サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
配信開始三十分前、僕はコミュニケーションアプリ内の指定されたサーバーに入った。
今日は僕にとっては記念すべき、礼ちゃん以外のライバーとの初コラボにして初の同期とのコラボ配信の日だ。
ちなみに、初の同期コラボということでどういう配信にするかメッセージ上ではいくつか相談をしていたけれど、ちゃんと通話を繋ぐのは今日が初めてだったりする。
今後他の同期の方々とコラボできるようになるか、同じ『New Tale』所属の先輩方とコラボできるようになるかは、今日のコラボ配信の空気感にかかっている。『New Tale』での男女コラボでリスナーがどういう反応を示すか、とても重要な指標になるだろう。
指標にする、という点で言えば、今回の配信のお相手であるイヴ・イーリイさんはコラボ相手としてはベストなキャラクターをしている。イーリイさんは他の同期の女性の方々とはリスナーとの関係が異なっているのだ。
他の方々だとリスナーから可愛がられたり敬われたりといったふうに過保護気味な扱いをされている。
反面、イーリイさんはリスナーといわゆるプロレスと呼ばれる、言葉で殴り合うような、男友だちと接するような関係なのだ。僕には男友だちがいないので『そのような雰囲気らしい』ということしかわからないけれど。
そういったキャラクターでやっているのであれば、男であるジン・ラースと絡んでも問題が起きる可能性は低いだろうとの判断だった。これが天真爛漫で無垢なアイナ・アールグレーンさんや、小動物的な愛らしさのあるウィレミナ・ウォーカーさん、衣装以外は清楚そのもののエリーゼ・エスマルヒさんなどがコラボ相手だと、お相手のリスナーから反感を買う恐れがある。
件の男女Vtuberから延焼した炎上騒動が終息したといっても、ジン・ラースはまだ『New Tale』全体を推しているリスナーからも、他の同期の方々を推しているリスナーからも認められたわけではないのだ。
今日の配信
イーリイさんとですらうまく噛み合わなかったら、他の方々とコラボしてもうまくいくわけがないのだ。
本格的に礼ちゃん以外とコラボできなくなってしまう。礼ちゃんに肩身の狭い思いをさせないためにも、今日の配信は頑張らなければならない。
決意を新たにしていると、アプリから電子音が鳴った。イーリイさんの名前が表示された。
『おーっす。初めましてだな、ジン・ラース』
女性にしては低めのハスキーボイス。一部の女性からも支持を得られそうな魅力のある格好いい声だ。
「ええ、初めまして。イーリイさん。今日はよろしくお願いします」
『おー……』
「おー……って、どうされました?」
『いや……配信で聴いてた通りのイケボだなって』
「いえいえそんな。それで言うならイーリイさんもイケボでらっしゃるでしょうに」
『お? そらサンキュー。……いやそれは褒めてねぇな?』
「褒めてます褒めてます。イケボというのは褒め言葉だと僕は聞きましたから」
『褒め言葉だとしても女に使う言葉じゃねぇよ』
「わあ。それは盲点でした」
『ぶふっ……ふっく、くくっ……。「わあ」ってなんだよ。うるせぇよ』
くすくすと笑い声をもらすイーリイさん。思っていたよりも話しやすそうな人でよかった。
イーリイさんは配信ではよくリスナーと語勢激しくやりとりをされている方だ。気性の荒い方だったらどうしようと心配していたのだ。
常に荒っぽい喋り方をするわけではないし、なんなら勝ち気ではっきりとした物言いをしてくれるぶん、こちらとしても話しやすい。
「僕の配信観てくれたことあるんですね。ありがとうございます」
『まぁ、同期の配信はちょくちょく覗くだろ。観ててふつうにおもろいしな』
「同期……。そう思ってくれてるんですね」
『は? デビュー配信前からこれまで通話どころかチャットすらできんかったが、そんなん関係なく同期だろ。なに言ってんだ』
「僕が同期だったことで迷惑がかかったこともあったでしょうに」
『デビューしたばっかの時はちょくちょく訊かれることはあったが、それだって荒れるってほどじゃねぇよ。ったく、気にしすぎなんだよなー』
「『気にしすぎ』……というのは?」
『あ? そんなもん言葉通りの意味だ。ジン・ラースも、アイニャたちも、なんなら『New Tale』のスタッフも、どいつもこいつも悪いことなんかしてねぇのに、やれ『自分が悪い』とか『助けてあげられなかった』とか『謝らなきゃ』とか言い出して……なんなんだ。悪いとか謝るとか、そういうのは自分がマジでやべぇことした時だけでいいだろ』
「アールグレーンさんたちが、そういうことを仰っていたんですか?」
『んあ? アールグレーン?』
「アイナ・アールグレーンさん」
『……ああ、アイニャのことか。そうだよ。アイニャもエリーも……ウィーレだって少なからず後ろめたさみたいなのがある。あの時うちらはなにもしないことが正解だった。ジン・ラースがデビューしたばっかの時に関わらないようにするってのは、客観的に見ても間違いじゃなかった。事務所からもそういうお達しがあったわけだしな。正直、ジン・ラースだってあのタイミングでうちらに絡みにこられても迷惑だったろ?』
「迷惑、という表現は適切ではありませんけど……いろいろと予定を変更することになっていたとは思います」
各々の配信でジン・ラースの名前を出してなんらかのアクションを起こされていたら、僕としては大変困ったことになっていただろう。
実の兄妹というアドバンテージがあっても礼ちゃんからヘイトを剥がすのは一苦労だった。だというのに、他人である同期からジン・ラースにヘイトを移動させるとなると一苦労どころではなくなる。正攻法では解決策が思いつかない。
もし実際に同期の方々に動かれていたら、僕はそれだけで窮地に陥っていただろう。
沈黙を保つという対応は、僕らの置かれた状況においても、事務所の指示があったという点においても、疑いようがないくらい正しいものだった。
「炎上の真っ只中にわざわざ飛び込む必要もないですし、事務所からも所属ライバーは関わらないようにとのアナウンスがあったはずです。なのに、どうしてアールグレーンさんたちが後ろめたく思うんです? 僕に怒っていると言われるのなら納得できるんですけど」
四期生メンバーはジン・ラースが原因で、本来ならしなくてもいい苦労を強いられた。
恨み、とまではいかなくても、ポジティブな感情は持たれていないだろうなと推測していたのだが、どうにも話は違うらしい。
『巻き添えで炎上させられたジン・ラースに怒るってのはさすがにクズ過ぎるけど……でもまぁ自己嫌悪するよかそっちのほうがよっぽどまともだよな。なのに、あいつらは「ジン・ラースが困ってる時になにもできなかった」つって助けられなかったことを悔やんでんだよ。おかしいよな?』
「ええ、おかしいです。アールグレーンさんたちに責任はありませんし」
僕が答えると、急にイーリイさんは声を張り上げて肯定した。
『そう! それだよ!』
声の大きさに少々驚いた。イーリイさんの音量は控えめにしておこう。
「それ、とは……」
『お前がアイニャたちに「おかしい」って思ってる感覚。それをうちはお前に感じてんだよ』
「いや……アールグレーンさんたちと僕とでは話が違いますけど……」
『うるせぇ! 違わねぇよ! うちからすりゃ同じだ!』
一喝されてばっさりと話を断ち切られた。なんとも強引で荒っぽいやり方だ。
『ジン・ラースが「New Tale」からデビューするのは違法でもなんでもない。実力を示して四期生としてデビューさせても大丈夫だって「New Tale」が判断したからデビューしたんだ。しかもお嬢経由で縁故採用してもらうっていう方法も狙えたのにしなかった。なんも問題ねぇ』
「いや、まあ……違法性はないでしょうけれど……」
あの時の状況を考えれば、違法でなくても不適切ではあったかもしれない。
『炎上したのだってジン・ラースがなんかやらかしたわけじゃねぇ。件の男女Vtuberの炎上の巻き添えだ。そこに「New Tale」から男がデビューするっつうことで杞憂したリスナーの反発が重なっただけ。配信じゃあコメ欄もバカほど荒らされてたけど、お前はそれにもキレたりしないで冷静に対処してたよな? お前はいつどこで悪いことしたんだ? 言ってみろ』
「そういう言い方をされると、たしかに悪いことはしてないですけど……」
『「けど」? 「けど」なんだ。言ってみろよ』
「いえ、悪いことしてないです」
有無を許さぬ圧力があった。
『そうだよなぁ? 荒らしが配信に常駐している中でもお前は一切取り合わねぇでやってた。うちなら一回の配信で十回はキレそうなところをお前は我慢してたよなぁ?』
それはコメント欄やSNSが荒れても何も響かないという、僕の感性が鈍かっただけの話だけれど。
「我慢、というほどのものでもないんですけど……。それにしたって十回キレるというのはあまりに怒りすぎでは……」
『なんだぁ?! 文句かぁ?!』
「なんでもないです」
引っかかった点について訊ねると、僕の十倍くらいの熱量と声量で返ってきた。十回キレるというのもあながち冗談ではないのかもしれない。
『ならいい。……そんでお前は炎上騒動を自分で解決したよな。うちらからじゃどれくらいスタッフたちと協力してたのかはわからんけど、それでも配信上であんだけ派手にやったってことはお前が主導して片付けたんだろうなって想像はつく。完全な貰い事故だったってのに自分で片付けた。……おかしいよな? ジン・ラースに責任なんてどこにもないよなぁ?』
「…………」
『わかったか? お前がアイニャたちに責任がないって思ってるのと同じように、こっちだってお前に責任なんてないって思ってんだよ。なのになんだ? 自分のことを同期だと思ってくれてるんですか、みたいなこと言いやがって。思っとるわぼけ! 絶対アイニャたちにそんなこと言うんじゃねぇぞ! アイニャとエリーなんか、お前の配信が荒らされてるの観て、泣くくらい心配してたんだからな! 「同期なのになにもしてあげられない」とかって!』
「……ふっ、あははっ、ふふっ」
『なに笑ってんだ! 笑うとこじゃねぇよ!』
「いえ、すいません。イーリイさんって言葉遣いのわりに優しいんだな、と思ったもので。アールグレーンさんたちのこと、大好きなんですね」
『……あたりまえだろうが。同期なんだから』
「僕も同期ですけど、それ認めちゃっていいんですか?」
『お前のことは大好きじゃねぇけど、仲間意識くらいは持っといてやる。感謝しろ』
「あはは、ありがとうございます」
話してみたらよくわかる。この人は激情家で友だち思いな人だ。
言葉遣いは悪いし柄も悪い。その上短気。
でも決して短慮ではない。
ちゃんと周りを見る目を持っていて、語気の荒さとは裏腹に冷静で、状況を読んでどう動くべきか、どう動くとまずいかなどを考える判断力がある。
こういう人を、頼れる兄貴分、と表現するのだろうか。周囲にそういう人がいなかったから僕にはわからないけれど、きっとそうなのだろう。
いや、性別的には姉貴分かな。もしくは姉御肌と言うべきか。イケボ、と褒めたら怒られてしまったことだし、表現には気をつけなければ。
『あ、忘れるとこだったわ。コラボ配信、格ゲーで押し切っちまって悪かったな。うちFPSやったことねぇからさ』
「いえいえ。僕としてはいろんなゲームに触れていきたいとも考えていたので、教えてもらえるということで助かりました」
今回のイーリイさんとの記念すべき初コラボは、初心者向けの格ゲー講座となったのだ。
『
それなら雑談でもするか、という話もあったけれどそれはそれで盛り上がりに欠ける恐れがあった。僕があまり他の先輩方や同期の方々について言及すると、話題に挙げた方へご迷惑がかかってしまうかもしれない。そうなると自然、イーリイさんも先輩方や同期の話を可能な限り避けざるを得なくなる。同期という間柄なのに『New Tale』に所属する他のライバーについて一切話をしないというのは、観てくれているリスナーさんに違和感を覚えさせることになるだろう。
ならば話題に困らないであろうゲーム配信にしようとなり、イーリイさんが得意とする格闘ゲームをやることとなったのだ。
『あー……うちがFPS触ってりゃなぁ……。お嬢も呼んでもらって一緒にできたってのに』
「……イーリイさんは、やっぱり眷属なんですね」
『あっ』
「大丈夫ですよ。おそらくそうなんだろうな、と察してはいたので」
眷属というのは、礼ちゃんのヴァーチャルの姿、レイラ・エンヴィのリスナーの名称だ。
イーリイさんは配信中にもしばしばレイラ・エンヴィを指して『お嬢』と呼称していたので、薄々勘づいてはいた。きっとイーリイさんはデビューする前から礼ちゃんの配信をよく視聴していたのだろう。
『……気づかれてんならもういいか。うちがFPS上手かったら、いや上手いとまで言わんでもそこそこできるくらいの腕だったら、お嬢と一緒にゲームできたってのになぁ』
「これからやればいいじゃないですか。またコラボする機会があれば今度はFPSにしましょう。初心者向けのFPS講座ということで。格ゲー講座のお返しです」
『うちFPSはまーじで触ったことねぇんだって。お嬢の配信は観てたけど、FPSが理由で観てたんじゃなくてお嬢を観たくて観てたんだぞ? なんも知らねぇんだから』
「もちろん無理強いはしませんけど、もしかしたらFPS講座の時に妹も同席するかもしれませんよ? それに『New Tale』にはFPSを一緒にやってくれる人がいないって妹が嘆いていたので、FPSできるようになると遊ぶ機会が増えるかもしれませんね」
『ジン・ラース、次FPS講座よろしく頼むわ! いや、お嬢がどうとか関係ねぇんだけどな! うちもFPSやってみたいって思ってたとこなんだよ!』
「不安になるくらい動機が不純です」
『お嬢は関係ないって言ってんだろ! もしお嬢が関係してたとしてもそれは純粋な好意だ! 不純な要素はない!』
あまり乗り気ではなかったのに礼ちゃんの名前を出した途端に驚くほど積極的になった。会話の流れやノリという部分もあるのだろうけれど、本当に礼ちゃんのことが好きなようだ。イーリイさんとの共通点が見つかって、僕も嬉しく思う。
「ふふっ、楽しみが増えました」
『……なーんかうまいこと乗せられた気がすんなぁ……。まぁ、お嬢と遊べるかもしれないんならいっか。そういやインストール済んでるとは思うけど、そっから触ったか?』
「いえ、完全初見のまっさらなところから教えてもらおうと考えていたので、何も触ってませんし調べてすらいません」
『おお、そりゃおもしれぇな。経験も知識もゼロスタートか』
「これまで触れてこなかったリスナーさんもいるでしょうし、そういった方々と同じ感覚で進められるのではと思って」
『初心者講座だからな。ゼロスタートのほうが一から順に教えられるしやりやすくもある。それに変な知識や癖がつく前のほうが上達も早ぇし、都合がいいや。っと、そろそろ準備しとくか』
そう言われて時間を確認すれば、配信開始予定時間の五分前だった。イーリイさんはレスポンスが軽妙で楽しいし、率先して話をしてくれるので気も楽だ。なるほど、これが姉御肌。
「三十分前にサーバー待機の予定にしておいてよかったですね。配信の前にしっかり話せましたし」
『まじで事前に話しておいてよかったな。変にしこりを残したままだったら配信での喋りもスムーズにできねぇだろうし。ぶっちゃけると、サーバー入る前はちょっと不安だったよ、うち』
「不安? 初対面ですし、多少は感じても仕方ないですけど……」
『ジン・ラースは配信では礼儀正しくて優しそうだけど裏ではめちゃくちゃ嫌な奴だったらどうしようとか考えてた。暴言吐いてきたり下ネタ言ってきたらどうしてやろうかとか考えてた』
「想像上の僕、酷すぎません?」
『話もうめえし声もいい。うちも細けぇこと考えなくていいから気楽だわ。陰険な奴じゃなくてよかったー』
「想像上の僕をまとめると、陰湿で暴言吐いてセクハラする奴だったんですかね。それはもう悪魔っていうより化け物なんですよ」
『ぶふっ、だははっ! たしかにな! 悪魔よりもバケモンだわ! だはははっ、やめろばか、今準備してんだ、笑かすな。マウスカーソル震えちまうだろうが』
「人類の悪性かき集めて作りました、みたいな存在を想像するからでしょう。僕はゲームのタイトル画面で待機しておきますね」
『くっく、はははっ……っ。くっそ、お前の声で言うなよ! なんでもおもしろくなんのずるいって! だはははっ!』
「だって、想像上の僕があまりにも表と裏で性格かけ離れすぎているんですよ。表の顔が礼儀正しくて優しい、裏の顔が陰湿暴言セクハラ男……人格が分裂してないと使い分けできなくないですか?」
『ぶはははっ! やめっ、やめろばかやろう! もうすぐ配信時間なんだぞおい! 笑わせっ、だははは!』
不明な点の説明を求めると、何がつぼを刺激したのかわからないけれどイーリイさんは大笑いし始めた。笑いの沸点が低い人なのかもしれない。ともあれ、気持ちよく笑っているのは好印象だ。問題はその気持ちのいい大笑いにこちらも釣られてしまいそうなこと。
「笑わせてないですって。イーリイさんが勝手に笑ってるだけですよ。あ、時間だ。配信開始していいですか?」
『待てぼけっ……ぐふっ、いいわけあるかはぁっ』
「ふっ……ふふっ。『いいわけあるかはぁっ』って、どうされたんです? ふふっ、もしかしてイーリイさん、今誰かとリアル格闘ゲームとかしてます?」
『ぶはっ、ははははっ! おま、お前、しばき回すぞ! なんだよリアル格闘ゲームって! ただの喧嘩じゃねぇか! てかお前声真似うますぎだろ! だはははっ!』
「あーもう。くすっ……うるさいですよ。早く落ち着いてもらっていいですか。三十分前に待機してたのに配信遅刻しそうなんですけど」
『はははっ、くふぅっ……っ、もう、いいや……。くぐっ、配信始めよ』
「それなら僕も始めますね。まだイーリイさんはちゃんと喋れなさそうなので僕から挨拶します。それまでに落ち着いててくださいよ」
『ふっ、んふっ……努力するわ』
口元を押さえて喋るようなくぐもった音声でイーリイさんは返してきたが、努力すると言っているわりには笑い声を隠せていない。なんとも信用ならない努力宣言だ。
とりあえず僕はつぼに入ったまま戻ってこないイーリイさんを放置し、アプリケーションを操作して配信を始める。音声も映像も問題なしだ。
「人間の皆様、こんばんは。『New Tale』所属の四期生にして悪魔のジン・ラースです。お忙しい中、足を運んでいただきありがとうございます。本日の配信はSNSでも通知していた通り、同じ四期生のイヴ・イ」
『だはははっ! す、すまっははは!』
〈楽しみにしてた〉
〈同期との初コラボ!〉
〈楽しくやれるのならそれがなによりだが〉
〈待ってた〉
〈めちゃくちゃわろとるやんw〉
〈どうしたw〉
「ーリイさんと……。挨拶終わるまで我慢できませんでしたか? せめて最初の挨拶くらいはさせてくださいよ」
〈スタートからエンジン全開で草〉
〈ヤンキーシスター爆笑しとるw〉
〈なにがあったんだ〉
〈草〉
『いやっ、待ってくれ。ぶははっ! ……待っ、んっ、待ってくれ。うちの話を聞いてくれ』
「ええ、いいでしょう。聞きましょう」
『んんっ、こほん。……これはお前が悪くない?』
「悪くない」
〈即答w〉
〈ばっさりで草〉
〈仲よ!〉
このままではリスナーを置いてけぼりにしてしまうので、まずはリスナーにこれまでの説明をするべきだろう。説明が終わる頃にはさすがにイーリイさんもクールダウンしているはずだ。
「ご説明しますと、この配信が始まる三十分前からコミュニケーションアプリのサーバーに集まって話していたんですよ。デビューしてからこれまでお話どころかチャットすらしたことがなかった方と初めてコラボすることになったので、円滑に配信ができるように、と」
〈打ち合わせみたいなもんね〉
〈こんな笑い転げることある?w〉
〈同期とコラボするまでに時間かかったよな……〉
〈今日初めて話したとは思えんほど仲良いなw〉
〈これまで兄悪魔いろいろあったもんな〉
「そしたら途中でイーリイさんが通話を繋ぐ前は不安だった、みたいな話を始めたんです。ジン・ラースは配信中はまともそうだけど裏ではめちゃくちゃ嫌な奴だったらどうしようとか、暴言吐いてきたり下品なことを言ってくる陰険な奴だったらどうしてやろうかとか考えていたって」
『ぶふっ……くふふっ』
「イーリイさんうるさいんでミュートにしてもらってていいですか? 今みなさんに説明しているところなので」
『すまんって……くふっ。お前の説明で、おっ、思い出しちゃってへへっ』
〈コラボ相手にミュートしろは草〉
〈兄悪魔がこんなに雑に接してるのおもろい〉
〈てへへかわいい〉
〈イーリイさんかわい〉
「裏では陰湿で暴言吐いてセクハラする奴は悪魔っていうより化け物ですよって僕が言ってから、イーリイさんずっと笑って話にならないんですよね」
〈ばけものくさ〉
〈草〉
〈バケモンw〉
〈それはバケモン〉
『まははっ、まって、待ってくれよ! お前そのあと畳みかけてきただろ! 聞いてくれよリスナー! うち悪くねぇんだよ! こいつ、こいつがっ、人が笑って窒息しそうな時に「表の顔は礼儀正しい、裏の顔は陰湿暴言セクハラ男、それ人格が分裂してないと使い分けできなくないですか?」とかははっ!』
「わらっ、ふふっ……笑って言えてないんですよ。そろそろ落ち着いてくれませんかね。あははっ」
〈イーリイさん笑い方気持ち良すぎだろ!〉
〈やめてw〉
〈つられるw〉
〈草〉
〈こんなに笑う兄悪魔レアだ〉
『しかもジン・ラース、急にうちの声真似挟んできて、またそれが無駄にうめぇんだわ。そのせいでなおさらおもしろくなっちまって、もう戻れんかった。やっぱりお前のせいだ』
「勝手に笑ってただけでしょう。僕はただイーリイさんに返事してただけなのに」
〈初コラボとは思えない空気〉
〈テンポ良すぎw〉
〈まだ配信の本題入ってないのよw〉
〈声真似聞きたい!〉
『ジン・ラースリスナーの言う「淡々とボケる」っていう意味がわかった瞬間だった。……ん? 〈声真似やってほしい〉うちに言われても。ジン・ラース』
「いいですよ」
イーリイさんのチャンネルでも声真似を希望するリスナーさんはいらっしゃるようだし、こちらでも聞きたがっているリスナーさんがいる。せっかくなので披露しよう。
最近はボイストレーニングの延長で女性の声真似も練習しているのだ。イーリイさんの声は女性の中では低めなので、調整もすぐに済む。
『おお。よかったな、リスナー。ちなみにジン・ラース、うちはあんまり声真似されるの乗り気じゃねぇってことだけ先に伝えておくぞ』
「俄然やる気が出ました」
『お前やっぱり悪魔だよ』
ということで、ここから同期と格ゲー配信です。
しばらくお兄ちゃん視点です。
作品にはまったくこれっぽっちも関係ないんだけど、久々に花火見れていい気分です。夏を小さじ一杯ぶんくらいは味わえた気がしました。せっかく作中も夏なんだから、どこかのタイミングで花火の話もやりたいなと思うくらいのテンションです。