サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
『ちなみにジン・ラース、うちはあんまり声真似されるの乗り気じゃねぇってことだけ先に伝えておくぞ』
「俄然やる気が出ました」
『お前やっぱり悪魔だよ』
〈草〉
〈悪魔で草〉
〈配信前の打ち合わせはコントの打ち合わせやったんか?w〉
「んんっ……あー、あー。はい、大丈夫です。あ、こういう時ってキュー振りというのをしてもらうのがお約束なんですよね?」
『お約束言うな。たしかにそういうもんだけど。しゃあねぇな、やったるか。じゃあ、ジン・ラースの声真似まで……さん、に、いち、キュー』
「『初めましてぇ。今回「New Tale」の四期生としてデビューする、シスターのイヴ・イーリイですっ。よろし』」
『お前ごらぁぁっ!』
〈だれ〉
〈?〉
〈だれ?〉
〈えっ誰〉
〈すごw〉
〈これはw〉
〈だれ?〉
「なんで邪魔するんですか。まだ途中だったんですけど」
『よりにもよってなんでその声真似やってんだよ! 配信前にやってた声真似と違うだろうが!』
「やる気が
『あふれすぎだろ! サービス精神旺盛もたいがいにしとけよ!』
「知らない方もいらっしゃるかもしれないので補足説明しますと、イーリイさんの記念すべきデビュー配信の記念すべき第一声目でした。ぜひデビュー配信時の声と比較してみてください」
『うちのデビュー配信に誘導しなくていいんだよ!』
「この時はまだ声にお淑やかさが残っていましたね」
『うるせぇよ! この挨拶の五分後には影も形も残ってねぇんだよ! うるせぇよ!』
「そこまで言ってないのに」
〈イーリイさんご乱心〉
〈草〉
〈声量すごいw〉
〈やっぱり悪魔やった〉
『無駄にクオリティ高いのが腹立つ……ん?〈もっと乱暴な声だったぞ〉〈清楚すぎるわ〉〈ヤカラ感が足りないな〉うるせぇよ! お前らはうちの味方しろよ!』
配信者によって視聴しているリスナーさんにも特徴が表れるとはいうが、なるほど。イーリイさんがノリのいい人だから、イーリイさんの配信を観ているリスナーさんたちもノリがいいようだ。おもしろいコメントを送ってくれているらしい。イーリイさんはコメントを拾っては吼えている。
「ふふっ、くくっ、あはははっ。いやあ……ふふっ、いいリスナーさんですね。僕も精進します」
『絶対にやめろ。精進すんな。もう……もう決めた。ジン・ラースには今後うちの声真似の許可は出さねぇ』
「これから僕の持ちネタにしていいですか?」
『話聞いてねぇのかお前は?!』
〈声真似うますぎ!〉
〈女声自然すぎだろ〉
〈いくら低めだとしても女声出せるのすごい〉
〈妹悪魔の時にはしない悪魔ムーブ草〉
〈レベルの高い一芸を意地悪するために使うのかw〉
〈悪魔の鑑w〉
「さて、ご本人様からの公認もいただけたというところで、そろそろ自己紹介してもらっていいですかね。配信が始まってからまだイーリイさんの自己紹介ができてないんですけど」
『勝手に公認にすんな! 許可してねぇよ!』
「なんなら代わりに僕がイーリイさんの自己紹介しましょうか? お任せください。んっ、こほん。『初めまし』」
『わかった! するから! 挨拶するから一旦黙ってろジンラスゥゥゥっ!』
「ご理解いただけてよかったです。それでは、皆様ご静聴お願い致します。清楚なイヴ・イーリイさんの可憐な挨拶まで……さん、に」
『やり
「ふふっ、あははっ」
『だって、ねぇもん! 清楚も可憐もうちの中に! どうにか掻き集めてやってみようかなって一瞬血迷ったけど、ねぇのよ! どっちも!』
「くふっ、血迷っ……ふふふっ。すいませ」
『……言わせんなよ! こんなこと!』
「くっ……あはっ、ふふっ……いや、でも、ご自分で」
『謝れよぉ! うちには清楚さも可憐さもないけど! 謝れよぉっ!』
「ごめ……んふふっ、ごめんなさい」
『ふぅっ、ふうっ……。わかればいいんだ、わかれば』
〈もうやめてw〉
〈腹痛え〉
〈これ台本あるだろw〉
〈お前らずっと雑談しててくれw〉
〈仕上がりすぎてて草〉
〈相性良すぎw〉
〈www〉
「えー、それでは気を取り直して、イーリイさん挨拶お願いします」
『ふっ、えー、はぁ……『New Tale』の、ふぅ……四期生の……えっと』
「かはっ……」
『おい邪魔すんなジンラスゥゥゥっ!』
「いや、だって……。イーリイさんっ、ふふっ……叫びすぎてっ、息、切れてるっ」
『息も切れるわこんなもん! 誰のせいだと思ってんだ!』
「あはははっ」
『笑ってんじゃねぇよ! 今のままだと配信終わる頃にはうち声嗄れてがっさがさになるぞ!』
「もう、もう邪魔しないのでっ……あい、挨拶をっ」
『配信の
「あはははっ」
〈格ゲー興味ないけど配信のぞいてよかったw〉
〈神回やw〉
〈草〉
〈腹つったw〉
『さっきコメントした奴、次会う場所はくぉうていだからな!』
「なんっ、ふふっ……今なんて言いました?
『ちょっと噛んだだけだろ見逃せよ!
「あははっ、くふ……えふっ。あの、朝の挨拶じゃなくて、配信の挨拶してもらっていいですか?」
『うまいこと言ってんじゃねぇよ! うちだってやりたいわ!』
「朝礼を?」
『配信じゃぼけぇ!』
〈もう配信タイトル変えちまえw〉
〈つっこみ鋭くて草〉
〈このまま雑談でも一向に構わん〉
〈幼馴染かよお前らw〉
〈空気よすぎだろw〉
〈二人でずっと喋れるやんけw〉
「くふふっ、あははっ。なくなる、なくなっちゃいますって、イーリイさん、時間が。今回の配信、一応二時間くらいの予定なんですよ。でももう二十分くらい使っちゃってるんですよ。格ゲー講座できなくなるんで早く自己紹介してもらっていいですか?」
『ふぅ、ふぅ、誰のせいだと思ってんだよ。はぁー……はい。『New Tale』所属、ジン・ラースの同期で四期生、シスターのイヴ・イーリイ。よろしく』
「もう疲れちゃってるじゃないですか。始まったばかりですよ。なんならまだ本題に入ってないですからね」
『うち、こんなコンディションで格ゲー教えれる気しねぇよ。疲れちったよ』
「奇遇ですね。僕もです」
『なんだよお前もかよ。だははっ!』
「あははっ」
『ばか言ってねぇではよ始めんぞ』
「ふふっ……んっ。こほん、ごめんなさい。それでは、遅ればせながら今回の配信の説明させてもらいますね」
『ようやく進めるぜ、まったく……』
「僕らやっとスタートラインに立ったところですからね」
『その事実に顎外れそうになるわ』
「さて、本日は配信タイトル通り、SNSでも通知があった通り、格闘ゲームの初心者講座です」
『うちが先生、生徒がジン・ラースだな』
〈二人とも疲れてて草〉
〈体力すでに赤ゲージっぽいけど大丈夫そ?〉
〈www〉
〈漫談じゃなかったんだ〉
「僕はこれまで触ってこなかったので、この機会に格ゲーに詳しいイーリイさんに教えてもらおうという配信です。格ゲーは難しそうでやったことがない、という人間様にも格ゲーに親しんでもらえるような内容になるといいですね。〈漫談じゃなかったんだ〉はい、漫談ではありません」
『ぶふぉっ……』
「配信が始まってしばらく経つのに最初の画面から動いていませんからね。そう誤解される人間様もいらっしゃるかもしれませんが、雑談配信ではないんです」
『なんっ、なんでお前、そんな声のトーン変えずに喋り続けられんの?』
「今のところは格ゲーに関連すること何もしてませんからね。雑談なんだ、と思ってしまうのもまあ、仕方ないな、と」
『仕方なくねぇよ。うちもジン・ラースもタイトル画面出てるだろ』
〈あ、ほんとだ〉
〈ストフォーやるんだ〉
〈気づかなくて草〉
〈視界には入ってたはずなのにw〉
「ちらほらと本当に気づいていなかった人間様がいらっしゃいますね」
『なんでだよっ! ……いやうちのリスナーにもいるわ。なんでだよ……』
「というわけで今回は画面にも映っておりますように『
『
「他にも格闘ゲームのタイトルはたくさんあると思うんですけど、なぜこの三作品だったんです? なにか理由が?」
『その三つが格ゲーの中では有名どころだからな。プレイ人口が多いってのは大事なんだわ。対戦相手が捕まらなかったら意味ねぇし。あとはトレーニングモードがしっかり作られてるかどうか、とか。まず基本の動きを練習できなかったらプレイヤーと対戦してもなんもできずにボコられて終いだしな。そんなんすぐ飽きるだろ。同じ負けでも、戦った結果負けるのと、ただボコられて負けるのじゃ天と地ほど差がある。トレーニングモードで最低限やりあえるレベルまで誘導できるかどうかってのは重要だ』
〈意外と理由しっかりしてる〉
〈めっちゃ考えてくれてる〉
〈ただ単に有名なやつ選んだだけじゃないんだ〉
「合理的な理由ですね。人間様もイーリイさんを賞賛しています。初心者の僕に配慮してくれたんですね。ありがとうございます」
『は、はぁ? いや、そりゃあ……格ゲー人口が増えるに越したことねぇし? ジン・ラースの得意なFPSを拒否してうちの都合を押しつけてるわけだし……ちょっとは考えてくるだろ、ふつう』
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈え、めっちゃかわいいやん〉
〈照れてるw〉
〈お口もごもごで草〉
「イーリイさん、こっちのコメント欄かわいいで埋め尽くされてますよ」
『わざわざ報告してくんな! でも待て、お前らもジン・ラースのリスナー見習えよ! 〈見直した〉じゃねぇよ、なんだと思ってたんだ! 〈めずらしく頭使ってる〉いつも使っとるわ!』
「イーリイさん、恥ずかしいからって子羊さんにあたっちゃだめですよ」
『ばっ、わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ! てかなんで初配信から使ってないリスナー名知ってんだよ! それ誰も使ってねぇよ!』
「それはもちろんイーリイさんの初配信をしっかり観ていたからですけど。それはそれとして、子羊さん、イーリイさんのは照れ隠しですよ。怒っている声ではありませんからね。いざ子羊さんに褒められればきっと照れながら喜ぶはずです」
『ジンラスゥゥゥっ! 余計なことほざいてんじゃねぇよ! こいつらつけあがるだろうが! ああもう、リスナーが悪ノリしてんだよ! 〈かわいい〉とか、ふっ……ぇへ、ぉ、思ってないだろお前ら! 取ってつけたように言いやがって!』
〈よろこんでもうとるw〉
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈えへ、かわいい〉
〈かわいい〉
「口元にやけてますね。そういう声でした」
『くっそ、ジン・ラースの耳がばかほどいいの忘れてたっ……。リスナーもリスナーだ! 悪魔に
「ちゃんと見てあげてくださいね。さて、初心者講座の続きです。このゲームとてもたくさんキャラクターがいるんですけど、どれを選んだらいいとかあるんですか?」
『ん? んー……キャラは別になんでもいいぞ。好きなのが一番いい。好きじゃないキャラ使っててもがんばれねぇしな』
「ほう……なるほど」
『どんなもんかなーつって全キャラを一回触ってみるってのがベストだが、それだと時間かかりすぎっからな。だいたい大まかにキャラ選びの基準を分けるとすると……勝つのが好きってタイプなら強いキャラ使ったほうがいいし、トリッキーなキャラが好きなら多少難しくてもコンボ練続けられるだろうし、逆にコンボ繋いだり覚えたりするのが苦手ならコマンドの数が少なめのキャラ使えばいい。もっと単純に見た目や声が好きとかって理由で使うキャラ選ぶやつもいる』
「いっそ端的に言ってしまえば、自分が楽しくプレイできるキャラを選べばいい、ということなんですね」
『そ。強い弱いとかもいっぺん打っ
「おー……。人間様、子羊さん、お聴きになりましたでしょうか? 『楽しくなければゲームをする意味なんてない』……いやはや、至言ですね。見失いがちになる物事の核心をついたお言葉です」
『おいばかやめろ。急に恥ずかしくなっただろうが。言っとくけど今うちの顔真っ赤だからな。あと声真似すんのやめろっつったよなぁ!』
〈この悪魔鬼畜で草〉
〈かわいい〉
〈やっぱり兄悪魔はSだよ〉
〈にっこにこでやる所業じゃない〉
〈性癖こじらせる人出てきちゃうって〉
〈声真似のクオリティたけえ!〉
「うーん、それでは今回は基本的なキャラクターを使わせてもらいましょう」
『ん、おっけ。それならシュウか暴威だ。……でも意外だな』
「そうですか?」
『うちはジン・ラースのことだから、これでもかってほどテクニカルなキャラ選ぶもんだと思ってた』
「いえいえ、さすがに素人の僕が難しいキャラクターをピックするのはちょっと。それに今回の配信の主旨が、僕と同じように格闘ゲームをやったことがない人間様にも役に立つ格ゲー初心者講座、ですからね。癖の強いキャラクターを選んでしまうと配信の意図がぶれてしまいます」
『めっちゃジン・ラースらしい理由だったわ。えら』
〈やさしい……〉
〈リスナーのことめちゃくちゃ考えてくれてる〉
〈虐めてからの優しさは効く……〉
〈手口がDV男と同じで草〉
「優しいつもりはありませんけれど……配信の本題が初心者講座なので。でも〈DV男と同じ〉というのは甚だ不本意です。自慢にもなりませんが、僕暴力は振るったことないんですよ」
『暴力
「やめてください。揚げ足取りです」
『ジン・ラースは彼女とかできたら彼女の性癖
「どうでしょう。パートナーができたことがないのでわかりませんね」
『そいつはまぁ……幸か不幸か。いや、この場合はいつも近くにいるお嬢の価値観を歪ませているのかも……』
「何を失礼な。礼ちゃんは清廉かつ健やかに育つよう、いつも僕が見守っているんです。歪むようなことはありません」
『いつもジン・ラースが見守ってるせいで歪んでそうなんだよなぁ……』
〈イーリイさん今お嬢って〉
〈イーリイさん眷属かよw〉
〈眷属仲間がおるやんけ!〉
〈妹悪魔なら健やかに手遅れだよ〉
〈お嬢はもう立派なブラコンに仕上がり切ってるから……〉
〈ヤンキーかと思ってたけど一気に親近感わいた〉
「ところでイーリイさん、ひとつお伝えすることがあります」
『おん? なんだよ』
「礼ちゃんが配信していない時は、僕のところの配信には頻繁に眷属さんたちがきてくださるんですよ。なので今のイーリイさんの『お嬢』発言に眷属さんたちが沸いています」
『しまった! ついいつもの呼び方がっ』
「いいんじゃないですか? 個人的に誰かのファンだったとしても。別に隠すようなことでもないでしょう。みなさん多かれ少なかれ影響された先輩はいらっしゃるでしょうし、礼ちゃんだって一期生の先輩のファンやってますからね。そのあたりは自由でいいんじゃないですか?」
『たしかにお嬢も照先輩の大ファンだしな。ほんじゃあ、うちもいっか!』
「大丈夫です大丈夫です」
『お嬢に蔑んだ目をされながら罵られたいとか思っててもいっか!』
「大、丈夫……」
『お嬢の黒ストに包まれたおみ足で踏まれたいとか思っててもいいってことだよな!』
「だい、じょうぶ……じゃないかも」
『虫以下の動く生ゴミに向けるような見下した目でめっちゃくちゃ嫌な顔されながらあの黒セーラーの膝下まである長いスカートたくし上げてもらいたいって思ってても、それもまた自由ってことだよな!』
「今日の配信はここまでのようです。ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録や高評価をしていただけますと活動の励みになります。また次回、お会いできたら嬉しいです。それでは」
『なんでだよ!? おい、ジン・ラース配信閉じようとすんな! 話が違うじゃねぇか!』
「あなたの言う自由と僕の考えている自由には大きな
『お前も認めてくれたじゃねぇか!』
「やめてください。そんな人間としての尊厳をかなぐり捨てた行為を容認しているような言い方をしないでください」
〈わかる〉
〈わかる〉
〈わかる〉
〈わかる〉
〈そうなんだよパンツ見たいわけじゃないんだよクズみたいなお願いをしてこっちをくっそ蔑みながらスカートたくし上げてる時の表情を見たいんだよ〉
〈わかる〉
〈嗜みだもんな〉
〈わかる〉
〈眷属の闇は深い……〉
『なんだよリスナー! なんでちょっと引いてんだ!〈推しの兄によく言えたな……〉って、ジン・ラース公認だぞ?!』
「勝手に公認したことにしないでください。まったく認めてません。僕はこの場ではっきりと否認の立場を宣言します。あなたは絶対に礼ちゃんと二人っきりで会わないでください。同期を通報したくないので。眷属さんたちも〈わかる〉じゃありませんよ……初めて眷属さんたちが怖いと感じました」
いつもは温かいコメントを寄せてくれる眷属さんたちが恐ろしく、いつもは手厳しいコメントを送りつける子羊さんたちがよそよそしくなるという逆転現象が僕らのチャンネルで観測された。礼ちゃんの教育によって規律を強めに締められている眷属さんたちは、
「イーリイさんと、さきほどのイーリイさんの発言に共感した人間はお名前を控えておきましょうか。礼ちゃんの情操教育によろしくないのでコメントできなくしたほうがいいかもしれません」
〈やめてください〉
〈お嬢にこんなこと言うわけないやーん〉
〈お願い許して兄悪魔〉
〈絶対本人には言いませんから!〉
〈お兄様ごめんなさい〉
〈兄悪魔許して〉
「……今回は見逃しますが、礼ちゃんの配信で類似するコメントを僕が発見した場合、モデレーターとしてしっかりとアカウントをブロックいたしますのでお気をつけください。イーリイさんはブロックしておきます」
〈ああよかった……〉
〈兄悪魔は妹悪魔絡みだと容赦ないからな……〉
〈本人の前では綺麗な眷属だから〉
〈お嬢の配信では無害なんだよ俺たち〉
〈草〉
〈イーリイさん許されなくてくさ〉
『なんでだよ! コメント打たせてくれよ! あんな露骨な妄想をお嬢の配信で垂れ流すわけないだろ!』
「信用できません。今日の配信で信じさせてください。はい、続きやります」
『待って、待ってくれ。今のままだとうち、ブロックされんの?』
「キャラクターは決まりましたけど、やはり複数のキャラを平均的に使えるようになるよりも、一人のキャラクターを使い込んだほうがいいんですか?」
『なるほど、おっけ……真面目にやるわ。なるべくならメインで使うキャラを決めたほうがいいぞ。なんか性に合わねぇなぁとか気分転換でキャラ変えんのはありだけど、基本は一キャラを使いこなせるようになったほうがいい。自分のキャラがどういうことができて、どういうことができないのかを知ることが大事だ』
「なるほど」
〈急に真剣w〉
〈まじめスイッチ入った〉
〈妹悪魔なら兄悪魔に言われたら本当にブロックしそうだしな〉
〈不利を感じた瞬間の変わり身はやすぎw〉
〈見極め○です〉
『ストフォーならトレーニングモードをオンラインでできるから、こっちに招待くれ』
「わかりました。……どこからやればいいですか?」
『ん? あー、ちょっとややこしいんだよな。……コミュニケーションアプリで
「画面共有ですね。はい」
『ほいほい。おっけ。画面上で映っちゃいけないとこあるかもだから、一旦リスナーは待っててくれな』
「だそうです。人間様も少々お待ちください。その間、ゆーさんからいただいたイラストのほうをお楽しみください」
〈ゆきねチャンネルのイラスト!〉
〈手描き切り抜きで見たやつより綺麗になってる〉
〈これかっこいいんだよな〉
〈表情とかめっちゃ悪魔〉
イーリイさんに都度操作を教えてもらいながら、配信用の画面に夢結さんと寧音さんから贈ってもらったイラストを表示する。
画面を隠すことになるのでリスナーさんが暇にならないようにと思ってイラストを置いておいたけれど、ちゃんと楽しんでもらえているようだ。夢結さんと寧音さんのイラストには、人を惹きつける力がある。
『ゆーさん、ってあの人だよな? お嬢の親友で手描き切り抜きやってくれてるイラストレーターさん』
「そうですよ。頻繁にイラストをプレゼントしてくれるんです。僕のPCのホーム画面は、一番最初に描いてもらった僕と礼ちゃんが戦場で銃を構えているイラストを設定しています。お気に入りです」
『今配信に出してんの?』
「今映しているイラストは別のものですね。倒れている敵を踏みつけながら銃口を突きつけているシーンです。以前に投稿された手描き切り抜き時には描き切れなかった細かいところを加筆修正したらしく、ブラッシュアップしてプレゼントしてくれたんです」
『へぇー! 見たいなそれ!』
「あなたは早くトレーニングモードの設定の操作を教えてください」
『うっわ、かっけぇっ!』
「絶対配信観てるじゃないですか」
『うちこの人の絵好きなんだよ。お嬢をめっちゃかっこかわいく描いてくれてて。手描き切り抜きめちゃくちゃ観てんだよ、うち』
「え、そうなんですか? ありがとうございます。……僕が言うのもおかしな話ですけど」
『めっちゃ好き。再生回数の六割はうちが回してる』
「なんて大胆な嘘。でも、ゆーさんに今度伝えておきますよ。僕の同期がとても褒めてましたよって」
『おおっ、伝えといてくれ! ゆきねチャンネルさん、今日のコラボとか描いてくれねぇかなぁ?』
「余力があればもしかしたら、というところじゃないですか? ゆーさんも礼ちゃんと同じく学生さんなので忙しい方ですし」
『あー、そっか。お嬢と同い年なんだもんな。受験生か。残念だけど、しゃあねぇよな』
「でもよかったんじゃないですか? 今回のコラボだとイーリイさんのイメージ、プラスかマイナスかで言えば間違いなくマイナスですよ?」
『うっわ危ねぇっ! きもいとこばっかだったの忘れてた!』
「ふふっ。描いてもらえた時は、どうにかいいところだけ纏めてもらえたらいいですね」
『本当だぜ。どうにかうまいこと切り抜いてうちの印象良くしてくんねぇかな』
「ああでも、ないものを生み出すことはできないですもんね。厳しいか」
『ちょっとはあっただろ! たくさんあったとは自分でも言えねぇけど!』
〈自分を変えようとはしないのかw〉
〈『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』かわいいとこ描きます!〉
〈ちょっと隙見せたらすぐコント〉
〈まじめスイッチがオフになってるよー〉
〈ゆきねチャンネル!〉
〈ゆきねチャンネル見てたw〉
〈おるんちゃうかと思っとったらやっぱりおった〉
「あ、イーリイさん。ゆーさん配信観てくれてましたよ」
『えっ、まじで?! んっ、ん゛ん゛っ゛! あー、あー』
「チューニングしてる……」
『ゆきねチャンネルさんっ、よかったら手描き切り抜き描いてもらえるとうれしいですぅっ』
「初期イーリイさんだ……」
『初期やめろ』
〈きっつ〉
〈きっつ〉
〈きっつ〉
〈『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』それは解釈違い〉
〈きっつ〉
〈解釈違いw〉
〈草〉
〈一番辛辣で草〉
「ふっ、ふふっ……」
『なに笑ってんだこらジンラス。なにがおかしい。おいこらリスナー〈きっつ〉じゃねぇんだよ。かわいいだろうが』
「ゆーさんが〈解釈違い〉ってっ……ふふっ」
『ゆきねチャンネルぅぅっ!』
「そうこうしている間にトレーニングモードの設定もできましたね。さて、やっていきましょう」
『うちの体力ゲージ、ドット分くらいしか残ってねぇよ……弱パンで死ねる』
「ゆーさんが描くと仰ったのならいつか必ず描いてくれますから、僕らは手描き切り抜きが投稿されるのを待ちましょう」
『そっか……そうだな! こっからいいとこ見せれるようにがんばるわ!』
「その意気です」
〈ちょろすぎて草〉
〈草〉
〈かわいい〉
〈ちょろかわ〉
〈『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』かわいい〉
〈かわいい〉
「それで、格闘ゲームでトレーニングって何をやればいいんです? エイム調整ですか?」
『いっぺん銃捨ててこい。格ゲーにエイムなんざ必要ねぇよ』
〈FPSに脳内侵食されてて草〉
〈格ゲーでエイムw〉
〈銃使おうとすんなw〉
「冗談ですよ。コンボとかを練習するんですよね。格ゲーには『コマンド』なるものがあるという言い伝えは聞き及んでいます」
『昔話とか噂みてぇな言い方すんな。ちなみにコンボ練習は後だ。まずは通常攻撃からやってく。弱パンチとか強キックとかがどれくらいの距離までなら当たるのかを覚えてもらう。べつに厳密に覚える必要はねぇぞ。だいたいでいい』
「そういうものなんですか? 僕はてっきりコンボや必殺技のコマンドを練習するものだとばかり」
『そっちももちろん大事だ。でもコンボってのは攻撃が当たってから相手を追撃するためのテクニックで、必殺技だって相手に当てなきゃ意味がねぇ。コンボに繋ぐための始めの通常攻撃を
「おお……なるほど。基本的な操作を不足なくできるようになってから応用に進むべきだと。基礎を固めて土台を作ってから、その上に技術や知識を積み上げていく……深いなあ」
『やめろその
〈ヤンキーみたいなのに意外と論理的なんよな〉
〈イーリイさん意外と段階踏んでくタイプなんだ〉
〈言葉遣い荒っぽいけど意外と教え方丁寧だね〉
〈意外すぎw〉
「ふふっ、すいません。人間様も感じているようですけど、でもやっぱり〈意外〉ですよね」
『んあ? なにが?』
「第一印象だと、コンボ教えられて、必殺技のコマンド教えられて、あとは実戦あるのみだ行ってこい、みたいな感じで戦場に送り出されるのかと思ってました」
『うちをなんだと思ってんだ!』
「すみません。でもその印象が今日で一変しましたよ。このゲームをしっかり楽しんでもらいたいという気持ちを感じます。ここまで親身に人から何かを教えてもらうことって僕初めてなので、とても嬉しいです」
〈まさしくそんなイメージだった〉
〈行ってこいされるんだと思ってた〉
〈めっちゃ考えてくれてるよね〉
〈兄悪魔……〉
〈お兄ちゃんさんの場合は器用すぎて教えることないだけじゃない?〉
『どんな環境で生きてきたんだお前……。つっても、うちのはあれだぞ。格ゲーやってくれる友だちが周りにいなかったから布教してるってだけだ』
「僕なんかつい最近まで友だちすらいませんでしたよ」
『うるせぇよ。なんで友だちいないってところで競ってきたんだよ。悲しくなるようなこと言わないでくれ。あとうちは格ゲーやってる友だちがいなかっただけで、遊びに行くような友だちはいるからな』
「裏切られました……こんな形で背中を刺されるなんて」
〈格ゲーやる人の布教活動はすごい〉
〈一度地獄を見てるからな〉
〈プレイ人口が激減した地獄を味わった〉
〈こうやって布教してくれるのは格ゲー好きとしてもありがたい〉
〈友だちいないw〉
〈手振り払われてて草〉
〈肩組もうとしたのにw〉
〈嘆かわしい……〉
『勘違いして肩組んできたお前が悪い。べつに裏切ってもねぇし』
「いいんです、今は一人いますし。……通常攻撃の練習というのはどういうことをすればいいのか早く教えてもらっていいですか!?」
『ぶふっ、なんでキレてんだよ! 自分から言ったんだろうがよ! くっ、ふふ……声張るだけでおもろいのずるいだろお前! っ、あははっ』
「ありがとうございます」
〈草〉
〈キレたw〉
〈初めて聞いたわw〉
〈草〉
〈珍しすぎるw〉
〈いいもんみた〉
〈怒ってるふうなの笑う〉
『うるせぇよあほ。んんっ……そんじゃまあ、攻撃も含めて操作全般の説明して、同時に画面上に出てるゲージや数字の説明もさらっとやってくぞ。べつに格ゲーやってなくてもゲーム触ってる奴ならだいたい察しはつくだろうけど、一応な』
「はい。よろしくお願いしますね」
もうちょいお兄ちゃん視点です。