてる。効果音とかも要所で入れてるし、しっかり少年少女さんのチャットも見やすいように拡大してくれてる……すごく手が込んでるよ」
「むぅ」
礼ちゃんが小さく唸った。
僕が強引に話を変えたと思ったのか、それともめろさんの話題を出したからか、もしくはその両方か。
「それは……たしかに。この丁寧さで切り抜いてくれる人なんて、私見たことないもん。しかもこの切り抜きが上げられたのって、私たちが配信終了した一時間後なんだよ? ありえなくない? クオリティも編集の速さも異次元すぎ」
「いやあ、技術はあると思ってたけど、想像を超える腕の良さだよね」
「『
礼ちゃんは複雑な思いを抱えながらも、この切り抜き動画の制作者の高い技術力は認めてくれた。
今は『mellow:ジン・ラース切り抜きch』と名乗っている切り抜き動画の制作者は、以前僕の配信やSNSを荒らしていた人だった。しかし、とある機会からコミュニケーションアプリを介して通話することとなり、その結果、無事和解したのだ。
そこからは僕の配信の見所を切り抜いて編集し、短い動画にして動画共有プラットフォームにアップする、いわゆる切り抜き師をしてくれている。
配信者は、まずリスナーさんに知ってもらわなければいけない、という大きなハードルがある。いくらライブ配信をしようと、存在を知られていなければ配信にきてもらえない。
こういう見やすいように編集された切り抜き動画は、リスナーさんに僕らの存在を知ってもらうのにうってつけなのだ。名前を憶えてもらえればライブ配信に足を運んでもらえる可能性が上がる。ライブ配信を観にきてくれて、それで面白いと思ってもらえれば、僕らのチャンネルを登録してもらえる。
いうなれば広報活動に等しい。商品を買ってもらうために試供品を贈るのと理屈は同じだ。
実際に僕らの切り抜き動画が出回るようになってから、ジン・ラースもレイラ・エンヴィもチャンネル登録者数が急激に伸びている。効果は確実にある。
そうやって僕らの活動を後方から支援してくれている切り抜き師さんのことを、僕は親しみを込めて『めろさん』と呼んでいるのだ。
「しかもめろさんが上げてる動画、この一つじゃないしね。あの日の配信の切り抜き、三つ? 四つかな? それくらい上げてくれてる。しかもクオリティは落とさないで。とんでもないね」
「それだけ切り抜くところ多いっていうのもまたすごいけどね……。お兄ちゃんが隙あらばふざけるから」
「ふざけてるわけじゃないよ。ただ、思いついたことをやらずにいられないだけなんだ。それに礼ちゃんが毎回綺麗に拾ってくれるから、僕も喋りやすくてね。口が滑っちゃうんだ」
「そのせいで切り抜きの温度差すごいよ。かっこいい切り抜き、お笑い切り抜き、かっこいい切り抜き、お笑い切り抜きで上下の幅がとんでもないことになってる。戦ってる時だけは文句つけられないくらいかっこいいのがずるいよ」
「毎回同じパターンじゃ飽きるもんね。めろさん、よく考えてるなあ」
「お兄ちゃんが事あるごとにボケるからでしょ。ていうかお兄ちゃんだけじゃないけどねっ! 少年少女さんもチャット欄で笑かしてくるし! 先にダウンした時とか、嬉々としてチャット欄で遊んでるよ! タイプが速いっていうのも考えものだなあ……ふふっ」
少年少女さんに苦言を呈するような言い方だけど、礼ちゃんの表情は朗らかだ。
僕がそうであるように、礼ちゃんも少年少女さんのことをかなり気に入っている。直接会ったことはおろか通話したこともないけれど、一緒にゲームをしてくれて配信を賑わせてくれる友だちだと思っているのだろう。僕としても、少年少女さんは良き友人だ。わりと頻繁に連絡くれるし。
「そうだ。切り抜きといえば、
「だよね! めっちゃいいよね! 夢結も寧音ちゃんもすっごいがんばってくれてるんだよ!」
黒髪で制服も校則に反する事なく装飾品もつけていない礼ちゃんに対し、夢結さんは髪は輝くような金髪に染めていて制服もだらしなくならない程度のおしゃれな感じで着崩している。外見的な印象では礼ちゃんとは正反対だけれど、性格は真面目で優しく、とても気遣いのできる礼儀正しい子だった。
そんな夢結さんにはお姉さんと妹さんがいらっしゃって、三姉妹で創作活動をされている。同人誌という形式で、漫画の制作と販売をやっているのだそうだ。個人や小さなグループで出している漫画、というニュアンスでいいのだろうか。
漫画のジャンルとしてはBLというジャンルを多く世に出している、と本人から直接話を聞いたことがある。礼ちゃんも夢結さんたちのサークルの本を持っていると言っていたのだけど、僕も読みたくて借りようとしたら断られてしまった。解せない。借りずに買って夢結さんたちのサークルの売り上げに貢献しろということなのかな。
もうずいぶんとそういう創作活動を続けているらしく、夢結さんはとても絵がお上手なのだ。その腕を見込んで、礼ちゃんが夢結さんに手描き切り抜き用の絵を描いてほしいと依頼した。手描き切り抜きとは、元の配信の音声だけを切り抜いて、配信の映像の代わりにイラストで表現するという切り抜きだ。
高校三年生という、人生の中でも指折りに忙しくなる時期にそんな依頼は大変だろうに、夢結さんは『困っているのなら手伝わせて』と快く引き受けてくれた。それどころか、中学三年生という、これまた多忙極まる時期の寧音さんまで手伝ってくれているとのこと。頭が上がらない。感謝しかない。
「ジン・ラースとレイラ・エンヴィの特徴を掴んでデフォルメ化した絵がとても可愛いんだよね。とくにレイラの表情はころころ変わるし、動きもあってすごく良い」
「私もデフォルメ絵のほうも可愛くて好きだけど、かっこいい系の切り抜きも好きだなあ。途中まではデフォルメ絵でぴょこぴょこ動いて、相手にとどめを刺すシーンの時に一枚絵で、ずどんって見せてくる演出。お兄ちゃんが相手にトドメ刺した時のイラストめっちゃかっこよかった!」
礼ちゃんの言う動画は、僕も観た。というか、夢結さんと寧音さんの二人で使っている『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』の投稿する動画はすべて観させてもらっている。
礼ちゃんが絶賛するそのシーンは貴弾の配信の切り抜きのものだ。
試合の終盤、残る敵は一パーティで、そのパーティの生き残り、最後の一人を僕が仕留めた、というもの。
岩裏で回復していた相手を囲い込むように礼ちゃんと少年少女さんが左右を回り、僕は射線を複数通すために岩に登って相手の頭上を取ろうとしていた。
岩上に到着して、岩上から撃ち下ろして倒してしまってもよかったのだけど、たくさんのリスナーさんが観てくれているのだからと思い、少し配信映えを意識してみた。
まずは一発、岩上から相手の頭を撃ち抜く。相手の視点が上に向いて僕を捉える前に視界から外れるように岩から飛び降り、飛び降りている最中に二発目。僕の姿を探していた相手が振り向く前に格闘コマンドで殴りつけ、若干のダメージとノックバックで相手が怯んでいる間に僕は一言相手の奮闘を労い、真正面に立ちながら強力なピストル、スウィングワンで相手の頭を撃ち砕いて試合に勝利した。
という一連の流れだったのだが、手描き切り抜きでは最後のシーンが誇張されていたのだ。
格闘で殴られた相手は尻もちをついた、というイメージで描かれており、その尻もちをついた相手の上半身をジン・ラースが踏みつけ、いつもは閉じている瞼を少し開いて赤い瞳を覗かせながら、笑みを浮かべてピストルを突きつける。『ご苦労様』の一言で銃声が轟き、画面は暗転。
倒された相手側の視点でイラストが描かれているのがまたお洒落なのだ。
身を守るように、あるいは許しを乞うように手を伸ばしてくる相手を、まるで気にした素振りも情けをかけることもなく、笑顔で頭にピストルを突きつけるジン・ラース。逆光になって影がかかった顔に、血のような濃い赤色をした瞳がぼんやりと浮かび上がる演出。
銃声をきっかけに動画が暗転したのは、視点となっていた相手が亡くなったことを表現している。加えて、『ご苦労様』と言った時に口の形を滑らかに変えて、まるでイラストのジン・ラースに僕がアフレコしたような動画になっていた。実にユニークな演出と秀逸な画力だった。
ただ、あのイラストの構図だと僕がとんでもなく無慈悲な悪魔に見えてしまう。ジン・ラースは悪魔ではあるけれど、慈悲はあるつもりなのに。
「いや……あの動画とイラストは僕も好きだよ? でもイラストに力が入ってるぶん、なんだか悪役感が際立ってない? 大丈夫かな?」
「悪魔だもん、ぴったりだよ。ほら、コメント欄でも大好評だよ。〈めちゃくちゃかっこいい!〉とか〈私も踏まれたい〉とか〈撃たれるよりも首を絞められたい〉とか、たくさんコメントされてるよ!」
「ああもうだめそうだ。手遅れっぽい人もちらほらいる。おかしい……ジン・ラースは悪魔だけど、悪魔っぽい振る舞いは控えているつもりだったのに……」
「お兄ちゃんの優しい声でいじめられるっていうのが刺さるんだよ、きっと。よかったね」
「これは……いいことなのかな? リスナーさんの性癖を歪めることにならないかな……」
「大丈夫、それで歪むような人はもとから素質があるんだよ。それに早めに歪んでたほうがリスナーさんもこれからのお兄ちゃんの配信をもっと楽しめるようになるよ」
「全然大丈夫じゃない。そんなリスナーさんばっかりになったら僕の配信が魔界よりも混沌としちゃうよ……」
「お兄ちゃんの声とイラストが噛み合いすぎてるよね。私もテンション上がって音とイラストの調整こだわっちゃった」
手描き切り抜き動画のイラストは夢結さん寧音さんが描いてらっしゃるし、『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』で投稿されているけれど、動画の編集は礼ちゃんが手がけているのだ。
「暗転の演出かっこよかったね。僕が印象に残ってるのは、その動画の一つ前に投稿されてた動画かな。試合に勝ったあとのレイラ・エンヴィの笑顔がとっても魅力的に表現されてて好きなんだよね」
「……絵はレイラちゃんだからまだいいけど、声は私だから、編集しててなんだか恥ずかしかったなあ……」
さっき話に上がっていたジン・ラースの手描き切り抜き動画と同じ日にやった配信から切り取られたワンシーンだ。
一つ前のパーティとの戦いで少年少女さんが倒されてしまい、ジン・ラースとレイラ・エンヴィの二人で三人のパーティと最終戦になったマッチだった。
一人を倒し、もう一人のエナジーコートを剥いで本体のヒットポイントを半分ほど削ったあたりで僕がダウン。一対二という劣勢から、礼ちゃんは落ち着いてほとんど瀕死の敵をまず撃ち取り、一対一の構図を作る。一対一を作るまでにいくらかは体力が削られていたが、そこは正面戦闘に強い礼ちゃんだ。左右に小刻みに動いて被弾を抑えつつ、撃ち続けていたショットガンが弾切れになってもすぐに武器を持ち替えて、最近練習中のキャラコンで相手を翻弄してサブマシンガンでヒットポイントを削り取り、競り勝った。
その時のイラストが、右手に握る銃のストック部分を肩に乗せ、左手でVサインを決める満面の笑みを浮かべているものだった。服は砂や埃や血や泥にまみれ、手や腕にもかすり傷があり、いつも艶やかな長い黒髪はところどころ跳ねたりしていた。激戦の痕跡は色濃くあったが、それでも輝くような笑顔を向けているレイラ・エンヴィは可憐で華麗だった。
とても綺麗なイラストといい、礼ちゃんの無邪気な声といい、はちゃめちゃに可愛かったので強く印象に残っている。
当の本人は、無邪気に喜んでしまったことが照れくさいようだけれど。
「恥ずかしがることないよ。実際、あの時のプレイは良かったからね」
「そんなことないってば。あれは、お兄ちゃんが一人落として、もう一人も削っててくれてたから……」
「ううん、きっと相手が瀕死じゃなくても礼ちゃんは勝ててたよ。遮蔽をうまく使ってなるべく片方の射線を切りながら、戦えてたしね」
「そう、そうかな? ……えへへ」
「うん、そうだよ。だから喜んでもいいんだ。『やったーっ! 勝ったーっ! お兄ちゃんっ、少年少女さんっ、勝てたよーっ!』って無邪気に喜んでも誰も文句なんて言わないよ」
「ぴゃーっ!? やめてよ! 真似しないで! っていうか女声出すのうまっ……」
「声真似のレパートリー増やしたくて練習中なんだよね」
「とうとう性別すら超越し始めたんだ……」
礼ちゃんとだらだらお喋りしながら、手描き切り抜き動画を観て回る。どの動画も再生数が伸びている。
これまで配信活動を続けて培われてきた礼ちゃんの編集技術と、これまで創作活動を続けて積み上げられてきた夢結さんと寧音さんの絵描きの実力。それらが合わさることで、観ていて惹きつけられる動画に仕上がっている。投稿されてから日が経っても伸び続ける理由がわかるというものだ。
「そういえば、昨日夢結と通話してたんだけどね、最近寝不足だーって言ってたんだよ」
「えっ……やっぱり忙しいから、かな?」
夢結さんも寧音さんも学生の身で、おそらく同人誌サークルとしての活動を今も続けている。ただでさえお忙しいのに、僕らは手描き切り抜きまで頼んでしまっているのだ。
手描き切り抜きをやってくれるのは嬉しいけど無理だけはせずに健康第一でね、と伝えはしたが、相手は真面目な夢結さんだし、寧音さんはそんな夢結さんの妹さんだ。もしかしたら、また睡眠時間を削って描く、なんて無茶なこともやっているかもしれない。
「いや、今夏休みでしょ? だから翌朝学校行くために起きなくていいからって、配信のアーカイブ見返したり、mellowの切り抜き見漁ったりしてるんだってさ。夏休み入って早々に昼夜逆転したみたい」
「おお……それは、なんとまあ……。夢結さんらしいといえばらしいけど……」
「動画観まくってるせいで寝つきが悪くなったんだって。夢結の場合、動画関係なく運動してないからだと私は思ってるんだけどね」
ベッドに入ってもずっとスマホで動画を観ているのだとしたら、それは寝つきも悪くなることだろう。寝られたとしても寝落ちするという形になるだろうし、変な体勢で寝てしまえば体も痛めそうだ。
寝つきやすくするには短時間でも太陽を浴びて、ある程度運動するのが効果的だけれど、そこは個人の自由の範疇だ。睡眠不足は心配だが僕が口を出せる部分じゃない。
健康的な生活、とまでは言わないから、どうすれば夢結さんが健康的な睡眠を取り戻してくれるだろうと考え、一つ思いついた。
「ねえ、礼ちゃん。夢結さんは生活リズムが崩れているみたいだけど、僕たちのライブ配信は観てくれてるよね?」
「そりゃあ夢結ならお兄ちゃんの配信は絶対観るよ。お兄ちゃんの配信を万全なコンディションで観られるように睡眠時間を調節するような奴なんだから」
「僕の配信が基準になってるのか……嬉しいような、恐れ多いような……。でも、絶対に観てくれるのなら、それを使って夢結さんの生活リズムを改善することができるかもしれないね」
「……うん? どゆこと?」
「寝かしつけてしまおう」
あまり長々と書くのはどうかと思うのですが、二章の第一話ということでご容赦ください。
二章から読んでくださっている方は初めまして。二章はわりと平和なシーンが多い(個人の感想)のでしばらくは心穏やかに読んでもらえるかと思います。よければお付き合いください。
一章の終わりから投稿再開を待っててくれた方はお久しぶりです。こんなに時間がかかってしまって申し訳ないです。待たせてしまった上でこんなこと言うのは心苦しいんですが、二章のラストまでまだ書き終わってません。ごめんなさい。
書き溜めしてから投稿したいタイプの人間なんですが、やりたいことをやりたいだけやった結果、ばかみたいに長くなってしまったのでもう投稿してしまおうと思い、投稿再開しました。本当なら一章よりも短く端的にするつもりだったのですが、ラスト書き終わってない現時点ですでに一章よりも文量が多くなるというバグが発生してます。予定ではこんなはずではなかったんですけど。もしかしたらラストまで一気に投稿することができないかもしれません。もしそうなった時のために前もって謝っておきます。ごめんなさい。
最後になりましたが、この場を借りて感謝を。
一章最終話でたくさんの感想や評価、ありがとうございました。おかげで続きを書こうという気持ちを維持できました。モチベーションが落ちかけた時に感想を読んだら元気が出ました。とても助けられました。
その結果、書きたいように書き散らかした二章です。お兄ちゃんが楽しそうに配信するところが書きたかっただけの二章です。
楽しんでもらえるかどうかわからなくて不安ではありますが、少なくとも僕は楽しかったことをここに報告します。楽しんで読んでもらえることを祈ってます。
なるべく決まった時間に投稿していけるよう頑張ります。またここからしばらくの間、お付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
ちなみに次話は別視点です。