サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

53 / 102
「霊験あらたかなチャンネル」

 準備の際に物音もしてしまうだろうからミュートにしてから席を外す。

 

 部屋の隅に置いているギターを手に取り、機材を引っ張り出して、PCの設定を行っていく。

 

 寝かしつけ配信以降、もしかしたらこれまで想定していなかった方向性の配信もするかもしれないと思って機材の手配をしておいて正解だった。

 

 なんなら機材の手配をした時にスタッフさんに歌配信などをする時の手続きも聞いていたら歌も一緒にできたのかもしれないと思うと、若干手抜かり感を覚える。

 

 オーディオインターフェイスやマイク、シールドやエフェクターなどは一応揃えて一通り使ってみたけれど、まだ歌配信などをやる予定はなかったのだ。『New Tale』のスタッフさんの中には音楽関係に詳しそうな方もいらっしゃったし、機材を触った時に流れで意見を伺っておくべきだった。反省点だ。

 

 ギターの調整もして、席に着く。

 

「お待たせしました」

 

『おかえりなさい! ぜんぜん大丈夫ですよ! ロロのとこのリスナーもわくわくしてるし、ジンさんのところのリスナーさんもジンさんのギターを初めて聴けるかもということで興奮しているみたいです。ロロ、リスナーさんから感謝されました!』

 

「ふふ、それならよかったです。ところで、ロロさんのチャンネルのリスナーさんと僕のチャンネルのリスナーさんの区別つくんですか? リスナーさんのお名前覚えてらっしゃるんですか?」

 

『いやぁ、さすがに全員は覚えてないです。頻繁にコメントしてくれてて、名前とアイコンが長いこと変わっていない人なら覚えてる人も何人かいますけどね。ちなみにジンさんリスナーを見つけるのは簡単です。ロロへの当たりの強さが違うんで』

 

「あははっ、見分け方そこなんですね。さて、それではそろそろやりましょうか」

 

『はいっ! お好きなタイミングでお願いしますっ!』

 

 歌は歌えないので、せめてギターが映える選曲をしようと考えて真っ先に思い浮かんだのは、先ほども脳裏を過った音楽関係に強そうなスタッフさんからリクエストされた曲だった。

 

「……ふふっ」

 

『どうしたんです?』

 

 事務所での出来事を想起していきなり笑うという不審なことをしていると、ロロさんに見咎められた。

 

「すいません。ちょっと思い出してしまって。事務所でギター弾いた時もいろいろあったな、と」

 

『事務所、というと「New Tale」さんの? またどういった経緯で……』

 

「デビュー前のことです。書類と動画の選考を通って事務所で面接があったんですけど、そこでギターの弾き語りをしたんですよ。……いや、その前に声真似もやりましたね。まさしくあの日の面接の焼き直しみたいだ」

 

『面接で……。ちなみに動画ってどんなものを送ったんです?』

 

「動画のほうはFPSの実況プレイとボイスドラマをかけ合わせたようなものになりました。礼ちゃんの親友にボイスドラマに造詣が深い方がいらっしゃるので、その方に台本を書いてもらったんです」

 

『ボイスドラマっ! あの、その動画って……公開、されたりとかって……』

 

「現時点では公開する予定はないですね」

 

『あ、そうですか……ですよね。あー、でも……ロロ、ちょっと謎が解けたような気持ちです』

 

「謎? 謎とは、どういう……」

 

『「New Tale」さんって、もう十分に知名度がある事務所じゃないですか。以前に男性のライバーさんが活動していたとしても、一般リスナーからしてみれば女性ライバーさんしかいない事務所って印象なわけで』

 

「そうですね」

 

 僕は礼ちゃんが在籍している事務所ということもあって一期生に男性ライバーがいることを知っていたけれど、ただ単に『New Tale』の中の一部のライバーの配信を視聴しているだけの人は男性ライバーの籍があることを知らないかもしれない。実際に僕がデビューしたばかりの頃は『女しか入れない箱でなんで男がデビューできるんだ』みたいな意見も多数見られた。

 

 創設初期から『New Tale』を観てきたような古参のリスナーしか一期生に男性ライバーが在籍していることを知らない状況だったのは確かだ。

 

『そんな感じの印象なのに、どうして男性のライバーさんをデビューさせたんだろうってロロは不思議だったんです。べつにそのままでもやっていけるだろうになぁって。でも今日でわかりました。ジンさんくらいの人がオーディション受けにきたら、多少リスクがあっても喜んでデビューさせるよね、って』

 

「うん? えっと……もしかして僕褒められてますか?」

 

『褒めてます。ベタ褒めしてます。声よくてゲームうまくて話おもしろくて芸達者。これで受からなかったら誰も受かりません。というかジンさんくらいいろいろできないとNTさんに受からない、と考えると末恐ろしくもありますね……』

 

「細かい審査基準は僕もわかりませんし、デビューしてそう時間も経っていない新人が知ったようなことは言えませんが、非常に狭い門だとは思います。正直な話、僕も動画を送った段階では受かるとは思っていませんでしたからね」

 

『ジンさんはもっと自信持っていいと思いますけど……でもまぁ、NTさんを箱推ししてるリスナーさんは安心できるんじゃないです? 変な男は絶対入れないってことがわかるわけですし。逆にNTさんに入りたいって思ってる男性は絶望ですけどね。男性がNTさんに入れる基準は、現時点ではジンさんになるわけですし』

 

「そんなに誉めそやされるほどの悪魔ではないんですけどね」

 

『いえ、実に悪魔です。「admini(アドミニス)strator(トレーター)」配信見直してください。実に悪魔でした。続き楽しみに待ってます』

 

「ありがとうございます。せっかくなんで『administrator』の続きを進める時は礼ちゃんも誘おうと思っていて、予定を合わせてるんです」

 

『それならまたジンさんとレイラちゃんの実況、というかかけ合いを観られるんですねっ?! やったー!』

 

「僕のほうは暇なんですけど、礼ちゃんは忙しい身ですから。なので気長に待っていてもらえるとありがたいです」

 

『いつまでもお待ちしてます! ロロは「待て」ができるタイプのリスナーです!』

 

「もうリスナーを自認してしまっている……。というか、まるで(しつけ)のなっていない犬もいるかのような口振りですね」

 

『全然いますからねー。「なんであのゲームやらないの?」とか「このゲームの続きまだ?」とか平気で言ってくる躾のなっていない犬』

 

「おお……なかなかに毒の利いた舌を持っていますね。それなら『待て』ができるリスナーさんはいい子ですね」

 

『ほわぁっ……わっ、わぁっ。な、なんか、魂の深いところに刺さるセリフだ……』

 

「『待て』って言ってお利口にじっと待っているところを見ていると、いつまで耐えられるのか試してみたくなりません? 徐々にむずむずして我慢できなくなるところをじっと見つめていたいです」

 

『ま、まずい……その発言はさっきとちがう意味でまずいですよっ! そんなこと言ってるとMっ気のある女が寄ってきますよ!』

 

「そんな虫が寄ってくるみたいな言い方しなくても。それに大丈夫ですよ。僕のところのリスナーさん……人間様は被虐趣味はないでしょうし」

 

『ジンさんだとそんな趣味がなくても強引にこじ開けてきそうなんだよね……。……ん? あっ、ギター!』

 

「忘れられていましたね。僕ずっとギター抱えたままです」

 

『なぜか話がすぐに脱線してしまう……ふだんのロロはもう少しちゃんとしてるんですよ?』

 

「すいません。僕、お喋りするのが好きなもので、取り留めのない話をつらつらとしてしまうんです」

 

『配信者適性高すぎますね。いつもならロロだってお喋り大歓迎なんですけど、今はちょっとっ……今はちょっとやらなきゃいけないこといっぱいあってっ!』

 

「あははっ、MCは大変ですねえ」

 

『大変にしてるのはおもにジンさんなんですけどね! それで、どの曲を演奏してくださるんです?』

 

 期待してくれている様子のロロさんに曲名を伝える。CMでも使われていた歌なので、曲名でぴんとこなくても弾き始めれば、ああこの曲か、となるだろう。

 

「一昔前の名曲ですが、せっかくなのでこちらを弾かせていただこうかと」

 

『せっかく、とは?』

 

「さきほど話した事務所で弾いた時に、とあるスタッフさんにリクエストされた曲なんです。とても難しい曲で、面接の場では満足に弾くことができなかったんですよ。なので面接の後に練習したんです。今回は聴くに値する演奏をお届けできると思います」

 

『おおー。ロロはその曲がどれくらい難しいのかぴんとこないんですけど、ギター楽しみです。……あ、めっちゃ難しいんですね。〈マジで言ってる?〉〈ライブ配信でいきなりやる曲じゃない〉ってリスナーが驚いてます』

 

「そうなんです。とても難しくて、たくさん練習しました。では、お聴きください」

 

 大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。最近では定期的にギターを触るようにしていたので、指もしっかり動く。

 

 摘んだピックでギターを掻き鳴らす。

 

 前に事務所でやった時は難曲であることに加えて弾き語りという形でやっていたので、どう前向きに捉えても満足できるべくもない演奏だった。

 

 しかし、今回は歌なしでギターだけ。しかも定期的にギターを触るようになってから練習の仕上げとしてこの曲を頻繁に弾いていた。前回、事務所で披露した時とは仕上がりが違う。

 

 素人の演奏だけれど、そこそこ楽しんでもらえる出来にはなるはずだ。

 

「…………っ」

 

 人としての感性に乏しい僕だけれど、演奏していて気分が良くなるという感覚はさすがに持ち合わせている。思わず歌い出してしまいそうになるのを寸前で堪える。

 

 まずいまずい。これが自分のチャンネルでの配信であれば責任は僕が負えばいいけれど、今日はロロさんのチャンネルなのだ。考えなしの行動は取れない。

 

『……っ、ぁっ……すごっ』

 

 ギターの音と重なって紛れるように、ロロさんの声が小さく聞こえた。

 

 どうやらロロさんにも楽しんでもらえているようだ。せっかくこうしてロロさんのチャンネルにお誘いしてもらったのだから、できることならロロさんにも、ロロさんのリスナーさんにも喜んでもらいたい。

 

「…………」

 

『わぁっ……』

 

 歓声はロロさんの声一つだけ、観客は見えない。でも、僕の目の前にいないだけで、たくさんいてくれている。

 

 礼ちゃんに弾き語りを披露するだけでも満足感はあったけれど、こうして大勢の人に自分の演奏を聴いてもらうというのはまた違うベクトルの楽しさがある。

 

 なんだろうか。

 

 少し。

 

「……っ!」

 

 昂揚してきた。

 

 空調は効いているはずなのに、体が熱い。

 

 演奏にも熱が入る。

 

 今までにないくらいに調子がいい。譜面を思い浮かべなくても、手が意思を持ったかのように勝手に動く。滑らかに、流れるように、指板の上で指が好き勝手にタップダンスをしている。体が思考を置き去りにしている。

 

 この音に声を重ねられたら、どれほど気分が良いのだろう。思わず歌い出してしまいそうになる衝動を下唇を噛み締めて押し殺す。

 

 僕の代わりとばかりにギターに音を歌わせてしばらく、そろそろ終わりが近づいてきた。

 

 最後の一音を惜しむように、丁寧に、それでいて力強く奏でる。音の振動を余韻まで味わって、息を吐いた。演奏中のどのあたりからかは自分でもわからないが、呼吸も忘れていたらしい。

 

「ご静聴、ありがとうございました」

 

 ああ、とても楽しかった。

 

 聴いてくれている人たちを楽しませるつもりが、おそらく僕自身が誰よりも楽しんでしまっていた。思い出してしまうと少し恥ずかしくもある。

 

『すっ……。すごっ……っ! すっごい……めちゃくちゃっ、めちゃくちゃだ……』

 

「そ、そうですね。ロロさんの言語野はめちゃくちゃになっているみたいです。自覚はあるようで安心しました」

 

『ジンさんですよ! ロロが言ってるのは! 音楽にもギターにも詳しくないロロが言うのもおこまが、おこがしまっし、おこまがしいですけどっ! めちゃくちゃうまいじゃないですかっ!?』

 

「新人の僕が指摘するのもおこまがしい(・・・・・・)ですけど烏滸(おこ)がましいが正しいですね」

 

『なんで配信でやらない?! これで趣味ですらない?! ジンさん! あなたもっと自信持ってけ?!』

 

「わあ、いいテンポ感と素晴らしい勢い。これがベテランの技ですか。参考に」

『ほんとにめちゃくちゃすごくてっ、ロロ感動してっ! リスナーも驚いて〈やば〉とか〈すご〉くらいしかっ、二文字三文字分くらいしかキーボード打てなくなってましたよ!』

 

「喜んでもらえたのなら僕も頑張った甲斐がありました。とはいえ、途中で僕のほうが楽しくなってしまって、リズムが走りそうになっ」

『ロロめっちゃ興奮してっ! でも邪魔しちゃだめだって思ってなるべく声出さないようにしてたのにリスナーが〈呻くな〉とか〈ノイズになっとる〉とか〈ロロ静かにしてくれ〉とか、ロロに文句言う時だけ長文打ってくるんですよ?! ひどくないですか?! だから途中から口に手を当てて音出ないようにがんばったんです! ほんとは手を上げて叫びたかったくらいなんですけどっ!』

 

「あ、ありがとうございます……。でもロロさんの息を呑むような歓声のおかげでこっちもテンションが上がって、いつもよりも調子良く弾くこ」

『こんな演奏を目の前で、しかも歌ありで聴けたとかNTの面接担当さん運よすぎじゃないっ?! 前世でどんな徳積んできたのっ! こんなのリスナーなら誰だってできれば生で聴きたいって思うよっ!? 生じゃなくてもいいからしっかりしたレコーディング環境で収録した演奏と歌を聴きたいよっ!』

 

「もしかして僕の声届いてなかったりします? ミュートになってますか、もしかして」

 

『聴こえてるからこんなにテンション上がってんですよぉっ!』

 

「ああ、よかっ……いや、逆に怖くなってきました。声が聞こえていたのにここまで会話が一方通行になることがあるなんて」

 

『はぁっ、はぁっ……。……今後は、もう少し歌配信やるとか、歌ってみたとか、上げてもらっていいですか』

 

「そう、ですね……。いろいろとハードルはあると思うので軽々にやります、なんて言えませんが……はい、検討はします」

 

『なんか、こう……お金がかかるとかいうことなら、こちらには払う用意がありますので』

 

「いや、言いませんって。仮にコストの面で多少問題があったとしても言えませんよ。『ここでこれだけ費用が発生するから出しといて』なんて。ヒモより(たち)が悪くないですか? 生活費出してもらうよりもステージが上ですよそれ」

 

『お金が障害になって歌が聞けないくらいなら、その障害を取り払うくらいわけないです。プラマイプラスです。きっとジンさんのリスナーさんも同じです。ロロが出資できる位置にいるのでロロが出すだけです』

 

「出資は丁重に遠慮させていただきます。スタッフさんと相談して前向きに検討しますので、いつになるかまでは明言できませんがお待ちください」

 

『待てない』

 

「あ、あれ? 待てができるタイプのいい子のリスナーはどこに行ってしまったんです?」

 

『わかってます……ほんとはわかってるんです。歌配信の準備も、歌みた上げるのも時間も労力も、なんならお金もかかるって……。でも、ロロはもう聴きたくて聴きたくて……』

 

「そこまで望んでもらえるのは僕としても嬉しいですしありがたいんですけど、こちらとしては配信や動画という形でしか提供する手段がありませんから……ご理解ください」

 

『……みんなに内緒でオフで会うことってできません? だ、だいじょうぶっ、大丈夫です! 歌聴いたらロロすぐ帰りますからっ!』

 

「その提案、破綻してません? 配信に乗ってるんですけどね、これ。ロロさんのリスナーさんに刺されたくないのでお会いすることはできません」

 

『むぅ……。ロロにガチ恋っているのかなぁ? 〈チャンスや〉とか〈よし行ってこい〉とか〈ようやく彼氏ができるのか〉とか、背中押してきてるんですけど。あ……〈お嬢はどうだろうね〉……レイラちゃんに刺されたくないのでやめておきまーす……』

 

「あははっ、礼ちゃんはそんなことしませんよ。きっと」

 

『しない、と言い切ってほしかったところではあります。あー……ロロの前に現れてくれないかなぁ……。優しくてイケボでゲームもうまくて料理のできる高収入高身長でドライブやツーリングにも快く連れて行ってくれるようなギターも弾けるイケメン、現れてくれないかなぁ……』

 

「っ! ロロさん」

 

『はい、なんです?』

 

「ロロさんは分相応って言葉ご存じですか?」

 

『こふっ……』

 

 吐血でもしたような音の後、(くずお)れるような音が続いた。まずい、言葉の刃が思ったよりも深く突き刺さってしまったようだ。

 

「ああ……違うんです、ロロさん。フリかと思って……てっきりフラグ回収しろよ、っていうフリかと思って……」

 

『な、るほど……。そうですね、話の流れ的に完全にフリになってしまってましたね……。ええ、しょうがないです……』

 

「冗談、もちろん冗談ですからね? 思ってませんからね? そんなこと」

 

『はい、大丈夫です……わかってます。ジンさんはそんなこと言うわけないってわかってるんですけど、ただ……油断してたところにがっつり刺さったってだけで……。あ、でもおかげで冷静になれました……。ありあとごじゃす……』

 

「だいぶメンタルにきてそうですけど……。時間的にもう少しなので頑張ってください」

 

『メンタルを正論パンチでぼこぼこにした本人が応援するってのもおかしくはあるよ……』

 

「頑張れたらまた声真似のリクエストとかも受けますからね。やる機会があれば、ですけど」

 

『くっ……うぅっ。鞭のあとに甘いアメっ……。DVのお手本かよっ……ロロがんばるっ!』

 

「嘘みたいに立ち直ってくれた。よかったよかった」

 

『ていうかほんとに予定の時間が迫ってたっ! 結局質問受けれたの何個?! 二つくらいしかできてないよね?!』

 

「まあ、二つですね。申し訳ない限りです。いただいたメッセージはあとからロロさんに見せてもらいます。ちゃんと読ませていただきます。ご安心ください」

 

『またゲストで呼んでいいですか? ちょっとロロ、予定が詰まってていつできるかとかははっきり言えないんですけど……』

 

「本当ですか? 嬉しいです。今日もとても楽しかったですから」

 

『ほ、ほんとです? 社交辞令とかじゃなく?』

 

「もちろんですよ。誘ってくれる人自体いなくて、それにロロさんはお話を(さば)くのもお上手でとても安心できました」

 

『えへへっ、そう言ってもらえるとうれし……それって言い方変えたらツッコミ係ってこと、では……』

 

「そんなことないです。ロロさんは打てば響くような返しが素晴らしい、ということです。褒め言葉です」

 

『それも、叩けば鳴るおもちゃ、みたいに聞こえる気が……』

 

「それは悪様に捉えすぎですよ。ロロさん、ネガティブになってません?」

 

『そ、そうですよね!? うん、そうだ、うん……。ちょっと……分相応事件が尾を引いていて、含めて聞こえるようになっちゃってるかもしれません……』

 

「本当にすいませんでした。まさかそこまで刺さるだなんて思わず」

 

『ロロが高望みすぎるのがいけないんです。現実を見せてくれてありがとうございます。えー、それでは時間もいいとこなああぁぁっ!』

 

「わあ。どうされました? 飲み物でも倒しましたか?」

 

『あっぶない! リスナーありがとう! えっとですね、初めてゲストで呼んだ人には毎回訊いてる恒例の質問があるんです!』

 

「ほう。お伺いします」

 

『今後の目標や叶えたい夢などあったら教えてください!』

 

「目標、夢……ですか」

 

『なんでもいいんです。べつに具体的じゃなくても。わりとご利益があるって評判なんですよ。ここで宣言した目標は達成できる、みたいな』

 

「へえ、そうなんですか?」

 

『はい! FPSゲームの高いクラスに行くって言ってた人は行けたらしいですし、チャンネル登録者数百万人目指すって言った人も達成しましたからね』

 

 FPSで高いクラスを目指すというのは自分の努力でなんとかなる範囲だけれど、チャンネル登録者数百万人というのは自分の努力だけでどうにかできるものではない。努力に加え、それを長く続ける体力と忍耐力、人を惹きつける魅力も兼ね備えた上で、人気を跳ね上げるのにはある程度運の要素も絡む。

 

 Vtuberのみならず、配信者にとって百万人という大台はそれほどに偉業だ。

 

「すごいですね。霊験あらたかなチャンネルだったんですね、ロロさんのチャンネル」

 

 まるで高額当選が出た宝くじ販売所みたいなニュアンスなのが引っかかるといえば引っかかるけれど、縁起がいいことは確かである。僕も何かお願いするだけしておいて損はないかもしれない。

 

『あ、でも素敵な旦那さんを見つける、とかなんとか寝言ほざいてたロロの知り合いはまだ見つけられてないんで例外もあります。やっぱり大勢の人の前で宣言することによって自分を追い込む、みたいな感じで、がんばれるようになる人もいるんだと思います!』

 

「お優しいロロさんがここまで棘の鋭い言い方をするとは。なんだかかえって、そのお知り合い様がどんな方なのか興味が湧いてきますね」

 

『優しいなんて、そんなそんな……。あ、でもジンさんは関わり合いを持たないほうがいいと、ロロは断言しておきます。つきまとわれそうで心配なので』

 

「ど、どんな人なんだろう……」

 

『被害に遭った時は同情とか憐れんだりとかしないですぐに通報していいので。ロロはすでに、彼女ならいつかやると思っていました、っていうコメントを用意してます』

 

「ふふっ、インタビューされた時の返答まで準備してるんですね。それなら行状を改めるように注意してあげたほうがいい気もしますけど、あははっ」

 

『まぁ、人としてのラインは反復横跳びしてるけど、法に触れるかどうかのラインを見極めるのと男をドン引きさせることだけはうまいんですよ、あいつ。だからたぶんきっとおそらく大丈夫です』

 

「……本当にどんな人間なのだろう。仲の良い人にそんなふうに形容される精神性はどうやって形成されたのか、非常に好奇心がくすぐられますね……」

 

『急に悪魔スイッチをオンにしないでください……ぞくぞくします。ジンさんの悪魔的好奇心が薄れないままだったら、いつかコラボでもしてみます? ロロも同席するので』

 

「それはとても楽しみですね。その日がくるのを楽しみに待っておきます」

 

『……そんなにうれしがるようなやつじゃないんだけどなぁ……。まぁ、あんなやつはほっといて、ジンさんは目標とか夢とか、あります?』

 

 目標。夢。

 

 つい最近、イーリイさんと話したことで明確に定まったものが、僕には一つだけあった。礼ちゃんが関係しない、僕個人の目標。

 

「あ、あー……えっと。ある、には……あるんですけど」

 

 ただあの時は、僕と礼ちゃんとイーリイさんだけだった。その二人に聞かれるだけでもなんだか肩身が狭いというか、決まりが悪いというか、表現しにくい感情を覚えたのに、ロロさんに加えて視聴しているリスナーさんにまで聞かれるというのは、なかなかに抵抗がある。

 

『なんですなんです?! 教えてくださいよ!』

 

「む……」

 

『なぁに照れてんだかわいいなぁっくそぉぅっ!』

 

 逆に考えると、その抵抗感を乗り越えて観衆の前で宣言することに意味があるのかもしれない。大勢の前で目標を掲げることで、目標に向かってより一層努力するように自分を追い込むようになる、という説もあったりなかったり。

 

 良くも悪くも変化がなければ進化はない。そのためなら一時の決まりの悪さくらい、耐え忍ぼう。

 

「あ、の……えっと」

 

『こんなに言い淀むジンさん初めてだっ! え、な、なに言おうとしてるんですっ?! あのっ、チャンネルがBANされるような内容ならコミュニケーションアプリのチャットのほうでお願いしたいんですけどっ……』

 

「これから、長く付き合っていけるような……友人、が……できたら、いいなあって」

 





世間的にはお盆休みらしいですね。読んでくださっている皆様はどうお過ごしでしょうか。
僕はせっかくなので(?)お盆休み期間中は二回行動でもしようと思います。
大丈夫、弾(書き溜め)はあるんや……あとは手直しが間に合うかだけや……。
というわけで次は十二時間後に更新します。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。