サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
ジン・ラースにロジハラされながらも、どうにかこうにか撃たれた箇所を治療することができた。
ADZでは回復アイテムを使ったからといって瞬時に体力が回復して元通り、とはならない。
被弾すると体力の減少とはべつに出血というデバフが発生し、当たりどころによっては骨折などのデバフにもなる。体の部位ごとに体力が割り振られていて、部位ごとのゲージがゼロになると部位破壊状態となりまたデバフがある。デバフが多すぎる。
発生したデバフごとに使わなければいけない回復アイテムも違うという厄介な点もある。とにかく一発銃撃を受けただけで不利になるし、治療することは多い。キャラクターのアビリティなどはどちらかというとファンタジー寄りなのに、こと戦闘面においてはどこまでもリアリティを追求している。こういった七面倒くさいところもライトユーザーを取り込めない理由なんだろうなって思う。
「やっとぜんぶ治せた……」
『安全に治療できるというのもパーティを組んでいる利点ですね。ソロだと遮蔽などで身を隠して、敵が詰めてくるかもと不安に怯えながら回復しないといけませんから』
「今のところはパーティを組んでるメリットよりもデメリットばっかり目に入ってきてるけど」
『なんてこと言うんですか。最近の敵兵士はプレイヤーが回復していたらがんがん前に出てくるんですよ。ここで追い討ちを恐れなくてもいいのはパーティできているからこそです』
「あんたと組んでるせいで私の心はダメージを負ってるんだけどね」
『……さて、あの敵兵を倒しましょうか』
「おい」
『アサルトライフル持ちですね。これがシビアだったら確実にやられていましたね。なんならサブマシンガンでもこの距離を削り切られることもあります。マイルドでよかった』
シビアの強化兵士がどれくらいの強さなのか今ひとつ実感が湧かないが、これだけの距離がありながらサブマシンガンでも脅威になりうるなんて、とんでもない戦闘能力だ。やはり強化兵どもは化け物ばかりである。どんなエイムとリコイル制御だ。チーターと遜色ない。
「で、二位の黒兎サマはどうするの? サブマシンガンの交戦距離じゃないし、近づこうにも遮蔽がないけど」
かろうじて高所は取れているおかげでとりあえずの安全は確保できているが、ここからでは近づこうにも近づけない。射線を切れる遮蔽がないのだ。木や岩は点々とあるけれど、その遮蔽を使おうと思うと移動する時に一度敵の射線に晒されることになる。強化兵士であればその短時間の間に反応して撃ってくるし当ててくるし、最悪の場合殺してくる。
リスクが大きい。キャンプ施設を諦めて、目的地のビルがある中央区へと進むのも手段としてありだと思う。
なんて考えていた私に対して、ジン・ラースの返答は一つの小気味よい発砲音だった。
『オリジン切りました。兎のオリジンはクールダウンが早いのでビル近辺に着く頃には湧いてます。ご心配なく』
「は? ……倒したの?」
『はい。頭なので一発です』
「……は?」
〈は?〉
〈は〉
〈草〉
〈?〉
〈なんだただの神業か〉
〈?〉
〈人力チートやw〉
〈黒兎の視点観たい〉
〈兎のオリジンってホーミングでもついてんの?〉
〈は?w〉
目の前で起きたことに私は茫然としてしまった。
伏せていたジン・ラースが急にすくっ、と立ち上がったかと思えば、ハンドガンを構えて一発放ち、屈んだ。頭を下げてすぐにジン・ラースの頭上を数発の弾丸が通り過ぎていったので、敵兵はジン・ラースの姿を捉えてすぐにアサルトライフルを撃ったのだろう。すぐに撃ち止んだのは、ジン・ラースに頭を弾かれたからだ。
「…………嘘でしょ」
あっていいのか、こんなこと。この二百メートルの距離を、スコープも載ってないハンドガンを使いながらあの速さで敵兵の頭にエイムを合わせ、ワンタップで頭を撃ち抜く。こんなことがありえていいのか。
ADZのトップ層のプレイヤーがみんなこんな感じなのだとしたら、そんな戦い私はついて行けそうにない。
強化兵士が化け物なのは間違いなくそうだが、なにも化け物なのは強化兵士だけではなかった。私の隣にいるジン・ラースもまた、化け物だった。
『さあ、漁りに行きましょうか。ADZは漁ってる時が一番楽しいですからね』
しゃがみ状態から立ち上がるや、声を弾ませてキャンプ施設へとジン・ラースは走っていく。その姿は無邪気でかつ、無防備だった。これだけ体を出しても撃ってこないということは、本当に一撃で仕留めたのだろう。
「……ねぇ。私、兎はまともに使ってないからよく知らないんだけど、兎のオリジンアビリティってどんな効果なの?」
オリジンアビリティというのは、種族ごとに設定されたアビリティの中でもとくに凄まじい効果を持つアビリティのことだ。
例えば、私が使っている虎のキャラクターであれば『
たしか狼だと『
いずれにしても、オリジンアビリティ自体に殺傷能力はなく、あくまで戦闘を有利に運べるよう強力にサポートしてくれるだけだ。
もしかしたら兎はゲームシステム的に優遇措置が施されているのかもしれない。他の種族と比べて戦闘能力に乏しいというか、ハンドガンかサブマシンガンという選択肢ではどうしたって火力負けするので、オリジンアビリティにエイムアシストや軽い誘導性能を持たせるような、そんな救済をしてもらってるんじゃないか。
『あ、もしかして兎使いたくなりました?』
「いや、それはまったく思わないんだけど、どんな効果なのかなって」
兎を愛用していながらDOCランキング二位まで上り詰めたジン・ラースには悪いけれど、使いたいとはまったく思わない。
相手は針の穴を通すような精密射撃をばかみたいな距離からやってくる化け物の軍勢だ。兎ではスタート地点から不利である。私ではやってられない。
『兎の同胞はなかなか姿を見かけないので増えてくれると嬉しいんですけどね……。兎のオリジンは使用する銃種によって二種類ありまして、ハンドガンのほうだと一つの角の兎と書いて「
「……え? それだけ?」
『あと距離がどれだけ離れようとも威力が減衰されていないみたいです。飛翔速度は変わらないのに、不思議ですね』
「なんかこう……エイムが敵兵の頭に吸いついたり、弾丸が曲がって当たったり、みたいなことはないの?」
『あははっ、それだとチートじゃないですか。一発限定でオートエイムやホーミングのような射撃ができるオリジンというのもユニークですけどね。ふふっ』
〈しょぼくて草〉
〈しょっっっぱ〉
〈ぱっとしねぇw〉
〈そもそもハンドガンの時点できつい〉
〈たぶん兎なら許されるよw〉
〈エイムアシストくらいはつけてもいいだろw〉
〈なに笑とんねんw〉
ころころと楽しそうに笑うジン・ラース。私が冗談を言ったとでも思っているのだろう。当然冗談で言ったつもりはない。
オリジンアビリティを使って
大層な名前の癖に効果が今ひとつぱっとしない。
「……微妙じゃない?」
これは、あれだ。オリジンの性能じゃなくて、シンプルにジン・ラースの性能が高いんだ。
『なんてこと言うんですか! とても強力なオリジンなんですから! どう工夫しても遠距離の撃ち合いには分のない兎の切り札ですよ!』
〈あざみんの火の玉ストレート〉
〈うん微妙やねw〉
〈やっぱ黒兎ってやべーんだ〉
〈ハンドガンで遠距離戦おうとすんなよw〉
ジン・ラースが声を荒らげた。こいつにとってオリジンの効果は譲れないポイントらしい。
兎マスターのジン・ラースも、兎という種族の中遠距離戦闘の脆弱さはよく理解しているようだ。いや、正真正銘兎使いのトッププレイヤーだからこそ、弱点をしっかりと噛み締めて向き合っているのかもしれない。
「だって、結局は自分でエイムしなきゃいけないんでしょ? 撃った弾の落ちる量を計算しなくていいのは楽かもしれないけどさ」
『それは虎でも狼でも同じでしょう? オリジンも含めてアビリティというものは、あくまで戦闘の補助でしかないんですから。「
「手間取るだけでできるんだ……。ハンドガンで二百メートルヘッドショットなんてふつう無理じゃん。弾道が一直線になるって言っても、相手が撃ち返してくる前にエイムなんて合わせらんないでしょ」
『猶予がどれくらいあるかわからなければ焦ってしまうと思います。でも敵の銃弾が飛んでくるまで、ざっくり二秒ほどあるとわかっていると落ち着いて合わせられませんか?』
「二秒? 二秒あったらまぁ……できそうな気も、してこないことも……。てかそれ、なんの二秒?」
〈弾道計算ないのは楽だろうけど……〉
〈オリジンの利点それだけじゃん……〉
〈そういうことなんだけど言いたいのはそういうことじゃないんだよなぁw〉
〈計算はっやw〉
〈できることはできんのかよw〉
〈黒兎もしかしてアビリティいらん?w〉
〈二百メートル先とかほぼ点やろ〉
〈二秒?〉
〈?〉
〈どっからきた二秒?〉
戦闘状態に入っていて集中していれば、エイムを合わせるのに二秒は十分すぎる。それはあくまで敵の姿がはっきりと見えていれば、だけど。
兎のオリジンの効果と、敵の位置が判明している状況であれば、たしかにジン・ラースの言う通りに二秒あれば落ち着いてエイムを敵の頭に合わせることはできるだろう。少なくとも、絶対に不可能だ、とまでは思えない。
しかし、それはそれとして、ジン・ラースの言う二秒はどこからきた数値なのだろう。
少し考えてみたけれど見当もつかなかったので訊ねれば、ジン・ラースは雑談と変わらぬトーンで穏やかに答える。
『美座さんが撃たれた時の銃声から、敵のアサルトライフルと使っている弾薬がわかりますよね? その銃弾が二百メートルの距離を飛翔するのは、およそ〇・二二秒。敵が美座さんを発見した時、僕はすでに伏せていたので未発見の状態でした。姿を完全に隠して一定時間経過したプレイヤーや、初めてプレイヤーを視認した際の強化兵士が撃ち始めるまでの時間は、これはまあ……周辺環境や距離にも
「お、うあぁ……な、えっ……』
『長々と話してしまいましたけど、これがざっくり二秒の正体です』
なにから話せばいいのかわからないくらいに、ジン・ラースの凄味を叩きつけられた。ふだんなら耳から耳に流れて脳みそまで入ってこなさそうな小難しい情報と数字の羅列も、ジン・ラースの妙に浸透力のある声のせいで頭の中に押し込まれてくる。
私でもちゃんと頭を働かせれば撃たれた時に耳に届いた銃声がアサルトライフルの中の
でも、一般的なプレイヤーであれば敵が使っている銃を特定した時点で満足してしまうんじゃないのか。いや、なんなら銃声で銃種を特定するだけでもよくやってるほうだと思う。
そこから撃ち始めて自分に到達するまでの時間を計算して、他のデータと統合することで自分に許された猶予を導き出すなんて、ちょっとどうかしてる。強化兵士がプレイヤーを発見してから撃ち始めるまでの時間なんて私は初めて聞いたし、自分のキャラクターのしゃがむ等の動作にかかる時間なんて気にしたこともなかった。
「……さっきの一発撃つ前に、そんなたくさん考えてたわけ? ほんとに?」
『つい。手癖みたいなものです』
ジン・ラースの知識量と計算力も私からすれば信じられないくらいすごいことだけど、なによりもそれらを片手間にやっていたという事実が、一番常識から逸脱している。
オリジンアビリティを発動させてハンドガンを一射するまで、ジン・ラースはずっと私と喋っていた。無駄にいい声を無駄に無駄遣いして無駄にふざけ倒していた。私が撃たれた地点から距離を置くように這いつくばって動いていたのだから、計算機を用意して入力などをするタイミングも時間もなかった。
会話に脳のリソースを割きつつ、頭蓋骨の内側に蓄えられている膨大な量の情報から必要な数値を引っ張り出して、どういった式を使えばいいのかも私にはわからないけれど、その計算すらおそらく暗算で弾き出している。
なんだ、これ。
度を超えすぎて、もはや衝撃すら感じない。
ハンドガンで二百メートルヘッドショットを決めた時はまだ、私の理解の範疇におさまっていた。オリジンアビリティを使っていたとしてもその距離をワンタップは離れ業だけれど、まだ理解できる。試行回数にさえ目を瞑れば私でもできるかも、くらいの感覚だった。そんな感覚だったから、一発で決めたジン・ラースは半端じゃないくらいすごいと衝撃を受けた。
しかしその裏側を説明されると、その威容を目の当たりにすると、もはや実感も理解もない。
自分の物差しを超えた大きさの物は『大きい』ということはわかっても、どれくらい『大きい』のかはわからない。
実感が持てない。理解ができない。
だからこそ、殴りつけられるような衝撃すらも感じない。
エイムが綺麗とか、キャラコンが上手いとか、知識量が多いとか、そういう誰の目から見てもわかりやすい項目では、きっとジン・ラースは測れない。
炎上の一件の話をしていた時に感じたジン・ラースの精神面における違和感も、事ここに至るといやに腑に落ちてしまう。
人間としてのステージというか、生物としての種類が異なっているように思う。なぜ会話が成立しているのかすら疑問を生じ始めてきた。自分とあまりにも違いすぎて比較すらできない。
これだけ自分とかけ離れていればある種の拒否反応や抵抗感があってもおかしくないのに、どうしてなのだろう。
私はそれが、妙に安心する。
「ねぇ。それって憶えといたほうがいいの?」
比較対象にならないことが、私にとってはとても落ち着く。
『いいえ? ゲームをする上でこんなこと憶えておく必要なんて全くありません。リスナーさんも安心してくださいね。ADZはFPS初心者が始めるには難易度が高いし続けるには覚悟がいる、などと言われて久しいですが、このような
「なるほど、くふふっ、あははっ。無駄な時間だった」
『訊かれたから答えたんですけどね!』
私が口にした失礼な発言は冗談なんだよ、とリスナーにわかりやすく説明するようにジン・ラースは声を張った。
非常に気遣いが細かい。初めて話した相手とは思えない話しやすさ、居心地のよさだ。
こんな居心地のよさ、気楽さは『Now I Won』のメンバーとコラボした時には味わったことがない。
「あぁ、楽しいなぁ」
マイクを通さないよう、口の中でそう呟く。
私は、あまり人と率先してコラボしようとしない。
コミュニケーション能力が不足しているという事実は厳然としてあるけれど、理由はべつにある。
負けず嫌い──だなんて美化するのは良くないか。
私は、心が弱いのだ。
対戦して負けて傷つくことを恐れている。人と比べた時、自分はこんなにも劣っているんだ、という息苦しくなるような劣等感をなによりも忌避している。
私はもともとFPSには自信があった。そこらの女よりよっぽどうまいという自負があった。
でも『Now I Won』には自分よりもセンスのあるメンバーがたくさんいて、グループに入った当初はかなりへこんだ。眠れなくなるくらいメンタルにきた。
『Now I Won』という小さなグループの中でさえ、私は突出してうまいわけではない。
これがVtuber界隈、配信者界隈、FPSプレイヤー全体と広がれば広がるほど、私の卑小さは際立っていく。自分は人よりも劣っているのだと再認識させられる。
FPSでの勝敗という部分で勝てないのならば、どこか一つの分野だけでも、この要素で競えば誰にも負けないというような得意分野があればいいとも妥協したけれど、私には卓抜するような素質はなかった。遠中近距離戦闘、エイム、キャラコン、オーダー、立ち回り。どれだけ努力しても、どれだけ勉強しても実を結ばなかった。
私は、どこまでいっても中途半端だった。
『Now I Won』のトップ、ツバキさんは言うまでもなく、ヒナギクさんのようにカバーリングが行き届いているわけでもない。スモモさんほどの学習意欲や向上心もなく、スイッチが入った時のサクラさんのような華々しさや爆発力もない。レンゲさんみたいにパーティメンバーを活躍させるようなIGLもできないし、アヤメさんのように明るく人の懐に飛び込んで士気を上げることもできない。カキツバタさんみたいに苦境でも耐え忍んでチームプレイに徹することもできない。
『Next Princess』という事務所の『Now I Won』という小さなグループ。そこに所属している先輩たちですら私より格上で、同期もみんな強い。
上には上がいる。
わかっていた、そんなこと。そんな簡単な世の中の仕組み、十数年生きていれば誰だって理解できる。
理解していたけれど、直接的にまざまざと眼前に突きつけられると、頭で考えている以上にショックだった。
劣等感を味わいたくなくて、次第にコラボの機会は少なくなった。私以外のメンバーはみんな仲がいいのでグループ内でコラボをすることが多いけれど、私はだんだんと減っていった。
つらくて苦しい劣等感や敗北感を味わわされるくらいなら、一人でいいと思った。
一人でも十分楽しいし、なにより気楽だ。今自分がやりたい配信をやりたいだけできるし、コラボ相手を気にしながら会話する必要もない。誰かと一緒にFPSをプレイして、目を逸らしたい自分の弱い部分を直視することもない。
その影響か、同期と比べてもチャンネル登録者数などといった人気は伸びていないけど、それでもべつに構わなかった。
精神的に安定して活動できるのなら、それが一番だと思っている。だからこそ、心を揺さぶられないように一人で配信していた。
それでいいと思っていた。
一人でもいいと、思っていたのに。
『この時間のキャンプ施設に兵士がいるということは漁られてはいないですね。ラッキーです。……あそこ、北のほう。中央に向けて走っている虎の同志がいらっしゃいますね。あの地点を警戒せずに走れるということはスナイパーは湧いていないのでしょう。しばらくは安全ですね。ゆっくり漁りましょう』
「ふっ……あははっ」
『なんです? どうかしました?』
「ううん、なんでもない」
『はあ……ならいいんですけど』
こんなやつがいるだなんて、思いもしなかったのだ。
『絶望圏』とすら揶揄される困難極まりないこのADZで不遇な種族を選んでもなおランキング二位になれるゲームセンス。正確無比のエイミング。膨大な知識量と、それらを最大限に運用するジン・ラースの人間離れした頭脳。
一般人とは一線を画す類稀な才覚を持ち合わせていながら、本人はそれらを誇ることも威張ることもしない。なんらの感慨も抱いていない。
ここまで自分と違いすぎると、もはや嫉妬すら感じない。敗北感も覚えない。
それもそうだろう。大空を羽ばたく鳥に対して『どうして自分は飛べないのに鳥は飛べるんだ!』などと本気で理不尽を訴えるような奇特な人間なんていない。そのくらい私とジン・ラースは、プレイヤーとしてかけ離れていた。大空を翔る鷲と地を這う芋虫くらいかけ離れていた。
比較できないくらいジン・ラースが傑出しているおかげで、私はなにも気にせず楽しむことができる。無粋な感情に邪魔されることなくゲームができる。
FPSゲームでコラボしていて──いや、厳密にはこれはコラボではないのだけれど──こんなに気兼ねせず、心乱されず、劣等感を刺激されずに楽しめるなんて初めてだ。
足が落ち着きなくぱたぱたと動く。自然と笑みがこぼれる。胸がざわざわするのに、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「ねぇ、ジン・ラース」
『はい、なんでしょう?』
気づけば、私は口を開いていた。
「人とやるゲームって、楽しいね」
そう言ってから、はっとする。
こんな言い方、どれだけ友だちがいないんだとかって勘違いされそう。でも実際友だちと呼べるような友だちなんていない。勘違いされても勘違いにならないのが悲しい。
それにジン・ラースのコミュ力が高いせいで忘れていたけれど、こいつとは今日が初対面なのだった。初めて喋った相手に恥ずかしいことを口走ってしまった。無意識的に言葉が口を
気まずい空気になったら嫌だなぁ、ばかにされるのはもっと嫌だなぁ、とか思っていると、くすっ、と笑みを堪えるようなジン・ラースの声が聞こえた。笑っていることには違いないのに、どうしてか気分を害するようなトーンではなかった。
『ええ、本当に。人と一緒にできるのは、とても幸せなことですからね』
これだけ喋りがうまいのだからジン・ラースは友だちが多そうな印象だったけれど、私のことをばかにすることなく共感してくれた。
共感、まぁ共感ではあるか。ただ、どこか噛み締めるような言い方が若干不穏ではあるけど。
でも、そうなんだ。ジン・ラースも同じように感じて、楽しんでくれているんだ。
「あははっ、幸せってのはオーバーじゃない? おー、ついたついた。キャンプ施設入るよ」
『入って左のテントの中を見てから右回りにぐるっと漁ると効率いいですよ』
「おけ」
他の人であればどうということはないだろうこんな気軽で気楽なやり取りができる相手も、私にとってはとても貴重で希少だ。
この縁を大事にしたい。
私にしてはめずらしく、そんな柄にもないことを思った。
人の価値観をぐちゃぐちゃにすることに定評のある悪魔。
しばらくあざみん視点続きます。
十二時間後にまた会いましょう。それでは。